旅限無(りょげむ)

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チベット問題の3月 其の四

2009-03-25 06:57:05 | チベットもの
■次は讀賣新聞の記事です。

新華社電によると、中国青海省ゴログ(果洛)チベット族自治州のラギャで21日、チベット仏教僧侶100人近くを含む数百人の群衆が警察署を襲撃、地元政府職員数人が軽いけがを負った。……新華社電は、僧侶側にけが人が出たかどうかは伝えていない。襲撃の原因については、チベット独立活動に関与した疑いで警察の取り調べを受けていた男性が、20日に警察署から逃亡し、行方不明になった事件との関連を指摘している。

■この報道では僧侶が逃亡した日付が「20日」になっております。それなら「行方不明」になった翌日に大騒動が起こったことになります。現地の位置関係から考えて、そんなに悠長な段取りにはならないはずですから、これは誤報かと思われます。地名をチベット式でカタカナ表記したのは好感が持てますが、ラサ地域の音で読んだもののようです。現地では「ラジャ」と聞こえます。「ゴログ」という地名も最後の音は鋭い息を出すので日本人の耳には聞こえず「ゴロッ」のように聞こえます。北京政府による漢字の当て方は乱暴で、「洛」の字では音がズレます。

■地名も人名も漢字表記は不便な上に不正確なので、チベット人達は往生しております。ラジャ寺の僧侶が橋を渡って押し掛けた町の名前が「軍功」というのも、どんな意図で名付けたのかがよく分かる字になっておりますなあ。


AP通信などは、亡命政府の情報として、男性が黄河に飛び込んだと伝えた。警察はこの男性の部屋でチベットの旗や政治宣伝ビラなどを見つけ、拘束したという。
3月22日 読売新聞

■嫌疑を受けたチベット人の自宅や部屋では、必ず国旗やビラが大量に発見されることになっております。時には草原の小さな寺で経を読み続けている老僧の部屋から手製の爆弾が発見されるような事もあります。宗教舞踊で使用する模造の剣を「武器」だと称して摘発するような無茶なことも起こります。讀賣新聞の記事では単に「男性」という話になっていて、出家僧であることが抜け落ちていますから、「男性の部屋」というのが寺院内の宿坊だということも分かりません。人里離れたラジャ寺の宿坊で、「政治宣伝ビラ」を作って何に使うというのでしょう?寺院内の仲間に配っても意味はありませんし、小さな軍功郷の町で配って自己満足しようとしたとでも言うのでしょうか?

■次は朝日新聞の記事です。


中国国営新華社通信によると、青海省果洛チベット族自治州で21日午後、チベット寺院の僧侶約100人を含む数百人が地元警察署を襲撃し、職員ら数人が軽傷を負った。同自治州では9日にも警察署が地元住民に襲われる事件が起きており、厳戒態勢を強める当局とチベット族との対立が深まっているようだ。 ……警察当局は、20日に拘束したチベット独立派の男が取り調べ中に逃げ出し、行方不明になったことがきっかけになったと説明しているが、詳しい原因は明らかにしていない。チベット亡命政府の説明では、男はチベット寺院の若い僧侶で、警察の取り調べを受けていた最中に近くを流れる川に飛び込み、自殺を図ったという。
2009年3月22日 朝日新聞

■どの記事も「近くを流れる川」としか書かず、黄河という誰でも知っている有名な川の名前を避けているのは不思議ですなあ。朝日新聞は最初から「自殺を図った」との見立てをしている点が目立っていますが、警察当局が「独立派の男」と決め付けているのをそのまま丸写ししている裏の意図を考えた方が良さそうですなあ。
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