とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

花束が欲しい

2013-02-09 22:34:04 | 日記
花束が欲しい





 ご縁劇場の舞台関係の工事がすべて終わり、劇団湖笛が本拠地をこの劇場に移しました。初稽古の日には地元のフアンが多数押しかけました。マスコミ関係者も数社取材に来ました。ご縁市場はいよいよ飛躍的な発展の時期を迎えた訳です。
 ご縁劇場の事務局関係者、劇団のスタッフ、キャストなどがすべて勢揃いしました。舞台稽古の初めにマスコミ向けにキャストがすべて勢揃いし、舞台監督の指示を受けながら模擬の稽古をしました。フラッシュが浴びせられ、テレビカメラが動き出すと、舞台には張りつめた空気が漂い始めました。終わると、舞台からキャストが降りて、インタビューを受けました。やはり質問は中村仙女の二代目を目指す坂本郁子さんに集中しました。

 坂本さんは今度上演される「悲恋の盆唄」の中でどういう役を演じられるのですか。ある記者が質問しました。

 はい、まだまだ未熟ですが主役の村娘、里(さと)を演じる予定です。

 悲恋という題名が付いているのはどうしてですか。貴方が失恋でもする筋書になっているんですか。

 はい、失恋というのではなく、仲を引き裂かれるという筋書きです。

 引き裂かれる、どうしてですか、と他の記者が尋ねました。

 すみませんが、そこのあたりの経緯は実際に舞台をご覧になるとお分かりいただけると思います。

 分かりました。貴女は宣伝が旨いですね。そう記者が言うと会場に笑い声が響き渡りました。

 中村仙女さんは指導に来られるんですか。

 いえ、恐らく来ないと思います。

 そうですか。それは残念ですね。しかし、二代目養成のために直接ご指導なさった方がいいのではと思いますが。・・・この質問は舞台監督の松江さんが引き取って答えました。

 ごめんなさい。この劇団では演技の基礎的なことを身につけさせ、それから仙女の劇団に移籍することになっています。

 ここで何年くらい修業なさるのですか。それから、他でも公演なさるのですか。

 はい、何年かかるのかということですが、これは私の資質と努力にかかっていますのではっきり言えません。他でもというご質問ですが、これは監督にお願いしたいと思います。

 そうですね。計画としては持っていますが、プロの劇団ですので、仕上がりを見て私が判断します。

 郁子さんはお母さんに似て美人でいらしゃるんで、敢えて質問しますが、長年裏方をなさっていたとき、舞台を見ていて自分もいつか・・・という気持ちになられたことはあったんですか。

 美人かどうかは分かりません。しかし、舞台が終わってカーテンコールなど、お客さんとの交流の様子を見ていて、役者はすばらしいとは思っていました。特にお客さんから花束をプレゼントされるときなどは・・・どう言いますか、羨ましいと言いますか、役者さんはいいなあと正直思っていました。

 そうですか。スタッフの悲哀という訳ですね。

 いえ、そういうことではなく、私は花が好きなんです。農場で作っているときは幸せでした。

 そうですか。花束がほしいという気持ちですね。

 そうです。花束でなくても一輪の花でもいいです。そういう人がいたら素敵です。

 じゃ、私が明日プレゼントしましょう。そしたらお付き合いしていただけますか。記者がからかうとまた笑い声が響いた。郁子さんは顔を赤らめていました。


 
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