大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・004 『深夜に鳴り響く』

2019-04-17 06:26:17 | ノベル2
時空戦艦カワチ・004  
『深夜に鳴り響く』          

 
 
 友子が出て行ってから二日がたった。
 
 喜一は工場と住居の清掃に時間をかける。  来週には差し押さえられる。  差し押さえられるにしても綺麗にしておきたかった。
 
――大石内蔵助は赤穂城明け渡しに当たり城内をくまなく掃除した――
 
 祖父が幼い喜一を膝にのせ、テレビの忠臣蔵を観ながら言った言葉を思い出したが、動機は別だ。
 
 海自時代、退役艦の乗り組みになったことがあった。退役艦での最後の任務は艦内清掃である。 米軍のようにモスボールされることもなく、次年度にはスクラップになるか標的艦として撃沈されることが分かっていたが、それでも艦長以下の乗組員は新品同様のピカピカになるまで磨き上げた。その心理……いや、どちらでもいい。
 
 小林喜一というオッサンのこだわりでいい。
 
 最後に恩地社長からもらった千早姫のブロンズ像を磨いた。
 こういう美術品は闇雲に磨いてはいけないのかもしれないが、喜一は艦の真鍮金具を扱うように丹念に磨いた。
 ほぼ磨き終って気が付いた。
 
――差し押さえられれば、このブロンズ像は人手に渡ってしまう――
 
 ここを出る時に持ち出して恩地社長に送り返そう。
 
 思い立つと、その旨をメールした、深夜であったにもかかわらず、社長は折り返し了解の返事をくれた。
 
 パソコンを切ろうとするとネットニュースが目に入った。
 
 奈良県の送電鉄塔脚部のボルトが外されて傾き、安全のため送電をストップしたらしい。
 
――奈良県だけじゃないだろう、朝になったら他にも発見される――
 
 朝になると別のニュースが目についた。
 
 神奈川県で新幹線が脱線した。信号トラブルで徐行していたので大事には至らなかったが、レールの犬釘が緩められたことが原因とあった。
 
――これはX国の工作員の仕業だな――
 
 日本国内の混乱を呼び起こすつもり……だったとしたら、これ以上のミサイル発射はないか……?
 
 野党やマスコミは工作員による破壊活動とは認めなかった。 経年劣化などによる事故の疑いがあり、破壊活動と見るのは内閣の不正疑惑を隠すための卑怯なプロパガンダであるとした。
 国家安全保障会議が開かれるほどの案件でありながら、野党による反対を受け、予定通りの不正疑惑に関わる集中審議に時間は費やされた。
 午後になると送電鉄塔と新幹線のトラブルは一ケタ増えて、首都圏は大騒ぎになった。  
 それでもテレビのコメンテーターは「バブル期のいい加減な建設のツケがきた」とトンチンカンを言っている。
 もう、アジアの某大国並のアホラシサだ。
 
――内乱が起こるかもしれない――
 
 しかし、事態は喜一の恐れさえ超えてしまった。
 
 X国のミサイルが五発同時に発射されたのだ。三発は日本海のイージス艦により撃ち落され、一発はパック3ミサイルで破壊されたが、一発が撃ち漏らされてしまった。
 
 深夜であったがJアラートがスマホで鳴り響いた。かと思うと、数秒後には街の防災サイレンが鳴り響いた。
 
 核ミサイルならなにをしても無駄だ。
 
 事務所の窓から覗くと、西の空に三つの火の玉が見えた。打ち漏らした対空ミサイルと、もう一つはX国のミサイル本体だ。
 喜一は反射的に避難姿勢をとった、海自時代に身に染みた反射行動だ。
  それでも慌ててしまったのだろう、瞬間身体に力が入ってしまい、千早姫の像を放り投げてしまった。
 シマッタと思いながら退避行動をとってしまう。床に伏せ両手で耳と目を塞ぎ口を開けるの。 衝撃と爆風から耳目を守り、内蔵の破裂を防ぐ教範通りの姿勢だが、あれが核ミサイルなら何の役にも立たない。
 
 二秒後上空で、とんでもない光の玉が光った気配。
 
 直観で核ミサイルだと観念した。
 
 直後、熱線と衝撃がやってくる……。   
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高校ライトノベル・時かける少女・71『スタートラック・11』

2019-04-17 06:10:43 | 時かける少女
時かける少女・71 
『スタートラック・11』         

 
☆……惜別の星 その二
 あれは、ここから飛び立って行った阿呆どもの墓標さ。
 
「飛び立った……帰ってこなかったんですよね」
「そうだよ……」
「じゃ、墓標の下には何もないんじゃ?」
「誓約書と、阿呆のメモリーが入っている」
「誓約書?」
「ああ、ここから先はレスキュ-もしてもらえない未知の宇宙だった。で、自己責任で行くって誓約書が要ったんだ……」
「何人ぐらいいるんですか……?」
「それは、知らない方がいい」
 
 意外なことに、無口なバルスが答えた。
 
「数え方で答が違うのよ……」
 
 墓場から吹き上げる風に髪をなぶらせながらコスモスが続けた。
「人間だけじゃなく、アンドロイドやガイノイド、ペットロイドも入っている」
「中には、自分のパーソナリティーを船やロイドにコピーして飛ばしたハンパなやつもいてるんや」
「そういうやつらは、コピーが行方不明になると、なぜか間もなく死んでしまった。そういう阿呆も一部混じっておる。だから、わしは聞かれたらバカほど……と、答えている」
「で、バカって、どのくらいて聞かれると、阿呆ほどと答えよる。それが正しい答や」
 
 そのとき、フライングデッキに乗ったひっつめ頭の女の人が墓場からやってきた。
 
「やあ、船長もみなさんもお変わり無く。コスモス、イメチェンね」
「まあね」
「ティラミス、なんか、すっかり馴染んでしもたみたいやな」
「もう、行くとこもないしね。それに、あたしが居なくなったら李赤のジイチャン困るしね」
「ハハ、そういうことにしとる。ティラミスほどのガイノイドならいくらでも生きていく道はあるんだけどな」
「このお二人さんは?」
「ああ、ミナコ。よろしく」
「あたしは、ミナホ」
「……読めないわね、あなたたちの目的」
「そらそうや。オレかて知らんもんな」
「船長らしい」
「わたしには、使命があるの。なにか、よく分からないけど」
「あたしはバイト。それが、なんの因果か……」
「まあ、マーク船長なら大丈夫だわ」
 
「ティラミス、墓場でなにかあったの?」  コスモスが聞いた。
 
「お墓が百基ほど無くなってるの」
「このごろ、この辺の宙域が騒がしいからな、昔の血が騒いで、飛び出したかな……」
「それとも、さらわれたか。あのお墓の住人達の情報は全部解析されてる訳じゃないから」
「まあ、いくらかは戻ってくるだろう。ここの静けさが気に入りだしたやつも多いから」
「ジイサン、少ないがお布施だ。とっといてくれ」  
 
 船長が古式ゆかしい『御供』と書かれたのし袋を渡した。
 
「すまんなあ……こんなに?」
「ちょいと火星で儲けたもんでな」
 いったい船長はいくら稼いだのか、呆れるミナコだった。
「あら、ポチの姿がみえないけど」
「船で留守番いうて、出てきよらん」
「ティラミスさんて、付き合い古いの、船長?」
「連れのアシスタントやった。船がやられて、アイツだけが放り出されよってな。それから、あの星に住み着いとる」
 
 それから、一行は多くを語ることなく船に戻った。 
 
「周回軌道、離脱します」
 
 バルスが静かに言った。惜別の星がみるみる小さくなっていった……。
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