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軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

6.日本での動き

2018-10-01 01:01:07 | その他の雑記
6.日本での動き
 日本では1997年、作家の石原藤夫・金子隆一両氏が『軌道エレベータ ─宇宙へ架ける橋─』(裳華房刊)を発表。おそらくは、これが世界初の軌道エレベーター専門書です(2009年に早川書房から復刊)。
 2005年、東京大学と民間企業の共同プロジェクトが、50年後に実現が予想される技術の一つに軌道エレベーターを加えて発表。2007年には日本科学未来館(東京都江東区)などが幅広い年齢層向けにアニメーション作品を制作し、各地の科学館や海外で上映しました。
 技術面では、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)や民間企業などでCNTやグラフェンの研究・開発が進んでいるほか、経済産業省が日本の繊維技術の将来の応用例に「宇宙エレベーター」を挙げました。

 07年10月には、米国で開かれた軌道エレベーターの技術競技大会に日本人が初挑戦。そしてこのチームのメンバーをはじめとする有志8人が集まり、08年4月、「日本宇宙エレベーター協会」(JSEA)が発足しました(翌年「一般社団法人 宇宙エレベーター協会」に移行)。
 6月に初のワークショップを開催し、翌月米国で開かれた国際会議にはJSEAから5人が参加。軌道エレベーターに応用できる日本の技術や運用計画、日本文化での位置づけや核廃棄物投棄を目的とした活用策などを発表しました。米国会議への日本人参加は初めてのことです。

 JSEAは11月、この国際会議の日本版「第1回日本宇宙エレベーター会議」(JpSEC'08)を東京で開催し、翌年には150mの高さから吊るしたベルトを昇降する技術を競う競技会を実施しました。JpSECは毎年開催しているほか、JSETECはその後高度1kmを超え、「宇宙エレベーターチャレンジ」(SPEC)と名称を変えて継続。さらなる高さを目指し、米国に会場を移して大会を開くことを目指し、準備を進めています。

 2012年には東京スカイツリーを施工した大林組が「宇宙エレベーター建設構想」を発表。2050年の実現を想定し、建設のプロの見地で全体構造や建造方法を緻密にまとめ、独自の発想も盛り込んだ構想として国内外で話題を呼びました。
 そして宇宙空間での軌道エレベーターの実験が、政府諮問機関の日本学術会議による「学術の大型研究計画に関するマスタープラン」に採択されました。静岡大学や日本大学などは、小型衛星を使った実験「STARSプロジェクト」を進めています。これまでに「STARS-C」「STARS-EC」などの衛星が国際宇宙ステーションから放出され、軌道上でケーブルを伸ばす実験を行いました。軌道エレベーターの技術検証を目的とした宇宙空間での実験は、世界で初めての試みであり、さらに伸ばしたケーブルの間で昇降機を走行させる衛星の開発も進められています。

 このほか、航空宇宙関連の学会「宇宙科学技術連合講演会」などで、毎年軌道エレベーター関連の発表が行われ、軌道エレベーターを学ぶカリキュラムを設ける大学や技術専門学校などが増えています。研究は多様化して専門書も増えました。日本における軌道エレベーターへの関心は着実に高まり続けており、研究のすそ野が広がって、一つの学術分野として確立しようとしています。

コラム「軌道エレベーター」と「宇宙エレベーター」
軌道エレベーターの話題が紹介される場合、その時々で「軌道エレベーター」だったり「宇宙エレベーター」だったりします。欧米では"Space Elevator"という呼称がほぼ定着しましたが、かつて日本では『軌道エレベータ』(1997年)のように、「軌道」が主流でした。その後いったん関心が薄れ、近年米国で再び研究が活発化してきた影響から、日本でも直訳の「宇宙エレベーター」が一般的になってきました。どちらも同じもので、実態に区別はありません。当サイトでは、「軌道エレベーター派」を自称する著者の愛着とこだわりから「軌道」の呼称を優先しています。

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5. 軌道エレベーターの歴史

2018-10-01 01:01:06 | その他の雑記
5. 軌道エレベーターの歴史
 軌道エレベーターの発想は19世紀にまでさかのぼります。1895年、ロシアの科学者で「ロケット工学の父」として知られるコンスタンティン・ツィオルコフスキーは、地球の赤道上から宇宙へと伸び、静止軌道の高さでは無重量状態になるという塔のアイデアを紹介しました。
 このアイデアは、地上から宇宙へ伸ばしていくものでしたが、1960年、同じくロシア(当時はソ連)のユーリ・アルツターノフが、『電車で宇宙へ』と題し、現在の研究の基本構想となる、静止軌道から吊り下げて支える軌道エレベーターを新聞に発表しました。

 一方西側諸国では、その可能性を唱える研究者もいましたが、一般へ普及する大きな契機となったのは、『2001年宇宙の旅』で有名なアーサー・C・クラーク氏が1979年に発表したSF小説『楽園の泉』(邦訳は早川書房刊)でした。これ以降、軌道エレベーターは科学者やSFファンの間で広く知られるようになりましたが、技術上の課題、特に十分な強度を持つケーブル素材がないために、SFの世界の夢物語にとどまっていました。

 軌道エレベーターの素材には、静止軌道から吊り下げても切れない強度が必要という命題があります。最強レベルの高力鋼合金のさらに数十倍の強度が求められ、そのような物質は存在していませんでした。しかし1991年、日本の飯島澄男氏がカーボンナノチューブ(CNT)を発見しました。CNTは軌道エレベーターに必要な強度を満たしうる素材として注目を浴び、この発見により、軌道エレベーターの研究が加速しました。
 このほか、近年はCNTと同じ炭素系素材の「グラフェン」などにも候補として注目が集まっており、これまでに多様で具体的な建造計画が提案されています。

 1999年に米航空宇宙局(NASA)のマーシャル宇宙飛行センターで開かれたワークショップでは、軌道エレベーターを21世紀中に実現する構造物に位置づけて多角的に検証し、「驚くほど大規模かつ複雑な構想だが、明らかに解決の道筋が立たないという課題は見出せない」とするレポートをまとめました。
 その後のブラッドリー・C・エドワーズ氏らによる研究は、既存の技術の応用で実現に手が届くとして、具体的な建造プラン(7章を参照)を提案。この研究では建造費を100億ドル程度と見積もり、予算確保や建造のための準備に15年程度を要した後、建造に着手して数年で完成するといい、今すぐに取り組めば20年後くらいには実現可能と結論づけています。
 こうした研究と並行して、米国では実際に建造・運用を目指す企業が設立されたほか、各国の大学や研究機関などが、軌道エレベーターへの応用を視野に入れ、CNTをはじめとする素材の研究に取り組んでいます。

 2002年から米国で国際会議が開かれ、いったん中断したものの、08年から再開。その前年から欧州のルクセンブルクでも開催され、いずれも毎年最新の研究成果が発表されています。このほか、エレベーターのケーブルを昇降する機械の技術や素材の開発を目的とした競技会も開かれ、多くのチームがチャレンジしています。将来の軌道エレベーターの実現へ向けて、各国で様々な研究や活動が進行中です。
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4. 低コストの理由

2018-10-01 01:01:05 | その他の雑記
4. 低コストの理由
 軌道エレベーターがロケットより低コストである理由には、主に次の点が挙げられます。

(1)燃料を積まない

 ロケットは燃料の化学反応で上昇しますが、例えば2011年に退役したスペースシャトルは総重量の85%近くを燃料が占めていました。ロケットが燃料を消費して持ち上げる重さの大部分は、燃料そのものなのです。これに対し、軌道エレベーターは電力供給を受けながら昇降することを想定しています。

(2) 軌道速度まで加速しない
 ロケットは急上昇して地球の周回軌道に乗りますが、一定の「軌道速度」に達しないと落下します。国際宇宙ステーションにドッキングする場合、この高度での軌道速度(秒速約7.7km)まで加速が必要で、静止軌道やほかの天体を目指すには、さらに数段階の速度と軌道の変更を要します。
 大量の燃料を積むのはこのためです。逆に地上への帰還時には減速し、機体に負担を与えて危険も伴います。軌道エレベーターは宇宙へ届く構造物につかまって昇降するため、軌道速度まで加速する必要がありません。静止軌道に近づきながら徐々に軌道速度を得ていきます。

(3)エネルギーの一部が回収可能
 軌道エレベーターの乗り物は繰り返し使えるため、宇宙から地上に戻る時は重力にまかせて降下します。この時ブレーキをかけながら発電し、昇りに供給します(静止軌道の外側ではこの関係は逆)。
 ロケットの燃料が完全に使い捨てであるのに対し、上り電車の運賃の一部を、下り電車が支払ってくれる感じです。こうした特長は、軌道エレベーターに期待される大きな利点です。

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3.基本原理

2018-10-01 01:01:04 | その他の雑記
3.基本原理
 どうしてこのようなものが可能なのでしょうか? その原理は、簡単に説明すると次のようなものです。
 地球を周回する人工衛星が地上へ落ちてこないのは、衛星が地球の重力によって下(円を描いて回っている軌道の内側)へ引っ張られる力と、遠心力で上(軌道の外側)へ向かって飛び出そうとする力が一致して釣り合っているためで、この原理で高度を保って飛び続けています。

 人工衛星は高度が高いほどゆっくり飛んでいて、このうち赤道の上空、高度約3万6000㎞を周回する衛星は地球の自転と同じ、およそ24時間で1周します。地上に対し天の1点に静止しているように位置するため「静止衛星」と呼ばれ、静止衛星が描く軌道を「静止軌道」などといいます。
 この静止衛星から、地上へ向けてケーブルを垂らしたとしましょう。ケーブルを吊り下げた分、衛星の下に向いている側、つまり軌道の内側の方がやや重くなり、このままでは重力に引かれて落下してしまいます。そこで、反対側にもケーブルを伸ばして遠心力を増し、バランスをとれば、衛星は高度を維持して回り続けられます。次に、下向きのケーブルをさらに伸ばす。また重さが偏るので再び反対側も伸ばす・・・これを繰り返すと、下へ伸ばしたケーブルはやがて地上に到達し、地上と宇宙を結ぶ長大な1本の紐になります。この紐に昇降機を取り付け、人や物資を輸送できるようにしたものが軌道エレベーターです。原理はいたってシンプルであり、実現すれば、一見地上から建てた建築物のように見えるかも知れませんが、その実体は静止軌道上に重心を持つ、超縦長の人工衛星です。
 軌道エレベーターは既存の知識や技術の集積であり、新しい理論や発明は用いられません。必要とされる技術は基礎がすでに確立しています。私たちの現在の科学技術の延長線上に、軌道エレベーターがあるのです。
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2.軌道エレベーターの構造

2018-10-01 01:01:02 | その他の雑記
2.軌道エレベーターの構造
 研究者によって規模や細かい特徴は異なりますが、一例として、軌道エレベーターは次ページの図のような構造をしています。
 「地上から天へと伸びる塔」と述べましたが、一般的なモデルは全長約5~10万km。地球の直径の4~8倍程度に相当し、最長規模では15万km近くに達します。
 地球上の赤道付近に乗り場が設けられ、エレベーターに人や物資を載せて上昇します。一般に「宇宙」と呼ばれているのは高度約100kmから上を指し、国際宇宙ステーションの高度が「低軌道」と呼ばれる範囲内にあたる約400km。軌道エレベーターが実現すれば、この高さには数時間から半日程度で到達できると考えられています。
 また、この低軌道に人間が滞在できるステーションが設けられることが期待されています。地上および大気圏内の現象や宇宙の観測、実験、通信などを目的とした施設のほか、展望台もできるでしょう。宇宙からの眺めを見ようとここを目指す、「日帰りの宇宙旅行」が可能になるかも知れません。

 もっと上の高度約3万6000kmでは完全な無重量状態になり、重さの制約がなくなるため、さらに大規模で多機能のステーションが建造されるはずです。ここには低軌道ステーションと同様の施設に加え、無重量の環境を利用した大型の宇宙船などの生産施設や、太陽光発電を利用したエネルギーの供給設備なども造られるでしょう。
 さらに上の高度へ昇ると、宇宙船が発着するためのステーションなどが設けられるでしょう。現在も月やほかの惑星の探査が行われていますが、軌道エレベーターが実現すれば、この高軌道ステーションが港のような役割を果たすことになり、探査機や宇宙船は地上から打ち上げずに、このような発着施設から飛び立てるようになります。
 末端近くには軌道エレベーター全体の重量のバランスを保つためのおもりが設置されます。ただし最長の15万km規模のモデルの場合は、おもりは不要となります。
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