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橡の木の下で

俳句と共に

「休暇果つ」令和5年「橡」10月号より

2023-09-27 08:21:02 | 俳句とエッセイ
休暇果つ   亜紀子

隠れ耶蘇通ひし小径葛の花
電車来るたびに芒も手を振つて
法師蟬急いてつまづき暑は去らず
この径がいーよいーよと法師蟬
百日紅風よりかろく散りつげる
大虹を皆ふり返る家路かな
月を観る会とて集ふオンライン
暑をかこつ地上は知らぬ月の色
テレビ消して了る原爆慰霊式
我が影の貧しく歩む西日中
八月の日に片灼くる殉職碑
新涼や家計簿閉ぢて今日果つる
九月来る初めは雲と空の色
唐黍や安き長旅若き日々
休暇果つ空にぽつかり穴あいて


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「カナダ森林火災」令和5年「橡」10月号より

2023-09-27 08:14:38 | 俳句とエッセイ
 カナダ森林火災   亜紀子

 ここ何年も毎度のことだが、暑い。しかし今夏は言葉通りの未曾有の暑さ。七月、八月の最高気温の記録更新、九月に入っても残暑継続。コロナによる生活の規制が解かれても、次は熱中症アラート。不要不急の外出は控えてなるべく涼しい場所でお過ごしくださいの日々。近くの公園も日盛りは蝉の声ばかりで子供らの姿もなく。これでは俳句の種は沸騰ならぬ、払底。その上これも未曾有の集中豪雨に悩まされた。それまで穏やかに暮らしていた地域での洪水、土砂災害。痛ましい被害はいつ何時誰の上に降りかかるか分からない。「線状降水帯」という気象用語が俳句に取り込まれる。橡誌の投句稿にもちょこちょこ散見。この長い用語を何とか収めようと工夫を凝らしている。新しい言葉の種といっても、実生活では御免蒙りたい。
 カナダ、ブリティッシュ・コロンビア州もこの夏は未曾有の山火事が発生した。この文を書いている今現在も進行中。娘が州第二の都市ケローナに暮らす。ケローナ市は中央に大きなオカナガン湖を挟み、この湖水の影響下、高緯度にあるカナダの都市にしては比較的穏やかな気候で果樹園の広がる風光明媚な土地。ワイナリーも名物で、どことなく琵琶湖の周辺を想像させる。娘曰く、実際滋賀県から来ていた子は故郷に似ていると言っていたそうだ。リタイアしたカナダ人が住みたい都市第一位とのこと。
 しかしながら頻発する森林火災はケローナでも毎年のことで、気候変動、温暖化で加速。それなりに対策は進み、悲しいことではあろうが、住民はある意味慣れてもいる。八月末、慣れていたはずの山火事がそれまでの異常乾燥と折からの強風に煽られ制御不能になった。
 娘がラインで山火事の写真を送ってきた。今回は大変らしい、避難も始まっているとのこと。ただ娘の職場や住まいは湖の東側、火災は西側でその時は対岸の火事と思っていた。炎も湖は越えられないだろうと。それがあれよ、あれよと言う間に東側に飛び火。火のついた燃え滓は火災旋風に巻き上げられ危険区域拡大。職場のある州立大学も避難指示が出て、普通に出勤していたお昼から早退に。不幸中の幸い、娘の住まいのある地域は避難指示も勧告も出されていないのでとにかく帰宅するという。ただし大家さんたちは既に「逃げたよ」と。州は非常事態宣言を出し、軍も出動。その日の夕方までに唯一車を持っている娘がルームメートをそれぞれ迎えに行き全員集合。一応準備を整えて、万が一の時の避難ルートを確認したそうな。娘の職場は海外から応援に入った消防隊の宿舎になったとのこと。それから一週間ほど、州の山火事アプリ、市のニュース等々、本人はスマホ頼りに情報を取るのでこちらからはなるべく質問など控えて、こちらもネットで毎日、毎日状況確認。そんな状況下で、住民たちは焼け出された人たちへの支援物資を自発的に集めている。娘も石鹸だの、レトルト食品など、ガソリンをセーブするために徒歩で行ける所へ持って行き、その先は車を出せる人がセンターまで運んでくれたそうな。全てスマホでのやり取りでスムーズ。気温の低下と、いささかの降雨の助けを得て最悪の状況は脱し娘たちは安堵。
 後からネットで見たニュース番組では今年のカナダ全土での山火事件数六千。数も火の勢いも大きさも過去に例を見ないと。地元の消防隊はもとより、南ア、オーストラリア等各国の消防隊員の助っ人も、パラシュートで山奥に降りたり、木々を切り倒したり、燻る地面を消火したりと昼夜を分かたず真っ黒になって活動。住民に人的被害は無いようだが、燃える木々の下敷きになって十九人の消防士が命を落としている。ケローナ市長は現地入りしたトリュドー首相に対し、消防隊員の教育と拡充に予算をつけて欲しいと訴えていた。
 ところで彼の地での生活上デジタル情報は必須であると分かった。三十年前、あちらに暮らしていた折、日本のマイナンバーに当たる個人番号を貰った。娘に聞くと、娘のナンバーは紙媒体で受け取ったという。調べたところ、プラスチックカードの紛失、悪用が相次ぎ現在はカードは廃止。個人番号は生涯に渡る重要なものであるから、個人で厳重に管理し、IDとして使用してはいけないとしている。例えば病歴など告げる場面で番号を問われても応えないようになど、細かな例も示されている。
 マイナンバーに紐づける情報が多ければ多いほど危険に晒される確率は高まる。不便を強いられてもマイナ保険証は持つまいと思っているが、この際カード返上が一番安心かしら。成り済ましだって起こり得る。悪知恵は善良な知恵の先を行くのが世の中。名画アラン・ドロンの「太陽がいっぱい」を思い出すのは古過ぎか。デジタル化とはデジタルカードのことではない筈。


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「選後鑑賞」令和5年「橡」10月号より

2023-09-27 08:00:11 | 俳句とエッセイ
選後鑑賞    亜紀子

乳呑み児の泣き出す気配朝の蟬  布施朋子

 無垢、無防備な赤ちゃん。もろく壊れてしまいそうな新生児とくれば家族皆んなの貴重な宝物。とは言うものの「寝顔が一番可愛い」というジョークもある。作者にとっては初めてのお孫さん。赤ちゃんのお母さんである娘さんの体調を労りつつ、久しぶりの子育てのお手伝いに奮闘。今夏はことのほか暑く、そうでなくても疲れは溜まる。赤ちゃんがむずがり始めた小さな気配を敏感に察するところ、赤ちゃん中心の生活がすっかり定着しているようだ。眠っている間にやることをやってなどと思うまもなく第一声。

老人ホーム窓全開に揚花火    岡田まり子

 新型コロナ感染症が五類感染症に移行後は各地で以前通りの行事が復活。夏の花火大会もその一つ。高齢者施設は慎重であろうが、掲句の様子では皆一堂に会しての花火見物だろうか。全開の窓は感染症対策のようでもあるし、鑑賞対策のようでもある。いずれにしても一句全体の感じは威勢が良くて明るい。久々に戻った笑顔が見える。

打ち水や会釈変はらぬ両隣    大野藤香

 どうにも暑かったこの夏にあっても、都人の生活はいつもの通り。朝夕の打ち水に言葉少なく会釈をかわし。変わらぬ日々の有り難さ。

夕焼や話し相手に猫を呼ぶ    三坂智子

 一日が茜色に暮れていくひと時、縁側に一人、何言うでもないがちょっと傍に添ってくれる人があれば嬉しい。呼べばすぐ擦り寄ってくれる猫が有り難い。こんな夕暮はいかにもありそうで、しかし句に見たのは初めて。

百日紅学びの友と歳重ね     新井実保子

 真夏の時を咲き続く百日紅。長年地道に作句に取り組んでおられる作者の姿を見る。

熱き茶を独り汲みをり夜の秋   斉藤春汀

 夜の静けさ。わずかな涼を覚え、季節の移るのを知る。不思議に体は熱い茶の一杯を欲する。番茶が美味しい。独りの語がしみじみと響く。

盆棚に座せば真菰のにほひけり  山口典子

 作者はきっと長年仕来り通りに盆棚を設えてこられたのだろう。座せばまず棚に敷いた真菰ござの匂いを感じる。それは古く、新しい。盆の記憶そのもの。 

つややかや霧より現るる青き茱萸  南雲節子

 この茱萸は秋に熟すものだろう。赤く熟した実も艶やかだが、霧の中に見出した青い実は驚くほど美しいようだ。

半ズボン脚はすずめに似たりけり  小林一之

 これは自画像か。今時の女学生たちなら「可愛い」と形容するかも。

朝涼の刻の尊し畑手入れ    岩下悦子

 猛暑の日々、短時間でも畑仕事のできる涼しさは有り難い。自身の健康も有り難い。まさに掛け値無しに尊い。

鮨握る異国の人や京に馴れ   奥村綾子
 
 海外に渡る日本人寿司職人が多いと聞くが、こちらは本場の日本で寿司を握る外つ国人。しかも京の都。下五、本人も客もすっかり馴染んでいる様子が優しい。

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「七夕」令和5年「橡」9月号より

2023-09-01 15:03:19 | 俳句とエッセイ
 七夕   亜紀子

異国人素足を垂らす太鼓橋
蜻蛉どちひと日涼とる水の上
追ひ追はれ雨が降らうが水鉄砲
深閑と神も昼寝か未草
睡蓮の花の盛りの浮巣かな
留守番の弟と雷に泣きし日も
朝顔も夕べの水に皺のばす
緑陰のフラの乙女も高齢化
蝶の来てフラの少女をひとめぐり
今日の悔一声漏らす夜蟬かな
七夕の風渡りゆくアーケード
町あげて星を祀りぬ一宮
マツケンに押すな押すなの夏祭り
グーグルの最短経路炎天下
熱帯夜夏日猛暑日さて次は


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「尾張一宮七夕まつり」令和5年「橡」9月号より

2023-09-01 14:57:04 | 俳句とエッセイ
 尾張一宮七夕まつり     亜紀子

 猛暑の続く中、七月二十七日、名古屋橡会の吟行で尾張一宮の七夕まつり見物。三ヶ月に一度の吟行句会に名古屋連の全員参加は様々の事情で難しく、大抵六、七名の固定メンバーなのだが今回は急遽直前に他県の方々に声かけして、群馬の原田幹事長、神戸から鳥越編集長の他、鎌倉の小野さん、都内より佐野さんが参加。お初にお目にかかるメンバーもいて待ち合わせのJR尾張一宮駅改札口に心踊らせつつ集合。顔を合わせれば誌上で名を知る同士すぐさま和気藹々、句友というのは有難い。
 一宮は平安の昔より織物の町。織物を加護する神でもある尾張国一宮真清田神社の鳥居前町として栄え、明治以降はことにウールの生産地として繁盛。現在もそのブランドは維持されているようだが、国内繊維業は軒並み海外勢に押される昨今、かつてのような隆盛はないようだ。七夕伝説の織姫にちなみ、織物感謝祭としての七夕まつりは昭和三十一年に始まったとのこと。今回不参加の石橋さんは現役時代は全国津々浦々を渡り歩いた人で仙台の七夕祭りも知っているが、一宮のそれも匹敵しますよと伺った。名古屋駅から電車で十分ほどの距離、今日まで出掛けなかったのは不覚。
 午前十時、すでに暑い。四日間の祭の初日の午前中の人出はまだ少ない。メインの飾りつけは駅から程ない商店街のアーケード。全長三メートルくらいの色とりどりの吹き流しがびっしりと吊られ、時折風に吹かれる。一宮は西を岐阜県に接しており伊吹颪の地である。さらさらとなびく様がいかにも七夕らしく涼しい。浴衣姿の子供達がちらほらと歩いて行くのが雰囲気を伝える。どこかの新聞社の報道部員が二人の浴衣少女をモデルにアーケードの真中で写真撮影。我々はアーケード内を行きつ戻りつして句材を拾う。そちらあちらとシャッターの閉まっているのは時間帯ゆえか、所謂シヤッター街現象なのか。
 アーケードを北へ抜けると広場で屋台が開店準備中、屋外用の大きな扇風機を回している。そして真清田神社に。参道脇には大きな七夕竹が立並ぶ。さすが一宮、社殿は大楠を擁して風格がある。昭和二十年七月末の激しい空襲で街は壊滅状態となり神社も消失、現在の社は戦後の再建であるが、その造形を評価されて国の登録有形文化財となっているそうだ。その御社の正面軒にもアーケード街と同様のカラフルな吹流しが地に触れんばかりに吊られているのが新鮮な景色。
 境内を思い思いに巡り、そろそろお腹が空いてきて何となく集まった数名でお店を探すことに。一宮は喫茶店のモーニングサービス発祥の地を謳っている。県外からの参加者には是非味わっていただきたいと喫茶店を探す。駅から少し離れているからだろうか、意外に見つからず、やっと見つけた一軒は如何にも昭和レトロも好ましく。ドアを開ければ先客に青山さん、坂ノ下さんコンビ。暑さに負けて早々に避難していたそうな。
 水にお絞り、モーニングはコーヒーにトースト、茹卵のセット。トーストには小倉あん。香港生活の長かった佐野さんは紅茶にジャム。小野さんは全国展開している名古屋のチェーン店で愛知風をよくご存知だった。取り留めないお喋りの合間に句の推敲。提出は三句。星眠先生との吟行はいつも十句だったと涼しい顔の原田さんが手作りの梅干しを分けてくださる。同じくいつも涼しげな鳥越さん。そのうちに湯呑が運ばれてきて、中身は昆布茶。これは気が利いていると喜んでいると、小野さん曰く、そろそろご遠慮くださいの追い出し昆布茶かも、、と。お代は一人三百六十円也。
 神社への道を戻り、幹事の片岡さんが予約してくれた文化センターへ。布施さんとは一人はぐれてしまったので次回の為に連絡先を確認。句会では同じ材料がそれぞれの角度で詠まれ、吟行の醍醐味。お祭の醍醐味はやはり夕方から。一宮駅へ戻る頃になって続々人の波。コロナ後初めての例年通りの祭は続く三日間も盛況だったらしい。
 遠隔地の吟行への参加は時間、費用、体力等、実際には諸々ハードルは高いが、名古屋に限らず各地で同様の交流が図れると今後楽しいのではと考える。

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