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キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ドクター・スリープ

2019-12-04 | 映画(た行)


◾️「ドクター・スリープ/Doctor Sleep」(2019年・アメリカ)

監督=マイク・フラナガン
主演=ユアン・マクレガー レベッカ・ファーガソン カレル・ストリッケン ジェイコブ・トレンブレイ

キューブリックの「シャイニング」は、原作者スティーブン・キングの意に沿うものではなかった。本来の超能力"シャイン"の意味は薄れてしまい、結末は改変され、原作にない輪廻転成要素や巨大迷路が登場し、ジャック・ニコルソンが演ずる主人公は映画史に残る悪役のような存在になった。キングは真の「シャイニング」を世に示そうと自らテレビシリーズを手がける。そして、大人になったダニーを主人公にした小説「ドクター・スリープ」が今回映画化されるに至る。いったいどっちの続きなのか?

マイク・フラナガン監督が選んだ着地点は、映画と原作どちらのファンにも配慮したものだった。映画冒頭の音楽から、ホテル内のカメラアングル、細かい台詞までキューブリック版が引き継がれる。クライマックスでオーバールックホテルに向かう俯瞰の場面には期待が高まってしまう。キューブリック版を観ていればニヤッとできる場面、展開が待っている。そして原作本来の超能力"シャイン"は中心に据えられ、能力に目覚めた少女とダニーがその戦いに巻き込まれる物語は原作派へ落とし前。「シャイニング」原作のラストの展開も盛り込まれていると聞く。

僕はキューブリック版ドップリ派なので、サイキックウォーズと化した本作に拍子抜けしたのが正直な気持ち。「シャイニング」を初めて観た当時、ホラー映画であれ程精神的に追い詰められたことはなかったし、映像の力強さにゾクゾクした。「ドクター・スリープ」は確かにエンターテイメントとして楽しいし、飽きさせることもない。でも、キューブリック版に出てきた邪悪なものが勢揃いするのに恐怖はなく、これはもはやホラー映画ではない。超能力を駆使する戦いは、ヒゲ面のユアン・マクレガーにオビワンの影がチラついて、「これフォースやん!」と心のどこかで声がするw。

しかしながら「ドクタースリープ」の2時間30分はきちんと楽しませてくれる。レベッカ・ファーガソンは「ミッション・インポッシブル」と同様に存在感があってカッコいいし、キューブリック版の音楽を再現してくれたのも嬉しい。

スティーブン・キング作品はあれこれ怖いけど、どこかに愛があると思う。例えば「ペットセメタリー」が僕は意外と好きなんだけど、やってはならない行動に出てしまったのも愛ゆえのこと。「ミザリー」は過剰な偏愛の果て。「キャリー」も愛を渇望する少女の物語。「ドクター・スリープ」では、死期が迫った患者に寄り添う猫や、ダニーのシャインの活かし方、ダニーを見守るハロランの存在など、相手を大事に思う気持ちがにじみ出ている。キング作品の底に漂う愛は、キューブリック版「シャイニング」が容赦なく削ぎ落としたもの。ホテルの怨霊を自分が引き受けて家族を守った原作「シャイニング」のジャック・トランスはそこにいなかったのだから。まったくの別物として楽しんでおきましょう。「ドクター・スリープ」がこうした形で製作されたことは、決してキューブリック版「シャイニング」を否定するものではないのだから。


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1 コメント

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肩透かし!? (mobile)
2019-12-05 09:46:42
映画『シャイニング』の40年後を描いた作品・・・というと、あのオーヴァールック・ホテルの怪異を解明する物語かと思うと、思わぬ展開に肩透かしを喰らってしまう・・・そんな映画でした。
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