温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

鹿沢温泉 紅葉館

2011年09月14日 | 群馬県
今に比べて交通がはるかに不便だった明治~昭和初期に全国津々浦々を巡った田山花袋の著書『温泉めぐり』 (岩波文庫)では、花袋の知人であるK君の話として伝聞ながら上州の鹿沢温泉に言及しており、
山の温泉地としては、殊に深い静かな温泉場であるそうである。旅舎はそう大きいのはないが、二、三軒渓に枕(のぞ)んで構えられてあって、いかにも深山の中であるそうである(中略)那須、塩原、箱根、または、上州の山の温泉よりも、ぐっと静かで好いということであった。私は信越線で通る度に、いつもその山の中の温泉場を頭に描いた。
と述べています。つまり田山花袋は鹿沢温泉には足を踏み入れていないのですが、未踏の温泉の様子を想像しながらいつかは行ってみたいと思っていたようです。信州の東部町からここへと至る道のピークは地蔵峠と呼ばれ、道中には麓から温泉まで百体のお地蔵さんが立てられて、険しい道を上る湯治客を励ましていました。かなり昔から湯治の温泉として人々に知れていたこの鹿沢温泉ですが、K君が「好い」と言っていた温泉場の姿は大正7年の大火で焼失しており、花袋も文中の脚注において「鹿沢は去年焼けたが、今では九分通り元の通りになったということである」と記しています。実際には温泉宿は元の鹿沢温泉から北の方へ下った場所(新鹿沢)で新たな温泉街を拓き、唯一昔の場所で営業を続けたのが「紅葉館」。旧温泉に一軒だけ残ったため、あたかも一軒宿の秘湯のように今でもひっそりとたたずんでいます。


昔はお地蔵さんに励まされながら険しい道を苦労して登ってこの温泉まで来たのでしょうが、いまでは車でいとも簡単に峠を越し、湯の丸高原の爽やかな景色を眺めながらここへたどり着くことができます。玄関では番犬がお出迎え。ワンコのいる温泉はえてして名湯であることが多いんですよね。

 
玄関に置かれた古く大きな置時計を一瞥しながら、歩くと軋む板敷きの廊下や階段を歩いて、段を下ったところにある浴室へ。浴室入口には墨痕鮮やかに「雲井乃湯」と揮毫された扁額が掲げられています。「段を下って行く温泉には名湯多し」という法則が、ここにも当てはまりそうな予感。

 
脱衣所は至ってシンプル。余計なものや飾り気は一切なし。いや、太い丸太を彫って作られた小物置きの棚が目を引きますね。

 
浴室は男女別の内湯がひとつずつあるだけ。古い作りのお風呂にはカランなんてありません。立ち上がりの約1mほどはモルタルですが、そこから上の側壁や天井、浴槽などほぼ総て木造。昔ながらの湯治宿を思わせる渋い雰囲気です。
浴槽は5~6人サイズ、析出の付着によりトゲトゲしている湯口から静かにお湯が注がれおり、浴槽の縁からふんだんにオーバーフローしています。お湯はやや灰色を帯びた薄い黄土色で貝の潮汁のように弱く濁り、赤錆のような橙色の細かい湯の花が浮遊しています。口に含むと金気味+微甘味+炭酸味+石灰味+土気味といったようにいろんな味覚が舌の上で混ざり合います。そして鮮度を感じさせる金気の匂いと土気の匂いが鼻孔へと抜けていきます。ギシギシかなり引っかかる浴感です。源泉は湯口のすぐ傍にあるため、お湯の鮮度がすばらしく、新鮮な源泉ならではのキリっと冴えたお湯が味わえました。44℃のお湯が加水されることなくすぐに注がれるため、人によっては熱く感じるかもしれませんが、ゆっくり掛け湯して体を慣らしていけば、誰しもそのお湯の良さを首肯することでしょう。また重曹の影響か、湯上りはとてもさっぱりします。


カランはないものの、その代りというべき打たせ湯のようなものが浴室内に落ちています。この下に桶が置かれているので、これで落ちてくるお湯を受けながら上り湯にすることができました。なおこの打たせ湯は湯船と異なる「龍宮の湯」というぬるめの源泉を使っています。


男湯と女湯を隔てる仕切りには、燃え上がる炎を中心にして舞う二人の女を描いた鏝絵のようなレリーフが彫られていました。歴史を感じされる味わい深いレトロな芸術に思わずうっとり。昔の人が湯治に求めた心情に思いを馳せながら、いかにも深山の名湯らしい重炭酸土類系のお湯に身を沈めて、ゆっくりとした時を過ごしました。

 
宿舎の道を挟んだ向かい側には湯の丸高原から湧出する水を落として稼働させているミニ水力発電所があり、そしてその隣のフェンスには…

 

(両画像ともクリックで拡大)
鹿沢温泉の由来の説明文や、大火以前の鹿沢温泉の様子を描いた当時の絵(復元)が掲示されていました。絵には何棟もの宿が描かれており、地蔵峠の道は非常に険しいにもかかわらず、かつては多くの浴客がこの温泉を訪れていたことが想像されます。


雲井の湯
マグネシウム・ナトリウム-炭酸水素塩泉 44.8℃ pH7.0 61L/min(自然湧出) 

群馬県吾妻郡嬬恋村田代681  地図
0279-98-0421
ホームページ

立ち寄り入浴時間不明
500円
シャンプー類あり・他備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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白馬八方温泉 第一郷の湯

2011年09月14日 | 長野県
 
白馬八方の温泉は「いつも混雑している」「お湯がどこも一緒でつまらない」という先入観があったため、八方地区の中心に位置する「第一郷の湯」には、目の前を何度も通り過ぎながら訪問したことがありませんでした。しかし先日の白馬岳登山は平日に決行したため、平日の昼間ならそれほど混まないだろうと予想し、先入観を取っ払って下山後に行ってみることとしました。


玄関脇には「湯かけ薬師」なるものが建立されていました。

 
また駐車場の隅っこの信号に一番近い場所には無料の足湯も。

 
全体的にあまり大きな建物ではなく、脱衣所は5~6人が同時に使えば窮屈さを覚えそうです。スキーシーズンには大変なことになりそうだ。
お風呂は内湯と露天があり、内湯の洗い場には混合栓カランが7基設置され、うち4基がシャワー付です。カラン前に貼られたミラーが思いっきり曇っていて(白い物が付着)、ちっとも役に立たないのは残念なところ。室内は木材と石材を多用することにより、ぬくもりのある自然な雰囲気が醸し出されており、浴槽が大きなガラス窓に面しているため、とても明るく開放的です。


お湯はしっかり掛け流され、窓下の排水溝へとオーバーフローしていきます。「みみずくの湯」同様、こちらも八方地区に配湯されている同じ源泉のお湯を使っているため、お湯の特徴は「みみずくの湯」とほとんど同じ。無色透明ほぼ無臭、若干砂消しゴムのような匂いが漂います。一応ツルスベ浴感は得られますが、大したことはありません。湯加減が若干熱めで、私も他のお客さんも長湯できず、せいぜい1分程度で湯船から上がっていました。


内湯の湯船の脇を通って屋外の露天風呂へ。ウッドデッキ調の造りですが、浴槽にはなんとポリバスが使われていました。縁を木材で囲うことによって安っぽさを誤魔化していますが、いくらなんでもポリバスは残念だなぁ…。仮設浴場や地元専用の浴場でのポリバスは却って魅力を増すファクターになりうるのですが、観光客を迎え入れる常設の共同浴場では安っぽさがどうしても目立ってしまいます。でもお湯はちゃんと掛け流されており、浴槽側面の穴から排湯されていました。こちらも湯加減がちょっと熱めでした。
内湯のガラス窓もこの露天も東側、つまり白馬三山とは逆の方角を向いているため、湯あみしながら北アルプスの山稜を眺められないのも残念なところ。「残念」という言葉を繰り返してしまいましたが、絶対的な評価としてはそんなに悪くないんですよ。お湯は掛け流しですし、使い勝手も特に問題なし、お手入れもしっかりなされています。でも露天の景色で伍すれば、同じ源泉を使っている「みみずくの湯」の方が良いですし、源泉の個性やお風呂の雰囲気で比較すれば、白馬塩の道温泉「倉下の湯」に軍配が上がってしまうので、相対的にどうしても評価が下がってしまうんですね…。でも立地条件は良いですし、上述のようなプラス面も多いので、気軽に汗を流すにはもってこいの施設かと思います。


白馬八方温泉第1号・第3号の混合泉
アルカリ性単純温泉 49.7℃ pH11.2 湧出量未測定(混合泉分析のため) 溶存物質128.2mg/kg 成分総計128.2mg/kg
Na:41.0mg(64.91mval%), Ca:16.3mg(29.54mval%), OH:36.1mg(72.28mval%), CO3:14.5mg(16.37mval%)

JR大糸線・白馬駅より徒歩25分(2.1km)、あるいは八方バスターミナルから徒歩2分
長野県北安曇郡白馬村北城5695  地図
0261-72-5705

12:00~21:00(最終受付20:30) 水曜定休(7月下旬~8月中旬および12月下旬〜3月末は無休)
500円
ホームページ
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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