羽を休める鳥のように

きっとまた訪れる薄紫の夕暮れを待ちながら

まだ若い廃墟

2011年01月24日 | Weblog
海炭市叙景」という映画を観てみたい、と思ったのはその詩的な
タイトルにひかれたからだと思う。
海炭市、はもちろん架空の地名。だが実際には函館の人々の熱意によって
函館の街で撮影された。
作者、佐藤泰志の故郷でもある。わたしはこの作家を知らなかった。
村上春樹と同年に生まれ、芥川賞の候補にも何度かなったが、
41歳の若さで自死。亡くなったのは国分寺だったという。
村上春樹が経営していたジャズ喫茶も国分寺。
生死、というのはきっとほんの僅かな境界線なのだと思う。
同時代に同じ場所で生きていた才能ある二人をわける些細な、けれど
とてつもなく深い境界線。曖昧なのにふとしたはずみで足をとられてしまう。

映画は海沿いの寂れた街で営まれる五つのエピソードによって構成されている。
雪が降り積もっている。季節はクリスマスの頃から年明けだけれど、
華やかさはひとかけらもない。
さびしく悲しい、人々の生活はふと思い返すと身近な出来事だったりする。

猫と暮らす老婆の話が印象的だった。
いなくなった猫を呼ぶときの切実な声が耳に残る。
存在感のある役者さんだと思っていたら、監督が路地裏で自らスカウトした
函館の市民だそうだ。
きっとこの映画は、函館からやってくる熱意によって、
暗いだけではない輝きを得ている、そこに魅力があるのかもしれない。
猫と老婆の話もほのかに明るい光がさして、映画の結末となる。

帰りに佐藤さんの原作を買った。
題一章 「物語の始まった崖」・・・・1『まだ若い廃墟』。
ほんとうに詩編を連想させる目次が並んでいる。

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2 コメント

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コメントありがとうございます (すみれこ)
2011-02-07 21:04:53
そう、すごい表現ですよね。
わたしもまだ読みかけですが、
「一滴のあこがれ」あたりの情景と心理描写は
好きですね。やはりシンプルだけど詩的です。

「青べか物語」は父の本棚にありました。
こんど探してみます。
わたしはこういう関連ある物語が続いていくと
いう小説は読んだことがあるような、ないような、、という感じで興味深く読んでいます。
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まだ若い廃墟 (msn)
2011-02-07 20:56:42
この日記で知って、私も本のほうを読み始めました。「まだ若い廃墟」か・・すごい表現だなあ、と思いました。たまたま山本周五郎の「青べか物語」を読んでいて、同じようにエピソードの繰り返しで語られる小説ですが、佐藤さんは現代風なのか、シンプルで直裁ですね。物語はもっと味付けがあってもいいような気がします。あー、まだ読み始めなのでなんともいえませんが・・・。
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