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医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

心房細動に対する新しい抗凝固療法 プラザキサ

2011年03月01日 | 循環器
もうすぐ、直接トロンビン阻害という新規作用を持つ抗凝固薬プラザキサ(一般名:ダビガトランエテキシラートメタンスルホン酸塩、日本ベーリンガーインゲルハイム)が発売されます。

以前、70歳以上の心房細動の方ではワーファリンという血液をさらさらにする薬剤を内服していないと脳梗塞の発症率は4.8%/年、ワーファリンを内服すると0.9%/年に改善されるということをお伝えしましたが、ワーファリンを内服するには効果の強さを定期的に血液検査で測定する必要があり、その結果によって内服量を変えないというように煩雑でした。

プラザキサにはそのような血液検査が必要なくなり、使用しやすくなりました。

心房細動では心房が収縮せずブルブルと微細にふるえた状態ですので、心房の内側に血液の固まりが出来やすくなり、それが脳に流れていくと脳梗塞になります。従って、血液を固まりにくくする必要があります。

プラザキサの有効性をワーファリンと比較した研究があります。
Dabigatran versus warfarin in patients with atrial fibrillation
N Engl J Med 2009;361:1139.
(インパクトファクター★★★★★、研究対象人数★★★★★)

心房細動の患者18,113人(平均年齢71歳)が、プラザキサ110mg1日2回内服群(低容量群)と、プラザキサ150mg1日2回内服群(通常用量群)と、ワーファリン内服群に分けられ、その後30か月の脳梗塞と全身性塞栓症の発症率と副作用が調査されました。

この研究に参加した患者の、脳梗塞のなりやすさを示す指数CHADS2スコアーの平均は2.1でした。

1年間に換算した発症率は(*印は差があったところです)
110mg群 150mg群 ワーファリン群の順です。
1.53%  1.11%* 1.69% 脳梗塞と全身性塞栓症
2.71%* 3.11%  3.36% 出血性疾患
0.12%* 0.10%* 0.38% 脳出血
0.72%* 0.74%* 0.53% 心筋梗塞
2.2%*  2.1%* 0.6%  消化不良、下痢、嘔気などの消化器症状
15%*  16%*  10%  内服の継続不可能

以前の研究ではワーファリン内服での脳梗塞の発症率は1年で0.9%、この研究では1.69%ですから、今回の調査に参加した患者の脳梗塞のなりやすさは以前の研究より高い集団ということです。

まとめますと、
本来の目的である脳梗塞と全身性塞栓症を減らすことに関しては110mg群でワーファリンと同等、150mg群でワーファリンより優れていました。

目的と反対の作用として考えられる出血の程度は110mg群でワーファリンより少なくなり、150mg群でワーファリンと同等でした。

目的と反対の作用として考えられる脳出血の程度は110mg群、150mg群でワーファリンより優れていました。

その反面、110mg群、150mg群でワーファリンより心筋梗塞が多くなりました。また、110mg群、150mg群で消化不良、下痢、嘔気などの消化器症状が多くなり、そのためと思われる内服の継続不可能が増えました。
(製薬会社からはこの薬の良い面しか知らされないと思われますので、強調しました)

プラザキサの半減期は12-17時間で1日2回服用が必要ですが、内視鏡検査前の休薬期間も短くて済みます。また、2時間で最高血中濃度に達するので、再開後も抗凝固効果が速やかに得られるという利点があると思われます。

その反面、抗不整脈剤のワソラン、アミオダロン、キニジンの血液濃度を上昇させるため併用には注意が必要です。

あと、問題は薬価です。まだ公表されていませんが、1日600円ぐらいです。ワーファリンは1mg1錠で10円、1日3錠内服する場合で30円ですから、約20倍ぐらいだと思われます。3割負担の人でなんと月5,400円です。決定したら考察したいと思います。

従って、現状での私の意見として、高血圧や糖尿病などの動脈硬化危険因子がなくワーファリンの内服量の調節がほとんど必要ない安定した患者からの変更はそれほど利点がないですが、調節の不安定の患者にはワーファリンからの変更が有用と考えられます。

ただ、この研究はたった30か月の観察期間なので、長期的な有効性と安全性についてはもう少し待つ必要があります。


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コメント (4)
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