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◼️「初恋」(2006年・日本)
主演=宮崎あおい 小出恵介 宮崎将 小嶺麗奈
これまで僕が観てきた映画の中で、昭和40年代初頭の空気を感じさせてくれるものは少なかった(無論、その頃の邦画を観ていないのもあるけれど)。何となく安保やら何やらで反体制的な活動や風潮、それが僕が持つ1960年代後半、昭和40年代初めの不穏なイメージだった。この「初恋」はそんな昭和40年代初めの雰囲気を伝えてくれる映画だ。世間の不穏な空気。今のままでよいのか、そう若者が変化を求めていた時代だったのだろうか。自分たちは世の中を変えられる。そんな当時の気持ちとその挫折が、ヒロインみすずの恋の痛手とともに描かれる。
三億円事件の実行犯は10代の少女だった、という設定が宣伝コピーにも全面に出ているのだが、本編はあの大事件をエピソードのひとつに用いたように感じられた。みすずはお金が欲しくて三億円を奪った訳ではない。それは東大生の岸への恋心ゆえだ。親には棄てられ、孤独感でいっぱいの彼女に、「お前が必要だ」という言葉をかけてくれた岸。彼を喜ばせたい、そんな一途な恋心からの行動。見ていて切なさでいっぱいになる。特に、岸が用意してくれたアパートで彼の「告白」を発見する場面。僕は正直泣きそうになった。伝えたいのに伝えられない切なさ。時代の声が大きすぎたからなのか。
またこの映画は馴染みのある北九州の風景があちこちに見える映画だ。イメージとしての昭和40年代を写すことができる街。それは古きものが残る街とも思えるし、時代に置き去りにされた街のようにも感ずる。特に今はなき黒崎の映画館、中央大劇に「戦争と平和」の看板がかかり、明かりが再び灯っているのを見ると、嬉しさと寂しさが混在する不思議な気持ちになってしまう。