ピカビア通信

アート、食べ物、音楽、映画、写真などについての雑記。

東京物語

2006年12月08日 | Weblog
嘗て、東京に行くというのは、一年の内で一番楽しみ
な大イベントであった。
大体が、春休みのことで、親戚の家に行くわけだが、
列車に揺られること六七時間、今だったら東南アジア
迄いけるそんな長時間の移動も、東京に行くという楽
しみの前では、なんでもなかった。
その行程さえその一部なのだ。
途中、スイッチバック(坂を上るためのジグザグ走行)
などというものもこなし、素朴な思いを乗せた列車は、
新宿に向かって走る。
そして、八王子が見える頃になると、東京が近づいて
きたことがその風景の違いで分かってくる。
道の広さと車の多さ、これが当時の田舎とは根本的に
違っていたのだ。
興奮は徐々に高まっていく。
立川を過ぎ、吉祥寺辺りになるとそれは頂点を迎える。

と、そんな時代ががあったなあ、などと思いながら、各
駅停車の電車に乗り東京に向かった。
時間的に余裕があるので、乗ってみようという気にな
ったのだ。
途中、軒先に吊られている干し柿などという、日本の
原風景ベスト10にでも上げられそうな風景を楽しみ
つつ、何か面白いものは無いかと車窓を眺め続ける。
ホームのベンチに座布団がおいてある駅など、思わぬ
発見もあったが、全体的にはさしたる収穫はなかった。
それよりも、電車があまりに寒い。
気温0度近くの外気、その冷気が、窓を通して次から
次と容赦なく押し寄せるのだ。
トンネルに入ると、ここは冷蔵庫か、と思うほどそれ
は顕著となる。
特急との作りの違いが否応なしに解ってしまった。
伊達に、高い料金を取ってる訳ではではないのね。
そんな電車の違いを再認識し、三時間ほどで立川に到
着。
ここで、中央線快速に乗り換える。
目指すは原宿。

その快速での出来事。
こちらは中央付近に立って外を眺めている。
右隣には、中年の女性が本を読みながら立っている。
ある駅で、私のやや左前の席が空いた。
論理的には、多分自分が座る席ではあるが、私は座る
気がない。
往々にして、年寄りが乗り込んでくるものだから。
ここで事件(と言うほどでのことではなく多分日常的
に繰り返される光景)が起こった。
右隣の女性が、私の後ろをすり抜けて素早くその席に
座ったのだ。
す、素早い。
こういう時には感心するほど人は素早い。
しかし、この後が問題だった。
案の定、年寄りが乗り込んできた。
どうやら夫婦で、旦那の方は杖までついて大分足元も
おぼつかない。
八十前後か。
しかも折角座った女性の方に近づいてくる。
ちょっとしたサスペンスだ。
女性は狸寝入りを決め込むか。
どんどん近づく。
その前に誰か席を譲ってあげて!そんな女性の心の叫
びが聞こえてきそうだ。

つづく。
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