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要は飽きたんだな。
美紀は、ホテルの部屋に入ってたじろいだが、おれがベッドの方には寄らず、ソファーで話を聞き続けると、ホッとしたような顔になった。
で、今の一言で、美紀の混乱は、半分がとこもどってきた。これも予定通り。
「飽きたっていうんじゃないよ」
「いろんな人とつきあってみたいっていうのは、おれには飽きたっていうふうにしか聞こえない」
「だから、亮介のことは好きだって。でも、好きだから、亮介一人としか付き合わないっていうのは飛躍を感じるの。お互いフリーな部分は残しておいた方がいいと思う。だって、あたしたち、まだ十七歳なんだから」
「おれは、まだ、自分自身の半分も美紀に見せていない。美紀もおれのこと半分も知らない。これで、お互い他の人とも付き合いましょうってのは、体のいい別れ話だと思う。古臭い言い方だけど、少しは、おれに愛を感じてくれてるのかな? むろん、おれは、美紀のこと愛してる」
「うん。その気がなきゃ、学校中抜けして、こんな場所に来たりしない」
「じゃ、こっちこいよ」
おれは、ベッドの方に移って美紀を誘った。美紀はうつむいたままソファーを動かない。
「コミニケーションだけって言った」
「コミニケーションというのは話だけじゃない。おれたち、たった一回キスしただけじゃないか。おれは、もう少し美紀のことを知っておきたいんだ……」
そう言うと、美紀をお姫様抱っこして、いっしょにベッドに倒れこんでやった。
「だめ、だめだよ、こんなの!」
「でも、愛してくれてるんだろ? 愛の手前には、どうしても通っておかなきゃならないところがあるんだ」
「な、なに、それ?」
「I(アイ)の一つ前はHだ!」
「ハハハ、なに、それ?」
美紀は、一瞬警戒を解いて面白そうに笑った。おれは美紀の、こういうセンスが好きなんだ。
それで、おれは美紀の右の胸をやさしく掴んだ。こんなにハリがあって柔らかいものに触ったのははじめてだ。
「だ、だめだって……」
美紀は、そっとおれの腕を掴んで、自分の胸からどける。自分でも、とても切ない顔をしているのが分かった。美紀の目が済まなさそうに潤んでいる。
「いいよ。分かった。おれ、好きな女の子が嫌がることはしないよ。そういう征服するようなやり方は好きじゃないから」
「ごめん、亮介……」
「今なら、四時間目には間に合う。いこうか」
美紀は、コックリうなづいた。
ホテルの駐車場に戻ると、またメールが入ってきていた。
――亮介クン、いったいどこの病院に行ってるのかなあ?――
また副担のネネちゃんだ。
――いま病院出たとこです。調子よかったら昼からでも学校いきます――
ちょっと、今日のネネちゃんはしつこい。
乱暴にスマホをしまうと美紀を後ろに乗せて鈴木オートにもどった。
「お、早かったじゃないか」
「うん、お互い理解力があるから」
「お、さっき亮介の副担任て先生がきたぞ。出張のついでだって言ってたけどな」
「え、ネネちゃんが?」
「若いが、凄腕みたいだな。亮介クン来ましたよね? っていきなりさ」
「え、で、鈴木さん、どう答えたの?」
「病院行く前に顔出してきましたって。おれ、ああいうとこは体使って心を癒す病院だと思ってっから」
鈴木さんもなかなかだ。
「でもよ、ここアルバイトに女子高生使ってます? って聞かれたときはドキッてしたぜ、まるで事務所の……」
事務所から、美紀が制服に着替えて戻ってきた。
美紀をバイクの後ろに乗せてもどった。背中だけで感じる胸の感触は物足りなかった……なんてな。