大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・ひょいと自転車に乗って・18『お隣りの輝さん』

2019-04-02 06:45:37 | 小説6
ひょいと自転車に乗って・18
『お隣りの輝さん』  
   


 ぜったいちがう!

 お母さんにたてついた。


「やっぱ、あの薬が効いたからよ。美智子だって、そう言ってたじゃない」
「あれは、熱にうかされてというか、気弱になってたからよ。風邪が治ったのは京ちゃんのお守りのお蔭なのよ」
「ハハ、そうね、きっと両方の御利益だわね」
「ううん、お守りのお蔭です!」
 お母さんは、それ以上は言わないで、意地悪な笑顔のまま朝食の後片付けを始めた。

 あの薬、座薬というらしいけど、あんなものをお尻に入れられるのは御免なので、ぜったい効能は認めない!

 お母さんが絡んでできたのは、チョー朝寝坊してしまったことへのお返しであることも分かっているので、たとえ日曜とは言え、朝寝坊なんかするもんかと心に誓った。
 誓っただけじゃ通じないだろうから、箒と塵取りとゴミ袋持ってヤードの掃除をすることにした。
 うちのヤードは二百坪ほどあって、所狭しと軍用車両が並んでいる。映画やテレビ、そのほかのイベントなんかに貸し出したり売ったりして飯のタネにしている。
「シャーマンの周りはいいからね」
 シゲさんの一言。表に出るとシャーマン戦車がバラバラにされている。
 履帯も砲塔も外され、車体の装具も溶接されたもの以外はみんな外されている。
 年末にアメリカから買ってきたものなんでリストアしているんだけども、この見事なバラシっぷりは、仕事というよりはホビーだ。
 ま、好きでなきゃ、この仕事はやってられないんだけどね。
 シャーマン戦車の周りを掃除しなくていいというのは、バラシた部品があちこちにあって、不用意に触ったりすると怪我をする恐れがあるから。なんたって鉄の塊、総重量33トンの車体は、パーツに分解されても、部品一つで何トン何百キロというものばかり。へたに接触すると倒したりして大怪我をすることがある。
 シャーマンを迂回しながら掃除をする。グレイハウンドの横を掃いてシャーマンの後ろ側に出る。   

 
 シャーマンのお尻のハッチを開け、ホースを突っ込んで、お父さんがエンジンルームを水洗いしている。
 なんとなく薬を入れられた時の自分を思い出してドギマギ。
「表を掃除しよ」
 ゲートを出て、ウーン……と伸びをする。首を回すとカキッコキッっと音がする。わたしもレストアかなあなどと思っていると笑い声。

 クスクスクス

 驚いて顔を向けると、畑中園芸の前に知らないオバサンが掃除をしている。
「お、おはようございます」
 間の抜けた挨拶。もう「おはようございます」の時間じゃない。
「じゃなくって、こんにちは」
 みっともなく言いなおす。
「こんにちは、如月さんの娘さんね?」
「は、はい美智子って言います」
「あたし、畑中園芸の娘。娘って歳やないけどね」
「あ、でも娘同士ですね!」
「ハハ、そうやね。ここしばらく、よう来んかったんやけど、たまに来ては親孝行の真似事してます」
「それは大変ですね、わたしも見習わなくっちゃ!」
「ホホ、ミッチャンもしてるやないの(箒と塵取りを持ち上げた)」
「アハハ、わたしのは気まぐれですから」
「いっしょいっしょ、ミッチャン、きれいな標準語使うんやね」
「あ、えと、十月までは尾道に住んでましたから」
「あ、そうなんや」
 ほんとは尾道なのに広島弁じゃないことの説明がいるんだけど、オバサンは納得してくれた。
「あたしは吉岡輝美て言います。もちろん元は畑中輝美やったけど、呼び方は輝ちゃんでいいわよ」
「そんな、目上の人に『ちゃん』では……輝さんでいいですか?」
「そやね、それでええわよ」

 それから、お天気やら八尾の話やらの世間話になった。輝さんは、姉御肌ってか包容力のあるオバサンで気楽に喋れる。
 わたしは、自分のことをキッチリ話しておきたい衝動にかられたけど、親友の京ちゃんにも言っていないことなので――京ちゃんに話してからだ――妙な義理立てをしてしまう。
「あ、あの子……」
 輝さんが、わたしの後ろに、何かを見た。つられて、わたしも振り向く。
「あ、イリヒコ」
「え、イリヒコていうのん?」

 なんと、輝さんにも見えたようなのだ!

 
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高校ライトノベル・時かける少女・56『第六回日本高校ダンス部選手権』

2019-04-02 06:26:47 | 時かける少女
時かける少女・56 
『第六回日本高校ダンス部選手権』 
       



 光奈子の目は釘付けになった……!

 新聞の真ん中のページに『第六回日本高校ダンス部選手権』が、見開きいっぱいに載っていたのである。見出しの下には、最優秀や優秀賞の学校の晴れ姿が何枚も紙面を飾っていた。

「え、全国ネットで放送!」

 何とも言えない悔しさや嫉妬心で胸がいっぱいになった。十月にFテレビでほとんど90分使って放送される。
 高校演劇は、長崎で全国大会が行われ、大阪の高校が最優秀になった。そのことだけでもオモシロクナカッタ!
 東京に比べ、大阪は質・量ともに半分だと思っていたからだ。それでも、このダンス部の目立ちようというか、厚遇ぶりにはムカツイタ! 参加校は、全国で235校に過ぎない。おそらく高校演劇の1/10ほどでしかないだろう。それが、それが……!

「それが、どうかした?」

 いきなり、アミダさんが網田美保のナリで光奈子の横に現れた。ちなみに場所は、本堂の外陣(げじん)である。ご本尊の阿弥陀様にオッパンを差し上げたあと、新聞を取りに行って外陣で読むのが光奈子の習慣になっている。
 大抵、一面をザッと見て、パラパラと30秒ほどで全ページを眺めて、テレビ欄で二三分というのが平均で、最近の例外は、東京オリンピックの開催決定ぐらいのものだった。

 でも、今日は違う。これを見てしまったのだ。

「不公平だと思わない。演劇部だって、こんなに頑張ってるのに!」
「そっかな?」
「え、なによ、それ!?」

 アミダさんは、美保のニンマリ笑いのまま消えてしまった。

「朝から冷やかしだなんて、仏さんがやることじゃないわよ!」

 と、ご本尊に当たり散らして、学校に行った。
「藤井、朝から機嫌が悪いな。なんかあったか?」
「なんにもありません!」
 親切な担任にまで、当たり散らした。

「ちょっと、図書館にパソコン見にいこう」
 昼休みに、網田美保が誘いに来た。
「YOU TUBEで、ちょっと見てご覧よ」
 美保は、カチャカチャと『高校演劇』の動画を出した。そこそこにアップロードされているが、なんか日頃の稽古風景や、コンクールの断片みたいなのが多かった。
「けっこうあるじゃん」
「アクセス数見てご覧」
「あ……」

 光奈子は納得した。高校演劇のアクセスは、何百ってのが大半で一万を超えるのは、ほんの数本。ところがダンス部は、数万というのがザラにあった。

「演劇部って、関心がひくいんだよね……」
「他人事みたいに言うんじゃないわよ」
「あたしは、がんばってるわよ!」
「じゃ、なんで『クララ』を演るわけ?」
「そりゃ、アミダさんが……」
「ほら」
「え?」
「ほんとうにやりたいのなら、やりたい本の二三本は持ってなくっちゃ。いつも台本は、篠田先生任せじゃないの」
「それは、昔から……」
「これ、見てごらん」

 図書館の一角に部室が浮かび上がった。十人近い生徒が、熱い議論をしていた。実存主義とか、異化効果だとか、ベケット、イヨネスコ、その他いろいろ、光奈子の分からない単語で口角泡を飛ばしていた。どうやら、やりたい芝居がいっぱいあって、みんなで論議していいるようだ。

「これ、あんたたちの先輩。50年ほど昔のね」
「高校生じゃないみたい……」
「あのころはね……」
 美保が指し示した書棚には、二段丸ごと演劇関係の本で埋まっていた。
「で、今は……」
 ラノベが、それに替わっていた。
「レベルが、まるで違う……」
「まあ『コクリコ坂から』の世界だと思えばいい。あと、これ見て」

 劇場いっぱいの観客、その中でかなりの割合で混じっている高校生。見ている芝居は、ことごとく大人の芝居だった。赤や黒のテント劇場もあった。そして、何十万冊という演劇の本、原稿、そしてカタチにならない芝居への情熱、そういうものが、ワッと光奈子に押し寄せてきた。

「ついでに、これも感じて……」

 光奈子の心を、心地よいけど、荒々しい情念と疲労感が満たした。演劇部の部活では感じたことがないものだった。

「なに、これ……」
「あるダンス部員が、練習の終わりに感じているものよ」
「こんなに入れ込んでるんだ……」
「それが分かればいいわ。じゃ、またクラブで」
 そう言って美保は、行ってしまった。

 パソコンの電源を落とし、シャットダウンを待っていると、文学書のコーナーで、懐かしい気配がした。
「ひなの……!」

 こないだ亡くなったばかりのひなのが、何冊も文学書を積み上げて……一心不乱に読んでいた。
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高校ライトノベル・秘録エロイムエッサイム・18(遠回りのエロイムエッサイム)

2019-04-02 06:14:56 | 小説4

秘録エロイムエッサイム・18

 (遠回りのエロイムエッサイム)
 

 

 男子高校生は、やってきた地下鉄に飛び込もうとしていた。
 

 真由は、向かいのホームから、とっさに「エロイムエッサイム」と唱えた。慣れないのでどんな結果になるかは分からない。

 結果は、体中の痛みで感じた。
 

 どうやら歩きスマホをやっていて、男子高校生とぶつかり、双方ホームに倒れこむという自然な形で魔法は効いたようだ。

「だいじょうぶ? 電車が入ってくるところに、スマホ見ながら歩いていちゃだめだよ」

 男子高校生は、自分が電車に飛び込んで自殺しようとしていたことなど棚に上げて注意してきた。

「あなただって……」

「うん……?」

「あ、いや、ごめんなさい。あなたの言う通りね。歩きスマホはいけないわ。ありがとう……って変かな。あたし、ひょっとしてホームに落ちるところだったから」

「あ、いや、オレの方だって……」
 

 男子高校生の話を聞いて、対応していると、30分も時間をロスしてしまった。

 放送局にいくのなんて初めてだったので、あらかじめ余裕をもって家を出たのだが、これでタイムロス。 スマホのナビをたよりになんとかギリギリで間に合った。
 

「うちみたいなところに、わざわざありがとうございます。でも、どうしてうちを選んでくださったんですか? 他にも大きな全国ネットの放送局も来てたでしょうに」

 山田和子プロディユーサーは正直に言った。

 親子ほどに歳が離れているのに、きちんと敬語で話してくれることにも好感が持てた。

「失礼ですけど、ローカル局だからお受けしたんです。あたしは、ただのヘブンリーアーティストです。まあ、公認の大道芸人というところですけど、あたしが出ることで、他のアーティストさんにも目が向けられればって、そんな気持ちでお受けしました」
 

 嘘八百である。山田和子プロディユーサーのお父さんが、春ごろに亡くなるからとは言えなかった。
 

 10分の時間を15分に伸ばしてもらった。歌を二曲、アナウンサーとのフリーなやり取りに10分というローカルにしても、ぽっと出のヘブンリーアーティストとしては、破格の条件だった。どうやら山田プロディユーサーも、これにテレビ屋生命をかけているようだった。そして打ち合わせが終わると、明日からさっそくにということになった。
 

 始発の電車なのに、昨日の男子高校生は、駅で待ってくれていた。
 

「昨日は、ありがとう。先生が謝ってくれた。電話だけどね」

「そっか、君は、それでいいの?」

「よくなかったら、こんな早朝に来てないよ。じゃ、うちでキミのテレビ観てるね!」

 改札越しの会話は三言で終わってしまった……。
 

 カメラを前にして緊張したけど、歌いだしたら自分のペースでやれた。
 

 曲は『牧場の朝』と『お正月』という、他のアーティストがやれば、ただ古くて陳腐なだけの歌だ。しかし真由がギターの弾き語りで歌うと、とても気持ちを懐かしく穏やかにしてくれる歌になっている。このコーナーを時計代わりに観て、年末休暇で家に居た人たちは、思わず耳を傾けた。
 

「お早うございます……」
 

 女子アナの軽い紹介から始まった。女子アナは進行台本を持っていたが、真由は自分のペースで話し出した。

「昨日、打ち合わせに来るときに、地下鉄のホームで男の子とぶつかったんです。その子は、就職が決まった気安さから、つい友達が勧めてくれたタバコを喫っちゃったんです。それが学校の先生に見られて、喫煙したので、停学の上就職内定取り消しと言われました。むろんタバコはよくないことです。だから先生も、就職取り消しっていいます。その子は純情で、本当に就職できないと思っちゃったんです……で、思い詰めて地下鉄に飛び込もうとしました。で、ボーっと歩きスマホしていたあたしと、ホームで衝突して……いろいろ話を聞きました。あたしも高校生です。生活指導の先生は立場上、そう言います。でも担任の先生が『ちゃんと指導に従えば道も開ける』とかフォローするんです、先生同士の役割分担ですね。でも、担任の先生は旅行にいってしまっていました。むろん、ちゃんと休暇も旅行届も出したうえなんで、問題はありません。でも、その子には一生の問題だったんです。生徒にとってはオンリーワンの担任なんだから、もう少し心配り……なんて生意気を思いました。で、ちょっとお節介。ハハ、初めてのテレビ『上から真由』ですみませんでした」
 

 こうして、真由のエロイムエッサイムに『遠回りの魔法』が付け加わった。

 

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