大橋むつおのブログ

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ライトノベルベスト『しつこいんだよ先生・3』

2021-09-01 06:16:42 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『しつこいんだよ先生・3』    

 




 要は飽きたんだな。

 美紀は、ホテルの部屋に入ってたじろいだが、おれがベッドの方には寄らず、ソファーで話を聞き続けると、ホッとしたような顔になった。

 で、今の一言で、美紀の混乱は、半分がとこもどってきた。これも予定通り。

「飽きたっていうんじゃないよ」

「いろんな人とつきあってみたいっていうのは、おれには飽きたっていうふうにしか聞こえない」

「だから、亮介のことは好きだって。でも、好きだから、亮介一人としか付き合わないっていうのは飛躍を感じるの。お互いフリーな部分は残しておいた方がいいと思う。だって、あたしたち、まだ十七歳なんだから」

「おれは、まだ、自分自身の半分も美紀に見せていない。美紀もおれのこと半分も知らない。これで、お互い他の人とも付き合いましょうってのは、体のいい別れ話だと思う。古臭い言い方だけど、少しは、おれに愛を感じてくれてるのかな? むろん、おれは、美紀のこと愛してる」

「うん。その気がなきゃ、学校中抜けして、こんな場所に来たりしない」

「じゃ、こっちこいよ」

 おれは、ベッドの方に移って美紀を誘った。美紀はうつむいたままソファーを動かない。

「コミニケーションだけって言った」

「コミニケーションというのは話だけじゃない。おれたち、たった一回キスしただけじゃないか。おれは、もう少し美紀のことを知っておきたいんだ……」

 そう言うと、美紀をお姫様抱っこして、いっしょにベッドに倒れこんでやった。

「だめ、だめだよ、こんなの!」

「でも、愛してくれてるんだろ? 愛の手前には、どうしても通っておかなきゃならないところがあるんだ」

「な、なに、それ?」

「I(アイ)の一つ前はHだ!」

「ハハハ、なに、それ?」

 美紀は、一瞬警戒を解いて面白そうに笑った。おれは美紀の、こういうセンスが好きなんだ。

 それで、おれは美紀の右の胸をやさしく掴んだ。こんなにハリがあって柔らかいものに触ったのははじめてだ。

「だ、だめだって……」

 美紀は、そっとおれの腕を掴んで、自分の胸からどける。自分でも、とても切ない顔をしているのが分かった。美紀の目が済まなさそうに潤んでいる。

「いいよ。分かった。おれ、好きな女の子が嫌がることはしないよ。そういう征服するようなやり方は好きじゃないから」

「ごめん、亮介……」

「今なら、四時間目には間に合う。いこうか」

 美紀は、コックリうなづいた。

 ホテルの駐車場に戻ると、またメールが入ってきていた。

――亮介クン、いったいどこの病院に行ってるのかなあ?――

 また副担のネネちゃんだ。

――いま病院出たとこです。調子よかったら昼からでも学校いきます――

 ちょっと、今日のネネちゃんはしつこい。

 乱暴にスマホをしまうと美紀を後ろに乗せて鈴木オートにもどった。

「お、早かったじゃないか」

「うん、お互い理解力があるから」

「お、さっき亮介の副担任て先生がきたぞ。出張のついでだって言ってたけどな」

「え、ネネちゃんが?」

「若いが、凄腕みたいだな。亮介クン来ましたよね? っていきなりさ」

「え、で、鈴木さん、どう答えたの?」

「病院行く前に顔出してきましたって。おれ、ああいうとこは体使って心を癒す病院だと思ってっから」

 鈴木さんもなかなかだ。

「でもよ、ここアルバイトに女子高生使ってます? って聞かれたときはドキッてしたぜ、まるで事務所の……」

 事務所から、美紀が制服に着替えて戻ってきた。

 美紀をバイクの後ろに乗せてもどった。背中だけで感じる胸の感触は物足りなかった……なんてな。


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