教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

発達状況に応じた保育について【1歳児】

2011年06月10日 23時55分55秒 | 幼児教育・保育

 どうも、ごぶさたしております。忙しさとぐらつく精神と闘っておりましたところ、いつの間にか2週間以上も間を空けていましたね。

 最近、時間を見つけて、自作テキストづくりをしております。以前にもやっておりまして、その時作ったものは今でも授業に使っております(「その他業績一覧」の<私家版>のやつです)。今年度より担当科目が増え、かつ従来担当していた科目の内容をリニューアルすることになったので、そろそろ新しい内容も追加しなくては、と思っておりました。ぼちぼち書いていこうと思っていたところ、今少しでもやっておかねば、後でやろうとしても忙しくなって無理っぽい雰囲気になってきましたので、ようやく動き出しました次第です。
 自作テキストの内容は、まぁ、レポートみたいなもんですが、ちょっとだけ記事にしていこうと思います。書き殴っているので、練られた読みやすい文章とは言い難いですが、何かの参考になれば幸いです。今日の記事は、乳幼児発達心理学の成果をまとめて、保育のねらいにつなげていく、という内容の一部。1歳児の部分を書き抜きました。
 発達に関する知識は、後述の文献によります。内容に関する意見やオススメの参考文献など何かありましたら、コメントに残しておいて下さい。私はもちろん、読者の方にも参考になりますので。


2.発達状況に応じて保育するための「ねらい」

(1)各時期ならではの経験を積む
 ある時期の発達は、次の発達を進めるためだけのただの準備段階ではない。幼児期は、次にくる児童期やその先の成人期のただの準備期間ではない。結果的に次の発達に有益に働くことはあるが、次の発達のために犠牲にしてよいものではない。特定の時期の発達は、その時期特有のかけがえのないものである。
 例えば、言葉づかいを早く巧みにするために、発達状況を無視して大人びた言葉を教えたり、文字を早く教え込んだりすると、言葉の発達が進むどころか、その子の生涯発達上に問題を残しかねない。あまりに早くから大人びた言葉に親しみすぎると、経験をともなわない空虚な言葉を操ってばかりになったり、大人とばかり話したがったり、子ども同士の人間関係が広がらなかったりする。同年齢の友だちと共感したり、ケンカしたりする経験をしてこなければ、結果的にその後、その子が対人コミュニケーションに苦労することになる。その時期ならではの活動や感情などを十分に経験することが、結果的に次の発達を進めるのに有益に働くのである。
 各時期ならではの経験を積むには、どのような保育をしていくべきか。以下、1歳児から5歳児までの発達状況に応じて、どのような発達をねらっていけるか、主に発達心理学の知見を利用して考えてみよう。
【1歳児ならではの経験の例】
 一般的に、1歳児(とくに1歳半以降)の発達状況は次のようなものが挙げられる。例えば、直立二足歩行をするようになり、1歳半くらいまでに歩行が安定する。姿勢を変化・保持する能力が発達し、坂や段差にも対応するようになる。初語が出て、1歳半くらいまでに語彙が急増し、二語発話も出るようになる。指さしや身振りなどで、親しい大人とコミュニケーションをとるようになり、大人の問いかけに指さし等で応答するようにもなる。手指のコントロールも巧みになり、スプーンで食べ物をすくって口まで運んだり、クレヨンなどで殴り描きをしたりして、道具を使うようになる。自分でしたいという気持ちがはっきりしてきて、大人が手伝おうとすると拒否したり抵抗したりすることもある。自分の「つもり」やイメージを持続させて状況・時間を越えて自分自身を意識することができるようになり、手にしていない人形を自分のものだと主張することが見られるようになる。1歳2か月~8か月頃には、自分の名前を理解し、発話の中で使用するようになる。また、ものを介して友だちへ関心を向けるようになり、親しい大人以外の他者とかかわるとともに、自分の「つもり」にこだわってトラブルを起こすようにもなる。
 以上のような経験が、1歳児ならではの経験として挙げられる。保育者は、これらの経験をより充実させるために、様々な支援・指導をしていきたい。例えば、問いかけへ応答するという経験をねらって、保育者は子どもの返答を待ったり(たとえ行動に出なくても応答しようとする気持ちにつながる)、指さしにうなずいて応答の行為を受け止めることなどが考えられる。

<主要参考文献>
心理科学研究会編『育ちあう乳幼児心理学―21世紀に保育実践とともに歩む』有斐閣コンパクト、有斐閣、2000年。

(以上は、白石崇人『保育者の専門性とは何か』幼児教育の理論とその応用2、社会評論社、2013年に所収しております)

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