大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・81『銀河連邦大使・2』 

2019-04-27 06:28:02 | 時かける少女
時かける少女・81 
『銀河連邦大使・2』           




☆………銀河連邦大使2

 大使の船は大したものだ……。

 最初はのんきにダジャレが出るほど、豪華なもてなしを受けた。
 船内には25メートルのバーチャルプールがあった。よほどの客船でもないかぎり、リアルな25メ-トルプールは無い。たいてい、5メートルのバーチャルプールで、水流を作って距離感を出している。実感は25メートルでも、ハタから見ていると5メートルしかないので、なんだかプールに泳がされてますって感じで、見ばのいいもんじゃない。うんと昔の感覚で言うと、下りのエスカレーターを登って永遠の階段を上っているような錯覚をするのに似ている。
 それが、この船ではリアルに25メートル。設定の仕方では、カリブや地中海の海も再現できて、一時間のつもりが三時間も泳いでしまった。

 泳いだ後は、マッサージをしてもらった。ファルコン・Zは電子マッサージ機があって、一瞬で凝りをほぐすのだけど、なんとも味気ない。実際人にやってもらって、少しずつ凝りがほぐれていくのは快感だった。
 プールもマッサージも大使がいっしょだった。水着の大使はモデルのように均整のとれたからだつきをしていて、同性のミナコが見てもほれぼれした。

「さ、あとはお食事にしましょう」

 食事は、流行りの古典日本料理。それも肩の凝らないバイキング式だったので、大使船のクルーといっしょになって、美味しく楽しい食事ができた。
 
 自然と会話も弾んでくる。
「あなたたちは、楽しむ天才ね」
 大使から、お褒めの言葉をいただいた。
「よかったら、お願いしてもいいかしら?」
「何でしょうか?」
「ベータ星に寄ってもらいたいの」
「ベータ星?」
「ええ、国王が亡くなられて、マリア王女が、とても気落ちしてらっしゃるの」
「そりゃ、お父さんでいらっしゃるんですものね」
 ミナコが庶民的な答をした。
「……女王になられるんですね」
 ミナホは、核心をついた答をした。
「ええ、いろいろ難しい星だから、自信を無くして落ち込んでいらっしゃる。あなたたちが行って慰めてくれると嬉しいんだけど」
「それは……」
 ぜひ……と応えようとしたらミナホに先を越された。
「船長と相談してみます。航路については船長の権限ですから」
「ええ、もちろんそうでしょう。私からのお願いとしてお伝えくださいな」

 どうやら、その話が目的であったらしく、そのあとはうまくあしらわれて、三十分ほどで、ファルコン・Zに帰ってきた。

「さよか、あのオバハン、そんなこと言うてきよったんか」

 マーク船長の目が光った……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・014『松本シンジ機関長』

2019-04-27 06:00:57 | ノベル2

 時空戦艦カワチ・014

『松本シンジ機関長』          

 

 食堂のおばちゃん!?
 

 松本シンジの第一声だ。
 

 カワチのAIがリクルートした機関長は田中航海長が勤務する高校の二年生だ。

 それを知った田中航海長は食堂のおばちゃんのナリで出迎えた。

「らっしゃ~い!」

 いつもなら、このあとに「(注文は)なにする?」が続く。だが、目の前のおばちゃんは航海長だ。

「シンジ君は機関長だから、これ、制服ね」

 おばちゃんは食堂のトレーに載せた制服をカウンターに見立てたコンソールの上に置いた。

「えと、あ……」

 いつもの習慣で受け取ってしまうと、あとは昼時の食堂の流れだ。

「つかえてるから、さっさとしてね」

 言われたシンジはパーテーションの向こうに回った。

「あの、オレ航海長なんて務まりません」

「習うより慣れろ、着替えた服はトレーに載せて返却口ね。セルフサービスだから」

「う、うん……」
 

 着替え終わってパーテーションを出ると、艦長付き従員のメグミ一曹に代わっていた。
 

「じゃ、わたしに付いて来てくださいね、松本シンジさん」

 うっかり目が合ってシンジはドギマギする。

 女の子と目が合ったなんて、ここ何年無かったことだ。たまに目が合っても完全無視か、まるで路上のウンコを見るような目つきだった。 それが手を伸ばせば届きそうな近さで肯定的な笑みを浮かべてフルネームで呼んでくれる。
 

「は、はい」
 

 応えて転送室を出ると、おばちゃんが航海長の制服ボタンをはめながらやってくるところだ。

「食堂のナリで艦長室にはいけないもんでね。後でご飯持ってってあげるから、あんた朝ごはんどころか、夕べの晩御飯だって食べてないでしょ」

「う、うん」

 学校も家も居心地の悪いシンジは晩飯はコンビニ、朝飯抜きというのがデフォルトだ。

「前を歩いてるのは艦長付き従員のメグミ一曹。他にサクラ二曹とテルミ一士が三交代で務めてる。三人とも気のいい子だから仲良くね」 「えと、でも……」 「務まるわよ、必要なことはインストールされてるし」 「いや、むりむりむり!」  

 そうこうしているうちにラッタルを上がり中甲板後尾の艦長室が見えてきた。何人かの乗員とすれ違って言葉を交わした気がするのだが、いや、思い違いかもしれない。
 

「ちゃんと敬礼を返して、機関科の乗員には指示をしていたわよ」 「え、そんな、なんにも覚えてへんし!?」 「インストールされたスキルのせいだけど、それだけじゃ務まらないわよ。さ、入るわよ」

 艦長室の前に立つと、田中航海長は一瞥でシンジの服装をチェックした。学食のカウンターに並ぶ生徒たちの様子を無意識に気に掛けるおばちゃんの気の良さが出てくるのだ。この鋭くも暖かいチェックで学食には通えているシンジなのだ。

「うん、入学直後の初々しさね。よし、いくよ」

「艦長、航海長と共に航海長をお連れしました」
 

 メグミ一曹が声を掛けると艦長室から「入れ」の応えがする。
 

「やる気満々でないところが素直でいいと思うよ」  

 自己紹介が終わっての小林艦長の言葉に嫌味は無い。学校でこう言われたら、その後に来る言葉に嫌気がさして俯いてしまうところだ。

「あの……どうしてオレが機関長なんですか?」

 シンジは一つの答えを予想していた。予想通りの答えだったら……腹は立たない、腹が立つほどのエネルギーは自分には無いと自覚している。あったら、さっさとケンカか対教師暴力で退学している。

 だったら聞かなければいいのだが、聞いて「やっぱりなあ……」と落ち込まなければ収まらないシンジだ。

「松本君の適性だよ。むろん艦のAIの推薦もあるが、最後はわたしの判断だ」

 ちょっと意外だった。  

 多分、家業が自動車修理でエンジンとかミッションとかの扱いに慣れているから……学校の先生は、いつもそれを言っていた。そこから進路先を演繹されて「松本には向いているから」と言われて、反発するように今の普通科に進学したのだ。

「松本君は自分が空っぽだと思っているだろ」

 その通りだ、十七年の人生で得たものはゴミみたいなことばかりだ。ゴミは入ってくるたびに捨てている。自分の中に意味のあるものなんか何もない。

「空っぽだから、これからいっぱい入るということだ。ほら」

 そう言うと、艦長はシャンパンのボトルを持ってグラス、いつのまにかランチの用意がされていて、艦長が注いでくれているのだ。並のグラスだったら溢れるような量が注がれても溢れない。肉薄のグラスは見かけの五割増くらいに入るように思われた。
「おっとと……」
 さすがに溢れた。
「ハハ、今のは悪い見本。松本君はゆっくり様子を見ながら注いでいけばいいさ」
 

 艦の速度がわずかに上がったような気がした。
 

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