橡の木の下で

俳句と共に

藤田重信句集『鳴き砂』紹介

2016-11-25 21:26:12 | 句集紹介

句集『鳴き砂』

平成28年11月11日発行

 

著者 藤田重信

発行 揺籃社

定価 2,500円

 

著者:

昭和13年 横浜生れ

「橡」同人

俳人協会会員

 

問合せ:〒234−0051

    横浜市港南区日野3−4−12−809

    藤田重信

    電話:045−847−5038

抄:

襟立てて丸ビル在りし空仰ぐ

引越しの荷の中に聞く初音かな

戯れに妻と引き合ふ相撲草

板の間の座布団涼し五合庵

行く春や雨情生家の蓄音機

子供の日酒断つ人の集ひをり

獅子舞の足にも酒を振舞ひぬ

雪下し半ばに暮るる湯治宿

砲響く富士の麓の野を焼けり

虎杖の花に隠るる関所跡

好物の筍飯を余す母

鳴き砂に足を乗せをり赤とんぼ

オリオンへ坂駆け昇る秩父山車

武蔵野や八十八夜の畑黒き

坂なして灯の耀へり風の盆

鈴懸の影の涼しきシャンゼリゼ

白日傘重なり合ひて渡し船

父母揃ふ写真一葉終戦日

道化師の鼻に筍流しかな

塀朽ちて小町文塚竹の秋

こふのとり貧しき村に巣立ちけり

国境の橋を叩きて夕立来る

寡黙なる男選りをる毒茸

きのこ山人声散りて絶えにけり

ワインコルク卓に転べる夜長かな

孵化場の水を囮に鮭捕ふ

ほろ苦き通草の煮物出羽の旅

落葉焚く波郷の墓や昼の酒

みちのくの零下の闇に雁の声

里狂言せりふ忘るを囀れり

鰰の雷連れきたる面構へ

蟇合戦ひたすら蘆辺濁しをり

海開き太陽族は古稀越えぬ

ラ・マンチャの土に塗るる西瓜売り

信玄の棒道塞ぐ花芒

カーネーション子の名忘れて母笑まふ

金色のハレムの出窓花石榴

コーランの読誦流れて夕永し

鷹匠の眼光隠すハンチング

虜囚にて死せる父の忌七日粥

梅にほふ白杖の人色問へり

仮設住宅一ノ一より賀状来る

春昼や老いの落ち合ふ数寄屋橋

帆綱引く乙女らの声風薫る

秋深し波郷手擦れの二眼レフ

鎌倉の尾根ゆく我と赤とんぼ

逆しまに梅眺むるも猿の芸

なきがらの紅やや濃きや蓮の花

夏至の雨傘さしかけて棺出づ

切れぎれに母恋ふこゑか梅雨鴉

ノーベル賞得たる青き灯聖樹にも

はくれんの風と乾杯交はしをり

銀杏枯る代々木は父と別れし地

平等を説く諭吉の碑天寒し

鳴き砂に親潮春の歌奏づ