sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

松江泰治

2013-11-03 | 写真
ごくたまに、その日にあったことをブログに書くことがあります。
大体数週間とか数ヶ月とか遅れてだけど、今日は書いてみようかな。

午後に、宝塚のメディア図書館で
写真家の松江泰治さんと写真評論家の清水譲さんの対談を聴いてきました。


松江さんの写真は美術館で見たことがある、と思う。
大きなカラー写真で、街をうんと上空から写した感じのものだったかな。
それはわりと好き、と思ったけど
彼の白黒の、地表を写した写真は
写真集を買おうと思うほどは惹かれてなかった。



前に書いた、写真集を読む:3というブログで彼のことを
>東大の地学出身で地表の写真を撮る。
>わかりやすく特徴づけるものを排除し
>階調を狭くしニュートラルなグレーの中
>ディテールだけをきめ細かく、
>地球の表面というものを8×10のモノクロで撮る。
>カラーで撮った静岡上空の空撮写真集「JP22」。
>カラー写真ではよりグラフィカルに。

と書きました。
その写真家の、新しい写真集2冊について、評論家との対談でしたが
いや、もう、面白かった。
写真も素晴らしくて、結局写真集2冊とも買ってしまった(笑)。

曰く「アンセル・アダムスってピントが甘いんだよね~」
ええっ!
アンセル・アダムスというのはアメリカの大変有名な写真家で
F.64グループと言われている人で、ヨセミテ国立公園の山写真などがとても有名。
これはカメラの絞りを64まで絞って、パンフォーカスで、
肉眼で見える以上にきっちりとシャープに撮っていると言われる人なのですが
それを「ピント甘いよね~」とおっしゃる。
おお!なんかすごい!
そして
そもそもピントとは、というお話しになりました。
ピントが合ってるってどういうことかなんて、よく考えたこともなかったので
もうすごく新鮮で、目からうろこが落ちました。

ピントが合うというのは、普通モノの焦点、輪郭が合ってて
崩れがないことだと思われているけど
彼にとっては、それは単なる人間の見え方の問題でしかなく、
そんなのは絵柄に囚われた見方である、と。
ピントが合うというのは、そうではなくネガに詰まっている途方もない情報量を
どれだけ取り込んでいるか、という理系的問題なのである、と。
それを「絶対ピント」という言葉で表してらした。

うわー。そういう考え方もあるのか、うんあるよねぇと驚きつつ
もう松江さんという人が面白くて仕方ない。
この人天才だなぁとしみじみ思いました。

「前に黒白写真を選んでいたのは、カラーはピントが合わないから」なのだけど
(カラーはプリントすると黒白よりもさらに、
情報量がすかすかになってしまうからでしょうか)
顕微鏡用の引き延ばし機を使うようになって
またデジタルの加工の可能性も利用するようになって
カラーもどんどん撮るようになったのだそうです。
カラーはピントが合わない、という考え方も新鮮でした。驚きの連続。

松江さんの写真の特徴は、まずは順光で撮るということ。
いい時間は一日に数分なので、綿密な予定を立て
予定より8分遅れちゃったときのことを「もうやんなる、ひどいよね~」。
彼は飲むコーヒーから食べるものまで、すべて吟味して選んだものだけの人で
撮影も分単位できっちり決めてされるとのこと。
ああ、天才っぽい・・・
(対談相手の清水さん曰く「オタクオーラ全開ですね~笑」)

もう1つの特徴は、航空写真ほどの高度でなく
人の視点でもない、気球くらいの視点から撮る。
だから俯瞰写真ではないのです。
鉛直構図は「絵」になりやすすぎるからいやなのだそうです。
たとえば、屋根はグラフィックな長方形になってしまい
デザインになってしまう。そうではなく、家は家に見えてほしいんだよね、と。
だから彼の黒白の地表写真をそういうグラフィカルなものとして
見ていた人たちは、カラーになって離れて行ったとおっしゃる。
すみません、わたしもそういう写真だと思ってました。
そうじゃなくて、全然逆で
彼は極限まで写真の情報量を残そうとこだわってただけで、
グラフィカルな絵作りには一滴も興味がない人なのでした。
写真も面白いけど、何よりこの人面白い!

本人は、面白いこと探してやってるだけで
「おもしろいよ~」と呑気な感じでおっしゃる。
たとえばうどんも自分で踏むらしいのですが
「小麦は面白いよね~、いつも何種類かストックがある。
小麦選ぶのは印画紙選ぶのと同じだね~」

写真を撮りに行く時に現地でのふれあいは?みたいな質問に対して
数分刻みで東京から飛行機で行き
ヘリコプターで決めた場所で決めたモノを撮影し
現地では、撮影の往復以外には一歩も足をおろすことなく、
きっちりと予定通りに東京に帰ってくるのが、楽しいんだよね、とか。
・・・オタクオーラと言うか、もうすごいマイペースオーラ、
天才オーラ満載だと思いました。
その天才感に
「ジョブスと似てるといわれたことは?」と会場から質問されると、

「ジョブスって誰だっけ?」(←真面目に思い出そうとしながら)

好きだなぁ、こういう人。
「ああ、アップル社の人ね。わかった。でもアップル社は好きじゃないんだよ」
そしてスマホもケータイも持ってないのに、GPSは、なんかすごいのを持ってたりして
ガーウィンがどうとか、わたしの全然知らないことを話す。
「だってGPSおもしろいよねー。ぼくずっと、全部自分の移動記録してるんだ」
と楽しそうに話す。

非常にあたりの柔らかい、優しそうな人で
ふわんとしてるんだけど、こういう感じ覚えがあるなぁと考えたら
ちょっと赤塚不二夫とか、荒俣宏とかと、同じ匂いの人なのでした。
写真家の津田直さんの話を聞いた時にも、底知れぬ独特のものを感じて
うわー天才だな、この人、と思ったし、絵描きよりも写真家の方が、
そういう底知れない感を感じる人が多い気がするなぁ。

いや、本当におもしろかった。
そして対談相手の清水譲さんの話は、すごく的確でわかりやすい評論で
松江さんに足りない言葉を完璧に補って説明されるので
ひゃー頭いい人だなぁと、舌を巻きました。

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