軌道エレベーター派

伝統ある「軌道エレベーター」の名の復権を目指すサイト(記事、画像の転載は出典を明記してください)

軌道エレベーターによる放射性廃棄物の処分(再改訂版) (5)

2012-02-09 01:00:00 | 軌道エレベーター学会

脚注・参考文献




I章



(1) NASA公式HP”Audacious & Outrageous: Space Elevators"(2000)   
http://science.nasa.gov/headlines/y2000/ast07sep_1.htm
(2) D.V. Smitherman, Jr. ”Space Elevators An Advanced Earth-Space Infrastructure for the New Millennium ” University Press of the Pacific (2006, Reprinted from the 2000 edition) p.2
(3) 前掲注1 para.13
(4) 石原藤夫・金子隆一「軌道エレベーター ―宇宙へ架ける橋―」早川書房(2009年) p.56-60
(5) 前掲注4 p.62
(6) アーサー・C・クラーク「楽園の泉」早川書房(1979年)
(7) 前掲注1 para.19
(8) 日経サイエンス2001年3月号 p.60
(9) 的場健「まっすぐ天へ①」講談社(2004年) p.251「金子隆一の軌道エレベータ最前線」
(10) " '08 SEC Building Bridoges to Our Future”
http://www.spaceelevatorconference.org/
(11) 2007年以降、ルクセンブルクでも開催されている
(12)“Elevator 2010” http://www.spaceward.org/elevator2010
(13) たとえば、Smithermanは①カーボンナノチューブに代表される高硬度素材 ②テザー技術 ③地上基部の建築技術 ④高速度のリニア技術やレール開発 ⑤輸送効果と実用性──などを挙げている(前掲注2 p.6-22)。
(14) LiftPort Group http://www.liftport.com/
(15) ブラッドリー・C・エドワーズ、フィリップ・レーガン「宇宙旅行はエレベーターで」ランダムハウス講談社(2008年) p.185
(16) 同 p.192
(17) 前掲注4 p.116-118
(18) Paul Birch "Orbital Ring Systems and Jacob's Ladders"(1974,75)
(19) 前掲注2 p.1
(20) 前掲注4 p.44、同注2 p.4
(21)“BUSH WILL OFFER MAJOR INITIATIVE TO EXPLORE SPACE” The New York Times 9 Jun. 2004


II章



(22) 内閣府原子力委員会「平成21年版原子力白書」(2009年) p.17 同節右のグラフもこれを基に作成した。
(23) 青木成文「放射性廃棄物輸送のすべて 第2版」日刊工業新聞社(2002年)p.177
(24) 同p.188、経済産業省資源エネルギー庁「TALK. 考えよう、放射性廃棄物のこと ~原子力エネルギーの未来のために、地層処分~」(2008年)p.8-9をまとめた。
(25) 前掲注23 p.179、日本原子力開発機構パンフレットp.18を基に作成した。
(26) 西尾漠「どうする?放射能ごみ[実は暮らしに直結する恐怖]」 緑風出版(2005年) p.61
(27) 経済産業省資源エネルギー庁「諸外国における高レベル放射性廃棄物の処分について」改訂新版第8版(20011年)p.4-5の表、および日本原子力開発機構HP http://www.jaea.go.jp/ 「主要国の処分計画の現状―処分場の概念に関する最新動向―」を基に作成した。両資料間で数値が異なる場合は詳細な方か、数値の小さい方を採用した。なお、ロシアについては、処分方針を明らかにしていない上、信頼しうるデータが見いだせないため除いた。
(28) 前掲注23 p.178頁、同注25資源エネルギー庁同書 p.20を基に作成した。
(29) 日本原子力開発機構「原子力機構の概要」(2008年)p.16
(30) 和田長久、原水爆禁止日本国民会議編「核問題ハンドブック」七つ森書館(2005年)p.9を基に、ウラン235、238、ネプツニウム237のデータを足して作成した。
(31) 日本原子力文化振興財団「放射線のはなし ~その発見から、測定方法、身の回りでの利用まで~」(1998年)p52-55.
(32) 前掲注24資源エネルギー庁同書p.9
(33) 前掲注26 p.60-61、日本原子力学会「原子力がひらく世紀(改訂版)」(2004年)p.97
(34) 南極への投棄は南極の利用を定めた南極条約に、海底投棄は海洋汚染防止を定めた1972年ロンドン条約に抵触するおそれがある。
(35) 高榎堯「岩波ブックレットNo.44 核廃棄物ー安全に処理する方法はあるのかー」岩波書店(1985年)、経済産業省資源エネルギー庁「高レベル放射性廃棄物の処分について」p.4 同「放射性廃棄物Q&A」(2001年) p.9をまとめた。
(36) マルチーヌ・ドギオーム「核廃棄物は人と共存できるか」緑風出版(2001年) p.161(邦訳した桜井醇児による「フランスの原子力と放射性廃棄物『処分』の現状についてのノート」) 放射性廃棄物処分施設をめぐる米国と先住民族の対立については、石山徳子「米国先住民族と核廃棄物 環境正義を巡る闘争」明石書店(2004年)に詳しい。
(37) 読売新聞2008年1月23日、2月2日付朝刊
(38) 前掲注27資源エネルギー庁同書 p.6-8、 および日本原子力開発機構HP同p.14、29 前掲注24 資源エネルギー庁同書p.22 なお、このほかにはスウェーデンがオスカーシャムとエストハンマル、ドイツがニーダーザクセン州ゴアベーレンを最終処分地として調査や申請を進めているが、正式決定はしていない。


III章



(39) 前掲注15 p.82-83、147-185
(40) 同p.192
(41) 同p.167の地図を基に作成した。
(42) 佐藤実「宇宙エレベーターの物理学」オーム社(2011年)p.52-54、Jerome Pearson "The Orbital Tower: A Spacecraft Launcher Using the Earth's Rotational Energy" p.3-4
(43) 同
(44) エドワーズの基本モデルも、遠心力をやや強めに設定している。
(45) 同p.184
(46) この計算は、基礎研究にについて言及しているエドワーズらの前掲注15 p. 147-185と、1000t級のエレベーター建造スケジュールを掲載している Bradley C. Edwards & Eric A. Westling ”The Space Elevator A revolutionary Earth-to-scpace transportation system ” BC Edwards (2002,2003) p.147-155のプランを総合して記述した。同節のスケジュール表もこれに基づく。
(47) 前掲注15 p.184-185
(48) David Raitt, Bradley Edwars “THE SPACE ELEVATOR: ECONOMICS AND APPLICATIONS” p.5-10 http://www.spaceelevator.com/docs/iac-2004/iac-04-iaa.3.8.3.09.raitt.pdf
(49) 高レベル放射性廃棄物の輸送方法については、前掲注23 p.188-190、原燃輸送HPhttp://www.nft.co.jp/「輸送の概要-返還ガラス固化体」に基づく。
(50) 原子力発電整備機構HP http://www.numo.or.jp/ 「高レベル放射性廃棄物について-ガラス固化体とは?」、日本原子力研究開発機構ガラス固化技術開発施設パンフレットを基に自作した。なお、本稿では旧核燃料サイクル機構のキャニスターを基にしている。
(51) Ⅱ章で示した主要12か国の高レベル放射性廃棄物処分量は、主に燃料分だけを記しているため、本稿ではわかりやすいように、これをガラス固化体用キャニスターに直接封入するやり方で計算を行った。
(52) 前掲注23 p.190、同注46「輸送設備-輸送容器」の「TN28VT輸送容器」を基に自作した。
(53) 前掲注15 p.94
(54) Ⅱ章同様、前掲注27を基に作成した。ただし元資料の処分量の単位はそのままキャニスター本数、ウラン換算の重量、体積などまちまちである。このため、ここでは体積表示のデータは日本のキャニスターの容積(約0.11立方㍍)で割ってキャニスター本数に換算した。重量表示については、ウランの比重は約19で、ガラス固化体の約6倍ある。ここではガラス固化体と同じ重量分だけキャニスターに詰めたとして、同キャニスター内容物の重量(約0.3t)で割ってキャニスター本数にした。体積自体はすべて再処理した場合の数字である。各国の処分年数は、これを1基のクルーザーが20日で1往復して処分できる本数(140本)を基に必要な日数を割り出し算出した。
 12か国中カナダのみ、同国の燃料集合体本数の表記のため、独自の計算を行った。同国ではチタン製コンテナ(全長2.2m、外径0.65m)に324本の燃料集合体を収納して保管しているため、コンテナ数は5802本。コンテナ体積は約0.72立方㍍で、容積は一回り小さいとして0.9倍し、これにコンテナ本数をかけて燃料集合体の体積を求めた。日本のキャニスターに換算するため、キャニスター容積(0.11立方㍍)で割って本数を算出した。
(55) キャスク単価は、中間貯蔵の輸送兼貯蔵用キャスクの推定価格を基に算出した。総合エネルギー調査会原子力部会「リサイクル燃料資源中間貯蔵の実現へ向けて」(1998年)、原子力資料情報室HP http://cnic.jp/「むつ市、中間貯蔵施設受け入れ」(2005年)記載の使用済燃料の量(それぞれ5000t、3000t)を使用済燃料輸送用キャスクの収容物重量(約16 t)で割った数(312、187)をキャスク基数とした。この数字でキャスク費用の総額(1195億円、750億円)を割った数字がそれぞれ3億8240万円、4億円と近い数字となったため、キャスク単価はこの程度と判断し、ここでは計算しやすいように4億円を採用した。キャニスター単価は、軌道エレベーターによる輸送の有無にかかわらず最終処分の収納容器として用いられるとみなし、今回の輸送費からは除外した。
(56) 海上輸送費は、放射性廃棄物小委員会報告書(2006年)参考資料3の輸送費用1回分900億円を基に計算した。日英間の輸送費 で地球半周分にあたるため、概ねどの国のケースにも適用できると判断した。輸送船1隻のキャスク積載量は前掲注49原燃輸送公式HP「輸送設備-運搬船」を基にまとめた。
(57) 前掲注15 p.234の「1kgあたり2万円」を基に、500t分を計算した。
(58) 現実の処分費は前掲注28 にもとづく。複数の表示は大きい額を採用した。


IV章



(59) エレベーターを改良したという想定に伴い、処分年数の計算の変化は本文中の通り。処理費用については次のような計算で求めた。クルーザーにキャスクを積む必要がなくなったため、本文中にあるように、必要なキャスク数は、貨物船で運ぶのに必要な数のみとなる。このため、キャスク費用を除くキャニスター1本あたりの輸送費は、海上輸送費900億円÷(キャニスタ収容本数28×キャスク積載数20)+(1000tあたりエレベーター輸送費100億円÷キャニスタ総数625本)=1.77億円とした。
さらに、貨物船は1隻キャスク20基(キャニスタ560本)運ぶから、クルーザーに625本を毎回満載させるには1回2隻以上の運航が必要。クルーザーは35日に1回出発し、貨物船はおよそ2か月で地球を半周するから、絶え間ない供給には計8隻が必要とみなした。これにより必要なキャスク数は160基、計640億円とした。また、クルーザーをキャスクに改造する費用は、本来の可積載量500t分のキャスク費用(5基分=20億円)を充てるとして、稼働する2機分を足して割り出した。
これらの数字を基に、キャニスター1本あたりの輸送費1.77億円×各国のキャニスター処分本数+必要なキャスク費用640億円で、各国の処分費用を割り出した。
(60) 前掲注2 p.20
(61) 北海道大学工学部「北大工学部における福島原発事故後の放射線モニタリング」
 http://www2.qe.eng.hokudai.ac.jp/nuclear-accident/index.html
 において、中部電力浜岡原子力発電所2号機を基に示されている数字(放射能レベルの比較的高い低レベル放射性廃棄物約100t、比較的低い廃棄物約1,200t、極めて低い廃棄物約7,900t、放射性物質として扱う必要のない廃棄物約13,40t、放射性廃棄物ではない廃棄物が約249,500t)にもとづく。
(62) 前掲注26にもとづき、1号機(46万kw、1971年稼働開始)、2号機(78.4万kw、1974年同)、3号機(78.4万kw、1976年同)、4号機(78.4万kw、1978年同)の各原子炉の出力と稼働年数に応じて必要な核燃料計約1510t(1号機276t、2号機435.1t、3号機411.6t、4号機388.1t)を算出した。
(63) 朝日新聞2011年11月18日朝刊
(64) 前掲注64、65をもとに、Ⅲ章5節の計算法にもとづいて作成した。なお汚染水については、本文中にもあるようにすべて液体の放射性廃棄物であるため、液体輸送用タンカー(液化天然ガス輸送船のような巨大な水槽を持つものなど)で海上基地まで輸送し、さらにクルーザーに注水して輸送するという方法をとるものとし、輸送用キャスクを不要とみなした。これにもとづく計算式は次の通り。汚染水の海上輸送費=17万t÷輸送能力(キャスク20基分=2000t)×1回の輸送費900億円=765,000億円。エレベーターの輸送費=17万t÷クルーザーの輸送能力(低レベル廃棄物のため高レベル用の放射線遮断処理は不要とし、1回500t)×1回の輸送費100億円=34000億円。この数字の合計に、同節にもとづくクルーザーの水槽への改造費(同じ額とした)40億円を足した数字とした。
(65) NHKニュース2011年11月30日
(66) 東京新聞2011年6月25日朝刊および内閣府「災害廃棄物処理の進捗状況」にもとづく。

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Fountain式(工法)とOrbital Shield (1)

2009-12-16 22:38:46 | 軌道エレベーター学会

Fountain式(工法)とOrbital Shield

(2009年12月13日軌道エレベーター派ワークショップ資料)



はじめに
 宇宙エレベーター協会(JSEA)で色々取り組んでいる傍ら、今年4月から、ここ「軌道エレベーター派」を立ち上げ、別個の活動を行っている。
 本稿では、JSEAとは異なる、軌道エレベーター派独自のモデルや、その建造方法を紹介する。
 JSEAは、B.C.エドワーズの構築したモデルをベースに、宇宙から吊り下げたケーブルを昇降する、いわゆる「クライマー」の研究に軸足を置いて活動しているが、このために「宇宙(軌道)エレベーター」といえば、ケーブルをクライマーが上り下りするモデルのことだというイメージが定着しつつある。
 さらに、軌道エレベーターの要は依然として素材であるにもかかわらず、クライマーを作ることが、すなわち軌道エレベーターを造ることであるかのような雰囲気になってしまった。
これは危険な錯覚である。JSEAは軌道エレベーターの認知拡大に多大な貢献をしたが、たったひとつのモデルを軌道エレベーターのイメージとして広めていることは、JSEAの罪でさえあると考えている。
 そこで本稿では、クライマーのいらない軌道エレベーターの構想と、その建造方法の一例を提示する。そうすることで、この分野には実に多様な発想があり、広がりを持つものであることを知っていただきたい。
 なお今回は、発表まで時間がなかったため、数値的検証はほとんど行っていない。ここでは基本的なモデルを紹介し、今後、これを専門的に追究していくという意味で、ロードマップの青写真の紹介として受け止めていただければ幸いである。
 軌道エレベーターの基本原理については、ご理解済みと思われるので省略する。

1. 一般的なモデルとブーツストラップ工法による建造方式
 対比のため、まずJSEAが研究・普及に取り組んでいるモデルを説明する。
 JSEAのモデルはB.C. エドワーズ氏の提示したモデルに基礎を置いており、建造方法は典型的なブーツストラップ式である。大まかな建造手順は次の通り。
(1) 本体ケーブルと作業用宇宙船、燃料を積んだペイロードをロケットで低軌道に打ち上げる。
(2) ペイロードの中身を低軌道上で組み立て、さらに 静止軌道上まで到達させる
(3) 静止軌道上からケーブルを地上に向かって繰り出しながらロケットは上昇を続け、ケーブルの先はやがて地上に到達。ロケットは末端でカウンター質量として固定する。これにより、作業用昇降機(エドワーズはクルーザーと呼んでいる)が昇降可能になる。
(4) 2本目、3本目のケーブルを次々と作業用クルーザーで敷設して補強していき、使用済みのクルーザーは末端で随時カウンター質量にする。
(5) 十分な強度になれば昇降機を付け運用開始

 軌道エレベーター特有の共通課題はあるが、このモデル自体に原理的矛盾はなく、総合的に検証を行った、極めて重要なモデルである。

 しかしながら、この方式には以下のような問題点も残されている
* 素材の損耗に伴うメンテナンスが困難で、運用開始時には最初に張ったケーブルの損耗が進んでいて、全体構造の疲労度に相当な偏りが生じている可能性がある
* コリオリや太陽の引力による摂動などの長期振動を解消できない。
* デブリや放射線、武力攻撃などからの防備が心配
* 軌道や高軌道にステーションを設けることが困難

 上記の問題は、1点目を除けばほとんどの軌道エレベーターのモデル共通の課題ではあり、このモデル特有の欠陥ではないが、いずれにしろ解決しなければならない。(2章に続く)

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Fountain式(工法)とOrbital Shield (2)

2009-12-16 22:21:03 | 軌道エレベーター学会
2. 本稿で提示するモデル(全体図以外の画像はクリックすると拡大されます)

 これに対し、軌道エレベーター派が提示するモデルは次のようなものである(右図参照)。なお、これはアイデアを誇張した図であり、このままのものが即建造可能だという意味ではない。基本構造や主だった特徴は次の通り。

* 地上基部に工場を設け、半永久的に本体(本稿では便宜的にピラーと呼ぶ)の素材を途切れなく製造し、上へ向けて送り出す。ピラーの質量バランスは、静止軌道の外側=遠心力の方がわずかに強く、この力で製造されたピラーを引っ張り上げ続ける。

* 昇降機はピラー内部を上下し、これにより対流圏での気象の影響を抑える。昇降機の動力は、重力が半減する高度までは、通常私たちが使用している巻き上げ式エレベーターと同じ方式、十分に重力が小さくなる高度より上では、リニアモーターを使用する。レールなどのリニア昇降システムの構造は、静止軌道を挟んで保つ自重のバランスと、ピラーへの負荷で相互に支え合っている。

* ピラーの低軌道部と高軌道部の間を、ヴァン・アレン帯を貫通する筒状の外壁で覆う(本稿ではこれをオービタルシールドと呼ぶ)。シールドはピラーに複数箇所で接続しているが、静止軌道を挟んだ重力と遠心力で生じる自重のバランスと強度によって力学的に自立しており、ピラーに上下方向の構造支持を依存しない。横方向のみ姿勢維持を依存する。つまりピラーに支えてもらっているのではなく、この土管のようなシールドは、独立して静止軌道上を周回する一つの人工衛星である。このほか、静止軌道を挟んで上下に伸びる構造を持つ部材はすべて、シールドやリニアレールのように重力と遠心力で自重を保ち、ピラーへの負荷を極力軽減するように造られる。

* シールドの断面は多重構造になっている。内側には、国際宇宙ステーションの日本モジュール「きぼう」に使用されているホィップルバンパのような衝撃吸収材とリアクティブアーマーを合わせたような構造材を設ける。バンパは複層になっていて、蛇腹のように曲げられる。その周囲を、グラフェンやカーボンナノチューブなど、本体と同様かそれに準じた、軽く柔軟・頑丈な素材の重厚なネットで覆っている。このシールドで、ピラーと昇降機を放射線や衝突物、攻撃などから防護する。

* シールド内側の静止軌道のほか、低軌道や高軌道など任意の位置にステーションを設ける。ただし静止軌道ステーション以外、高度維持を力学的にシールドに依存する。

* ピラーの周囲には、ピラー本体の基礎材料と同じか、それに類する素材のケーブルが数本(必要なら多数)、並行に設置してある。このケーブルを必要に応じて引っ張ったり緩めたりすることで筋肉の役割を果たし、摂動などによるピラー全体の屈曲を補正する。同時に、この筋肉ケーブルは非常時のピラーの補強用や人員の待避線なども兼ねる。

* 末端のカウンター質量は、ピラーの構造体を収納・分解する作業場を兼ねる。ここで分解されたピラーの部品や材料は昇降機で地上へ降ろされ、地上の工場で再利用される。

 このような構造により、途切れなく本体素材を送りだしてメンテナンスを簡便化し、デブリや放射線から人や構造体を守る。そして振動をできうる限り小さくすることを試みる。

3. Fountain式(工法)による建造方法
次に、本稿のモデルを建造する方法を説明する。ここではFountain式(工法)と便宜的に名付けた。
 この工法は、テーパーを設けないで建造が可能な強度を持ったケーブルおよび構造体の素材が開発されたことを前提とする。手順は次の通りで、(1)かr(3)までは、JSEA同様、エドワーズ氏のプランに基礎を置いている。
(1) ピラー用ケーブル素材と作業用宇宙船、末端に設置する衛星、燃料を積んだペイロードをロケットで高度約300kmの低軌道に打ち上げる。
(2) ペイロードの中身を低軌道上で組み立て、作業用宇宙船は衛星とケーブルを積んで、さらに静止軌道上まで到達
(3) 静止軌道上からケーブルを地上に向かって繰り出しながらロケットは上昇を続け、ケーブルの先はやがて地上に到達。ロケットは末端でカウンター質量として固定する──ここまでは、おおむね前述のプランと同じ。ただし、末端には、ケーブルを自在に巻き取ったり、逆に繰り出したりする、糸巻きのような機能を持った衛星を設置する。これを「巻き取り衛星」と呼ぶ。
(4) ケーブルが地上に到達する予定地には、素材生産工場をあらかじめ設けておき、いつでもケーブルを生産できるようにしておく。
(5) 軌道上からのケーブルが地上に到達した時、工場で生産を開始し、先端同士をジョイントさせる。
(6) ジョイントが成立したら、巻き取り衛星が軌道の外側に後退し、ケーブル全体の重心を静止軌道の外側に偏らせる。これにより、心力の方がやや強くなり。ケーブルはピンと張った状態となり、工場の生産したてのケーブルを引っ張り上げる力がかかる。
(7) 力に合わせて工場はケーブルを生産し、ケーブルの荷重能力に応じて徐々に太いケーブル途切れなく生産して繰り出す。一方、末端の巻き取り衛星は、全体の質量バランスを保ちつつ、常にケーブルの巻き取り量と、巻き取った分で変化する高度を計算しながら、能動的に調整を行う。巻き取り量が、質量バランスの偏りの限界値を超えたら、静止軌道にプールする。
(8) この作業を続け、当分はひたすらケーブルを太くしていく。必要なら、まきとり衛星のメンテナンス機器や、人間や物資(特に静止軌道ステーションの材料)を繰り出すケーブルにくっつけて宇宙へ送り出すことも行う。
(9) ある程度の太さになったら、筋肉用ケーブルも一緒に生産し、筋肉ケーブルの巻き取り機器と一緒に送り出す。
(10) 十分な太さになったら、中を中空にしたチューブ状に構造を変え、再びそれを送り続ける。さらに太くなり強度が増したら、ケーブル素材に電磁誘導体を取り付けた構造体を生産し、引き続き送り出す。
(11) これを続けて、十分な負荷に耐えるほどの規模や強度に達したら、昇降機や周辺機器を取り付け、運用する。選択肢によっては、工場を増設や拡大して本体を数本に増やす。昇降用設備を取り付けられる段階に達して一定の機能を有した時点から、本体をピラーと呼ぶこととする。ピラーと呼べる規模になった時から、地上基部工場は単純なケーブル生産ではなく、複雑な構造を随時生産して送り出す施設に仕様を変更する(前節の断面図はピラーが3分割してあるが意味はない。ただし、昇降機はコリオリの力の負荷を赤道面に収めるために東西に配置することを念頭に置いている)。
(12) 昇降機が運用可能になったら、巻き取り衛星に貯まった素材を分離し、昇降機に載せて地上に持ち帰り、材料として再利用する。この作業を繰り返す。
(13) 並行して、オービタルシールドを輪切りなどにしてピラーに取り付けたものを生産し、これまでと同様に持ち上げていく。
(14) 質量バランスをとりながらシールドを組み立て、力学的に耐えられる規模になれば、シールドの低軌道や高軌道部にもステーションを設ける
(15) それぞれが運用可能になれば完成。ただし、地上基部工場は常にピラーを製造し続け、末端では常に余った分を切り取ってエレベーターで地上へ送り返し、再利用する。

4. 軌道エレベーター派のロードマップ
 このように、このモデルはクライマーを使用しない。私はクライマーが無駄だと考えているわけではなく、技術が成熟しさえすれば、運用に大きく貢献することは疑いない。しかし必要条件ではない。
 クライマーがなくても、軌道エレベーターは実現できる。
 軌道エレベーター派は、当面このモデルの詳しい検証と理論の完成に力を傾注したい。今回、数値的裏付けなど詳細な検証を行っていないので、それを含めた理論の完成に2~3年。その後はスピンアウト技術の模索も含め、転用可能技術の検証や調査に充て、その間、本体に使える素材の登場を待つ。
 本稿のモデルは、テーパーを設けずに静止軌道から吊りおろして自重を支えられる素材を前提としている。JSEAのモデルは、テーパーを設けることを念頭に置いているため、素材として完成するのは「テーパー有」の方が早いだろう。しかし、技術の発展や開発がそこで止まってしまうはずはない。
 そこで、エドワーズ氏やJSEAが想定する素材の完成に要する年数プラス3年で「テーパー無」素材が登場すると見なし、その時にすぐに建造に着手できる総合計画を提出することを目指す。
エドワーズ氏らの予想通り15年程度で基礎技術の完成や周辺環境の整備が実現するなら、軌道エレベーター派は18年での実現を視野に入れ、研究を続ける。

おわりに:研究には多様性が不可欠
 今回、JSEAへのアンチテーゼともとられかねない、いささか挑発的な発表を行ったのは、JSEAを否定するためではない。研究には多様性が必要だと考えているからであり、研究者同士が相互に切磋琢磨して実現可能性を高めるためのものにほかならない。
研究というのは、一分野に一方針のみという状況では進展せず、生物の進化のように環境の変化で袋小路に陥りやすい。競争や議論のない処に発展はない。
 本稿も、数ある構想の一つでしかなく、今後改善していきたい。興味をもたれた方がいたら、自由な発想で、軌道エレベーターの研究の多様性を広げてみていただきたい。

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軌道エレベーター学会 ブーツストラップとスカイフック -軌道エレベーターの基本形の分類-(1)

2009-06-07 23:10:03 | 軌道エレベーター学会
「軌道エレベーター学会」を新設します。初回は、3日(3章)に分けて「ブーツストラップとスカイフック -軌道エレベーターの基本形の分類-」を掲載します。

ブーツストラップとスカイフック
-軌道エレベーターの基本形の分類-


はじめに
 このホームページの「専門書・論文レビュー」でも紹介している「宇宙旅行はエレベーターで」を読んで、初めて軌道エレベーター(OEV)の知識に触れ、ほかに何の追加情報も得ないまま、アニメ「宇宙エレベータ~科学者の夢みる未来~」を見た時、主人公・未来の「宇宙エレベータって、昔は地球の周りを回ってたんだよね」というセリフに首をかしげた人もいたのではないだろうか。順序が逆でも同じことである。
 というより、疑問に思わないとしたら、OEVの基本原理を理解できていないかも知れない。完成した姿の基本形は同じだが、両者は建造プロセスが異なるということを知っていただきたい。
 これまで、こうしたOEVの建造方法や基本構造の区別を分類する解説は極めて少なかった。そこで本稿では、皆さんのOEVへの理解の一助にしてもらいたいと思い、大まかではあるが、OEVの二大タイプの説明を試みる。

 OEVの研究自体がまだまだ未分化なためれっきとした定義やカテゴリー分類はないのだが、前者の書籍に登場するOEVは「ブーツストラップ工法」などと言われるやり方で造られる。一方アニメの方は「スカイフック」と呼ばれる、小型のOEVを成長させて完成させる。もちろん、ひと括りにブーツストラップ、スカイフックといっても、詳細は構想によって異なる(OEV=スカイフックと呼ぶ人もいる)が、今回はこの二つを軸にOEVの「基本形」をある程度整理してみようという狙いで書くこととした。
 なお、一般にブーツストラップは建造方法、スカイフックは構造物を指すが、本稿ではこれらを「ブーツストラップ型」「スカイフック型」と呼ぶことで、建造方法および構造をまとめて分類し、「造り始める時にどちらを選ぶか」ということに重点を置いて話を進めたい。(本文中敬称略)

(1) ブーツストラップ型
 文献により日本語表記も「ブートストラップ」「ブーツトラップ」と微妙な違いはあるが、ここではブーツストラップに統一する。

 衛星からケーブルなりワイヤーなりを吊り下ろして造る、という程度の意味でしか使われないが、本稿では分類のため「構造全体の重心が終始静止軌道に位置し、衛星と地上との相対的な位置が静止した状態でケーブルを繰り出して建造を始め、完成させるOEV及びその建造方法」と定義した。具体的には、静止衛星を打ち上げ、これを基点にケーブルを上下に伸ばし、下端を地上に到達させて完成させるというのが基本形である。
 一般に、K.ツィオルコフスキーやY.アルツターノフがOEVの祖として語られることが多く、彼らからつながるOEVの思想の系譜はこちらにルーツを持つと言ってよいだろう。
 たいていの場合、末端にカウンター質量を持ち、かつては小惑星を捕獲してこれに充てるというものがあったが、最近ではなりを伏せた。
 このほかに、ブーツストラップを念頭に置いた研究者はJ.ピアソンなどが挙げられ、A.C.クラークが「楽園の泉」で取り上げたOEVもこのカテゴリーに入る。近年脚光を浴びているB.C.エドワーズのプランは典型的なブーツストラップ型である。ケーブル材料を搭載した複数のロケットをいったん低軌道に打ち上げる。ここでペイロードを接合し、低軌道からロケットがケーブルを繰り出しながら静止軌道に到達する方法になっている。
次章に続く

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軌道エレベーター学会 ブーツストラップとスカイフック -軌道エレベーターの基本形の分類-(2)

2009-06-07 23:08:44 | 軌道エレベーター学会
(2) スカイフック型
 スカイフックは、端的にいえば小型のOEVである。地球の自転周期と同期(地上に対して静止)しているものと、非同期で周回しているものに分けられる。本稿におけるスカイフック型の定義は「地上に接触せず、宇宙空間(または一部が大気圏内)に位置し、質量を上方へ持ち上げる能力を持つ小型のOEV、およびその方法」といったところか。
 OEV全般をひとくくりにスカイフックと呼ぶ研究者もおり、文字通りとらえれば、ブーツストラップで建造したOEVも「地球の自転と同期して周回し、下端が地上に接したスカイフック」と見なすこともできる。当然これを完成させるまでに用いられる技術はブーツストラップ工法が用いられうるのだが、本稿ではこれらの名称で両者を分類するのが良いと判断した。

 さて、スカイフックはさらに、直立型と自転型に大別できる。直立型は長い棒または紐が下端を常に地球重心に向けたまま、地球を周回するもの。地上とぶつからない限り全長は理論上いくらでもいいわけだが、軌道重心の位置により、公転速度は異なる。この研究で有名なのが、R.ズブリンの「極超音速スカイフック」である。


 一方自転型の提唱者には、かのアルツターノフも名を連ねているほか、ロボット工学でも有名なH.モラヴェックなどがいる。これはスカイフック全体が、軌道重心を回転軸としてくるくる自転しながら、地球を周回しているというもの。回転のたびに一方の端が下がって、低軌道あるいは大気圏内まで達し、この時にシャトルなどが接触して人や物資を受け渡し、スカイフックの自転運動によって、より高軌道に運んでもらうというもの。


 直立型にしろ自転型にしろ、下端が大気圏に達している場合は、摩擦によって角運動量に偏りが生じるほか、もちろん摂動によってもズレが生じ、常に微調整する必要がある。また、持ち上げる質量がスカイフックの運動エネルギーの一部を持って行ってしまうので、エネルギーを足してあげなければいけないことになる(宇宙から同じ分の質量が戻ってきて、スカイフックを下りに利用すれば別だが)。
 冒頭で紹介したアニメ「宇宙エレベータ」に登場するモデルは、ブーツストラップ工法で非同期スカイフックを造り、最終的には巨大な静止状態のエレベーターにするというものである。
次章に続く

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