医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

ゼチーアの効果について間違った解釈

2011年08月12日 | 生活習慣病
私がこのブログを開設して6年半が経とうとしていますが、開設当時から「医者から詳しく聞かされない医療情報・あなたの病気が治る本当の確率」としてきました。医者が多忙により患者に伝えきれない情報を患者に伝えたり、あるいは医者が医学論文や製薬会社などから一部しか教えられていない情報を詳しく伝えたりする目的があったからです。伝えられていない情報というのは伝えない側にとって不都合な場合が多く、製薬会社にとって不都合な情報とは、すなわち患者にとって不都合な情報です。

私は当時から日本の財政状況にも大変な危機感を持っています。今の日本は私たちの子供・孫の世代に借金を押しつけながら成り立っており、医療も例外ではありません。余りにも経済効率の悪い医療が多すぎます。そして、それは病院や製薬会社など儲ける側にとって不都合な情報が患者に隠されて行われている場合が多いのです。売り上げの多い医者が部長になれたり、売り上げの多い診療科の部長が院長になれたりするシステムにも問題があります。

このままでは、日本はいったん破産しIMFから消費税を20%にするよう命ぜられます。社会保険の負担率は現在の個人8% + 企業8%から、個人16% + 企業16%になります。「自分」の財布が傷むようになって初めて医療費の無駄使いに気がつくのでは遅すぎるのです。もう遅いのですが・・・
(社会保険の負担率16%とは、月給30万円で4万8千円ですよ!)

日本の借金時計

さて、以前「ゼチーアの効果について間違った解釈」をお伝えしました。
今回はその元になっている研究の論文を紹介します。

その前に、ゼチーアの宣伝をもう一度見てみましょう。スタチンの効果だけかもしれないのに、スタチンとゼチーアの効果であるとしている問題点を解説しましたが、ここには「動脈硬化性イベント発症率」が有意に減少したとあります。

「動脈硬化性イベント」と聞いて、どういうことが減ったと想像しますか?その代表格である「心筋梗塞」はもちろんのこと、「心臓発作で突然死」とか、「脳梗塞」とか「足の血管がつまってしまう」とか、想像しませんか?サッカーの松田選手が襲われた「心筋梗塞」から「突然死」してしまうことも想像できます。

この結果が報告されている研究論文です。
The effects of lowering LDL cholesterol with simvastatin plus ezetimibe in patients with chronic kidney disease (Study of Heart and Renal Protection): a randomised placebo-controlled trial.
Lancet. 2011;377:2181.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

この研究では合計9,270人の慢性腎不全患者が調査されていますので、統計学的なパワーが大きく、いろいろなサブ解析の結果が書かれています。

その結果が上の図です。
一番上に記載されているNon-fatal MIすなわち「非致死性の心筋梗塞」とCHD deathすなわち「心臓死」はゼチーア+スタチンの内服群でも減っていません。二段目の「脳梗塞」は減っています。三段目に記載されている「心臓の血管を治療する回数」は減っていますが、「足の血管の治療する回数」は減っていません。

つまり、「動脈硬化性イベント」を減らしたと宣伝されていながら、効果があったのは「脳梗塞」と「心臓の血管を治療する回数」だけです。

「心筋梗塞」も「心臓発作で突然死」も「足の血管の治療する回数」も減っていないのです。


図の下の方を見て下さい。効果があった「脳梗塞」と「心臓の血管を治療する回数」も、女性にはまったく効果がないことがわかりますし、BMIが28以上(身長170cmなら体重81kg以上)のかなり太った人にしか効果がないこともわかります。これは単解析のサブ解析ですから、女性でもBMIが28以上(身長160cmなら体重71kg以上)の肥満者や、BMIが24~28(身長170cmなら体重69~81kg)でも男性なら効果があるかもしれませんが、効果があったのはかなり特殊なグループであることには間違いありません。

男性で、身長170cmなら体重69kg以上の慢性腎不全患者の「脳梗塞」と「心臓の血管を治療する回数」だけに効果があるのに、あの宣伝ではまるで「すごーく」効果があるように聞こえてしまうのは私だけでしょうか?

あの宣伝を見た医者が、女性の慢性腎不全患者の「心筋梗塞」の発症率を減らす目的でゼチーア+スタチンを処方したとすれば、患者にとってみれば、「押し売り」(押し売りならまだましです、商品は残っているから)を通り越して、確実に「詐欺」です。しかも「公費」と「自己負担」を含めて一ヶ月約1万円、効果がない状態に半永久的に支払い続けないといけないのです。

詐欺:他人を欺罔(ぎもう)し錯誤に陥れさせ、財物を交付させるか、または、財産上不法の利益を得ることによって成立する犯罪 (刑法246条)

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