tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

通貨切り上げで出来ること・出来ないこと

2010年06月20日 12時09分11秒 | 経済
通貨切り上げで出来ること・出来ないこと
 前回の問題を、もう少しはっきり言えば、「アリ型」の国の通貨価値を切り上げることによって、「キリギリス型」の国の経済のバランスが改善する(経常収支の赤字が改善する)のかどうかという問題が、いま、アメリカを始め世界の主要国の政府や金融当局、各国のトップクラスのエコノミストなどが本気で考えなければならない問題だということでしょう。

 ガイトナーさんは、声高に「中国は人民元を切り上げるべきだ」といいます。中国は、やるときは自分の判断でやりますといっていましたが、このほど対ドルの人民元相場の弾力性を高めると表明したようです。

 あくまでも、自国経済の状況(不動産バブルへの対応など)を考えての行動のようですし、人民元切り上げの裁量権は中国が握ることを明確に打ち出しています。「国際投機資本の勝手にはさせない」という意思表示ははっきりしています。
 国際投機資本がどう対応するかですが、多分何も出来ないのではないでしょうか。

 ところで、他方では、中国は、今回、2011年からの所得倍増計画を策定中と発表しました。これは池田内閣当時の日本の所得倍増計画とは違って、「5年間で賃金を2倍にする」としているようで、日本の所得倍増計画が実質国民所得ベースだったのに対し、中国の場合は賃金ベースのようです。

 考えて見ますと、もし人民元を2倍に切り上げれば、国際的に見て中国の人件費水準は2倍になります。しかし、どうせ賃金水準を2倍にするのなら、賃上げを毎年15パーセントやって5年で賃金水準を2倍にしたほうが、国民はずっと喜びます。
 日本のように、「円高で日本の賃金水準は世界一になった」といってだれも実感できなかったのとは違うでしょう。

 中国は、日本の失敗の経験から、極めてよく学んでいるように、私には思われます。
 アメリカの考えている、アリ型の国とキリギリス型の国の国際経済バランスを回復させるために、アリ型の国の通貨を切り上げさせて、競争力を弱くすればいいといったことでは、世界経済にとって大きなマイナスになるだけで、キリギリスはアリにはなりません。

 世界経済にとってプラスになるためには、世界経済のトータルのGDP が増えなければなりません。これには各国の実体経済が健全に成長することが大事です。プラザ合意 で日本を追い込んだように相手国をゼロ成長に追い込んで、自国の優位性を保っても意味はありません。

 実体経済を見ず、マネー・テクニークばかり重視し、自国中心で考えるという最近の経済政策は、「世界の実体経済の繁栄を目指す」という王道へと視点を変える必要があるようです。