sigh of relief

くたくたな1日を今日も生き延びて
冷たいシャンパンとチーズと生ハム、
届いた本と手紙に気持ちが緩む、
感じ。

映画:午前4時にパリの夜は明ける

2023-06-01 | 映画


去年友達に薦められて配信で見たらめっちゃ良かった「アマンダと僕」と
「サマーフィーリング」のミカエル・アース監督の新作で、これもまた映像も音楽も絶妙に良い。
前2作では光や風や日差しの暖かさや公園の季節の移ろいをとにかくさりげなく繊細に
透明感いっぱいに描き出して、悲しさでさえも美しく明るい光の中で見せていたけど、
今回は夜の街のシーンが多いです。でも夜には夜のやはり透明な詩情があふれているのは同じ。

前2作は、基本的に同じ映画を何度も見ないわたしにしては珍しく
一度見た後になんどかBGM的に流しっぱなしにして見たくらい好きだった。
2本とも喪失の後の日々をとてもさりげなく繊細に描いてあり、ふわりと優しい映画だったけど
新作のこの映画もまた別れという喪失の後が描かれています。
そして「アマンダと僕」では子供が小さかったけど、ここでは子供たちがもう大きい分、
彼らの人生や視点がくわわることで映画がより重層的に複雑になっているように思う。
そしてこの時代の雰囲気を出すために16ミリフィルムで撮影されたとか。
この作品にとても合ってると思います。

1981年、パリ。結婚生活が終わりを迎え、ひとりで子供たちを養うことになったエリザベートは、深夜放送のラジオ番組の仕事に就くことに。そこで出会った少女、タルラは家出をして外で寝泊まりしているという。彼女を自宅へ招き入れたエリザベートは、ともに暮らすなかで自身の境遇を悲観していたこれまでを見つめ直していく。同時に、ティーンエイジャーの息子マチアスもまた、タルラの登場に心が揺らいでいて…。
訪れる様々な変化を乗り越え、成長していく家族の過ごした月日が、希望と変革のムード溢れる80年代のパリとともに優しく描かれる。(公式サイト)

シャルロット・ゲンズブールがいつもの頼りなげな声でめそめそよく泣く優しい女性を演じているけど、
彼女を否定することのない描き方で、泣くのも大事なことよねと思わせられるし、
監督はインタビューで「人は弱さを見せてもいいのだと思います」
とも語っていて、彼の映画では、脆さ弱さを見せる登場人物は常にいます。

物語的には、優しい主人公が誰とも知らぬ孤独な少女を自分の家庭に受け入れるんだけど
これ、似たようなシチュエーションで人助けをしたら
相手に家庭をズタズタにされる映画を見たことがあるのを思い出して
なんとなくハラハラしてしまったし、主人公の優しさが伝わっているとほっとした。
自分自身そういう目に遭いがちで世の中、優しさは報われないことも多いと身に沁みてるので…
でもこの映画では優しさには優しさが返ってくる暖かい世界を安心して見られます。

80年代が舞台で、映画の中で出てくる当時の映画「満月の夜に」(1984)を、
その頃リアルタイムで映画館で見たことも思い出した。
「満月の夜に」はエリック・ロメール監督作品で、
エリック・ロメールをわたしがいいなぁと思うようになったのはずっと先なんだけど
パリに憧れて憧れて、フランス映画を一生懸命見ていた二十歳前後の自分を思い出して
ちょっと切ない気持ちになりました。

よくエリック・ロメールを受け継ぎ、と書かれてるけど、
確かにもう少し現代風のエリック・ロメールの趣はあって、画面がとにかく美しい。

原題は劇中で出てくる深夜ラジオ番組の名前「夜の乗客」
邦題の「午前4時」というのが一体どこから出てきたのかよくわからないし
こういう映画に必ず「パリ」を入れるところとか、ちょっと雰囲気に流されただけのダメな邦題。
絶対覚えられずいつか思い出す時には、シャルロット・ゲンズブールがメソメソ泣く映画で
深夜ラジオの仕事する話の、パリの、あの、なんだったっけ、としか言えない自信がある。笑
この深夜ラジオ「夜の乗客」は、監督が子供の頃実際にあったラジオ番組がモデルだそうです。
主役のシャルロットは番組スタッフで、パーソナリティはエマニュエル・ベアールが演じてます。
いつもピシッと少しマスキュランなシャツとパンツを身につけ
厳しいながらも公平で、決してベタベタ馴れ合わない感じの不思議な魅力のある人をうまく演じていました。

深夜ラジオがきっかけで孤独な人が知り合ったり結びついたりする映画といえば
トム・ハンクスとメグ・ライアンが主役のノーラ・エフロン監督「夢で逢えたら」があります。
この監督の「ユー・ガッタ・メール」(同じトムとメグの組み合わせ!)も「恋人たちの予感」も
「ジュリー&ジュリア」もどれも好きな映画ですが、また見たくなったなぁ。

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『アマンダと僕』予告編


『サマーフィーリング』予告