名古屋橡会吟行 東山動植物園の春を楽しむ会
亜紀子
三月十八日火曜日、名古屋市動植物園にて名古屋橡会の吟行句会。この動植物園は大正七年に市内の別の場所に開園された後、老朽化と手狭になった理由から昭和十二年に現在の場所に移転。丘陵地の森を利用して街中に自然の緑の一角を保っている。歴史ある園で、今も研究や教育的価値、種の保存に努め、また誰にとってもより楽しい場所となるよう新しいニーズに対応すべく再生進行中。今日は天候にも恵まれ、珍しい動植物の句がたくさん詠めるだろうか。
最寄りの地下鉄口の階段を上って行くと、見覚えのある後ろ姿。京都のFさんではないかしら。つい先日米寿を迎えられた人の足取りは実に矍鑠としている。声をかければやはりFさん。今月初めに関西俳句会でお世話になったお礼からお喋りが始まり、園へと向かう。
公園入り口近く、待ち合わせの動物会館前で一同集合。名古屋から五名、東京から一名、関西から三名の有志の予定だが、名古屋組のSさんの姿が見えない。日程を間違えていたらしい。これから出発して午後からの句会に間に合わせるとの連絡。それではと広い園の散策開始。
本園、北園と別れた動物園の本園の道を進む。ここには象の親仔、コアラ、キリン、給餌どきの仕ぐさが愛らしいレッサーパンダなど、子供達の人気者が揃っている。園内の桜は未だ蕾、遠足シーズンにもまだ早くウイークデーということもあって比較的静かだ。それでも出会う子供達は溌剌。我が昔を思い出しても動物園は全てが物珍しく興味津々、楽しい場所だった。
春禽のそやす大食インド犀 F
囀りやくるりと動く犀の耳 T
仔象へと駆寄る小さき春帽子 TU
春昼や瞼重たきカンガルー T
春眠しコアラのやうに父の腕 Y
動物園尻ばかり見てうららけし I
シニアグループの水彩画を覗き、動物園を抜け、眼下に一般道を見て架橋を渡り植物園へと入って行く。入り口のバラ園では土の入れ替えと新しい苗の植え付け中。園丁の中に若い女性も混じっている。真紅のバラの芽。植物園内のスポットは重要文化財指定の温室、水車を置く池のほとりの合掌造りの家、本日の句会場の茶室で名古屋の俳人横井也有の名を冠した也有園。梅林、椿園、東海の森の道、ビオトープ、湿地園、丘陵を昇りつめれば桜の回廊等々、多彩。今はサンシュユ、マンサク、トサミズキ、ヒュウガミズキなど、早春の気に満ちている。湿地園の苔の中、寒葵の滋味深い花に遭遇。咲いているのを見るのは初めて。梅や椿の花に遊ぶ目白。四十雀の囀。鳥たちの恋の季節もこれからが本番か。
句会場で遅れて来たSさんと合流。Sさん曰く、とにかく間に合うようにとパジャマのまま出てきましたよ。一同笑。
花樒薮の日ざしにすぐ紛れ YT
山茱萸や小流れ謳ふ也有邸 YT
のどけしや絵筆ふる人ほむる人 M
姉死して八重寒紅は花開く MS
也有園の立礼席の机と椅子が組み立て式で妙にグラグラするのを別にしたら実に愉快な句会を終え、またもと来た道を帰って行く。北園に寄ってイケメンゴリラのシャバーニ、その子清正に挨拶。どれも後ろ姿で判然としなかったが。名古屋に一晩泊まる人、一路自宅へ戻る人。
お世話になりました、有難うございます。
文中の句はいずれも当日の吟行句ママ。完成形もあれば、これから推敲の句もあるでしょう。読者の皆さんの感想はいかがでしょうか。なかなかその場でパッと決めて詠む力は私にはありません。後々の推敲が肝心ですが、その場を離れて捏ねてしまうとかえって上手くいかぬことも多々あります。精進、精進。