日本人にとって香港はビジネス相手であると同時に便利な観光地であり、古くから隣人として馴染み深く親しまれてきた地域でもある。香港の人口は750万あまりにすぎないが、2018年の訪日香港人はのべで220万人にものぼり、日本を訪れるビジネス・観光客は全世界・地域別でみて何と4位。(1位中国・2位韓国・3位台湾)。また、香港人全体のリアル訪日率は95%の超高率であり、ほとんどの香港人は日本を訪問したことがある人たちだ。
一方、日本から香港へは、2016年の統計では107万人となっている。日本人にとって人の行き来の多い親しみやすい地域が香港であるということは言える。そして、台湾からも日本に訪れる人がとても多いし、日本から台湾を訪れる人も多い。これら2つの地域は、民主主義という価値観を大事にしたいと思う人々がとても多いところでもある。残念ながら、韓国の政情・世論は、とりわけ文在寅政権になった2年前以降から「反日の嵐」が強くなり、北朝鮮や中国との関係強化政策をとり、中国の長期戦略にも支えられた文政権の方策により、日本との関係は1950年以降で最悪となってきている。民主主義の国家ではあるのだが‥‥。フィリピンも今の大統領になってから、中国寄りとなり、人権問題でも中国を擁護してきている。
東アジアにおいては、日本にとって、親日で民主主義的な考え方を尊重し、人権を尊重する価値観を持つ人が多数を占める「台湾」と「香港」は、それこそ数少ない貴重な隣人だ。だからこそ、今回の「香港の問題」と来年2020年の1月にせまった「台湾総統選挙」の行方は、その貴重な隣人・地域を失うかどうかという、日本人にとっても重要な問題でもあると思う。
なぜ香港では、多くの人々が参加するデモという方法でしか、「逃亡犯条例改正法(香港の人々はこれを「反送中法」と呼ぶ)」に反対する・意思表示することができないのか。2010年代に入ってから、中国政府の強い圧力により香港選挙法改正(改悪)がおこなわれたからだ。これに反対したのが2014年の学生主体の雨傘運動だった。
超改悪により、香港立法会(国会にあたる)の選挙は、70議席のうち半数の35議席しか普通選挙では選出されなくなってしまった。あとの35議席は事実上・中国政府の指名者が議員となる。(普通選挙?)で選出される35議席のうち、30議席は「財界人を中心とした、人口の3%ほどのエリートしか投票権がない」というものだ。企業経営者や専門職などの資格をもたない残りの97%の人々はたったの5議席枠を選ぶのだから、異常な選挙制度である。つまり、70議席枠のうちの5議席だけが普通選挙がおこなわれるというしろもの。結果的に議会は中国政府と関係の良い・北京の意向をくんだ財界などの既得権者層が主導することとなる。しかも、香港独立をとなえる独立派は香港政府からテロ団体指定をされ、立候補すらできない。
香港行政長官の選挙に至っては、上記3%の有権者が1200人の委員を選び、その委員が長官を選ぶ仕組みであるから、97%には一切投票権がない。
しかし、民主主義国並みの言論や報道、集会、結社の自由は存在しているので、一般の香港市民が政治的な意思表示をしようと思えば、デモに行くことが唯一の有力な方法である。香港ではデモに行くことを「足で投票する」とも言う。自身の意志を直接政府に見せて、対応を求めるのである。香港は「デモの都」ともよばれ、2018年の警察統計では1097件のデモが行われた。
香港の政治(司法・行政・立法)は中国の一党独裁体制の延長線上にあり、香港市民の民意よりも中国共産党政権の意向が政治を左右する。他方、社会は欧米型の自由な市民社会であり、NGOやメディアも自由があり活発で、政治的言動の発表やネットの利用などは自由にできる。6月18日に中国本土では閉鎖されて(ブロック)閲覧できなくなった私のブログも、香港や台湾では閲覧ができる。
このような、政治は権威主義、社会は自由という体制は、世界的にも極めて稀(まれ)なのが、香港である。そして、今回の「逃亡犯条例」は、その香港の社会の自由面を取り除こうとしている条例である。6月9日に起きた103万人デモの当日、香港紙「明報」はデモ参加者にアンケートを実施した。それによれば、彼らがデモに参加し「条例改正」に反対する理由の中で、「自分・家族または友人が中国大陸に引き渡されると心配するから」としたものは56.2%にものぼった。相当数の一般市民が、身近に大陸への引き渡しを危惧していることがわかる。
「中国に送られる」こと、中国政府への賛成度を基準に裁かれることは、香港人にとって悪夢である。かって香港の親は子供を叱る際に、「悪い子は大陸に送るよ」と脅したともいう。
私も実感する。中国大陸では政治的な又は社会についての批評めいたことをする自由はない。それをしようと思えば命をかけてのこととなる。約30万人の日本人が中国で生活しているといわれている。(最も多いのは上海の8万人) 私の知る中国に住んでいる人で このことを憂いながらなんらかの発言をする人も ごくまれとなってきたように感じている。
それぞれが賢明と言うか、中国では「言わず・聞かず・見ざる」が処世と決め込んでいる人がほとんどかと思う。それはそれで正しい選択なのだが、はたして 日本人として 人として 香港や台湾のことを見聞きしていて 何もしない それだけでいいのだろうかという疑問はのこる。
8月30日に中国に戻るので、このブログはしばらくは執筆が難しくなるかと思うが、香港や台湾の情勢を中国本土でもウオッチしながらも、また、日本にできるだけ頻繁に短期帰国しに、ブログで発信し伝えたいと思っている。香港❶—❹のシリーズはこれで一旦終了しますが、それなりの発信は 中国という国で暮らす一日本人としての、私なりの「義」や「責務」かとは思っている。祇園祭山鉾・蟷螂山の「蟷螂の斧(とうろうのおの)」である。