(前回からの続き)
そして二点目の、消費税最大のデメリット「逆進性」と相続税の逆進性緩和効果について。これこそ消費増税が強化されるなかで注目すべき相続税の重要な役割だと考えています。
消費税では、豊かな人であっても生活保護を受ける人であっても、同じ消費支出額にかかる税負担額は同じになります。
これを、必要最低限の生活費(食費・衣料費・公共料金など)が月20万円の家庭を例にとって考えてみます。消費税分に相当する額は現行の税率5%で月1万円となります。この金額は、その家庭の月収が25万円の場合でも100万円の場合でも同じです。しかし、月収に占める消費税分の支出額の割合は、前者は4%(1万円/25万円)、後者は1%(1万円/100万円)と、月収25万円の家庭の税負担率は同100万円家庭の4倍となります。これこそが消費税の「逆進性」だと考えています。つまり「収入が多い人ほど税負担率が軽く、収入が少ない人ほど税負担率が重い」のが消費税という税制だということ。
当然ながら、消費税率が上がると、この両者の税負担率の差はいっそう広がります。現時点での予定通り、2015年に消費税率が10%に引き上げられれば、月20万円の生活費支出にかかる消費税相当額は2万円となり、月収25万円家庭の税負担率は8%に跳ね上がります。一方、月収100万円家庭は2%にとどまります(「月20万円生活」をした場合)。両者の税負担率の違いも、現在(消費税率5%)の3%(=4%-1%)から6%(=8%-2%)へと拡大します。
このようなことを書くと「いや、高所得家庭の消費支出額は中・低所得家庭よりも多いだろうから、実際の彼らの消費税負担率はもっと高いはずだ」といわれそう。たしかにそのとおりだと思います。なぜなら月収100万円の家庭には同25万円の家庭には不可能な月50万円(消費税相当額2.5万円)、60万円(同3万円)・・・といった生活ができるわけですから。モノやサービスの購入額が増えればそれだけ消費税相当分の支払額も増えるということです。それでも彼らの月収に対する消費税分負担率が庶民と同じレベルに達するようなケース(月100万円家庭が80万円消費[消費税相当額4万円]すると月25万円家庭と税負担は4%で同じになる)はめったにないのではないでしょうか・・・。
そんな「逆進性」の強い消費税の増税だけを進めていけば、貧富の差がいっそう広がることは間違いないでしょう。人口構成比で多数を占めるわが国の中間層以下の世帯にとっては、「つましい」レベルの支出だけでどんどん税負担率が高まり、経済的に苦しくなる半面、富裕層にとっては他の税金に比べて税負担率が低い水準にとどまるため、その分、実質的な所得なり収入が増えるからです。だから豊かな人々にとっては、給与や資産に課される税の強化を図られるくらいなら消費増税のほうがよっぽどマシ、ということになります。
ところで、収入が多いほど税率が上がる税金の代表が「所得税」。いうまでもなく所得税にはこの「累進課税」によって国民の所得や資産の格差を和らげる効果があります。
で、その所得税ですが、1980年代以降、最高税率(もっとも所得の多い人に課される税率)が徐々に引き下げられました。83年までの最高税率は75%でしたが、84年に70%、87年に60%、そして消費税が導入された1989年には50%、そして99年に37%まで下がった後、2007年から現在まで40%となっています。
こうした経緯をみると、所得税の軽減、とくに最高税率の引き下げが消費税の導入・強化とフェーズを合わせて進められてきたことが分かります。この背景には、税制を通じて「よく働く人により多く報いる」社会への構造変化を促すことでわが国の競争力を高めようというねらいがあったほか、サッチャリズムとかレーガノミクスに代表される80年代以降の世界的な新自由主義(市場原理重視・富裕層に対する減税推進等)の影響が多分にあったのだろうと思っています。
(続く)
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