ノラ バーチャルからの旅立ち・3
時 百年後
所 関西州と名を改めた大阪
登場人物
好子 十七歳くらい
ロボット うだつの上がらない青年風
まり子 好子の友人
所長 ロボットアーカイブスの女性所長
里香子 アナウンサー(元メモリアルタウンのディレクター)
チャコ アシスタントディレクター
ロボ: ナツカシイマチダネ……。
好子: うん?……メモリアルタウンだからね。
ロボ: エ?
好子: 二十世紀の街の姿が、わりによく残ってるんで、二年前に大幅に手を加えて野外博物館にしたの。 あの電柱とかブロック塀とか……ほら、あのお店とかあっちのお店のバリアーね「シャッター」っていうんだよ。 鉄でできてて、開け閉めのときは、ガラガラってレトロな音がするんだ。 道ばたの大きな箱みたいなのは自動販売機っていってね、お金入れないと商品がでてこないんだ。 だから、ここに入るときは百年前のコスプレ。
ロボ: ワカッテルヨ、ソウジャナクテ……(自販機で缶コーヒーを二つ買う)
チャリン、チャリン。ポン、ゴトゴト。ポン、ゴトゴト。ン(缶コーヒーを渡す)
好子: ありがと。
ロボ: プシュツ。ココ、野外博物館ニナル前ニ……好子ト初メテ歩イタ道ダヨ。
好子: ほんと? プシュツ。
ロボ: ……忘レタ?
好子: えーと……。
ロボ: オ母サンモ、イッショダッタ。ソノトキボクニ名前ツケテクレタンダヨ。 オ母サンハ、タケシニシヨウッテ言ッタンダケド。好子ガ、マワラナイ舌デ「ロボクンガイイ」ッテ決メタンダ。 即物的デ、マンマノ名前。ナンテ想像力ノナイガキ……子ダト思ッタ。
好子: 悪かったわね。
ロボ: デモ、今ハ気ニイッテル。 人型ロボットノ出ダシノコロダッタカラ「ロボクン」テ名前ニハ、好子ノ夢ト憧レガ詰マッテルンダ。
好子: そうだったんだ。ずっと子供のころのことだからね。
ロボ: マアネ……アノトキハ、今トハ逆ニ、ムコウカラコッチニ歩イテキタンダケドネ。
好子: ……むこうから、こっちへ……。
ロボ: 思イ出シタ?
好子: うん……。
●
上手からエキストラになった里香子とチャコがキャーキャーいいながらくる。
里香子: ようし、ここでジャンケンだ!
チャコ: ええ、まだ電柱一本分あるよ。
里香子: ちゃんと数えてたんだからね。
チャコ: もう一本あるって!
里香子: ちゃんとGPSで数えてんだからね。
チャコ: あ、それ反則!
里香子: ちがうよ、これ二十一世紀のスマホなんだからね。
チャコ: ちぇ、仕方ないなあ。
里香子: いくぞぅ!
二人: 最初はグー。ジャンケンポン!
チャコ: わあ、勝った!
里香子: くそ、やぶ蛇かよ。
チャコ: よろしくね(二人分のカバンとサブバッグを渡す)
里香子: 最後に負けたら、タイ焼きおごるんだからね!
チャコ: はいはい、負けたらね。
二人下手に駆け去る。見送る二人。
●
ロボ: カシャン(空き缶を捨てる)
好子: 少し……カシャン(空き缶を捨てる)思い出した。 ……きっといいことがあった後なんだよね。夕日を背に受けて、ながーい影を踏みっこしながら……家に帰ったんだ。
ロボ: ソウダヨ。
好子: 入院かなんか……してたんだっけ、わたし?
ロボ: 思イダシタ?
好子: ……だめ、そこまで。だって、とっても小さいときのことなんだもん。でしょ?
ロボ: ウン……マアネ。
好子: わたし無意識のうちにこの道を選んでいたのね……ほかに近道もあったのに。
ロボ: ドウシテ?
好子: さあ……。
ロボ: サア?
好子: だって、わかんないから無意識って言うんじゃないよ!
下手端、里香子とチャコが現れ、チャルメラと、犬の遠吠えを器用に口で真似る。
ロボ: コノ街ヲ維持スルノ大変ナンダロウネ。
好子: そうよ。あの犬なんて、純粋の雑種なのよ(皆ずっこける)なにがおかしいのよ。
ロボ: 純粋ノ雑種……非論理的ダ。
好子: 想像力のない頭してんのね。
ロボ: 安物ノCPU使ッテルンダモン。
再び、犬の遠吠え、チャルメラの音。里香子、チャコ去る。