大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・017『藤棚の下』

2019-04-18 15:18:07 | 小説

魔法少女マヂカ・017  

『藤棚の下語り手・マヂカ  

 

 

 魔法にしておけばよかった。

 

 なにって……ほら、友里の妹を助けたことよ。

「危ないって思ったら、体が動いてしまいました(^_^;)」

 お母さんからお礼を言われて、そう答えるしかなかった。

 妹を抱きかかえて二回転した道端。そのままずらかってしまえばよかったんだけど、ショックで泣きじゃくる子を、そのままにもできないでしょ。

 すぐにお母さんが駆け寄ってきて、何度も頭を下げられるんだもん、そのままドロンなんてできないよ。

 おまけに、わたしは学校帰りの制服姿。それも、上の娘と同じポリ高というのはお見通しだし。

「あら、友里と同じ学年色!」

 リボンの色で同学年てとこまで悟られてはウソはつけない。

 それにね、この日暮里高校女生徒大活躍の顛末は、妹を跳ねそうになった軽ワゴンの車載カメラや複数の通りすがりの人が動画に撮っていたしね。いやほんと――隙あらば撮ってやる!――って根性なんだもん。人間にスマホなんて持たせるもんじゃないわよ。

 え? だから仕方ないじゃん。

 人相も割れてるし、適当な偽名つかってオサラバもできないでしょ。こんな美少女、ポリ高に二人と居ないしね。

 自分で言うか?

 言うわよ。魔法少女よ、魔法少女ってば美少女だって、セーラームーンの」昔からデフォルトじゃん!

「なによ、その生温かい目はああ!」

「ま、しっかりやんな。もう、友里がくるしな」

「え! もう時間!?」

 

 友里の妹を助けたあくる日の朝。わたしは、友里に中庭で会いたいと言われて藤棚の下で待っているのだが、先回りしていたケルベロスに捕まって説教されていたのだ。ケルベロスが消えるのと友里が中庭に姿を見せるのが同時だった。

 

「昨日は、妹を助けてくれて、どうもありがとう……」

 友だちらしからぬ慇懃さで頭を下げる友里。

「あ、いや……」

「………………」

 黙っていても分かる。

 あの直前、友里は妹といっしょのお母さんを見つけて、とっさに道を曲がったんだ。父と再婚して家族になったばかりの母親。なんの心の準備もなく出くわすのは怖かったんだ。

 でも、そうやって二人を避けたことが、妹を危ない目に遭わせたんだと自分を責めている。自分が出くわしていれば「危ない!」って注意できた。妹は面白いもの、ワクワクするものを見つけたら、ウサギを見つけたアリスみたいに飛び出していく子なんだ。お義母さんは、まだ日が浅いから、そんなこと、とっさには分からないんだ。

 そんなことで、自分を責めんなよ!

 言うのはやさしいけど、言って納得するようなやつじゃないしな。

「ま、座ったら」

 ベンチの隣に誘った。

「う、うん」

「………………」

 今度は、わたしが黙ってしまった。

「友里は、どうして東池袋なんかにいたの?」

 藪蛇だ。まさか――友里を着けていたから――とは言えない。

「ああ、えと、兄貴が東池袋に引っ越してくるのよ。それで、兄貴といっしょに物件を探しにね」

「お兄さんがいたの!?」

「え、あ、まあ、不肖の兄貴なんだけどね💦 なにかと手が掛かんのよね、これがまたさ💦」

「う、うらやましいなあ。わたし、二人姉妹の上でさ、昔っからお兄ちゃんかお姉ちゃんが欲しかったんだよね。ね、こんど会わせてよ! てか、東池袋ってばご近所でじゃない!」

「そ、そだね」

 お世辞じゃなく羨ましがってる。

 兄貴がいれば、親の再婚でこんなに気を遣うことも無かっただろうしなあ。

「真智香のお兄さんなら、きっとイケメンの優しい人に決まってるし!」

 これも、わたしの姿形と言動からの申し訳ないほどの類推。

 これは、ほんとうに東池袋の兄貴をでっちあげなくてはならない。

 じゃなくて、友里の事だよ、友里を楽にしてやらなくっちゃならないんだよ。

「友里、あんた、家族の事で悩んでるんだろ」

 唐突だけど直球でいってみた。

「え?」

「お弁当の事とか、友里の諸事情で……図星?」

 目を見張ると、友里はホロリと涙を流した。

「分かるんだ……」

「なんでも話してごらんよ」

 そう言うと、友里の心に――週末の旅行――という言葉が浮かんだ……。

  

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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・005『千早姫現る』

2019-04-18 06:58:27 | ノベル2

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・005   
『千早姫現る』  
        



 三つ呼吸しておかしいと思った。

 熱線も衝撃も襲ってこないのだ。

 核ミサイルの弾頭は高度四百から五百で炸裂する。この高さが一番効果的な打撃を与えられるからだ。
 一度炸裂すれば、中心部分で三百万度に達する高熱を発し、地上の半径二キロにあるものを瞬時に蒸発させる。
 東大阪市A町にある喜一の住宅兼工場は炸裂の中心からざっと四キロ。蒸発はしないまでも、熱線に焼かれた次の瞬間に衝撃波で粉々にされて、東に衝立のように聳える生駒山に叩きつけられるだろう。

 それがやってこない。

 ゆっくり目を開けると、目の前に千早姫の像が空中で静止している。
 ミサイルの炸裂を感じた時に思わず放り投げてしまったのだ。それが空中で静止している……。
 ゆっくり目玉を動かすと、机や椅子の脚越しに事務所の景色が見える。なんだか「わたしを飲んで」のタグが付いた薬を飲んで縮んでしまった不思議の国のアリスのようだ。アリスなら「わたしを食べて」のクッキーを齧れば大きくなれる。
 しかし、喜一は縮んだわけではない。とっさの退避行動で床に伏せただけなのだ。

 立ち上がると、効きの悪い冷房の補助に点けていた扇風機が停まっている。時計の秒針も、緩い水道の蛇口から垂れていた雫がシンクとの間でガラスの球のようにキラキラしている。
 窓の外に見える空には炸裂した瞬間のミサイルが高輝度の電球のようだ。

 時間が停まった……?

 微妙な気配に振り返ると、千早姫の像が床上一メートルほどのところで旋回し始めている。
 じきに旋回は急速になって光を放ちながら育っていき、数秒後には人の形になった。
 やがてデテールがはっきりすると、見慣れた姿になった。

 友子…………。

 二日前に飛び出して行った友子が学校の制服姿で立っている。
 ただ、着こなしが違う。
 いつもアニメの女子高生のように着崩している制服が入学案内のようにピシッとしている。
 だいいち夏休みのこんな時期に制服を着るような友子ではないし、家を出た時はイケイケの私服だったはずだ。

「えと……わたし千早です」

 喋った……まだ素直だったころの友子の声だ。

「娘さんの姿をしているけれど、楠正成の娘の千早です。恩地さんのブロンズ像に入っていたんですけど、やっと実体化できました」
「え……あの……この状況は?」
「時間を停めています、ただ事ではありません。ちょっと緊急事態なんです。喜一さんの力が必要です、急な話ですが、まず車を出してください」

 クエスチョンマークで一杯だったが、喜一は指示に従った。
 ここで問答していても、この状況は簡単には理解できないだろう。

 目に見える全てが停まってしまったが、自分の車は普通に発進できた。

「どこへ行ったらいいんだろう」
「花園ラグビー場に向かってください。安全運転でお願いします」
 全てのものが停まっているのに安全運転は可笑しかったが、なにごとも基本に忠実というのは喜一のモットーにも一致する。
 制限速度を五キロだけオーバーするという大阪では大人しめな速度で花園を目指した。
 習慣で赤信号で停まってしまう。
「信号は守らないでください、赤信号は永遠に赤信号です……時間停まってますから」
「そっか……どうして時間が停まっているんだろう」
「わたしが停めたからです」
 
 どうやってとかどうしてという言葉がせき上がって来るが、理解できる答えは返ってこないだろうと頭をめぐらす。
 姿かたちは友子だけれども、助手席から感じるオーラは別の人格……いや、人でさえないのかもしれない。

「正成の娘さんが、どうして標準語?」
「フフ、十四世紀の日本語を喋ったら意味わかりませんよ」
「そっか……」
「それに、早くから兄の正行に付いて都に行ってましたので、普段の言葉は都言葉……いまで言えば標準語になります」
「なるほど」
「ラグビー場の手前の交差点で停めてください」
「中には入らないの?」
「中身の方から寄ってきます」
「中身……」

 停車して数秒経つと弱い地震がきた。

「間もなくです」
 
 ゴゴゴゴーーーーー

 地滑りのような音がすると花園ラグビー場の観覧席越しに二本のポールが突きだしてきた。
 ポールには横桁が付いていて、電柱ほどの高さになるとポールの間に三本の煙突が現れ、前と後ろに四角い構造物……。
 次の瞬間四基二連装の主砲が露わになった。
 全貌が姿を現しても常識に飼いならされた頭脳はすぐには追いつかない。

 あれは…………百年前に爆沈したはずの……

 戦艦河内!?     
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高校ライトノベル・時かける少女・72『スタートラック・12』

2019-04-18 06:23:43 | 時かける少女

時かける少女・72 

『スタートラック・12』        
 

☆……パト船との遭遇 
 

 前の貨客船、左へ寄せて停船しなさい。
 

「どうします。振り切りましょうか?」  バルスが、ニヤニヤしながら船長に聞いた。

「法令遵守。おれ達はまっとうな交易船やからな」

「では、そのように。ポチ、お巡りさんに噛みつかないようにね」 「退屈だから、警察犬にでもしてもらおうかな」 「ミナホとミナコは、二流のアイドル。情報はポチからもらってくれ」
 

 パト船にバレないように、ミナホはコネクターで、ミナコはハンベをポチの首輪に繋いで情報をダウンロードした。

 男女二人ずつの警官が乗船してきた。

「船籍証、積み荷の明細、乗員の身元証明」

 最上級の警部補が、エラソーに言って。部下三人には、船内の捜索を命じた。

「ファルコン・Z……といいうことは、あんたが有名なマーク船長?」

「あんたの息子がサインを欲しがるほど有名やないけどな」

「あいにくうちは娘なんでな」

「ほんで、おれみたいな個人営業になんの用だい?」

「……この船は、火星ツアーの飛行許可だけで、太陽系から出ることは許可されておらんようだが?」

「よう見てみい。圧縮変換したあるけど」

「まさか、こんなモグリが……」

「な、文句あるか?」

「本物のようだが……目的地と航行目的が記載されとらんが?」

「失礼やけど。あんたらみたいな立場のお巡りさんには言えんほどの重要任務やねん」

「ちょっと、管制本部に問い合わせるぞ。おい、この航行証明の照合!」

 女性警官が、警察用のハンベで照合した。

「……本物です。クラスAの機密で、私たちでは閲覧できません」

「な、言うたやろ」

「なら、なんで冥王星で停まらなかった?」

「あそこの司令は、こんなものじゃ通してくれへん。ちょっとでも、不明なとこがあると罰金や……でや、それが、ここ一年の司令の記録や。保存してくれてもええで」

「いや、閲覧で十分だ。これは見なかったことにする」

「とりあえずの行き先は、三丁目星や。この二人はヒヨコやけどアイドルや。で、営業。なんやったら、二人に確かめ」
 

 ミナコは、警部補がやってくるまでに情報を送った。近寄られるのもいやなタイプだ。
 

「双子でも、個性がちがうんだな。ミナホの方は気にしないようだな」  

 そう言って、ハンベを接続してきた。ハンベの直接接続は、警察でも令状がなければできない。個人情報が全部分かってしまうからだ。

「間違いない。興業ライセンスも本物だ。まあ、励むんだな」

「おたく、娘さんやろ。なんやったらサインさせたげよか。人気が出たら、ちょっともらいにくなるで」

「いいよ、おれ達は仕事でやってるんだからな」
 

 そう言いながら、言葉のうらには「売れないアイドル」という侮蔑の気持ちが隠れていた。
 

「キャップ、積み荷はジャンクばかりです。違法なものはありません」  部下が報告にきた。

「名前のわりには、地味な仕事をやってるようだな。ま、ぼちぼちやんな」

 クラスAの機密は、見たこと自体記憶から消している。いいかげんな警察だとミナコは思った。

「それからなあ、太陽系出たとこで海賊に襲われたで。そういう取り締まりもやってくれよな」

「船は無事なようだが……」

「我々が撃退しました」  コスモスが無機質に応えた。

「戦闘詳報送りましょうか?」

それには及ばん。被害が無いのなら、なにも無かったのと同じだからな」  

 ミナコはあきれた。

「まあ、気いつけて帰りいや。海賊はマグダラや。パト船でも容赦ないで」

「マグダラ……情報をよこせ!」

「すまんなあ。そっちが、いらん言うた時に削除してしもた」

「ゴミ箱に残ってるだろう!?」

「清潔好きなんで、ゴミ箱はいつも空にしてます」

「くそ……」

「船長、0・2パーセクにマグダラの船。接近してきます」

「え、さっさとひきあげるぞ!」
 

 パト船は、慌てていなくなった。
 

「バルスも芝居うまいなあ」

「ダミーの情報つくっただけです。ちょっと凝りましたが」

「ようでけたダミーや。しばらくパト船追いかけさせとき」

「了解」

「船長、ミナホちゃん、どうしてガイノイドってばれなかったんですか?」

「簡単に言うで……惜別の星に寄ったからや」
 

 ミナホが、かすかに笑った。ミナコに似ているが、ミナコは、こんな笑顔はできないと思った。
 

「では、三丁目星に向けワープします」
 

 ファルコン・Zは三丁目星を目指した……。

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