sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

「ショウコの微笑」

2024-06-28 | 本とか
2020年に読んだチェ・ウニョンの短編集「ショウコの微笑」のこと。
(書きかけの続きを随分経ってから整理してアップすることの多いブログです)

最初短編の表題作はあらすじ知った時から食指が動かないなりに、よかったけど、
2編目の短編「シンチャオ、シンチャオ」で、ボロ泣きした。
ドイツが舞台で、仲良くなって親しく付き合うベトナム人家族と韓国人家族の話。
アメリカの現代小説を読んでいるような趣があった。
ベトナム戦争は遠い歴史ではなく、関係ない人たちまでいつまでも傷つける。
どんな戦争もそうか。

この短編を数年後、2度目に読んだ時には、やっぱりすごくいいと思ったのと同時に、
ジュンパ・ラヒリのある短編作品を思い出したので、こちらも読み返してみた。
クレスト・ブックスの堀江敏夫編アンソロジー「記憶に残っていること」の中の
「ピルサダさんが食事に来た頃」です。
二つの話の共通点は、欧米先進国でのアジア人移民家族同士のひとときの交流、という点だけで、
ストーリーも背景も時代設定も全然違うのだけど、その家の中の雰囲気に同じものがあるのです。
マイノリティの者同士がつつましく交流を深める夕食の時間のほっとする暖かさの中に隠されている
それぞれの悲しみ。それがあるゆえに、お互いに対してより優しくなれるのですが、
その悲しみはどちらもそれぞれの国の背景や歴史につらいものがあるところからきています。
前者はベトナム戦争、後者は1971年のバングラデシュ独立時の内乱と大量虐殺の悲劇。

「ビルサダさん」は、ピルサダさんを親しい友人としての訪問を受け入れる家族の間には、
一貫して心からの優しさと思いやりがあって、最後までその優しい交流は消えないんだけど、
ただそれぞれの人生が交差した後にもう2度と会うこともなくなった人の話というところに
一抹の寂しさがある話です。
一方「シンチャオ、シンチャオ」には、あんなに仲の良かった家族同士なのに、
結局、ベトナム戦争由来の不協和が生まれてしまい、
個人間の思いやりは残っているのに、わだかまりが居座りし、解決しないままになるのが哀しい。
舞台がドイツの寒い地方なので透明感があるというか、悲しさが透明で、
透明な風が胸の中を吹くような短編小説でした。

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