旅限無(りょげむ)

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日本の隣の軍事大国 其の参

2009-03-06 23:05:15 | 外交・情勢(アジア)
■尖閣諸島の問題は、絵に描いたような「非対称型」の外交問題になっております。北朝鮮による拉致問題に関しても似たような具合になっているのは、やはり「憲法9条」の解釈と運用が時代と現実に合致していないからなのでしょう。尖閣諸島は領海問題を棚上げして、もっぱら経済協力の話にすり替えられてしまったようで、しかも日本側が領有権を主張している場所は「共同開発」で、チャイナが主張している場所の方は、日本の投資先になるような話で進んでいるようです。あちらは小型と言っても立派な軍艦で押し出して来るのに、こちらは海上保安庁の巡視船を出すのでさえも及び腰なのですから、最初から領土問題にはなっていないようなものです。

■今のところは、チャイナの空軍機が領空侵犯のデモンストレーションをするようなことは無いようなので、気になるのは海軍の増強ぶりということになります。


4日付の中国夕刊紙、法制晩報によると、中国海軍北海艦隊の王福山副司令官は4日、海軍創立60周年を記念して4月に山東省青島で大規模な海上閲兵式を行うことを明らかにした。全国人民代表大会の代表を務める副司令官は「すでに国外へも招待状を発送した」と述べた。海軍の創立記念日は4月23日で、青島には北海艦隊の司令部がある。
2009年3月4日 共同通信

■はて?60周年ということは、1949年の4月23日にチャイナの海軍が創立されたことになります。この年号は朝鮮戦争の1年前、従ってチベット解放(侵略)の1年前に当ります。しかも毛沢東が中華人民共和国の成立を宣言したのは同年の10月1日ですから、海軍は半年も前に創立されていたことになります。因みに1949年の1月にはコメコン(東欧経済相互援助会議)という悪い冗談みたいな貧者の同盟が結成され、それに対抗するために同年4月4日にNATO(西タ大西洋条約機構)が創設されております。つまり、チャイナの海軍はNATOより20日ばかり先に創設されたことになります。

■勿論、国共内戦の末期に当る時期ですから、蒋介石(当時は李宗仁が総統代理)の国民党軍に対する追い落とし戦争の総仕上げに掛かっていた時でもありました。そんな時期に海軍を創設したのか?と不思議に思い、日本財団が公開している電子図書館の『うみのバイブル』第2巻を参考にして、チャイナが創設したと言う海軍の実態を調べてみました。


……第2次大戦が勝利に終わると、国府海軍は賠償として風雪・宵月以下の駆逐艦7隻、海防艦17隻、輸送艦2隻、敷設艦2隻の34隻(3万6000トン)を、さらに中国大陸に残置された日本海軍の砲艦や漁船改造の哨戒艇、陸軍の大発や小発などの小舟艇と汪精衛海軍の数隻の砲艦などを接収し、2169隻(8万3000トン)を保有するに至った。……

■「国府」というのは中華民国政府の事で、大陸を舞台にした壮大な鬼ごっこみたいな不思議な戦闘を続けていた日本軍は、何が何だか分からないうちに敗戦国になってしまいます。戦勝国側に入っていた蒋介石は米国による勝利に便乗した形で勝者になったわけですが、最初はドイツ、後に米国から大量の武器を買ったり貰ったりして日本軍と共産党軍との三つ巴の実にややこしい戦争を続けていたのでした。戦後の賠償は請求しなかったという話は有名ですが、実際には日本軍から武器や装備をごっそりと「賠償」として受け取っていたわけです。

■その蒋介石軍から武器を奪って戦っていたのが毛沢東の共産党軍で、日本軍が降伏した機会を逃さず一気に北上して満洲や華北に展開していた日本軍の武器弾薬をごっそりと頂いたのも有名な話。

日本の隣の軍事大国 其の弐

2009-03-06 20:36:26 | 外交・情勢(アジア)
■チャイナがどれほどの軍事大国になろうとしているのか?尖閣諸島のガス田開発問題と沖縄の在日米軍基地の問題とを絡めると、非常に嫌な感じがしますなあ。民主党の小沢代表は政治資金規正法違反の罪に問われそうだというので、日本のマスコミは面白おかしく騒いでいるようですが、解散総選挙の前に民主党が雨散霧消するかも知れないぞ!という話などより、この騒ぎが起こる直前に小沢代表が口を滑らせた「第七艦隊だけで十分だ」という発言の方が、政権交代論議の根幹に関わる重大な意味を持っていたのではないでしょうか?

■もしも、田中角栄さんから受け継いだ日中友好(利権)を大前提として日米関係を見直そうとしているのなら、小沢発言は日本の安全保障問題を根本的に変えてしまう可能性がありましょう。つまり、片務的な日米安保条約を大幅に改定して双務的な対等関係にしながら、同時並行的にチャイナと新しい安全保障に関する交渉を進めよう、などと考えているのなら、恩師の金丸さんが北朝鮮で演じたピエロの役を、北京あたりで演じるようなことになりますぞ。

■政権交代に到らずとも、何か大きな政局の変化が起こったら、日中関係に大きな変化が起こるかも?と考えながらチャイナの国防費に関する発表を考えてみますと、あまり軽々しくは聞き流すわけには行かなくなります。件の小沢発言が問題になっていた時に、福田ホイホイ前首相が、上海万博の鍬入れ式に招かれて、ホイホイと嬉しそうに儀式用の鍬を振るっていたようですから、自民党内の外交戦略も統一されていないのは明らかで、民主党はそれ以上に支離滅裂な外交政策しか持ち合わせていないという事になりそうですなあ。


2009年3月4日、中国外交部の李肇星報道官は記者会見で……その用途は「国家主権と領土を守るためで、いかなる国にも脅威を与えない」と説明した。増加の理由は、士官や兵士たちの待遇改善、防衛能力を高めるための情報化戦力の向上、適度な装備の増強など。このほか、災害時の救済能力や四川大地震の被災地における復興支援能力の向上、テロなど緊急事態への備えも加えられた。

■産経新聞の記事では何故か割愛されていますが、こちらの記事では「対テロ」の項目が挙げられています。ウイグルやチベットの「国家分裂主義者」を想定しているのは明らかでしょうし、喧しく政府を批判する連中も間も無く「テロ」の範疇に含まれるようになるのでしょうなあ。何せ第二次天安門事件の時に、広場に集まった学生達は「暴乱の徒」と呼ばれたのですから、次に似たような事件を起こした者は間違いなく「テロリスト」呼ばわりされることでありましょう。


同報道官はまた、中国の国防費が国内総生産(GDP)に占める割合はわずか1.4%に過ぎず、米国の4%強や英国、フランスの2%強と比べ「かなり低い」と強調。その透明性については07年から国連軍事費支出報告制度に参加していることを挙げ、いわゆる「隠し軍事費」は存在しないと説明した
2009年3月4日 Record China

■国営の新聞やテレビなどのマスコミが党の「宣伝機関」になっている国家体制ですから、軍事費に含まれるか含まれないかの線引きにも、「特色有る社会主義」が自由自在に使われているに違いありません。弟分の北朝鮮が、大陸間弾道弾の開発を「民生用人工衛星」を打ち上げる目的で進めているのは、兄貴分を見習っているからではないでしょうか?あちらは「先軍政治」だそうですが、チャイナは人民解放軍が作った国ですからなあ。