tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

賃金→物価→為替レートの関係(前回の補遺)

2022年01月21日 17時04分18秒 | 経済
前回は日本の物価はあまりに上がらないので、インフレに悩む国からは、「お前だけ物価が上がらず競争力が強くなうのは困る、何とかしろ」と言われるようなことになるのは、日本としてもまた大変困るという事を書きました。

具体的には「プラザ合意」のように、競争力の強い分だけ「円高にする」のはどうかと言うような事になる場合がこれから多くなるのでないかという気がします。

かつて、中国が対米輸出の首位を独走した時のような事も考えられます。
あの時は、アメリカが、中国に人民元の切り上げを要求し、中国が「人民元の価値は中国が決める」 といって反発したこともありました。

トランプ政権になって、それは「世界の国々がアメリカに物を売って儲けている」「アメリカは損ばかりだ」「中国を始めそういう国からの輸入には高い関税をかけろ」という関税戦争に発展しています。 

中国は、人民元高にしたら日本の円高と同じになるとよく勉強していて、その分は自分達で使った方が良いと考え、一時最低賃金を大幅に上げたりしました。

中国の真似をするわけではありませんが、円高を強いられて、デフレ不況で苦しむより、賃金を上げて自分たちの所得を増やし、その結果競争力が多少弱くなる方がよほど楽で得だということになるという発想は「変動相場制」の中ではだんだん常識になるのではないでしょうか。

その場合重要なのは,①賃上げすればインフレになるのか、②インフレにするタイミングと程度はどうとるか、の2つではないでしょうか。

① の賃上げでインフレになるかの答えは出ています,インフレの8割ぐらいは賃金インフレと言えるでしょう。(2割は輸入インフレなど)
② のインフレにするタイミングと程度ですが、他国より早くインフレにしないことと程度は他国の程度に近くしかし超えないとするということでしょう。
  (このバランスは、短期ではなく中・長期で考えるのがよいでしょう)

そうすれば、国際競争力はそれなりに維持ができますし、国際競争上の有利さは自国経済の繁栄と成長に使えるわけです。

変動相場制の下では、為替レートは為替取引の売買のバランスで決まります。
以前は実体経済を反映する部分が大きかったのですが、今は金融工学に象徴されますように,世界中の大小・無数の投機資本・投機家の思惑の絡み合いの中で決まりますから「何かあれば円」などとレッテルを張られるのは危険です。

半分冗談めかしましたが、 長い目で見れば、経済も賃金決定も労使関係もそうした関係の中に住むことになってしまったというのが現実でしょう。

勤倹貯蓄で賃上げは常に控えめ、インフレを起こさない様にすれば発展する国になれるというのは「固定相場制」の時代の事だった、というのが今の世界経済なのではないでしょうか。

変動相場制の中で、巧みに良い位置を占め、経済運営に成功することは、固定相場制の時よりもずっと難しいという事ではないでしょうか。

政府、基礎的収支の均衡目標設定へ

2022年01月13日 21時52分15秒 | 経済
 昨日と今日付けの報道で、岸田政権が財政のプライマリーバランス(基礎的収支)回復の目標を設定しつつあるという動きが入ってきました。

早ければ明日の経済財政諮問会議に試算を提出するという事のようですが、報道によりますと経済成長率を名目3%、実質2%といった所に置き、経済回復による成長の加速で税収が上振れする事も考慮、2026年とされていたプライマリーバランスの回復・黒字化を2025年にも可能とすることも有り得るといったもののようです。

今迄の、安倍・菅政権の下では、財政再建の目標は決めるが、その達成は殆ど考慮されず、期限が近づくと伸ばすといった状態でした。てぃた

確か、安倍さんの口から「財政再建を諦めたわけではありません」なとという言葉が出たり、菅政権は新自由主義経済やMMTを信奉して財政規律は無視ではないかなどとも言われてきましたから、財政問題に伝統的常識が戻ってきたという感じです。

過日、このブログでも、過日、「自民党内の財政政策に2派?」と書きましたが、岸田総理率いる財政健全化のグループが、改めて構想を打ち出したという事でしょうか。

財政健全化は、日本の経済、財政の基本を「長い目で見れば」大事な必要事項と考えるのがこのブログの立場ですが、(「日本の国債が紙屑になる条件」シリーズ等をご参照ください)新政権の新たな財政構想には深甚の関心を持つものです。

しかし、いずれにしても財政健全化は容易なことではないでしょう。
財政再建に直接関連するのは名目経済成長率で、NHKニュースのように、実質経済成長率2%という数字だけ出して名目成長率に触れない報道は不親切ですが、他の報道では名目成長率も3%と出ていて、判断の参考にはなりました。

過去の財務省の試算では財政債権に必要な成長達成ケ-スは名目成長(実質は表示なし)3.2%でそれ以上のケースはないわけで、財務省自体がそれ以上は現実的でないと考えていると思われますが、岸田政権は「新しい資本主義」で3%を標準とし、更に、景気回復による租税弾性値の上昇を見込んで再建可能としているようです。

そのためには多分「新しい資本主義」の中身「分配と成長」の具体的な内容が見えてこなければならないのですが、この辺りが、政府の手で行われる税制などによる再分配か(消費税増税は考えないようです)、民間労使による労使交渉の結果や、賃金制度、雇用改革(非正規労働者問題)などの効果を見込むのかも重要な関心事項でしょう。

更には、これまで全く論じられていない問題ですが、「家計における分配行動」、つまり「可処分所得の消費と貯蓄への分配」、統計的には平均消費性向についての政策についての岸田政権の新機軸(何かあるだろうと思いますが)の説明がほしい所です。

経済財政諮問会議への提出資料、岸田総理の説明などについての報道が待たれます。

2021年11月、家計消費は低調

2022年01月09日 22時25分03秒 | 経済
1月7日、総務省より11月分の家計調査が発表になりました。
ちょうど、新型コロナの制圧が可能になるのではないかと期待を持たせるような新規感染者数の激減の時期でしたので、消費も少し活発になったのではと考えていました。

然し数字が発表になってみると状況はあまり変わってはいないようです。グラフにして昨年と較べてみましたが、余りぱっとしないので、その状況だけ報告しておきます。

先ず2人以上の所帯の消費支出の一昨年と昨年の動きを折れ線グラフで示しました。
一昨年は、3月まではまだ新型コロナが如何なるものか解らない人も多かったのでしょうが、4月から緊急事態宣言、そして5月まで延長ということになって、巣籠りが始まり、消費は落ち込みました。

二人所帯の消費支出の推移(単位1000円)

    総務省「家計調査」

5,6,7月には一人10万円の給付金出ましたが消費支出は全く増えていません。
秋になってGoToなどもあっていくらか上向き、政府の楽観政策で年末が少し良かったようですが1月にはまた緊急事態宣言で落ち込みです。

1月から茶色の線に移りますが、暖かくなる頃から異常に快調で、巣籠り需要などといた言葉も出来、住宅関連や耐久財などの売れ行きが活況になり、なぜか外出する教養娯楽、衣服・履物などの需要がありました。

然し症状の重いデルタ株が8月まで猛威を振るい、厳戒体制で8月をピークに感染者は減少、10月あたりから、コロナも終幕などの見方の出る一方、オミクロン変異株の出現で第6波を予想する専門家も多く、さてどうなるかでしたが、11月の消費性向は矢張り前年比下降です。

昨年3,4月の消費の多少の活性化は、我慢疲れの反動だったのでしょうか。家計の消費動向は、ずっとコロナに振り回されている事がはっきりわかります。

所で収入と支出の分析が可能の2人以上勤労者所帯でずっと追いかけている、家計の消費意欲「平均消費性向」についても同じ2年間について「平均消費性向」の数字を採ってみました。

    2人以上勤労者所帯:平均消費性向の推移(単位:%)

     総務省「家計調査」

こちらは棒グラフにしてみました。
昨年3,4月の「我慢の反動」の時期、平均消費性向は前年より上がりました。そして続く5、6、7月も前年より高くなっています。

理由は、3,4,5月は「我慢の反動」でしょう。5,6,7月月は、前年この期間に一人10万円の給付金だ出て、それが消費に向かわなかったため、平均消費性向がその分さがっていたからです。とくに両方が重なった5月は前年5月比13ポイントも上がっています。給付金が無ければこうなるということです。

2021年7月昨年5月の家計調査が出た時のブログでは順調な改善傾向と驚いて(喜んで)いますが。その後一人10万円の支給と共に本来の姿は見えなくなりました。

見えてきたのは8月からですが、結局、勤労者家計は前年以上に消費には慎重という傾向の継続です。

政府は、オミクロン株の増殖は速いが、ワクチン接種の早期化も含めて、経済の活性化にも力を入れていくといます。
しかしワクチンも外国頼みで、自力でできるのは国民に「感染を増やさない様に」してくださいとお願いすることだけというのが現状です。
わが家もそうするように頑張るつもりです。

為替レートと賃金決定 (試論) 

2022年01月06日 15時56分43秒 | 経済
第二次大戦後1970年までは世界経済はブレトンウッズ体制のもと、固定相場制でやってきましたが、ご存知のように基軸通貨国のアメリカが赤字国になってしまったせいで70年代に入って、結局、変動相場制になりました。

つまり、赤字国というのは、一般的に言えば、その国の物価が高いので、輸出が不振になり、安い外国製品が入って来て国産品は売れなくなるからです。

アメリカが普通の国であれば、ギリシャやイタリア、韓国などのように、IMF管理になって、何年か緊縮経済をやり不況に耐えてコストを下げ、生産性を上げて、競争力をつけ黒字国になって国際経済に復帰という事になるのでしょうが、何せ、覇権国、基軸通貨国ですからそうはいきません。

基軸通貨であるドルを切下げてドル安にし、競争力を回復して赤字を減らそうという事になったわけです。それでブレトンウッズ体制は崩壊しました。

変動相場制になりますと競争力の強い国の通貨は高くなり、弱い国の通貨は安くなるという形で競争力の調整が「マーケット・メカニズム」によって行われ、それぞれの国の競争力に従って通貨の価値が変動し、自然に国際競争力のバランスが回復されるという理屈です。

例えば、固定相場制の時には、1米ドル=360円、1英ポンド=1008円でした。今は、それぞれ104円、156円辺りです。それで日米、日英の国際競争力の水準は日本が下がり米、英は上ったという事です。

ところで国際競争力というのは輸出入だけではありません国際・国内のあらゆるサービス料金なども関係してきます。つまり国の経済の総合力の競争です。(例えば、国内のバスタクシーの料金も、観光客の懐を通じて国際競争に曝されています)

という事ですから、その国のあらゆる物価の総合的なレベルが問題で、それが上がれば(インフレになれば)いずれは通貨を切り下げないと赤字国転落となってしまうという事になります。

では、どういう場合に経済がインフレになるのと言いますと、通常その原因は賃金インフレです。
賃金を実力(生産性)以上に上げ過ぎてインフレになって競争力が落ちるので、それを防ぐために自国通貨の切り下げを期待し、マーケットがそれを実現してくれるという事でしょうか。

しかし、マーケットはそんなにうまい具合に動いてくれませんから通貨が安くなり過ぎ、それがインフレを加速して経済が破綻などという事も起こります。今のトルコの情勢がそれに似ています。

逆にマーケットに通貨を高くされ過ぎて、苦労したのが日本です。プラザ合意で多少の円高なら受け入れますといったために、予想外の大幅な円高にされ、それに国内の賃金水準を合わせる(下げる)ために「平成長期不況」になりました。

ところでこの所、円安が進んでいます。日本がゼロ金利で、アメリカがインフレを抑えるために金利を上げるというのが原因です。
上記の理屈でいうと、円安になったら、それに見合った賃金の引き上げをしても、日本の競争力は落ちません。

放っておけば、競争力が強くなり過ぎるから、そのうちにマーケットが円高に戻してくれるのでしょうが、考え方によっては、円安が定着しそうだったら、「その分賃上げをした方が日本経済にとって都合がい」という理屈も成り立つのです。

勿論これは黒字国日本だから、また円安が定着するならばという条件があって成り立つ理屈で、それだけ日本は経済政策、賃金政策に余裕があるのだから言えることなのですが、今の日本では一考に値する政策テーマではないでしょうか。

為替レートと物価と賃金の関係を考える

2022年01月05日 22時08分34秒 | 経済
前回インフレの事を書いたので、今回もその続きで物価問題を中心に、物価に影響する要因について考えてみたいと思います。

最近、加工食品などを始めとして日常生活に関係する値上げの動きが報道されていますが、主な原因は世界中で資源価格が上がっている事と円安になっている事が響いているなどと説明されています。

現実も確かにその通りでしょうが、そのほかに最低賃金が大幅に上がったり、介護などの福祉関係で、職種によっては人手不足や賃金格差拡大への批判などから、賃金引上げの動きがあったりすることも影響しているようです。

値上げする側にしてみれば、もう何年も、コストが上がっても値上げ出来ない状態で、苦しんできているので、この際なんとかしたいといった事情もあるようです。

確かに日本の物価は上がっていません。主要国の物価の動きを見ても、どの国もある程度の上昇はしているのですが、日本はずっと横ばいなどというグラフもよく見ます。

確かに日本は物価の上げにくい国になっているようです。その分家庭の主婦や年金生活者などには有り難いわけですが、一部に皺が寄り過ぎるというのは矢張りよくないでしょう。

なぜ日本は物価が上げにくい国になったのかには、実はそれなりの理由があるようです。
かつてのバブル経済以前は、物価は結構その時の事情を反映していたと思いますが、確かにこの所は本当に動きが少なくなってきています。

物価だけではありません。賃金も極端に上がらなくなってきているのです。
現実を見れば、、賃金も上がらない、その上に家計は将来不安から貯蓄に励み、消費を抑える、結果は値上げしたら売れないので値上げしないといった状態でしょう。

こんな癖が、この所の30年にもわたる不況の中で定着してしまっているのです。
そんなことになってしまった原因を数字の面から見てみますとこんな状態です。

プラザ合意で円高になる前の年1984年の日米の消費者物価を共に100として2020年の水準を見ますと
アメリカ 100→259
日本   100→122
この36年間で、アメリカの物価はほぼ2.6倍になっているのに対し、日本は36年間で僅か22%の上昇です。

その原因は、実は為替レートにありました。円レートはこの間1ドル=237円から106.8円に大幅円高です。これも1984年を100としますと
円レート 100→44.97 この円レートで日本円の価値をドル建て(ドル換算)にしてみますと
日本 消費者物価ドル換算 100→270.6
となって、日本の消費者物価は(為替レートが変わらなければ)アメリカより上がっているのです。

日本は、この円高に耐えて、2.7倍になるべき物価を22%の上昇に抑えたのです。
当然賃金も上げられませんし値上げなどとても無理ということになりました。

この癖はなかなか抜けません。今、40歳ぐらいまでの人は、物心ついてから、「物価は上がらないもの」という経験しかないのです。

為替レートというものは、一国の賃金や物価に直接影響を与えます。そして一国経済に多大な影響を与えるということです。
という事であれば、今後は、為替レートと賃金の関係をどのように考えていったらいいのでしょうか。次回考えてみたいと思います。

良いインフレ、悪いインフレ

2022年01月04日 16時18分48秒 | 経済
政府・日銀が2%インフレのターゲットの旗を掲げても殆ど上がらなかった消費者物価がこのところ動き始めたようで、インフレを心配する消費者の声もあります。
「悪いインフレ」「良いインフレ」といった言葉げマスコミに登場したりしています。

解説者などの話を聞いていますと、「賃金が上がらないのに物価が上がるのは悪いインフレです」などとの説明があるようです。
確かに賃金が上がらないのに物価が上がれば、消費者にとっては悪いインフレでしょう。 

最近の物価の上昇は1つには海外の資源などの物価が上がっていること、2つには円レートが1ドル=102~3円から104~5円と円安になって、その分輸入物価が上がること、その2つの要因が重なっていることが指摘されています。

どちらの原因も消費者にとっては困るのですが、海外の資源価格が上がるという問題は、世界共通ですから、世界中の消費者が同様に困るので、日本だけが困るのではありません。いわば仕方ない値上がりで、そのうち資源価格が下がれば終わります

それに対して、円安になって、輸入品の値上がりで物価が上がるのは日本だけ物価が上がるわけで、日本の消費者だけが困るので確かに日本にとって悪いインフレです。

しかし、かつてプラザ合意の「円高」に苦しみ、苦肉の賃下げをしたのに比べれば、円安で日本の競争力は強くなり、コロナが無ければ、外国から多くの観光客や買い物客が来るはずで、プラスの面もあります。

考え方によっては、円安が続くなら、その分だけ賃上げをしても、日本の競争力は落ちないので、賃上げで対抗することも可能という「打つ手」もあるのです。

ですから「悪いインフレ」といてもいい面もあるわけで、一概に「悪い」と言ってしまえない面もあるのです。

インフレの原因にはもう2つばかりありまして、今年は不作とか不漁とかで物価が上がる、場合ですがこれは、お天気やお魚の都合によるので、悪いインフレですが、人間は耐え忍ぶしかなく、来年の豊作、大漁を願うのみです。

最後の1つは、賃金を上げ過ぎて値上げになる「賃金インフレ」です。
最初に述べた政府、日銀の「2%インフレターゲット」ですが、その含むところは3%の賃上げをして2%物価が上がれば、1%分は生活が向上してみんなハッピーという事のようです。

確かにそれは結構ですが、もし、2%賃上げして2%インフレだったら、生活水準は変わりません。
3%賃上げしてインフレが2%で済むためには、1%の生産性向上が無ければなりません。
 
こう考えてみると、毎年同じ事をやっていて、資源価格が上がったり、円安になったり、自然現象で不作や不漁になったり、賃上げを頑張ったために物価が上がって元の木阿弥だったりするのは、すべて「消費者にとっては」悪いインフレという事でしょう。良いインフレなどというのはないのです。

良いのは生産性の向上で、生産性を向上させれば、その分は物価が下げられるのです。
豊作や大漁になるのは「天」が生産性を挙げてくれるのですが、それだけではなくて、人間にも生産性を上げる能力があります。日本人は、もともと、それに優れているはずです。

そして。生産性さえ上げれば、賃上げをしてもその分物価上がりませんから、多少物価が上がっても「この程度なら良いインフレだ」などと言えるということになるのでしょう。

自民党内の財政政策に二派?

2021年12月26日 21時55分10秒 | 経済
世界でも断トツの借金過多(国債残高)を誇る(?)日本政府の中枢自民党の中で、「このまま借金財政を続けてもOK」と考える」グループと「やっぱりこのまま借金財政を続けるわけにはいかないだろう」と考えるグループとが生まれようとしているようです。

報道によりますと、1つは、高市政調会長中心の「財政政策検討本部」。最高顧問は元総理の安倍晋三、本部長は、積極財政派で政務調査会長代理の西田昌司という事です。

もう1つは、岸田総理直轄の「財政健全化推進本部」で、最高顧問は麻生太郎副総裁、元副総理兼財務大臣、仕掛け人は茂木幹事長で、本部長は額賀福志郎です。

安倍政権でタッグを組んできた、安倍・麻生が、財政政策で意見を異にするのではないかという事は折に触れて感じていましたが、今回は違いの「見える化」です。

岸田・麻生の「財政健全化推進本部」の方は、コロナのような緊急事態には財政出動も必要だが、今後は(コロナ次第ではあっても)財政の恒常的な借金依存は不健全で、経済正常化の中では財政の健全化をできるだけ進め、必要なときに財政支出を思い切ってできるようにすべき(額賀)という考え方のようです。

一方、高市・安倍の「財政政策検討本部」は、自国通貨建てで国債を発行できる国は、財政赤字を顧慮する必要はないというMMT理論を信奉する立場(西田)で、日本経済はいまだにデフレ状態(アベノミクスの挫折)が財政出動で立て直せると思っている安倍元総理の願望の実現を考えているようです。

この問題については、このブログでは「日本の国債が紙屑になる条件1~9」で徹底的に分析して来ましたが、MMTは特定の条件(例えば基軸通貨国であるとか、安定した万年黒字国であるとか言った条件)の下で、何らかの犠牲において成り立つものでしかないことを明らかにしてきたつもりです。

日本の場合には、国民が真面目で、現在の生活より将来の生活を懸念し貯蓄に励むゆえに、万年黒字というのが現実で、現在の国民生活が犠牲になり、結果、経済成長も阻害されて、将来生活も改善しないという「倹約の罠」「低金利の罠」に嵌っているから、MMTが成立するので、これではいくら財政出動しても効果はないのが実情と思われます。

そして「もし」財政出動が成功すれば、その時はMMTは成立しない国になっている(普通の国になってしまっている)という事になるのだろうというのが、予測される結論です。

こうした条件や現状が解らない安倍さんは、いつまでたっても「まだデフレだ」と思っているようですが、2014年には日本はデフレを脱却して(コロナの異常事態は別として)いるのです。この所では、既に、いわゆるステルス値上げを指摘したりインフレを心配する人も増えているのが現実でしょう。

自民党のことですから、2つの「本部」がいつまでも対立・併存することはないような気もしますが、その時は、間違いのない選択をした上で対立を解消してほしものです。

2022年度政府経済見通しを見る

2021年12月24日 23時10分45秒 | 経済
昨日、閣議了解版の2022年度「政府経済見通し」が発表になりました。
オミクロン変異株の市中感染が出たりしているので、この先の感染状況次第で、日本経済もどうなるか解りませんが、矢張り政府経済見通しは、一つの重要な指標でしょう。

一番大事な「実質経済成長率」を見ますと、
2020年度(実績)     -4.5%
2021年度(実績見込み)  2.6%  
2022年度(見遠し)    3.2%
となっています。

昨年度は、コロナという未経験なパンデミックで最悪、今年度は、コロナ禍でも何とか経済活動を確保したという面もあり、年度後半には感染状況も大分収まり、何とかプラス成長に持ち込み、さて来年度は、な何とか本格回復に持っていきたいという願望も感じる数字です。

民間経済研究機関の発表している「実質経済成長率」の数字を拾ってみますと、
大和総研の4.0%が最も強気で三井住友アセットマネジメント2.9%、第一生命2.9%、三菱UFJ銀行2.8%、三井住友信託銀行2.7%、ニッセイ基礎研究所2.5%といった具合で、政府見通しは強気の方です。

政府の強気を支える経済活動の分野は、民間最終消費支出4.0%、民間企業設備5.1%、財貨・ビスの輸出5.1%で、民間住宅建設は0.9%で昨年度の-0.5%よりは回復ですが、どちらかというと低調との見通しです。

寄与度で見ますと、実質成長率3.2%のうち、民間需要が3.0、貿易黒字0.2で、官公需要は0.0で中立となっています。政府の梃子入れで景気回復ではなく、民間需要と貿易黒字が経済成長を引っ張るという形の見通しになっています。

コロナ対策で、この2年ほど赤字国債を沢山出して、財政支出で経済を支えましたから、もうこれ以上は出来ないというところでしょう。

「実質経済成長率」政府見通しの中身を見ますと、2022年の日本経済が、巧にコロナ(オミクロン変異株)対策に成功すれば、ホッと一息ついた国民が日常、更には非日常の経済活動を活発にし、達成可能の範囲ではないかといった感じです。

ところで、実際の経済活動は、名目値で行われるので、最近些か上ずっている物価の動きを政府はどう見ているのでしょうか。

物価の主要な統計は、消費者物価指数と企業物価指数ですから見てみますと消費者物価指数上昇率は今年度の-0.1%から来年度は0.9%の上昇になり、企業物価指数は今年度の6.5%の大幅上昇から2.0%と鎮静化の見通しです。

2022年度の名目成長率は3.6%で、実質の3.2%との差0.4%がGDPデフレータ(総合物価指数)の上昇率という事になります。

という事で、今年は企業物価指数がこのところ9%も上がって、消費者物価指数もこのところ加工食品などの値上げが目立つので、今年の分はどうかと改めてみてみました。

今年の実績見込みでは企業物価指数は6.5%の上昇、消費者物価指数は‐0.1%と値下がりですが、企業物価指数の上昇が、どのくらいGDPデフレータを押し上げているかを見てみますと「ビックリ!」。GDPデフレータは‐0.8%と下がっているのです。

これは明らかに異常です。企業物価指数が上がっていて、消費者物価指数が僅か0.1%のマイナスで、この両者を3対7程度(7が消費者物価)で合成したのがGDPデフレータというのが常識ですから(輸出物価指数もプラスです)-0.8は異常です。

ミスプリかと思いましたが、たしかに2021年度のGDP成長率は実質2.6%、名目1.7%で、GDPデフレータが大きく下落し、実質成長率が名目成長率を0.9%上回っています。この数字については、更に検討する必要があるように思います。

トルコインフレ進行曲

2021年12月22日 15時13分35秒 | 経済
ちょっとばかりトルコには失礼なタイトルですが「トルコ行進曲」を口ずさむ癖がありますので、お許しいただきたいと思います。

トルコリラの急落、トルコのインフレ率の急上昇、といった報道がされ、トルコ経済が心配されています。

アメリカがインフレ鎮静のために利上げをするという動きを見せる中で、日本の場合は円安が進み、世界では自国通貨のレートが安くなって輸入インフレが心配されるケースが増えているようです。

日本でも、この所ガソリンに見られますように値上がりがあり、その他の一般物価も輸入品の価格上昇、流通ネックなどでの値上がり、輸入穀物や肉類などの値上がりなどで加工食品などの値上げが増えているようです。

日銀の黒田総裁は、アメリカが利上げしても、日本は金融緩和政策を当分変えないと言い、多少円安に振れても、日本経済全体では円安のプラス効果の方が大きいという説明をしています。

通貨価値が下がるとインフレになって経済的困難に陥る国とそうでない国とがあるという事は確かにその通りだと思います。その違いは一体どこから来るのでしょうか。

原因は大きく分けて2つあるように思います。
① 自国通貨安で競争力が増す輸出や観光収入などの外貨獲得資源があるか。
② 輸入インフレを自家製インフレに転嫁してしまうか否か。

先ず①の外貨獲得資源があれば、通貨安になれば、輸出増や観光客の増加の可能性が大きくなります。それによって貿易収支や経常収支が黒字になり通貨安は止まるる可能性があります。

つまりその国がコスト安の国になり、お陰で経済活動が活発になって、インバウンドも増加、成長率も高まり黒字国になるわけですから、通貨安になる原因はなくなります。

丁度日本が、2013、年2014年の金融の異次元緩和政策で、円高から円安になり、長期不況から脱出できたのと同じことが起きる可能性が大きいわけです。

トルコでも今年の夏から、これまでほとんど赤字続きだった経常収支が黒字になり、これが唯一の希望と言われています。


次に②のインフレの問題です。現状のトルコはこちらの方が問題だと思われるところです

というのは、トルコリラ安になって、輸入物価が上がって来たのに対して、「これでは国民の生活が大変だ」という事で、最低賃金を大幅に引き上げています、

トルコでは労働者の50%前後が最低賃金の近辺の賃金でそれより低い場合もかなりあると言われます。
その最低賃金を2019年14%、2020年13%、2021年15%、2020年12%と大幅に引き上げています。(来年1月からはどうするかです)

もともとトルコは、賃金とインフレがスパイラルで10%以上のインフレ、10%以上の賃上げが続いていたような状況もありましたので、国際競争力が落ち、リラ安になりやすく、そこに資源インフレやアメリカの金利問題が重なってのリラ安、インフレ深刻化(最近は年率20%)という事だったのでしょう。

経済政策の王道から言えば、ここで国民の生活を賃上げや金融政策で救うのではなく(結果的にはそれは不可能)、リラ安によるインフレを耐え忍び、人件費をはじめとしてトルコ経済のコストをリラ安とともに下ることで、競争力を回復し、経済成長を軌道に乗せることが必要でしょう。

2021年12月「日銀短観」:企業活動回復へ

2021年12月14日 13時57分50秒 | 経済
昨日12月現在の「日銀短期経済観測」が発表になりました。
コロナの新規感染者数が、小康状態を続けていることが主因でしょう、経済の動きは比較的順調で、前回3か月前の9月調査の製造業の大幅回復(12月はDIは18で横ばい)に続いて、今回は非製造業も回復のペース(DIで7ポイントの改善)に乗ってきました。

こうした状況はまず大企業で顕著ですが、今回の調査では中堅企業中小企業でも、企業環境がかなり改善し、企業の元気度も上がって来ている様子が見えています。

大企業では製造業のDIが前回の大幅改善後、引き続いてその水準を維持(DI18→18)していますし、ずっとさえなかった非製造業も順調な回復(DIは2→9) を示しています。

中堅企業、中小企業はも似たような動きで製造業では中堅企業は横ばい(DI6→6)ですが中小企業ではDIはマイナスながら改善(-3→-1)です。

非製造業でも中堅企業のDIが改善(-6→+1)していますし、特筆すべきはマイナス続きの中小企業も、DIは改善(-10→-4)していることはマイナスながら大幅改善といえそうです。

残念ながら、非製造業の中でもコロナ禍の影響が最も深刻な「宿泊・飲食サービス」のDIは大幅マイナスが続いていますが、それでも、DIの数字は、大企業-74→-50、中堅企業-76→-51、中小企業-70→-36で、中小企業の大幅改善が目立ちます。

毎月定点観測している個人消費支出、平均消費性向の動向もコロナ次第、更には企業の景況も同じくコロナ次第、結果的に四半期GDP速報のコロナ次第、というのが日本経済の現状です。

最近、製造業関係では、輸入資源価格の上昇が問題になっていますが、これは世界各国に同じ水準の影響があるわけで、世界中同じなので、日本だけ特に心配することはないのですが、コロナは、その点、国や地域の対策のやり方如何で、それぞれに大きく差が出るようです。

一昨日のNHKの日曜討論で、コロナ対策と経済対策が背反か共通かといった問題が出ていましたが、現状では、コロナ対策が最大の経済対策だという事がこのあたりから解るのではないでしょうか。

先行き、オミクロン変異株の心配で、今回の日銀短観でも3カ月後の予想のDIは一様に下がっていますが、日本で言えば、新規感染者の情況がこのまま減少傾向を持続できれば、次回の日銀短観でも、DIの改善は進むのではないでしょうか。

日本経済の先行きは、まさにコロナ対策の成否にかかっているようですから、給付金のバラマキだけではなく、この辺りを、国会でも、もっともっと真剣に議論してほしいものです。

日銀「企業物価指数」9%上昇は「正常」のうち

2021年12月11日 18時24分03秒 | 経済
日銀「企業物価指数」9%上昇は「正常」のうち
アメリカでは、11月の米消費者物価指数 前年同月比6.8%も上昇して39年ぶり高水準という事でアメリカの中央銀行であるFRBは金融引き締めの動きを見せるなど大変です。

そこに日本でも日銀が調査発表する「企業物価指数」の11月が、対前年同月で9.0%の上昇という発表がありました。
ところが日本の消費者物価は最新時点の10月で0.1%の上昇と落ち着いたものです。

こうした日米の違い、企業物価指数と消費者物価指数のギャップがどこから来るのか「ざっと」見てみました。アメリカの事は最後にちょっと触れることにして、まず、日本の場合、企業間取引の物価指数が9%も上っても、消費者物価が僅か0.1%の上昇と言うというメカニズムは正常かという事です。

今回の企業物価指数の上昇は原油をはじめとして資源、原材料価格が世界中で値上がりしたからという事は言われています。
そこで、輸入物価の影響という点を見てみましょう。

日銀の企業物価指数の内訳の中に、需要段階別の企業物価を国内品と輸入品に分けて調べたものがあります。それで見ますと、輸入原材料をはじめ、輸入品と国内品価格の関係が解ります。

日銀の調査では、素原材料、中間財、最終財と加工段階別に分かれていて、それぞれについて国内品と輸入品の対前年同月の上昇率が解ります。
 
  素原材料 63.7%、うち国内品10.0%、輸入品 91.1%
  中間財  14.5%、うち国内品11.7%、輸入品 31.2%
  最終財   3.9%、うち国内品 2.3%、輸入品  9.1% 

結果は上の数字のようになっています。

圧倒的に上昇率が高いのは素原材料の輸入品で、91.1%、ほぼ2倍に近い上昇率です。当然、原油の値上がりや、その他鉱物資源などの価格上昇の影響が甚大です。

加工段階別にみていきますと、国内品でも輸入品でも素原材料から中間財、最終財と加工度が上がるにつれて上昇率が低くなっています。
これは価格の中に含まれる加工や輸送のコストの割合が大きくなるからで、加工や輸送のコストというのは、大部分が人件費ですから、上昇率の低い人件費がコストの占める比率が大きくなると原材料のコスト高が薄められるからです。

日本経済全体の輸入代金はGDPの1割程度ですから、残りの9割は国内コストです。ですから国内コスト(最大のコストは人件費)が上がらなければ、影響は輸入品価格分だけに限られ、加工段階が上がるほどその影響は小さくなります。

企業物価というのは、まさに物価で、「物」の価格ですが、消費者物価になるとさらに小売りの人件費、や物でないサービス料金も入りますから、人件費の割合が圧倒的に大きくなって素原材料の影響は、ますます小さなものになってしまいます。

アメリカで消費者物価が上がっているのは、原材料価格の値上がりと言うよりも、流通がネックになったりして品物不足によることや、物価が上がったという事で、賃金が上がったこともあるようです。いわゆる便乗値上げもあるでしょう。

資源の国際価格が上昇して、経済が混乱するというのは、よくあることで、かつての1970年代の石油危機の時は、先進国も大混乱で、その始末には1980年代までかかりましたが、日本は合理的な対応をし、影響は小さくで済みました。

資源価格の上昇というのは、世界共通の問題ですから、自分の国だけが不利になるのではないので、上昇分は正確に価格転嫁した場合の影響を見定め、慌てて賃金を上げたり、便乗値上げに走ったりしなければ、乗り切ることが十分可能な問題です。

日本の場合は、国内経済が安定していて、国民の行動も平静なので、輸入物価の上昇が経済の混乱をもたらすようなことは起きないだろうと見ています。

こうした統計数字を見ることでそんな状況も理解出来るように思います。

2021年10月家計調査:消費伸びる

2021年12月07日 17時23分51秒 | 経済
今日、10月の家計調査が発表になりました。
何時も指摘していますように、日本経済の動きに最も影響の大きい家計の消費支出は、このところずっとコロナ次第という状況です。

日本では新規感染者増加の最も酷かったのは今年の8月中旬で、下旬から9月にかけて下がり始め、11月に至って「何とかこのまま収まってくれれば…」とみんなが願うような現状になっています。

政府もこの状態が続くことを願っているのでしょう、種々の規制も少しずつ緩和しながら、状況を注視ししているといったところのようです。

この影響は、家計消費にもはっきりと表れているようです。
昨年の秋は、異常に楽観的だった政府のGoTo政策などで一時的に消費支出が増加したりしましたので、今年の消費支出は前年同月で比べると減少が目立つことになり、このブログでは、先月はコロナの影響のなかった一昨年の同じ月と比べてみています。

家計調査の「2人以上所帯の季節調整済み消費水準指数」で見ますと、残念ながら9月までは一昨年の水準に追い付いていませんでした。

前月のこのブログでは、「10月はどうでしょうか?」と書きましたが、今日の発表では今年の10月は一昨年10月の水準を超えたようです。
一昨年10月101.4、(昨年はGoToのせいで104.3)今年は103.0です。

今年の6月からの指数の動きは99.7、99.1、94.8、100.3、103.0(10月)で、新規感染者の減少とともに、家計消費の回復がみられるわけです。

このところ、財布の紐が固い勤労者所帯の平均消費性向は10月は68.2%で、前年の68.5%には0.3ポイント追いついていませんが、3.9ポイントも下げていた9月からみれば、大幅上昇と言えそうです。

こう見てきますと、コロナ新規感染者の順調な減少は、政府の徐々ながらの規制緩和と相まって、家計の消費態度の積極化に、明らかに効果を持っていると言えそうです。

ところで、心配は「オミクロン株」という事ですが、この未知数が、今後、どのように既知の部分を増やし、「日本で、確り感染拡大を防いだ」と言われるようになれるかどうか、日本の対応の在り方が問われることになるのでしょう。

ここで頑張れば、景気回復でも明らかにプラスという事になるのでしょう。当面、景気の先行指標は、何よりもコロナ新規感染者の動向という状態がまだ続きそうです。

中国に住宅バブル崩壊の危険は?

2021年12月04日 14時52分08秒 | 経済
中国の不動産業最大手の 恒大グループの経営不安は、その後利子の支払いが行われたとの報告もありましたが、国外の債権者との間で債務の再編を協議する方針といった報道も入り、矢張り容易ではない様な気がします。

日本の土地バブルの崩壊、アメリカのサブプライムローンの破綻(リーマンショック)に次いで、中国の不動産バブルの蹉跌と順に並べると、不動産価格と金融政策で景気維持という手法の限界が見えてくるような気もします。

確かに恒大グループは拡大を急ぎ過ぎたのかもしれませんが、その背景には、現代中国の高級住宅価格は何処までも上昇する(特に上海、北京など)という神話があるような気がします。

そうであれば、恒大は超大手ですが、それに連なる大手から中小に至る不動産業が皆健全であるという事はあり得ないでしょう。

そして、それに連なるのは土地の利用権を分譲する地方政府の財政、その上に乗る中国政府という構造、不動産価格の上昇に大きく依存するのかもしれない中国の政治経済体制です。

今日、中国が一帯一路を掲げ、世界の調所に巨大な投資をしている資金は、世界の工場として付加価値を生み出した成果の分配による資本蓄積のレベルを超えているように感じられないでしょうか。

かつて日本が土地バブルの時代、日本の都市銀行が世界のトップ10に何行も入る資金量を持ち、NYのロックフェラーセンターやテtィファニーを買い取っていた事を思い出します。
土地バブルが崩壊してみれば「あのお金は一体何処へ消えたんだ」などと不思議がる意見もありました。

金融緩和による土地価格の上昇で生じたお金は土地価格の下落で消えるのです。増えるときには金融と投機で異常に増え、消えるときはそれが全て消えます。
アメリカのサブプライムローンで出来た豪奢な住宅やサブプライム層の豊かさも、みんな金融と不動産バブルの組み合わせで生じた現象です。

最近、中国で、不動産の「売り急ぎ」が出ているという報道もあります。地域によっては、早く売らないと値下がりが大きいといった危機感もあるようです。

中国に何か転機が来ているのでしょか。
それを示唆するものがいくつかあります。まず、政府が不動産価格の過度な上昇を抑制しようと、金融の引き締め政策を取っているという事です。
これは習近平主席の掲げる「共同富裕」実現、富の配分のより均等なものにしようという新しい中国の形を目指すものでしょう。

これらと軌を一にするのでしょうか、今までなかった固定資産税に相当する「不動産税」を導入するという方向も発表(一部試行)されています。

日本でも、土地バブル崩壊のきっかけは、金融引き締めと地価税(新土地保有税)の導入でした。
こうした新政策の導入は、適切な程度の導入にするといった調節は極めて困難なようです。
理由は、相手は投機的な動機による価格形成だからです。

中国政府が、(計らずも?)推進してしまった不動産価格上昇による信用創造の結果の巨大な資金量の増大を、巧に適正な規模に調整することに成功しうるでしょうか、それはかなり難しいような気がします。

習近平主席が目指す、これまでの経済発展の成果である巨大な資本蓄積を利用して「共同富裕」を実現するという構想の「富裕」の源が今後どうなっていくのか、確り見守る必要がありそうです。

岸田政権も賃上げ奨励、それでどうなる

2021年11月27日 14時21分36秒 | 経済
安倍政権が、本来政治の権限外である賃金問題に「賃上げ奨励」という形で口を出し「官製春闘」などという奇妙な熟語を生んで、結局は「余計なお世話」に終わった後を受けた岸田政権です。

まさかまた賃上げ奨励とは思っていませんでしたが、やっぱり言い出したようです。
ただし、「横からの口だし」だという事は、それなりに心得ているようで「官製春闘」ではありませんと言っているようですが、何が違うのでしょうか。

更に安倍政権が試みた「賃上げ減税」もやろうという事のようで、どうも経済と賃金決定と国家財政の関連がよく解っていないのではないかと感じられます。

大体、賃金決定というのは、自由経済の国では「労使の専管事項」という事になっていて、中でも、日本の労使は世界に類例をみないほど経済状態に適切な、合理性のある決定を実践したことで知られています。

ただ、この所、労働分配率が下がり、企業の内部留保が増加するという状態が統計でも示されていますが、はっきり言えば、これは経済政策の貧困から、企業が極度に防衛的になり、労働組合もその状況を理解していることの結果とみられます。

それが「官製春闘」の笛に労使が共に踊らなかった主因でしょう。政府は自らの経済政策の貧困、企業にも、労働サイドにも国民全体にも、日本経済の先行きに希望を感じさせる経済政策の出来なかった自らの経済政策にこそ、反省の目を向けるべきなのです。

その意味で、岸田政権の「新しい資本主義」の中身には注目しているのですが、自らの経済政策より、労使の賃上げに期待するような姿勢では先行きが案じられます。

昨年の1人10万円給付がどれだけ消費支出増に貢献したかも検証せず、今回も10万円給付に動いていますが、(それで救われる人がいないとは言いませんが)その大半以上が家計支出には回らず、銀行預金になり、国債引き受けかマネーゲームの投機資金になるのではないでしょうか。

「新しい資本主義」の「資本」は、バラマキの原資である国債引き受けや、デイトレの資金になる貯蓄に回るのではなく、GDPの成長に役立つ実体経済の活動の中の技術開発、生産性の向上、実体経済の成長に使われる「資本」でなければならないのです。
それでこそ消費活動活発化の原動力になり得るのです。

「資本主義」とは言っても、日本の場合は資本が中心ではなく「人間が中心」で、その人間の目指す「豊かさ」や「快適さ」の創出に役立つ、実体経済の成長に貢献する「資本」の蓄積・活用に着目した「資本主義」でなければならないのです。

賃金は、経済が成長することによって上昇します。と言うより、我々は「より高い賃金」の支払いを可能にするために経済成長に努力してきたとうのが実態でしょう。

賃金を上げて経済を成長させようと国のリーダーが考えるのは、物事の順序が逆ではないでしょうか。それで齎されるのは結局はインフレだけでしょう


リーダーの役割は、その国の経済社会が経済成長するような雰囲気、社会心理の醸成、国民意識の動機づけをすることではないでしょうか。

岸田総理の大先輩、宏池会を率いた池田総理は「経済のことは池田にお任せください」という名言を残しています。

「新しい資本主義」の中身が、真に日本経済社会の成長発展に役立つものに創り上げられる事を期待します。

原油価格問題、適切に対処できるか?

2021年11月26日 16時01分21秒 | 経済
アメリカの物価上昇率は6%に達したようです。EUも3%に達したようで、これまで言われていた「物価が上がらない時代」などという言葉は、すでに消えているようです。

アメリカの場合は、ガソリン価格は象徴的ですが、新車・中古車を始め多くの食料品、日用雑貨の値上がりもあるようで、景気の急速な立ち上がりで物流が追い付いていかない事が大きいとなど言われています。
当局は一過性のものと言っているようですが、それで済んでくれることを願うところです。

EUでは、イタリアが3%、スペインが4%に達し、何時も物価安定のドイツが3%を越え年内に5%を予測するなど、EUの2%インフレターゲットは一転して物価引き下げの目標になりそうです。

こうした物価上昇の各国の波が、原油価格の上昇をきっかけにしたという事はあるかもしれません。しかし、原油の値上がりだけで、物価上昇が起きているのではないでしょう。先行き要注意のような気がします。

日本はまだ1%以下の上昇率ですが、ガソリン・灯油が上がっているので、政府は慌てています。
バラマキの癖がついた日本政府は、さる17日に書きましたようにガソリンに補助金を出そうとしていますが、取るべき政策は、そんなことではないはずです。

一方、アメリカ、ヨーロッパの方は、物価上昇を賃上げで取り返そうという動きが出ることが懸念されます。
これをやると、かつての石油危機の時と同じく、輸入インフレが賃金コストインフレに転嫁され、一過性でなくなります。

結果はご承知のように、インフレが収まらない、引き締め政策、景気低迷、雇用悪化、スタグフレーションという、いわゆる先進国病、いつか来た道の再発です。

日本の場合は、政府の補助金政策で、表面上の物価は抑えられるかもしれませんが、それは、国債残高の増加となって、結局は回り回って、国民が、所得税、法人税、消費税といった形で「何時か」負担することになるのです。

原油価格の上昇は、日本経済のGDPのなかから、原油の値上がり分だけ産油国に上納金を納めたことになるのですから、日本国内で何をしようが取り返すことは出来ません。

出来るのは、そのうち原油価格が下がって、上納した分が返ってくることを待つしかないのです。そして、経験的には原油価格は上がったり下がったりするのです。

長い目で見れば「再生可能エネルギー」が豊富になって、原油価格が下がる可能性もあるのですから、政府には「補助金を出すなら、再エネの技術開発に出した方が合理的ですよ」と提言しなければならないところです。

 ついでに考えてみますと、アメリカがインフレ高進を抑えるために金融引き締め政策を取り、それによって、ドル高、円安となり、円安で輸入物価が上昇するわけで原油価格も上昇幅がその分大きくなると心配する向きもあります。

これについては、現状の日本経済の実情を考えた場合、今は、円安より円高を警戒すべきと考える範囲にあると考えるべきでしょう。

更にもう一つ付け加えますと日本の原油輸入は年間4.3兆円(2020年:GDPの0.8%ほど)で、これが2倍に値上がりして、全額国内価格に転嫁されても物価上昇は0.8%(GDPデフレーター)ほどだという事も計算しておくべきだろうと思います。