司法書士内藤卓のLEAGALBLOG

会社法及び商業登記に関する話題を中心に,消費者問題,司法書士,京都に関する話題等々を取り上げています。

支配人制度の濫用

2004-08-24 14:09:06 | 会社法(改正商法等)
 ホテルやレストランで「支配人」という肩書を耳にされることがあるだろう。しかし、これは商法上の「支配人」(商法第37条以下)とは似て非なるものである。商法上の「支配人」は、「営業主に代わってその営業に関する一切の裁判上または裁判外の行為をなす権限を有する」(商法第38条第1項)ものとされ、登記事項となっているからだ。

 消費者金融会社等がこの制度を悪用して訴訟活動を行わせるケースがままある。簡易裁判所管轄(訴額金140万円以下)の事件であれば、従業員が裁判所の許可を得て代理(民訴法第54条第1項但書)することができるが、地裁以上は訴訟代理人は弁護士に限定されており(同項本文)、代表者が出廷せざるを得ない。これを潜脱するために、上記「支配人」を選任、登記することによって、代理人として訴訟活動を行わせるのである。しかし、本来「支配人」としての実体がないのに、登記のみ了しているからといって、訴訟活動を行わせることはもちろん認められるべきではない。この点に関する判例として、東京地判平15.11.7がある。

 最近物議を醸しているUFJ信託銀行が本店に5名の支配人をおいているほか、社歴の古い会社においては、重要な支店に支配人を置く慣行が未だに残っているのは確かである。しかし、大多数の支配人の登記は、上記のように金融会社等が営業所所在地での訴訟対応のために支配人を選任、登記しているのが実情である。交通、通信の便は商法施行当時とは比べようもなく、営業所ごとに支配人をおく利点はほとんどないし、本来的意味合いでの支配人制度を利用している会社はごくわずかである。従って、支配人の制度自体の見直しが必要であろう。廃止してもいいくらいである。

 ちなみに、会社法制の現代化作業においては、現行本店または支店等の所在地ごとに登記されているものを、「支配人の登記については、本店の登記簿において、支配人とその支配人が代理権を有する本店又は支店を登記するものとする。」ように改正されようとしている。
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