軌道エレベーター派

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OEV豆知識 番外編その2 軌道エレベーターの本当の価値と問題

2014-03-09 15:07:43 | 軌道エレベーター豆知識
 昨今、軌道エレベーター(以下OEV)という構想も一般的になってきました。ただし大抵「宇宙」だけどね。それは結構なことですが、巷に流布するニュースや紹介記事などは、我が軌道エレベーター派の考える「OEVの意義」と、かけ離れていることがあまりにも多い。
 そこで今回は、豆知識の番外編として、軌道派による「本当に重要なのはココだろ!」というポイントを紹介します。過去に述べたことのまとめでもありますので、重複する部分も多いのでご了承下さい。

1. エネルギーの回収こそOEVの神髄である
 OEVで地上から宇宙へ昇るには電気を消費しますが、宇宙から地上へ戻る時は、ブレーキをかけながら落下すればいいので、基本的に電力は要りません。この時に発電し、昇りに供給する。つまり上り電車の運賃の大半を、下り電車が支払ってくれるわけです(この上下関係は静止軌道を境に逆転します)。過去の豆知識でも述べました。
 これは、往路で獲得した位置エネルギーを、復路で戻しているのですが、仮に、往路で消費するエネルギーと、復路で取り戻せるエネルギーの差(もしくは、静止軌道を通過する前と後のエネルギーの差)を、太陽光発電などで埋め合わせることができれば、完全なゼロコストでの宇宙到達が可能になる。

 「宇宙エレベーター」なるものが取り上げられたニュースも、可能な限り目を通してはいますが、「コストがロケットの何分の一にもなる」とは言っていても、なぜかを説明できているものは皆無と言っていい(そもそも原理や基礎を理解しているのか疑わしいものも多い)。
 大林組の構想も、全体構想のように紹介されることが多いけれども、あくまで建設技術を検証した各論の一つであり、昇降技術とそのコストは専門外として考察を除外しているので、世間で報じられる際には触れられることがない(なお同社はその点を文中できちんと明言している)。

 初めてOEVの知識に触れた時、力学的構造のシンプルさと並び、もっとも感動したのが、このエネルギーの回収という発想でした。「軌道」が主流だった時代は、常識とさえ言ってよかったのですが、まるで「失われた知識」のようになってしまった。
 この点に関しては、私も活動をしている宇宙エレベーター協会(JSEA)の罪は大きいでしょう。「宇宙エレベーターチャレンジ」(SPEC)などクライマーレースに注力し、メディアも絵になるから、こればかり取り上げる。一応、「まず地上からのクライマー上昇技術に力を入れる」という理由はあるのですが、実際はゲームであり、わかる人は本当はわかっている。
 もちろん意義は認めていて、皆が楽しめて続けられるイベントは大賛成です。このイベントがなければ、JSEAも「宇宙エレベーター」もここまで有名にならなかったでしょう。しかしそれはそれとして、対流圏でのクライマー自体に意味がない以上、少なくとも現状、クライマー技術の開発はOEVの研究とは本質的に別物だと言っていいでしょう。

 位置エネルギーを利用しないで何のOEVか? この点に触れずして「コストが下がる」と語るなど、ちゃんちゃら可笑しい。発電した電気をどこに蓄え、どう伝えるかとか、熱を逃がす方が先決だとか、多くの課題はあるのですが、解決は可能です。各論はともかく全体像として、
 これを目指さない中途半端なシステムの名前なぞ、
「宇宙エレベーター」とやらにくれてやるわ! (((゜Д゜)))クワッ!

 限りなくゼロコストに近い宇宙への移動手段。この技術に達することが、人類の本格的な宇宙進出のブレイクスルーになることは疑いありません。誰が何と言おうと、エネルギーの回生こそOEV実現の最大の意義なのです。


2. 最大の問題はデブリではない
 これまで何度も述べてきたように、OEVは、ほんの一部の例外を除く、衛星軌道上のあらゆる物体と衝突する運命にあります。ゆえに、OEVの障害として、誰もがデブリに注目するのはやむを得ないことかも知れません。
 しかし、OEVの本当の敵はデブリじゃない、運用中の衛星なのだ! 単なるデブリであれば、OEV側が避けるか耐えるかすれば、デブリがどうなろうと知ったことではありませんし、これまでに解決策も提示してきました。しかし生きた衛星はぶつかったら機能が喪失してしまいます。その補償を誰がするのか?
 上述の例外とは、回帰周期が地球の自転(すなわちOEVの公転)周期と同期、もしくは準同期している衛星か、OEVより高い位置を周回する衛星だけです。事実上、静止衛星と準同期の観測衛星以外はぶつかると考えていいでしょう。もっとも数の多い低軌道の衛星は、ISSをはじめほぼ全滅です。
 人工衛星なしで私たちの生活はもはや成り立たない以上、それをことごとくハタキ落としてしまうOEVに賛成するお人好しの国や企業がどこあるのか? この利害問題は、OEVの実現可能性が高まるほど、それを阻む圧力となって、いつか立ちはだかることになるでしょう。これこそが、OEV実現の上での最大の問題です。


3. 軌道カタパルト
 OEVが発揮するもう一つの真価は軌道カタパルトです。当サイトではこれまで「投射機」とか単に「カタパルト」などと呼んできましたが、東海大の佐藤実先生が著書で「軌道カタパルト」と呼んでいて、すごくカッコいいので、こちらでも今後常用させていただきたいと思います。用語として定着を目指しましょう。

 さて、OEVの、高度約4万7000km以上の位置から質量を放出すると、地球引力圏を脱出するスピードが与えられ、もう地球に帰ってこない。これを利用して、月への有人宇宙機、「はやぶさ」のような小惑星探査機はおろか、ボイジャーなどの太陽系外へ行く探査機も楽勝で打ち出せます。それも単機じゃなく、サポート物資や機器類なども続々送れるわけです。
 細かい軌道修正や、目的地によっては加速も必要ですけれども、地球の角運動量をおすそ分けしてもらうので(その分地球の自転が遅くなるんだけど、別に不都合はない)、これもまた、基本ゼロコストで可能です。軌道カタパルトは、OEVが実現したら必ず取り付けられるであろう設備であり、大林組構想にも取り入れられています。
 またこの機能は、放射性廃棄物の投棄などにも利用できることは、言うまでもありません。

 世間はOEVを、単に「宇宙へちょっと行ってこれる」という程度で見ている。そして、多くの人が意味する「宇宙」というのは、ISSの高度か、せいぜい月しか想像しない。あまりにも想像力貧困ではないか。そして、OEVの能力を見くびってはいないか。
 OEVは、『軌道エレベーター -宇宙へ架ける橋-』のタイトル通り人類の「架け橋」であり、通過点、道具でいいのです。それがOEVのあるべき立ち位置です。

 

 ――以上の点を上げました。昨今、「宇宙エレベーター」を紹介するニュースと、あまりにもかけ離れていると思われる方も多いかも知れません。しかし、OEVを語る時、もっとも重要なのはこの3点である。いくらズレていようと、これが「軌道エレベーター」であり、こうしたことを訴えていくのが、この軌道エレベーター派が自らに課した役割でもあります。多くの情報と比較検証しながら、基礎知識として吸収していただければ幸いです。長くなりましたが、ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました。

 本日のまとめ
(1) 軌道(宇宙)エレベーターは有名になってきたが、大事な点について理解されていない。
(2) それは「エネルギーの回収」「軌道カタパルト」「生きた衛星との衝突」である。
(3) エネルギーの回収と軌道カタパルトは軌道エレベーターの最も重要な価値であり、衝突は最大の問題である。

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