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最後の拒絶理由に対する補正(その3) (18.6.1)

2006-06-01 07:55:31 | Weblog
特許法実用新案法審査基準
最後の拒絶理由通知後の特許請求の範囲についての補正

4.請求項の限定的減縮(17条の2第4項2号及び5項)

4.1 趣旨
 特許請求の範囲の減縮に相当する補正のうち、発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題を変更しないで発明特定事項を限定する補正は、審査・審理の対象を大幅に変更するものではなく、一般的には従前の審査結果を利用できるものと考えられることから、このような補正を許容することとしたものである。
 ただし、このような補正であっても、出願に係る発明が特許を受けることができないものである場合には、再度の拒絶理由通知が必要となる場合もあり、その後に補正がなされると再度の審査・審理が必要となることもあるため、審査の迅速性及び出願間の取扱いの公平性の確保の観点から、特許を受けることができるようにする補正に限って認めることとしたものである。

4.2 限定的減縮に適合する要件
 特許請求の範囲の補正が第17条の2第4項第2号に該当するためには、次の要件を満たさなければならない。
① 特許請求の範囲の減縮であること。
② 補正前の請求項に記載された発明(補正前発明)の発明特定事項の限定であること。
③ 補正前と補正後の発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であること。

 2号のかっこ書は、補正前発明と産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一である発明となるように補正前発明の発明特定事項を限定する補正でなければならない、すなわち、補正前後の発明の利用分野及び課題が同一でなければならないことを規定するものである。

4.3 具体的運用

4.3.1 特許請求の範囲の減縮であること
 特許請求の範囲の拡張に該当するものは、特許請求の範囲の減縮に当たらないとして、括弧書きの要件を満たすか否かを判断することなく第17条の2第4項第2号に該当しないものとする。
 なお、特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明について記載した請求項の集合したものであることから、「特許請求の範囲の減縮」についての判断は、基本的には、各請求項について行うものとする。
 特許請求の範囲の減縮に該当しない具体例:
① 直列的に記載された発明特定事項の一部の削除
② 択一的記載の要素の付加
③ 請求項数を増加する補正(⑤に該当する場合を除く)
 特許請求の範囲の減縮に該当する具体例:
① 択一的記載の要素の削除
② 発明特定事項の直列的付加
③ 上位概念から下位概念への変更
④ 多数項引用形式請求項の引用請求項を減少
 例:特許請求の範囲の記載「A機構を有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエアコン装置」を「A機構を有する請求項1又は請求項2に記載のエアコン装置」とする補正。
⑤ n項引用形式請求項をn-1以下の請求項に変更
 例:特許請求の範囲の記載「A機構を有する請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のエアコン装置」を「A機構を有する請求項1記載のエアコン装置」と「A機構を有する請求項2記載のエアコン装置」の二つの請求項に変更する補正。

4.3.2 発明を特定するための事項の限定であること

(1)「発明を特定するための事項」の解釈
 2号で規定する「発明を特定するための事項」は、補正前の請求項に記載された事項であるから、その把握は、補正前の請求項の記載に基づいて行う必要がある。
 また、36条4項1号の運用においては、発明の実施に必要な場合には、発明の詳細な説明中に発明を特定するための事項の作用(働き/役割)を記載すべきこととされている。
 したがって、17条の2第4項2号における「発明を特定するための事項」は、補正前の請求項の記載に基づき、明細書及び図面の記載を考慮して、その作用と対応して把握する。

(2)「限定する」の解釈
 「発明を特定するための事項」を「限定する」補正とは、以下のことをいう。
① 補正前の請求項における「発明を特定するための事項」の一つ以上を、概念的により下位の「発明を特定するための事項」とする補正。
 なお、作用で物を特定しようとする記載を用いた発明特定事項(機能実現手段等)に対し、その作用とは別個の作用を有する発明特定事項は、通常、概念的に下位のものとは認められない。
② マーカッシュクレーム等、発明を特定するための事項が選択肢として表現されている請求項においては、その選択肢の一部を削除する補正。

(3)判断手法
 発明を特定するための事項の限定であるかどうかの判断は、補正前の請求項に係る発明と補正後の請求項に係る発明のそれぞれの発明特定事項を把握し、両者を対比することにより行う。

4.3.3 補正前と補正後の発明の解決しようとする課題と産業上の利用分野が同一であること

(1)「解決しようとする課題」および「産業上の利用分野」の認定
 発明の解決しようとする課題および産業上の利用分野の認定にあたっては、発明の詳細な説明中の課題および発明の属する技術分野についての記載を勘案しつつ、請求項の記載に基づいて把握した「発明を特定するための事項」に基づいて、課題・利用分野を具体的に特定する。なお、発明の課題は、未解決のものである必要はない。

(2)解決しようとする課題の同一について
 補正前後の発明の課題が一致する場合のほか、補正後の発明の課題が補正前発明の課題と技術的に密接に関連している場合(課題の同一性の判断においては、「技術的に密接に関連する」とは、補正後の発明の課題が補正前発明の課題をより概念的に下位にしたものであるとき、又は補正前後の発明の課題が同種のものであるとき等をいうものとする。)にも、発明の課題は同一であるとする。(例えば、「強度向上」と「引っ張り強度向上」、「コンパクト化」と「軽量化」)
 そして、補正前発明の一以上の発明特定事項の補正によって発明の課題が同一でない発明となった場合には、本要件を満たす補正ではないとする。
 なお、36条4項1号の委任省令の運用では、従来の技術と全く異なる新規な発想に基づき開発された発明又は試行錯誤の結果の発見に基づく発明等のように、もともと解決すべき課題が想定されていないと認められる場合には、課題の記載は求めない。この場合には、解決しようとする課題にかかわらずそれまでの審査がなされていると考えられることから、本要件は満たされているものとする。

(3)産業上の利用分野の同一について
 補正前後の発明の産業上の利用分野が同一であるとは、補正前後の発明の技術分野が一致する場合及び補正前発明の技術分野と補正後の発明の技術分野とが技術的に密接に関連する場合をいう。

 補正前後の発明の課題及び産業上の利用分野が同一であることを要件とした理由は、補正前発明と上記のような関係にある補正後の発明については、最後の拒絶理由通知以前の審査の結果を有効に活用して、更なる審査に大きな負担を要することなく手続きを進めることができると考えられるためである。

4.3.4 独立して特許可能
 17条の2第4項2号に該当する補正と認められても、補正後の請求項に記載されている事項により特定される発明が特許可能なものでなければならない。
 この要件が課されるのは限定的減縮に相当する補正がなされた請求項のみであり、これに相当しない「誤記の訂正」又は「明りょうでない記載の釈明」のみの補正がなされた請求項及び補正されていない請求項については、独立して特許を受けることができない理由が存在する場合において、それを理由として補正を却下してはならない。
 独立して特許可能かどうかについて適用される条文は、29条、29条の2、32条、36条4項又は6項(4号は除く)、及び39条1項から4項までとする。その他の取扱いは「審査の進め方」による。

4.4 最後の拒絶理由通知後に複数回の補正がされた場合の留意事項
 最後の拒絶理由通知に対する応答期間内に数回にわたり明細書、特許請求の範囲又は図面の補正がされる場合、第2回目以降の補正が17条の2第4項及び5項に規定する要件を満たしているかどうかを判断するときの基準となる明細書、特許請求の範囲又は図面は、当該第2回目以降の補正の直前に適法に補正がなされた明細書、特許請求の範囲又は図面とする。
 ただし、17条の2第3項については、当初明細書、特許請求の範囲又は図面である。
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