sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:アラビアンナイト 三千年の願い

2023-06-16 | 映画


愛するティルダ・スウィントンのこれ、現代に現れた魔法使いの
過去と今を行き来するアラビアンナイトなファンタジーと思うじゃない?
ポスターを見て、ポップな感じの軽いおとぎ話かなと思うじゃない?
そういうのってどことなくディズニー感があって、ディズニーが苦手なわたしは敬遠したいけど
でも「マッドマックス怒りのデスロード」のジョージ・ミラー監督だし
ティルダ様の映画だしと思ってみたら、すごくよかった。めちゃ好き!

思ってたようなファンタジーとはちょっと違って、
孤独な魂の愛の静かで優しく切ない話だった。
こういう予想外の当たりって例えば「王様のためのホログラム」ととても似ています。
よくある話かと思いきや、なんだか、え?と思うところで、予想外だけど慎重で真摯な愛に出会う。
どちらの映画も前途洋々からは遠く離れた、もう若くも美しくもない大人の話。どこが味わい深い。

主役二人が素晴らしい。ティルダ様が知的でかわいくてほんと好き。
こんなかわいいティルダ・スウィントン初めて見た。好き。大好き。
映像も煌びやかで華やかで奥行きのある(ディズニー臭のない)カラフルさを堪能できたし、
物語というものへの愛にも溢れていて、
わたしの周りではあまり話題にならなかった映画だけど、もっと見てほしい。

お話は(公式サイトより)
>古今東西の物語や神話を研究するナラトロジー=物語論の専門家アリシアは、 講演のためトルコのイスタンブールを訪れた。 バザールで美しいガラス瓶を買い、ホテルの部屋に戻ると、中から突然巨大な魔人〈ジン〉が現れた。 意外にも紳士的で女性との会話が大好きという魔人は、 瓶から出してくれたお礼に「3つの願い」を叶えようと申し出る。 そうすれば呪いが解けて自分も自由の身になれるのだ。 だが物語の専門家アリシアは、その誘いに疑念を抱く。 願い事の物語はどれも危険でハッピーエンドがないことを知っていたのだ。 魔人は彼女の考えを変えさせようと、 紀元前からの3000年に及ぶ自身の物語を語り始める。 そしてアリシアは、魔人も、さらに自らをも驚かせることになる、 ある願い事をするのだった……。

魔人のジンの語る3000年の身の上話だけでも時間も文明も途方もなく幅広くて
もう十分面白いんだけど、その後のアリシアの物語、そしてそれらの交わる先の物語も
小さく予想を裏切りながら、あるいは予想の通りに進展しながら、
どんどんわたしの好きな話になっていきました。
ラストのロンドンの公園のシーンもいいなぁ。

この先少しネタバレなので嫌な人はここまでで。




ティルダ演じる主人公は、冒頭からすでに孤独だけど幸せで完全に満ち足りている女性で
新たな愛を求めたりしてないし、必要ともしてなかったんだけど
ジンの話に魅了され、さらに彼の孤独を知ることで、ジンと愛し合うことを願います。
ジンと愛し合うことは自分の幸せな孤独の邪魔にはならず、人生を豊かにするだけだとわかったのよね。

わたし自身も今やっと、自分の家と猫を持ち、経済的精神的に大体自立できていて
ひとりで充足して暮らしていけて、これ以上自分の幸せのために他のものを必要としていないんだけど
そういう人に必要な愛はこの映画の中にあるようなものかもしれないなと思う。
いつまでも一緒に仲良く過ごしました、というおとぎ話の古典的ハッピーエンドではなく、
離れていて姿も見えず話もできなくても常に感じることができて思い出すことができて
どこかで魂は寄り添っているというような。
そういう相手は、いつも近くにいなくてもいいし、
なんなら人間でなくても、いっそ生きていなくてもいいのかもしれません。

この映画のレビューをいくつか読んだ中に、ジン自体が主人公のイマジナリーフレンドで
主人公が作り出した幻想である可能性があるというのがあったんだけど、
ジンが実在することとイマジナリーであることに大きな違いはないんだよねと思う。