(前回からの続き)
前回、スイスフラン(CHF)の安全度(≒価値保存力の高さ)はドル等には勝るが円には劣ると考える理由として、スイスにはインフレリスクすなわち同国の金融システム救済のために通貨を大量増発せざるを得ない事態に陥るリスクがあることを指摘しました。具体的にいうとスイス当局は、同国の二大銀行UBS(UBS Group AG)とクレディ・スイス(Credit Suisse)への巨額公的資金の投入を近い将来(?)、余儀なくされそうだ、ということです。
で、その両行ですが、以下のような意味で「デカい、いやデカ過ぎる、スイスの国力に照らして」といえます。
まずはその資産規模。両行のHPなどによるとUBSの総資産額は1兆625億CHF、クレディ・スイスは同9214億CHF(2014年末時点)。現在(1月上旬)の為替レート1CHF118円で計算するとそれぞれ約125兆円、約109兆円となります。これは日本のメガバンク3行(みすほ[180兆円超]、三菱東京UFJ[160兆円超]、三井住友[130兆円超])にほぼ匹敵する大きさです。ちなみに両行・3メガ邦銀ともに世界金融界では「Too Big To Fail」(大き過ぎてつぶせない)銀行に位置づけられています。
つぎはその資産規模の対GDP比。両行の総資産額の合計は1.98兆CHFあまりとなりますが、これはスイスのGDP6448億CHF(2014年)のちょうど3倍です。日本の上記3行の総資産額の合計が日本のGDP額にほぼ等しいことと比較すれば、スイス2行の資産スケールがいかに半端ないかが分かるというものです。
そして、上記からも推察がつくようにこの2行は・・・拠点とするスイス以外の諸国の資産を大量に抱えています。実際、両行はいずれも世界数十か国に事業展開し、その所有資産の過半はスイス以外の欧州やアメリカすなわちユーロやドルなどの、スイスからみた外貨建てのものになっています・・・
・・・本稿冒頭でCHFは、通貨の不等式に当てはめると「円>CHF>ドル>・・・」になる、と書きました。最強の通貨・円には及ばないもののCHFはドルやユーロなどよりは強いということです。逆にいうとドルやユーロは、中長期的にみればCHFに対して価値を落としていく可能性が高いことになります。つまり(日本と同じく)スイスからすれば対外投資は為替リスクが非常に大きいわけで・・・
もっともこれらの投資額が小規模なものにとどまっているのであれば、多少の為替差損を食らっても大きな被害にはならないでしょう。このあたり、日本の上記メガバンクはしっかりリスクマネジメントができているものと理解しています(一部、政府系の金融機関を除く!)。というのもわが国の金融機関は、2007年のサブプライムローン・バブル崩壊から2012年終盤の「アベノミクス」開始直前までの円高局面で、円に対する外貨建て資産の価値の「はかなさ」を思い知ったであろうからです。
これに対してUBSおよびクレディ・スイスは・・・上述のように、自国通貨よりも弱い通貨建ての資産をあまりに多く持ち過ぎてしまった感じがします。であればこの先、「リーマン・ショック」並みのリスクオフ・イベントが起こってユーロやドルがCHFに対して大きく値を下げたら・・・これら通貨建て資産の価額値下がりと為替差損のWパンチが両行の財務に深刻なダメージを与えそう・・・