橡の木の下で

俳句と共に

選後鑑賞平成27年『橡』4月号より

2015-03-27 11:33:00 | 俳句とエッセイ

  選後鑑賞  亜紀子

 

島人の島より島へ買初めに 平石勝嗣

 

 地図を見ながら想像してみる。ここは鹿児島県甑島列島と思われる。上甑島・中甑島・下甑島がフェリーと高速船で結ばれている。距離は近くとも水を挟むと島というのはそれぞれ独自の風習なり文化を持っているらしい。あるいは同じ島内でも港ごとに異なるものがあるのかもしれない。松の内の穏やかな日和、輝く潮路。船に乗っての買初めが駘蕩としてめでたい。最近の航路は寄港地が集約化されているとあるので、昔の島人の暮しを思い出しての作であろうか。

 

白鳥の群一列に橋潜る   太田三智子

 

 胸をそらし首を伸ばし、優美な一群の白鳥たちが橋の下を滑るように潜っていった。王侯貴族の風情である。その水面下では二本の足が絶えず水を掻いているだろう。白鳥は力強い大鳥である。

 

羽黒坊大き雪沓並びをり  村山八郎

 

 出羽三山のひとつ羽黒山。山岳信仰の聖地は古来より多くの修験者や参拝者を集める。並ぶ大きな雪沓の主は尋常の人間の物ではないような気配。

 

ひと日ごと家族増えをり雪だるま 森谷留美子

 

 子供の居る家の庭先だろうか。大きな雪だるま、中くらいの、小さいの、毎日人数ならぬだるま数が増えていく。雪国雪だるまファミリー。子らの声も聞えてくるような。

雪だるま星のおしゃべりぺちゃくちゃと

                  松本たかし

 

チューリップ芽ぐむ一鉢母の辺に 布施朋子

 

 高齢の母親は静養中なのだろうか。春まだ浅き窓の外は枯れ色。小さな顔を出したチューリップの芽の一鉢を枕辺に。静かに弾んだ一句の調べが、慰めと春待つ心持ちを伝えている。

 

一吹の法螺の音渡り涅槃西 木下多恵子

 

 野も山もいまだ眠っている。護摩法要開始の法螺の音。春を告げる一吹きのごとく、木々の間を風に渡り、固い芽を呼び覚ましていく。

 

佐保姫の訪れ告げて鼓滝  足立紗麗

 

 鼓滝というからには、良い滝音のする所と思われる。冬季は水も少なく、あるいは凍っていて、その音をひそめていたのだろう。いよよ迸る水音が春到来を告げている。

 

雪降れば仔犬の如き嬉しさも 町井玲子

 

 これは普段は雪のない地の感慨。自分なども庭かけ回る犬同様な気持ちになることがある。しかしながら年とともに手放しで喜んでは居られなくなった。積もれば相当の不便が生じる。嬉しさもの「も」のニュアンスに様々な解釈の余地を残している。

 

窯出しの百のぐい飲山笑ふ  川南清子

 

 芽吹き始めた里山。窯から出したあまたのぐい飲みが並べられた。庶民的な懐かしい調子の焼き物だろう。

ぐい飲みの口もみな上を向いて笑っている。

 

子の文の温く短く春きざす  呉座谷ゆき

 

 短い一文に温かな心を示すことのできる我が子は深い心の持ち主である。

 

 

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