大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・時かける少女・78『スタートラック・18コスモス星・1・』

2019-04-24 06:12:02 | ノベル2
時かける少女・78 
『スタートラック・18・コスモス星・1』         

 
 昭和二十年四月、前月の大空襲で肺を痛めた湊子(みなこ)は、密かに心に想う山野中尉が、沖縄特攻で戦死するまでは生きていようと心に決めた。そして瀕死の枕許にやってきた死神をハメた。死と時間の論理をすり替えて、その三時間後に迫った死を免れたのだ。しかし、そのために時空は乱れ湊子の時間軸は崩壊して、時のさまよい人。時かける少女になってしまった……目覚めると、今度は西暦2369年であった。ファルコン・Zでの旅、今度は「コスモス星」だった。


☆………コスモス星・1

 三丁目星を出て一週間になる。コスモスに元気がなくなってきた。

「コスモス、ちょっと寝てるか?」
「コスモスさん、具合悪いんですか?」
「……寝ても無駄かもしれません」
「大丈夫や、シールド張っとくよってに」
「シールドも無駄かもしれません……」
「起きてたら確実に危ないで」
「ですよね……では失礼します」

 コスモスは、ため息一つつくと、キャビンの一つに入っていった。

「バルス、コスモスのキャビンを封鎖しとけ」
「了解……封鎖」
 一階下のキャビンブロックで、重々しくキャビンを封鎖する音がした。むかし検索して知った火葬場の二重の扉をしめる音に似ていた。
「ミナホ、コスモスの変わりにシートについてくれるか」
「はい、準備はしておきました」
「次の星まではオートやさかい、特別にすることは無いと思うねんけどな」
「一応、コスモスさんのスキルとメモリーはコピーしてあります」
「いつの間に?」
「船長が、悩み始めてから……」
「見透かされてたか。ほな二日前からやな」
「いいえ、五日前から……」
「そんな前からか……」
「船長は、自覚なさっている以上に、クルーの心配してるんですよ」
「さいでっか……」
「言っておきますけど、コスモスさんが過去にやった判断や行動はとれますけど、それを超える事態には対応できないかも……」

 マーク船長は沈黙してしまった。

「どうしても寄らなきゃならない星なの?」
 沈黙を破って、ミナコが咎めるように聞いた。
「次のコスモス星で、エネルギーを補充しないと、目的地に着けねえんだよ」
 ポチが、人の言葉で喋った。
「じゃ、その目的地ってのは……?」
「分かんねんだよ。1000光年や、そこいらは飛べるけど、おいらの予感も、船長の勘も、もっと先だって言っている」
「この先、800光年は、燃料を補給する星はあらへんよってな」
「じゃ、なぜコスモスさん、閉じこめちゃうの?」
「あいつの素材はコスモス星の鉱石からでけてる。着いたら出て行って帰ってけえへんからな」
「コスモス星の勢力圏に入ります」
「シールド、全周展開」
 バルスがシールドをマックスに張った。

「シールド言うのんは、外からの影響は防げるけど、中から出て行くのは阻止でけへんよってにな」
「中から?」
「見ろよ、ミナコ。コスモス星の部分拡大だ」
 ポチがアゴをしゃくった。モニターには、何百隻という宇宙船が着地しているのが分かった。中には、相当古い船もいて、半ば朽ち果てていた。
「十分後周回軌道に入ります」
「よし、全パッシブ閉鎖、各自のCPUも全てのアクセスを切れ、みなこ、ハンベも落としとけ……」
「え、ハンベまで……」
「これだけの人数や、必要もないやろ」
 ハンベはハンドベルト型携帯端末で、昔のスパコンの十倍の能力がある。この時代の人間にはケ-タイのような必需品である。ミナコは不承不承ハンベを外した。

「コスモスの機能はスリープしてるやろな?」
「動力ごと落としています。再起動には丸一日はかかりますね」
 周回軌道に入り、ファルコン・Zの着陸に向けてのチェックが行われる。みなパッシブ閉鎖しているので、チェックはいちいち口頭で行われた。

 そして、ファルコン・Zは着陸態勢に入った……。
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高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・011『リクルート始め』

2019-04-24 05:50:55 | ノベル2
時空戦艦カワチ・011
『リクルート始め』              




 赤坂城本丸物見櫓の梯子段を下りると……足裏の感触はチーク材の甲板。

 前に司令塔、後ろに第一煙突、左右両舷は二番三番の主砲に挟まれて谷底のようになっている。

――そうか、カワチの最上甲板に繋がっていたのか――

 夢から覚めたような感じがしたが、司令塔上の艦橋を見上げると艦長の感覚が戻ってきた。
「艦長もどられました」
 戦闘艦橋に入ると当直士官が声を上げる。こちらを向く者は誰も居ない。
 艦橋に居る要員は見張りや操舵などそれぞれの役割があり、役割が義務付けている機器や方向を見ているので、たとえ艦長であろうと礼を返されることはない。海自でも旧海軍でも時空戦艦でも変わりはないようだ。喜一は艦の空気の中に自然に収まってしまう。
「後姿は区別がつかんなあ」
 カワチの乗員は全て同じタイプのガイノイド、載っている首以外に個性は無い。
「失礼しました、各員のIDを表示します」
 当直が言うと全員の頭の上にデジタルIDが現れた。なんだか友子が凝っていたオンラインいゲームの世界を思い浮かべる。

「お帰りなさい艦長、これからリクルートにかかります」

 遅れてきた千早が元のセーラー服で現れる。
 千早のデフォルトはこの姿のようだ。他の乗員のように役割は無いようだし、頭の上にIDも付いていない。
「地球から呼ぶのかい?」
「もちろん、それも大阪、旧分国の河内からリクルートします」
「どのようにやるのかね?」
「六人リクルートします、航海長・砲雷長・機関長・船務長・補給長・飛行長でいかがかと」
「海自の艦内編成なんだね」
「はい、馴染みのある方がいいでしょう」
「それと、副長の配置はないのかな」
「副長ですか」
「正成における恩地左近のような存在がいると嬉しんだけど」
「こんな感じですか?」

 指を鳴らすと千早の首が恩地左近になった。

 艦橋の乗員が一斉に笑い出す。当直士官が見たものが瞬時に並列化されたようだ。

「……それは気持ち悪いから」
「では……」
 再びゆびを鳴らすと元の友子そっくりな千早に戻った。
「それでは、わたしが副長を務めます」
 ニッコリ笑うと、服装が艦長と同じ第二種軍装に変わった、階級章は中佐になっている。
「髪もショートにしてみます」
 セミロングがショートヘアに変わった。
「あ…………」
「どうかしましたか?」
「右のここに……」
 喜一が指したのと同じ右の側頭部を触ってみる。
「あ、ヤダー、ハゲてる!」
 また艦橋が笑いに満ちた。
「気づかなかったのかい?」
「これ、友子さんにもありますよ。わたしの体は友子さんのコピーですから」

 ツンツン尖がってばかりの娘だが、やっぱり心を痛めていたのかと思う喜一である。

「なんだか野党第一党の党首みたいだなあ」
 艦橋の一同が―「あ~~~~~~」と思い当たる。
「ハハ、ブーメランが飛んできそう」
 元のセミロングに戻した。
「副長、転送室より完了の知らせです」
「早いわね……艦長、わたしより優れた航海長のリクルートができたようです。転送室に向かってください」
「転送室?」
「第二中甲板にあります、ご案内します」
 千早は元のセーラー服に戻ると喜一を案内した。

 恩地左近のようなオッサンだったらどうしようかと心配しつつ第二中甲板に下りて行った。

「飛行中に地上と連絡するための転送を行う部屋です。乗員でない者を転送した場合は、こちらに収容します」
 千早が示したのは、転送室とは強化バリアで隔てられた一角だ。

 いかにも学食勤務と思われるオバチャンが目をつぶったまま立っていた……。
   
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