アメリカの次期大統領が「貿易自由化の象徴的な制度としてのTTP交渉案」に否定的なのは、貿易自由化が国益にならない、としているからである。
無制限の物の移動の自由化は、トランプ氏の指摘どうりに、製造業の海外移転を加速して、国内の雇用を大量に減少させてきた。
雇用減少を補うくらいに「新産業の育成が進行」すれば、アメリカの国益は守られるのだが、新産業の育成は「革新的な技術進化」か、従来にない「イノベーションの新事業」が創出されるのが原点である。
一時は、金融工学を次世代の新産業の要と想定したが、完全なあだ花であって、【マネーゲームの賭博場】の創出では、経済の成長には寄与しない。
流通業の大幅な生産効率の改善は、物の移動と取引、売買の効率化を生んだが、雇用は減少する方向に進化した。
つまり、人の手を省くことが生産性の向上であり、雇用を生み出すことはホンのわずかである。
アメリカのようなイノベーションの盛んな国においても、製造業の海外流出による雇用減少分を、「新技術、イノベーションによる雇用創出」分では補えない。
そのうえに、アメリカの場合は【不法な越境移民による低賃金労働者の激増】が、賃金の低下傾向に大きく作用して、中間層の給与までもが低賃金化していった。
その一方で、マネーゲームの激化による「一握りの勝ち残り層が莫大な利益独占」がおこり、「IT産業界のエリートスペシャリスト」だけが、高収入を独占する。
こうして、国全体では経済成長率がプラスでも、9割以上の人たちは、賃金水準の向上なないか、転職せざるを得ない人々が低賃金化の憂き目に合わされる。
高収入を得た人たちのお金が「トリクルダウンで周辺に恩恵をもたらす」という、【従来の経済成長路線は消滅】している。
新興国に投資機会が増えているので、儲けた利益は「投資効率のよい国への資金」に流れて、アメリカや日本のように、消費購買力の衰えている地域には行かない。
このように「グローバル化された経済市場」では、製造業の海外移転による「所得格差の拡大」は、必然的に起きている世界的な潮流である。
それでも、安倍政権は自由市場のメリットが未だに有効であると勘違いをして、【輸入関税ゼロの物の移動の自由化】が、経済成長に貢献すると主張する。
この方向では、日本の生産効率が横ばいになっている産業、例えば、農業分野などでは、海外生産の「品質向上も果たした大量流通商品」」によって駆逐される。
各地の高品質の特殊な産品の分野では、輸出にも寄与するだろうが、全体の経済規模では、【海外生産品に凌駕される傾向】になるのは間違いない。
せめて、国内でのイノベーション産業が育成されるまでは、今以上の貿易自由化は、急ぐ理由は全くない。
今後の8年間は、トランプ氏の国内経済最優先の路線に転換すべきだろう。(続)