大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・008『瀬田と田中とショ-トカットにしたあたし』

2019-04-16 11:54:40 | ノベル

せやさかい・008

『瀬田と田中とショ-トカットにしたあたし』 

 

 

 わずか十三年の人生やけど、身についた習慣と言うのは直しにくい。

 

 その一つがポニーテール。

 平均よりも背の低いわたしは、七つの歳からポニテにしてる。

 それも、チョンマゲか言うくらい高いとこで結んで背を高く見せてる。AKBで総監督やってたタカミナにあやかって、お母さんが最初にやった。お母さんは「さくらが言い出した」と言う。ま、どっちでもええねんけど、身についた習慣であることには間違いない。

 入学式の日に、お母さんに言われてポニテを低くして、ほとんどヒッツメにした。ヒッツメの方が一般的やし、地味に見える。

 しかし、一週間通ううちに元の高さに戻ってしもた。

「いっそ、切ってしまおか」

 本堂の縁側で干した布団を取り込んでる時にお母さんが帰ってきて、そういうことになってしもた。

 

 生まれて初めて美容院に行って、バッサリとショートカットにした。

 

 大人の階段を一歩上った気ぃになって面白かってんけど、美容院の事は、また改めて。

 入学して一週間しかたってないから、ショートにしたのに気ぃついたんは榊原さんだけ。

「いやあ、これから暑なりそうやからねえ(o^―^o)」

 明るく返事して、榊原さんの空想を封じておく。

 菅ちゃん(菅井先生は、三日目くらいから、こう呼ばれてる)が気ぃつかへんのはどうかと思う。

 

「掃除サボんなや!」

 

 両手に箒を持ったまま階段を二段飛ばしで駆け下りて、校門のとこで待ち伏せた。ノラリクラリとやってきた瀬田と田中は――なんやこいつは?――いう顔をしとる。

 あたしが、同じクラスの同じ掃除当番やいうことがとっさには分かってへん感じ。

 先週に続いて二回目の掃除当番。

 菅ちゃんの指導が甘いのに気付いた男子がサボりにかかってる。昨日も男子がサボって朝礼で注意されてたけど、菅ちゃんは押しが弱い。これはイケると踏んだ瀬田と田中がブッチしよったんや。ここで見過ごしたら菅ちゃんもわたしら女子も舐められる。せやさかいに、教室からダッシュできたんや。

「あ、ああ……」

 田中は気弱そうにハンパな返事しとるけど、瀬田は舐めた薄ら笑いしとる。

「すまん、忘れとった。すぐ戻るから、先に教室いっといてくれや」

「酒井さん、教室もどろ」

 榊原さんが気弱そうに袖を引く。

「いっしょに戻って!」

「喉乾いたから、水飲んでからいくわ」

「掃除すんでからにしてよ、ほら、箒!」

「水くらい飲ませろや」

「いま飲まなら死ぬんか!?」

「わ、分かった分かった」

 不承不承やけど、箒を持って回れ右しよった。玄関前の掃除監督やってた春日先生がニッコリ頷いてる。見てくれてはったんや。さすが学年主任の先生やと感動した。

 ゴミ捨ては四人でジャンケン……負けてしもて、一人で行くことになる。

「ゴミ捨て場憶えときたいから付いていくわ」

 なんと、気弱の田中が申し出る。「わたしも付いていく」と榊原さん。なんか、ひとり帰るのがきまり悪そうで、瀬田も無言で付いてきよる。

「ありがとうね、着いて来てくれて。うちも正門とこでガミガミ言うてごめん」

「あ、ええてええて」

「握手しとこ!」

「え、あ、いや……」

「せやさかいに、握手!」

 むりやり四人で握手。瀬田は意外なくらい手に汗かいとった。そんなに悪い奴やないそう。

 菅ちゃんに言いつけたろ思たけど、ヤンペにした。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら   この物語の主人公 安泰中学一年 
  • 酒井 歌     さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。
  • 酒井 諦観    さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦一    さくらの従兄 如来寺の新米坊主
  • 酒井 詩     さくらの従姉 聖真理愛女学院高校二年生
  • 酒井 美保    さくらの義理の伯母 諦一 詩の母
  • 榊原留美     さくらの同級生
  • 瀬田と田中    同級生の男子
  • 菅井先生     担任
  • 春日先生     学年主任
  • 米屋のお婆ちゃん

 

 

 

 

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・003『超ド級』

2019-04-16 07:41:17 | ノベル2

時空戦艦カワチ・003

『超ド級』          

 

 

 超ド級という言葉がある。
 

 桁外れに優れている様を言い、スカイツリーは超ド級の鉄塔だ! 超ド級の新人! という風に使う。
 

 語源は1905年に竣工したイギリス海軍の戦艦ドレッドノートから来ている。  

 それまで二連装二基の主砲が標準装備であったのを倍以上の二連装五基とし、速度も従来の戦艦よりも三ノットほど速い二十一ノットを実現した画期的な戦艦だった。 単純に言うと、世界中の戦艦でドレッドノートに勝てる戦艦が無くなってしまい、日露戦争での最新鋭最殊勲艦である三笠をも一夜にして陳腐化させた画期的な戦艦であった。  

  世界中がドレッドノートに対抗するために戦艦のモデルチェンジを計った。それをド級・超ド級という。
 

 そして1912年に竣工した日本最初のド級戦艦が戦艦河内である。
 

 数ある日本戦艦の中で最も影が薄い。  

 戦艦大和や三笠などは、映画やアニメでよく知られている。 しかし『戦艦河内』と発音すると、なんだか冗談のような響きがする。 腹の突き出た河内のオッサンがイッチョマエに阪神タイガースのユニホームを着てバッターボックスに立ったような滑稽さがあって、強さとかカッコよさからは程遠い。 とても『艦これ』とか『はいふり』のようにアニメになったりグッズが売れるような気がしない。『ガルパン』だから聖地大洗に行ってみようという気になるが、『戦艦河内』の聖地河内に行ってみようという気にはならない。
 

 戦艦河内は就役三年十カ月の1917年に山口県の徳山湾で謎の大爆発を起こして爆沈している。
 

 その四年に足らない生涯は戦艦大和とほぼ一緒で、謎の爆沈という点では戦艦陸奥に比肩せられる。
 

 しかし目立たない。
 

 時代が超ド級戦艦に移りド級戦艦はほんの十年ほどで意味を失ってしまったことと、河内という名前にあると思うのだがどうであろう。
 戦艦河内の艦内には楠正成像が安置されていた。四条畷神社の真景額とともに大阪から寄贈されたものである。 爆沈後は回収されたが、正成像の行方は定かではない。
 

 そして、その正成像を鋳直して作られたのが正成の娘・千早姫の像である。
 

 恩地工業の帰り道、高安の古道具屋で桐箱を買い求めて収め直し、帰宅してからは八畳の事務所に安置した。 恩地社長の心だと思った。 とても資金の融通はできないが、同じ海自の出身者として、河内の零細企業の経営者としてのせめてものエールであったのだろう。 勝算があっての金策ではなかったが、この千早姫の像を得られたことで了とするする喜一であった。
 

「あさって出て行くさかい」
 

 住宅兼事務所のドアが開いたと思うと、ただ今の一言も無しに友子。

「行く当てはあるのか?」 「だれかの金策とはちゃいます、とりあえず恵子伯母ちゃんのとこ。高校出るまで居ってええ言うてくれるさかい……」 「そっか」 「ここに居っても、月末には出て行かならあかんさかい」

 月末には住宅兼工場を明け渡さなければならない、とっくに抵当に入っているからだ。 「友子」 「なんやのん」  返事はするが、友子はそのまま事務所裏の自室に行ってしまう。 喜一は金庫から封筒を取り出すと、くたびれたソファーに尻を沈めた。
 

「今夜は帰らへんさかい」
 

 あらかじめ準備をしていたのだろう、キャリーバッグを引きずりながら友子が出てくる。

「待ちなさい」 「うっさい! 干渉せんとって!」 「干渉じゃない、これ、持ってけ」 「え、な、なんやのん?」

  差し出された封筒の手触りで、中身が通帳であることが分かった。

「友子が生まれた時からお母さんが貯めていたんだ。学費か結婚資金に」

「お母さんが……」

「俺も少しは入れてるけど、大半はお母さんのやりくりだ。足りない分は自分で稼いでくれ」

「ゼロが……六つ? う、受け取れないよ」

「俺が持っていても借金取りに取られるだけだ」

「そ、そう……」
 

 友子が出て行っても喜一はじっとしていた、何もすることがない。
 昼前までそうしていて、テレビを点けた。 ワイドショーでは相変わらず内閣を非難、国会では総理が友だちと会食した時の領収書を出せとか、出せないのはヤマシイことがあるからだと難癖をつけている。

 X国の核ミサイルが飛んできたというのに、それについては「誤射であった」ということだけで収めてしまっている。 X国はミサイル部隊の指揮官と技術者を処刑した。そのことをもって「誤射であった」と納得しているのである。

「この国も終わるかもしれんなあ」  

 数日で自分が終わってしまうかもしれないのに、つい考えてしまう喜一である。
 

 いつの間にかニュースになっていた。
 

「このクソ暑いのにラグビーか」

 花園ラグビー場では大学ラグビーの試合をしていた。 そう言えば学生だった頃に、ラグビー部のピンチヒッターでをやる羽目になったことがある。

「若かったなあ……」

 妻の美子とは、それが縁で知りあった。あれも夏の花園だった、人生で超ド級の出来事であったのかもしれない。

「ん…………」

 カメラが切り替わって観客席を抜いた。

 観客席に友子が居る。隣りには学生らしき男が座っている……喜一はスイッチを切った。

 数時間ぶりに立ち上がると千早姫の像と目が合った。
 

 千早姫が怒っているような気がした……。  

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高校ライトノベル・時かける少女・70『スタートラック・10』

2019-04-16 06:43:06 | 時かける少女

時かける少女・70 

『スタートラック・10』         

 

 ☆……惜別の星 その一
 

「なんで、この星に寄らんとあかんのかね……」 「ファルコンZの意思です」 「クライアントの注文か?」 「区別がつきません。船長のチューンがデリケートなんで」「俺のせいか?」「いいえ」「コスモス?」「着陸態勢に入ります、話しかけないでください」「怒ってる?」「……」

 珍しくコスモスの機嫌が悪い。 

 「ここって、なんの星なんですか?」

 タバコをふかしだした船長と、機嫌の悪いコスモスの代わりにバルスが言った。

「百年ほど前は、人類が到達できる、もっとも遠い星だったんだ。だから、ここから先に行く奴は命の保証がない。それでも宇宙の魅力に取り憑かれたやつらは、ここから旅立って、その大半は帰ってこなかった」
 

 それで、この星は寂しいんだ。西部劇のゴ-ストタウンみたい。ミナコは、そう思った。
 

「取りあえず、宿へ行こか……」 「ここに泊まるの?」 「ああ、そういうシキタリでな……」
 

 二階建ての、酒場と宿を兼ねたような建物だった。
 

「おーい、だれか、おらへんか!」 「船長、そこのボードに……」
 

 フロントのボードに色あせた紙が貼ってあった。

『下の畑にいます』

 不思議なメモで、日本語にも英語にも中国語にもミナコには分からない言語にも見えた。まるで宇宙港のインフォメーションボードのようだったけど、なんの仕掛けもない。ただの日に焼けた紙きれだった。

「船長みたいな男は、他にもいるってことさ」

 バルスは、そう言いながら出口に向かった。嫌がっている船長以下を促すように。
 

 灌木の坂道を下ると、広い麦畑に出てきた。

 一人の弁髪の老人が、よちよちと蟹歩きをしていた。ミナコたちに気づくと、ウロンゲに見つめたが、何かに気づいたようで、パッと明るい表情になり「こっちへ来い」というサインをした。

「いやー、マークのボウズじゃねえか。その稼業でここに寄っちゃ、足がつくぜ」

「それがなあ……」

「今回は、正式なクライアントからの輸送業務なんです。これが依頼状です。ちゃんと連邦政府の認可が下りてます」

 コスモスが、空中にバーチャルモニターを出して見せた。

「こんな畳みたいな大きさにせんでも見えるよ。コスモスは気を遣いすぎる」

「わたしのこと、分かるんですか!?」

「以前とはボディーが違うが、個性はコスモスだ。このボーズがイジリ倒しても、ワシには分かる。以前は、もっとコケティッシュなガイノイドだったが」

「このバルスとコスモスは化けもんや。このごろは自分で勝手にアップロードしよる。今はうるさいカミサンと、親類のオッサンみたいなもんや」

「いいトリオだ。しかし、この依頼状は正式だが、こんなクライアントは存在せんぞ」

「一部上場企業だぜ。運輸局の審査も通ってる」

「壮大なダミーだ。運輸局の審査を通ったってことは、地球規模のイカサマだ。マークほどのボウズが知らんわけじゃないだろう」

 船長は苦笑いするだけだった。コスモスの機嫌はいつのまにか直っている。

「そのお嬢ちゃんたちは? 一人はガイノイドのようだが」

「今度の積み荷の一つさ。もっとも届け先は、もっと先に行かなきゃ分からんが」

「ということは、輸送目的も分かってないな」

「ああ……」

 ミナコは、その言葉に不安になった。

「ちょっと、ちゃんと約束通り帰してくれるんでしょうね!」

「そりゃあ間違いない。依頼状にもミナコは帰すように書かれてる」

「こういう書類は、読み方次第なんだが……まあ、マークの読みは間違いなかろう。大きなところではな。そうでなきゃ、ここに無事に立っているわけがないからな。まあ、つもる話は麦踏みをやりながらやろう。あの畑の端まで手伝ってくれ」

「ああ、いいよ」

 畑は、歴史遺産の東京ドームの倍ほどあった。ミナコはゲンナリした。

 オジイサンの名前が李赤ということは、そのあとの自己紹介で分かった。 そして、「昔はなあ……」という枕詞が付く話を百ほど聞いて、やっと、麦畑の端まで来た。
 

 そして、息を呑んだ。
 

 町の下に麦畑、さらにその下に広がっていた。
 

 一面の地平線までもあろうかという墓標の群れが……。

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