大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・JUN STORIES・3《4月12日 淳の心情》

2019-04-12 06:59:14 | 小説4

JUN STORIES・3

《4月12日 淳の心情》 「フランクリンル...」の画像検索結果
 

 

 1945年4月12日、アメリカのフランクリン・ルーズベルトが亡くなった。

 大方の読者はご存じであろうが「スネークアタック!」「リメンバーパールハーバー!」のキャッチコピーで日本を太平洋戦争に引きずり込んだアメリカの第32代大統領で、この月の1日には、アメリカは沖縄上陸作戦を実施、6日には坊津沖で戦艦大和が水上特攻で撃沈されている。マンハッタン計画の推進者でもあり、もし彼が大統領でなかったら、日本に原爆は落ちなかったかもしれない。
 

 そんなルーズベルト大統領の逝去に対し、信じられないことだが、日本は中立国経由で弔電を打っている。
 

 峰岸淳は、外務省の電信課長であった。
 

 峰岸は外務省のキャリアの尻尾の方で、出世のチャンスは何度かあったが、そのたびに自分より能力が高そうな者に譲ってきた。

 一つには、この難関になんとか戦争を回避したかったので、自分よりも優秀な奴がいっぱいいると信じていた。外務官僚は「オレこそが!」というキャリアが多かったので、人情の手前からも人に譲って正解だと思った。

 同期に来栖がいた。来栖は、実は三国同盟に反対で、当然日米戦にも反対だった。

 来栖は妻がアメリカ人女性であることもあり、冷静に国際情勢も分析、日米戦争には必ず反対を貫いてくれるものと信じていた。

 それがドイツの見せかけのカッコよさと、ベルリンに行った時の歓待ぶりに幻惑され、三国同盟を結び、日米開戦前夜は、野村大使らと飲み過ぎて、最後通牒をアメリカに手渡すのに二時間も遅れ、真珠湾奇襲には間に合わず、ルーズベルトをして「スネークアタック!」と言わしめてしまった。
 

 でも来栖には来栖の事情があったんだろうと同情していた。
 

 淳は人情にも厚かったが、法規遵守の気持ちも江戸時代の奉行のように厚かった。淳は、ルーズベルトにも彼なりの事情があったと思えるくらいに冷静であった。アメリカのニューディール政策の結末には戦争が必要だと淳には思えた。ただ、その目標が日本であることだけが迷惑であるのだ。

 淳は、外務省の電信規則は全てそらんじていたが、念のため、法規書を確かめ、外務大臣に上申した。

「大臣、アメリカに弔電を打つべきです。外国元首の逝去に当たっては弔電をうつべしと法規には書いてあります。戦時における敵国の条項がありませんので、規則上も弔電を打つべきです」
 

 このようにして、日本はアメリカに弔電を打った。
 

 当然アメリカは無視した。が、戦後になって、アメリカの新聞社が気づいて、淳に取材にきた。

「法規にのっとってやりました。日本は法治国家でありますから」

 私情は挟まなかった。結局アメリカの新聞も揶揄したコラムとして扱った。
 

 淳は1970年に亡くなった。2016年、アメリカの大統領はこのことに注目して、淳のことを調べなおし、改めて、この弔電を称賛した。いささかの思惑は秘められてはいたが。淳の年老いた息子は、それでもいいと思った。親父に似た心情の老人であった。
 

※:これは史実にヒントを得たフィクションです。

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高校ライトノベル・時かける少女・66 『スタートラック・6』

2019-04-12 06:26:56 | 時かける少女

時かける少女・66 

『スタートラック・6』           

  定石通り『あ いたかった』から始まった。
 

 しかし、メンバー登場の瞬間から違った。なんせ400年前のアイドルグループである。その全記録は観客のハンベ(ハンドベルト=腕時計型携帯端末)に取り込まれている。過去のライブやテレビの収録などの全てが出回っている。下手に加工しても、ファンはたちまち解析し「加工だ!」「ただのデジタルだ」と、騒ぎ出す。マースアリーナ2万の観客を納得させるのには、デジタルホログラムの再現だけでは済まない。
 

「あ、いたかった♪」
 

 第一声から観客はどよめいた。登場から歌い出しまで、観客のハンベに記録されているどのメモリーとも一致しない。まさに400年前のアイドルグループが、初めて火星に来たら、こうなるだろうというリアクションであったし、パフォーマンスであった。

「400年の時空を超えて、やってきたわたしたちですが、こんな歓迎は予想していませんでした」

「おー!」という観客の反応。それに大きく頷きながら、MCのベシャリは続いた。

「火星は独立しましたが、わたしたち、そしてファンの皆さんの心に国境はありません。それでは聞いてください『万年桜』」  

 静かな卒業ソングであるので、観客席は水を打ったように静かになった。
 

「桜の花の~♪」
 

 アイドル達は前を向いているが、呼吸は観客のそれと完全にシンクロしていた。中には、もう泣き出す者も出始めた。
 

「ミナコちゃん、凄いですね……」  無口なバルスが、ブースの外で呟いた。

「船長の狙いは予想通りね」  コスモスが続く。

「こんなAKB、初めてだ……」  ポチまでも、大人しく聞き入っている。

 そして30曲の予定にアンコールが二回入り、最後のMCのスピーチになった。
 

「みなさん、本当に本当に、今日はありがとうございました。元々は地球の人口過剰の対策から、まあブッチャケ始まった火星移住。でも、皆さんは、けして地球を捨てたのではありません。うまく言えない、言えませんけど。みなさんのご先祖は、夢を持って150年前火星の地に降り立たれました。そして孫や、ひ孫や、その先に繋がるみなさんに夢を託されました。おめでとうございます。その甲斐あって、火星は独立五周年を迎えられました!」

 盛大な拍手と、鼻をすする音がした。

「こんなこと、言っていいのかな……開場前に、みなさんの中で、ちょっとしたトラブルがありました。極地方の開拓団とキャピタルのファンの方の間で、ちょっと元気すぎるコミニケーションがありました。危うく大げんかになるとこでしたが、誰かが『みんなAKBのファンじゃないか!』そう叫んでおさまったんだそうです。それ聞いて、わたしたち、とっても嬉しかったです。わたしたちを愛してくださる心が、みなさんを一つにしたんです。本当にありがとうございました!」

「そうだ、いいぞ!」 「火星は一つ!」 「住む場所は違っても、人類は一つだ!」
 

 大拍手が起こり、いつしかMCのリーダーの提案で、国務長官の息子と極地開拓団の代表が舞台に上がりハグし合った。
 

「それじゃ、みなさん。いつの日か400年の時空を超えて、またお会いしましょう!!」

 そして、ステージの奥に道が出来て、10メートルほどの、その道を通り、緩やかなスロープを上り、名残惜しそうに、手を振りながら、その先のプラットホームでメンバーがゆっくり遠ざかっていく……。
 

「お疲れさん。大したもんだ、これほどとは思わんかったで!」

 いつの間にか戻ってきていた船長がミナコをねぎらった。バルスとコスモスも拍手し、ポチもそこら中を走り回って、喜んでいる。
 

「あ、ども。ちょっと地球に着くまで休ませてください。さすが、100人のアイドルのオペは……」

 最後は、言葉にならなかった。バルスに抱っこされて、キャビンのベッドに優しく寝かされた。

「例のガジェットは……?」

 コスモスの問いに、マークは黙って頷いた。

「……では、予定通りの進路に進みます」
 

 ファルコンZは、地球には向かわなかった……。

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