goo blog サービス終了のお知らせ 

sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

舞台「チェーホフも鳥の名前」

2019-09-20 | 芸術、とか
ニットキャップシアターの舞台「チェーホフも鳥の名前」
時間が全くなくて諦めてたのに、週末に見た友達に好きと思うと勧められたので、
無理やり午後休にして最終日に見ちゃった。
3時間の長いお芝居だけど、すごいおもしろかった。
たまってる仕事置いて観に言った甲斐がありました。

1890年に30歳のチェーホフがサハリンに来た事実を中心に、
19世紀末から20世紀のサハリンを舞台にいくつかの家族の何世代もの話が繋がる。
何冊もの大河小説を読みきった気分。
ロシア、ソ連、日本、サハリンの原住民、日本人にされて連れてこられた朝鮮人など
歴史に翻弄される多様な存在と個々の視点をうまく一つの大きな流れに載せてある。
演奏される生の音楽もとてもいいけど、ラストのエモい音楽と古い写真の
スライドショー的なやり方は、盛り上げ過ぎて泣けてずるい。

去年だったか渡辺美佐子さんの、サイパンの日本人の話の舞台を少し思い出す。
(感想→「サイパンの約束」)
サイパンもサハリンも、日本がイケイケどんどんで自国の領土にした後、戦争でまた失って、
その間に移住した日本人や振り回された原住民、
日本人にされながら都合よく働かされながら戦後放置された朝鮮人などに
数多の物語のある土地であるところは共通点があるよね。
一昨年くらいに見たチェーホフのカモメを意欲的に翻案したお芝居もすごくよかったし、
(感想→「カルメギ」)
無理しても舞台ももっと見なあかんなとつくづく思いました。

日本の戦後のあり方、犯した加害への無自覚さ、無反省さや歴史修正的な姿勢に批判的な人には
迎合的と思われるかもしれないけど、(いやわたし自身もそこは同様に批判的なのですが)
わたしはやっぱり、「この世界の片隅で」のすずさんは好きだし、
サハリンやサイパンで必死で生きた日本人たちにも共感してしまう。
それはそれとして、そこでさらに差別されていた原住民や併合されて日本人にされたり、
もう日本人じゃないと置き去りにされたりした朝鮮人たちにももちろん心を痛める。
そこで思うのは、誰も殺さず痛めつけずなんとか必死で生きてきたただの市井の人であるならば
自分がどっちの立場だったかなんて、たまたまのことでしかないんじゃないかということ。
わたしは加害の自覚もないまま必死で戦時を生きた日本人のすずさんだったかもしれない、
わたしは日本に奴隷のように扱われた植民地の朝鮮人だったかもしれない。
そう思うとそのどちらにも共感をしてしまうことも仕方ない。
そういう気持ちで、お芝居の中では表立っては対立することのない立場の違う人々の、
それぞれのいろんな部分に、共感しながら見ました。

お芝居の中に、登場人物が飼っているシンゾー丸とプーチン丸という犬が登場しました。
それぞれの特徴を皮肉っていて中々笑えましたが、
こういうのって映画だと、今はもうやりにくいんじゃないだろうかと少し思った。
わたしは映画に比べると演劇は全然見ていない方なのだけど、
カンヌで大賞を取った素晴らしい韓国映画でも、今の嫌韓日本では上映が難航するという
権力に媚びへつらい、批判も反抗もなくしつつある日本の映画業界を思うと、
舞台人の中には、日本の映画人よりまだ良心がたくさん残ってるのかもしれないと思う。
たまたま、わたしがそう言うお芝居を見ているだけなのかもしれないけど。

あと、中身だけでなく、このタイトルの良さ!
チェーホフはもちろん大作家の名前ですが、サハリンにある町の名前にもなってるのです。
日本語では野田町という町でした。
でも鳥の名前ではない。それでも、このタイトル。イメージの広がるいいタイトルだなぁ。
チラシの写真とデザインがまたこのタイトルにぴったりでとても印象的だった。


追記:後日もらった友達のコメントがとてもまとまっててわかりやすいのでコピペして貼ります。
「チェーホフも鳥の名前」も、「サイパンの約束」も、「カルメギ」も、歴史を、国籍や人種を離れて、それぞれの個性を持った一人の人間が立っている位置から描くという点で共通してますよね。
後期の劇団維新派の舞台も、島並みをたどって南方へと行きついた日本人を描いていましたが、視点は同様でした。
大きな物語から見れば、侵略する側と侵略される側に二極化されてしまうのでしょうけど、個々人レベルの小さな物語を丹念にひもといていくなら、世界はそんな単純なものではなく、一人一人の人間は皆、さまざまな濃淡の上に存在しているんだなぁってことが感じ取れます。
映画であれ舞台であれ、そんなことに気づかせてくれる作品が、いつも気になりますね(^-^)

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。