旅限無(りょげむ)

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チャイナの縄張り 

2009-03-10 11:45:32 | 外交・情勢(アジア)
■どうやらチャイナが航空母艦を建造するという話は本気らしいという報道がありました。韓国と米国との大規模な共同軍事演習も始まり、北朝鮮は「戦争を意味する」「戦争も辞さない」「戦争になる」などと矢鱈に「戦争」という言葉を濫発しながら、民生用の人工衛星を大陸間弾道ミサイルで発射する計画を強引に推し進めている昨今であります。6カ国協議は開店休業状態が続き、ミサイル問題は米朝間の特殊な問題という位置づけになってしまったのは、ブッシュ前政権が威勢が良かった頃に金融制裁でぐいぐいと締め上げられて窒息しそうになった北朝鮮が物騒なチキンレースを始めたからでした。
 
■ブッシュ前大統領がイラクの泥沼に足を取られている間に核爆発と思(おぼ)しき怪しい地下実験を行い、二の矢として米国本土に届く長距離ミサイルを完成させたらしく振る舞い始めてからはブッシュ政権の外交戦略は豹変し、最後の最後になって唐突にテロ支援国家の指定を解除してしまったのでした。そして、毎度の事ながら「戦争に倦んだ」アメリカは、対話重視の融和政策を掲げるオバマ新大統領を選んだというわけですが、チャイナの希望の星だったクリントン奥さん候補が国務長官に就任するに及んで、おそらく北京政府は大喜びしかけたはずです。ところが就任前の公聴会でチャイナとは距離を置き日本重視の戦略を採ることを誓わされた辺りから、米中間にも隙間風が吹き始めたようです。

■それでも世界一の借金大国となって落ちぶれた米国としては、恥も外聞もなく赤字国債を山ほど発行しますから、何処かの間抜けな金持ちか海千山千の駆け引き上手な国などに買って貰わねばなりません。米国を名指して軍拡の目標としているのがチャイナですから、貿易や金融の分野でのグローバル化は大歓迎でも、軍事的な強大化は早めに抑え込んでおかないと、後々、面倒なことになります。日本を「咬ませ犬」に仕立て上げる一方で、チャイナの海軍を「沿岸」に封じ込めておく戦略があるようです。ソマリア沖の次はいよいよ台湾沖に日本の海上自衛隊が出向く日も近いかも?


ギブズ米大統領報道官は9日の記者会見で、米海軍の音響測定船が中国軍の5隻の船舶に囲まれるなど航行を妨害された事件について、「米艦船は公海上を規則にのっとって活動していた。中国に国際法を順守するよう求める」と述べた。国務省によると、米政府は北京の米大使館を通じて、中国側に抗議した。

■「公海」という概念がチャイナ側に通じるかどうか?好き放題に領海・領土をころころと変更する悪い癖がある国ですから、言葉だけの「抗議」にどれほどの効果があるかは大いに疑問でありますなあ。


……事件は8日、海南島から南に約120キロ下った南シナ海でおきた。海洋調査を行っていた音響測定艦インペカブルは中国軍の情報収集船など5隻に包囲された。インペカブルを囲んだ中国船のうち2隻は約15メートルまで接近し、中国国旗を振りながら海域を離れるよう求めた。

■日本とは尖閣諸島の帰属問題を抱え、東南アジア諸国とは南シナ海全域で常に揉め事を起こしているチャイナでありますから、「海南島から南に120キロ」というのは実にややこしい場所ということになります。


インペカブル側が中国船に放水すると、そのうちの1隻の船員らは衣服を脱いで下着姿になり、約7メートルまで近づいた。インペカブル側は無線を通じ中国側に海域を離れるので、航路をあけるよう要請した。ところが、2隻がインペカブルの前方をふさいだため、同船は衝突を防ぐため、緊急停止を迫られた。中国船はインペカブルの航行を妨害するため、木材を海中に投げ込んだという。

■物を投げれば簡単に届くほど接近して何をしようとしたのでしょう?航行を妨害したのなら、本気で拿捕しようとしたのかも知れませんぞ。そう言えば、1968(昭和43)年1月23日に米国のスパイ船「ブエブロ号」が北朝鮮に拿捕されるという大事件が起きた事が有りましたなあ。朝鮮戦争の停戦から間もない頃で一触即発の危機と騒がれた事件でした。チャイナの軍部には、米国の新大統領を甘く見ている連中が居るのかも知れません。こうした小さな事件を軍が頻発させて北京政府はこれからの外交交渉の瀬踏みにしているのなら、非常に危ない話になりますなあ。


中国はこの海域は自国の管轄と主張している。7日にも中国側はインペカブルに海域を離れないと「報いを受ける」と警告するなど、ここ数日挑発的な行為を繰り返していた。インペカブルは非武装で、潜水艦が出す音を収集する低周波ソナー(音波探知機)などを配備している。収集した情報は潜水艦探知に利用される。米中両国はブッシュ前政権の発足後まもない2001年4月にも、海南島南東で米海軍の電子偵察機EP3と中国の戦闘機が接触し、一時関係が悪化した。
3月10日 産経新聞

■2001年の「接触事故」が起きた時、たまたま現地に留学中だったので、墜落した戦闘機のパイロットが英雄扱いされるニュースや特別番組を観た覚えがあります。事故が起こった地点は米軍機が定期便のように通過する公海上にあり、いつもの通りにスクランブル発進したチャイナの戦闘機が、何を考えたのか機体を寄せ過ぎて体当たりして勝手に墜落したという事故だったようですが、現地では米軍が領空侵犯したのを命懸けで阻止した英雄潭に仕立て上げられていたようです。事故の2年前にコソボ内戦で米軍機による在外公館「誤爆」事件が起こっていたので、米国に対する報復だったのではないか?とも噂された不思議な事故でした。

■最終的には太平洋の西半分を我が物にしょうと計画しているチャイナですから、手始めに南シナ海を完全に掌握して東南アジア全域を経済的にも軍事的にも支配してしまう腹づもりなのでしょうが、少なくとも自分が主張する縄張りには「世界の警察官」は不要だ!という意思表示なのでしょう。海南島の海域は日本の生命線となるシーレーンからは外れていますが、日本が後詰の助っ人を頼まれる日も近いかも知れませんなあ。

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