温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

稲子湯鉱泉 稲子湯旅館

2011年09月21日 | 長野県
 
北八ヶ岳の登山拠点になっている老舗の一軒宿です。ログハウスの山小屋のような外観で、周囲の環境にすっかり溶け込んでいます。お湯目的の宿泊客の他、いかにも登山客らしい姿の方も見られました。連泊でじっくりなさっているのか、登山のため早々にチェックインしているのか、昼間だというのに館内には浴衣姿の方が歩いており、とってものんびりした空気が流れていました。

 
受付で料金を支払い、右に折れて廊下を進み、突き当りにある浴室へ。浴室前にはステンレスの長い洗面台が設置されていました。いかにも古めの旅館らしい設備ですね。



(画像クリックで拡大)
洗面所上には明治44(1911)年4月23日付で発行された内務省東京衛生試験所の分析表が掲示されていました。その主要部分を書き写してみます。

第145号 冷鉱泉 長野県南佐久郡北牧村大字稲子字八ヶ岳国有林内湧出一種 定量分析 
右試験ノ為メ当所へ差出シタル水ハ、微ニ白濁シ殆ト中性ノ反応ヲ徴シ微ニ刺戟性鉱味ヲ有ス。之ヲ煮沸スレハ気泡ヲ発揚シテ分解シ、遂ニ褐色ノ沈垽ヲ生ス。比重ハ摂氏15度ニ於テ10005ヲ示シ、其毎1000分中ニ含有スル各成分ノ分量左ノ如シ
炭酸亜酸化鉄 0.0240
硫酸カルチウム(ママ) 0.0216
炭酸カルチウム 0.0109
炭酸マグネシウム 0.1103
炭酸ナトリウム 0.0005
炭酸カリウム 0.0073
クロールカリウム 0.0036
酸化アルミニウム 0.0037
珪酸 0.0457
燐酸 痕跡
遊離及半結合炭酸 11451
以上定量分析ノ成績ニ據レハ本水ハ弱鋼鉄泉ニ属ス。依テ医治効用ノ概要ヲ掲クレハ左ノ如シ
浴用 栄養不良 諸種疾病ノ恢復期 生殖器病 神経痛 
内用 慢性神経痛 神経衰弱症 慢性膓胃加答児(カタル)
 (漢字は常用漢字へ、数字はアラビア数字へ、それぞれ変換。句読点は当方にて加筆)

全体的に薄い冷鉱泉ですが、遊離炭酸ガスが突出して多いようですね。一応ここでは弱い鉄泉に分類されているものの、炭酸泉としての効能に期待しているのか、神経痛などを適応症として挙げています。さてこの分析からちょうど100年がたった今日の稲子湯はどのような泉質を示しているのでしょうか。


こちらが浴室。男女別の内湯がひとつずつあるだけのシンプルな構造。洗い場のカランは、昭和の銭湯によくあった押しバネ式のものが3基用意されています。


長方形の湯船は4~5人サイズでしょうか。源泉温度がとても低いので当然ながら加温(+循環)されており、湯船のお湯はうっすら深緑色および褐色を帯びた貝汁濁りで、赤茶色の小さな浮遊物が無数に舞っています。明治の分析表の「之ヲ煮沸スレハ(中略)遂ニ褐色ノ沈垽ヲ生ス」とはこのことを指しているのでしょう。

 
このお風呂で注目すべきはこのバルブと源泉溜でしょう。お湯は循環加温されていますが、湯船の上に突き出たバルブを開くことによって冷たいままの源泉を直接投入することもできます。またバルブ上には小さな源泉溜りがあって、そこからコップで鉱泉を汲んで飲むことができるわけです。源泉溜りは「微ニ白濁」という表現の通り、硫黄の付着により綺麗な純白に染まり、タマゴ臭がプンと香ってきます。実際に飲泉してみると、口の中で勢いよくシュワシュワと炭酸が弾け、当然ながら炭酸の味が非常に強くて口腔内が収斂し、さらに金気味や硫黄のタマゴ味が混在して、とっても不味いものでした。でもこの不味さは温泉ファンなら思わず興奮してしまう非常に個性的な特徴であり、特に1493mgという近々の分析値が示す通りに遊離炭酸ガスの多さには圧倒されてしまいます。

バルブを開けると、ボコボコ音を立てながら勢いよく冷鉱泉が湯船へと投入されました。バルブを開きっぱなしにすれば、半循環状態の湯使いが実現できますが、何しろ鉱泉はとても冷たいので、源泉を入れっぱなしにしておくとたちまち湯船はぬるく、さらには冷たくなってしまうため、程ほどのところで止めないと、他のお客さんに迷惑かけてしまいます。私は多少ぬるくても大歓迎なのですが、この時は後から続々お客さんが入ってきたので、源泉投入は少しだけにとどめておきました。
加温された湯船の鉱泉は白っぽさが失われ、炭酸ガスも飛散してしまうため、酸味と金気ばかりが残って、上述のように貝汁的な微かな褐色を呈するお湯へと変貌してしまいます。加温するだけでこんなにも印象が違ってしまうものなのですね。キシキシと引っかかる浴感でした。
私は入浴中に「うわっ、不味い」と口にしながらも、そのインパクトのある味につい心が惹かれ、何度も鉱泉を口にしてしまいました。単に加温槽だけの鉱泉だったら私は興味を抱かなかったでしょうが、一切手が加えられていないそのままの源泉を浴槽へ投入でき、しかも飲泉することもできたので、非常に印象に残る鉱泉となりました。明治の分析とほぼ同様の泉質が今でも楽しめるというのは、とってもロマンチックでもあります。


稲子湯源泉
単純二酸化炭素・硫黄冷鉱泉 8.3℃ pH5.0 67.1L/min(自然湧出) 溶存物質160.1mg/kg 成分総計1657mg/kg
Na:4.1mg(13.06mval%), Ca:11.5mg(41.36mval%), Fe2+:6.8mg(17.41mval%), HCO3:76.3mg(93.77mval%), 遊離CO2:1493mg, 遊離H2S:3.4mg

長野県南佐久郡小海町稲子1343  地図
0267-93-2262

立ち寄り入浴 600円
石鹸・シャンプーあり、他備品類なし

私の好み:★★★

コメント (2)
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新穂高温泉 水明館 佳留萱山荘

2011年09月21日 | 岐阜県

「日本秘湯を守る会」に加盟しているこちらのお宿は、広大な露天風呂が自慢とのことなので、どのくらい広いのか、立ち寄り入浴で体験してみることにしました。


玄関横では錫杖岳の清らかな伏流水飲むことができ、とっても冷たくて美味でした。その隣には龍の首ような形をした木の枝から熱い温泉が出ています。


露天風呂の入り口は駐車場を挟んで宿泊棟と反対側。大きな暖簾がお出迎え。

 
脱衣所は露天風呂に対してオープンになっており、お風呂から丸見え状態でした。尤も、ちゃんと隠れることができるスペースもあるので心配ご無用。


すぐ脇を流れる鎌田川のせせらぎ音が清々しい、奥飛騨北アルプスの山裾に包まれた緑の中で、たっぷりお湯を湛えた巨大な露天風呂。なるほど、これは確かに広い。奥の方には滝が落ちていますね。面積は約250畳なんだそうでして、つまりは400㎡強もあるわけです。上州の宝川温泉と肩を並べるような規模ですね。本邦最大か否かはわかりませんが、最大級には違いないでしょう。露天風呂はいくつかの浴槽に分かれていますが、誰もいない時を見計らって一番大きな槽で平泳ぎしてみたら、20回手を掻きました。普通のお風呂でそんなに掻けるところは無いでしょう(良い子はマネしないように)。
なおこの露天風呂は混浴ですが、緑色の湯浴み着を着用することができるので(料金別途)、女性でも安心して入浴できるかと思います(他に女性専用露天風呂あり)。また、湯浴み着を借りない客は前を隠すのがここの暗黙のルールのようです。

 
画像左(上):カランは無いので指定の掛け湯場で体を洗います。
画像右(下):洗い場の奥には足湯がありました。

 
お湯は中央の岩から噴き出ていたり、竹筒から注がれていたりと、いろんな形で供給されています。広い日本庭園の池の中に入っているかのようなお風呂です。錦鯉の気持ちがちょっと理解できそうな気がしました。


一番大きな槽と滝のある奥の槽の間には、冷たい水が張られた池がありました。水が注がれる樋の下では飲むことができます。無論庭園の景観構成のために設けられた池ですが、入浴中は水分補給が求められますから、樋の水が飲めるのは一石二鳥で便利ですね。

 
あまりに広い露天風呂なので、かえって落ち着くことができず、ついウロウロしてしまいます。せっかくなので、滝に近づいてみましょう。滝はてっきり普通の水かと思っていたら、なんと温泉が落とされているのでありました。湯の滝です。何とも豪快ではありませんか。


滝の手前は岩が口をあける洞窟のような空間がありました。中に入ってみると…

 
中には「日本秘湯を守る会」の大きな提灯が提げられ、その光により洞窟内がボンヤリと照らされていました。奥の方からはお湯が流れてきます。露天のみならず洞窟風呂も楽しめるんですね。これは面白い。子供は大興奮必至でしょう。


上述のようにお湯の供給元は、岩の上の噴出、竹筒、湯の滝など、目に見える形でたくさんあるのですが、広い露天風呂でそれだけに頼っていては湯加減にムラができてしまうため、浴槽の底には一定間隔に穴があけられた塩ビ管が沈められており、ここからも源泉が供給されて湯加減のムラを無くしているようです。細かい苦労が垣間見れますね。尤も、こういうのはお芝居の黒子と一緒なので、あえてこのように取り上げるのは野暮な話かもしれませんが。

露天風呂は大きく3つの浴槽に分けられ、それぞれ微妙にお湯の質感が異なりました。一番奥の湯の滝がある浴槽は無色透明でほぼ無味無臭、手前の一番大きな浴槽とその隣の脱衣所前の浴槽は、やはり無色透明ながら湯口で僅かにゴムのような硫黄臭、そして薄い金気のような味と硫黄を思わせるゴムのような味が感じられました。一番大きな浴槽は槽内の材質の関係か薄っすら緑色っぽく見えます。脱衣所前の浴槽は他より若干ぬるめでした。弱いスベスベ浴感で、湯上りはさっぱり爽快です。あまり特徴のない泉質で、且つ加水されていますが、加温循環消毒なしの掛け流しである上に源泉投入量も非常に多いので、温泉の質にこだわる方でもご満足いただけるのではないかと思います。秘湯の趣があるかどうかはちょっと疑問ですが、一風変わった面白い露天風呂をご希望の方にはもってこいかもしれません。


カルカヤ1号泉と2号泉の混合
66.2℃ pH6.2 220L/min(動力揚湯) 溶存物質881.6mg/kg 成分総計954.2g/kg
Na:180.7mg(83.00mval%), Cl:81.4mg(23.81mval%), HCO3:396.6mg(67.29mval%), 遊離H2S:0.0mg

佳留萱3号
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉 87.4℃ 191.0L/min(動力揚湯) 溶存物質1662mg/kg 成分総計1698mg/kg
Na:364.6mg(86.68mval%), Cl:164.8mg(26.64mval%), HCO3:716.0mg(67.23mval%)

岐阜県高山市奥飛騨温泉郷神坂555  地図
0578-89-2801
ホームページ

立ち寄り入浴 8:00~20:00
800円
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり

私の好み:★★
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