■無気味に静かな新年を沈黙のうちに過ごしたチベット地域ですが、やっぱり、北京政府の思惑通りの解放感謝記念日を祝う気分にはなっていないようです。少数民族に対する手厚い?援助によって経済発展していることになっているモデル地区としてのラサ周辺、そして解放(侵略)戦争以来の怨念が貯まりに溜まっているカム地方では、北京五輪と四川省パンダ震災以後の警戒体制が秘かに強化されていたのでしたが、チベット鉄道の始発駅のある青海省は報道メディアにとっても北京政府にとっても、ちょっとした盲点となっていたような気がします。
■一口に「チベット」と言ってしまいますと、何となくラサを中心としたチベット自治区だけを指しているような錯覚を持ってしまうのは、北京政府のチベット政策が大成功を収めた結果で、日本の新聞やテレビで紹介される地図やジオラマでも、律儀に北京政府が強引に設定した境界線が書き込まれていますから、チベット問題が火を噴いたとの報道で「青海省」やら「甘粛省」やらの地名を目にすると混乱してしまう人も多いのではないでしょうか?
■唐の時代に青海省全土と四川省東部と甘粛省西部は、正式な外交条約によって古代チベット帝国の領土となってから、シルクロードの貿易権益を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられ、文字通りの取ったり取られたりの戦乱が続いたのであります。それが20世紀になってからは、チベット人・モンゴル人・回族が混在していた地域に最も新しい闖入者?の漢族の人口が増え続け、毛沢東時代からは急カーブを描いて人口比率を高めて現在に到っております。
……中国青海省の果洛チベット族自治州で9日未明、警察と地元住民の間で衝突が発生し、自家製爆弾により、警察車両と消防車の屋根やライトが破壊された。死傷者は伝えられていない。8日午後、警察が検問所で、伐採した木材を運搬する地元住民のトラックを停止させ調べようとしていさかいが起き、抗議の住民数十人が深夜まで、近くの警察署を取り囲む騒ぎとなった。同自治州でも昨年3月、チベット自治区ラサの暴動の影響で、チベット僧らによるデモ行進が起きた。
2009年3月9日 読売新聞
■少し古いニュースですが、「青海省」だけでもその位置が判然としていない人にとって「果洛」などいう読み方も分からない地名が紛れ込んだ報道ならば、簡単に読み飛ばしてしまうでしょうなあ。しかし、大昔から長安(西安)とラサを結んでいた最も重要な道が通っていた場所だったという説明が付け加えられていれば、只事ではないと感じられるでありましょう。
■チベット文化に興味を持っている向きには、『ケサル王伝奇』という世界最長の未完のファンタジー物語の舞台となった場所だと言った方が、その場所の重要性がお分かりになるかも知れませんなあ。または、NHKがうっかり?チャイナと共同で制作した『大黄河』というドキュメンタリーを御覧になった人にとっては、黄河源流を探索した番組を思い出すかも知れません。但し、あの番組の中で感動的に建立された「黄河源流」の石碑は残念な事に有名無実化されて、後にチャイナ独自に発見した本物?の源流とされる地点に日本とは何の関係も無い立派な石碑が立っているとか……。どちらも「果洛チベット族自治州」の中でのお話です。
■「果洛州」というのは青海省の中でも最も広い州で、場所は同省の東南、四川省と甘粛省の両方と境を接しています。3月9日の爆弾騒ぎが発生したのは四川省に近い山岳地帯の「果洛州班(王偏に馬)県」のようです。
……青海省果洛チベット族自治州班瑪県で9日未明、数十人の住民が地元警察を襲い、手製爆弾でパトカーと消防車を爆発させた。現場近くではチベット族による騒乱が相次いでおり、10日にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命するきっかけとなった騒乱から50周年を迎えることから、地元当局は厳戒態勢を敷いている。現場は四川省との境界近くの山岳地帯にある地元警察の検問所。警察当局が8日午後、地元住民のトラックを停止させ、荷物と免許証を検査していたが口論となった。近くの数十人の住民が集まり深夜まで続いた。……四川大地震の被災地復興のために、地元のチベット族が「聖地」とあがめている山で大量の木が伐採されていることへの反発が口論の引き金になったという。自治州では昨年3月にチベット族による騒乱があり、4月には地元警察幹部が「チベット独立派」の銃撃に遭い死亡している。
2009年3月9日 朝日新聞
■朝日新聞の情報の方が事件の背景を詳しく教えてくれています。チベットには山岳信仰が根強く残っており、仏教の陰に隠れてしまっていても人々の信仰は微妙な混淆状態が続いているのです。日本でも江戸時代までは行政上の資源保護を目的とする「お留め山」や、地元のアニミズム信仰に根差した伐採禁止の「聖なる山」が日本中にありましたが、チベットは今でも強烈な山岳信仰が生き残っているのであります。無神論を掲げて乱入して来た共産党軍は、寺院の仏像や法具などを掠奪破壊すると同時に、膨大な森林資源を根こそぎにして持ち去ったのは有名な話です。人的被害も甚大だったのに正確な記録が残っていないくらいですから、動植物が受けた被害の実態など誰も知りません。
■山奥で起こった地元住民と警察との諍(いさか)いは、あっと言う間に情報統制の網の目をくぐって口コミで広がりますから、青海省内の別の場所で、もっと大きな騒動が起こるのではないか?と危惧しておりましたら、最も起こって欲しくない場所で火を噴いてしまったようです。
新華社によると、中国の青海省チベット自治区で暴動が起き、数百人が警察署などを襲撃した。それを受け、中国当局は22日、僧侶ら約100人の身柄を拘束した。チベット独立運動に関与した疑いで拘束された男性が行方不明になった問題が一因となったもようで、新華社は、人々が「うわさにだまされている」と伝えた。また21日には「警官と政府職員が(集団)攻撃を受け、複数の政府職員が軽傷を負った」と伝えたが、現地は平穏に戻っていると付け加えた。
■これはロイター電ですが、新華社発表の丸写し情報ですから、さっぱり要領がつかめません。何が起ころうとも直ぐに「平穏」無事になってしまうのがチャイナ情報の悪い癖なのですが、「身柄拘束」された僧侶の数が本当に100人以上だとしたら、これは相当に大きな規模の暴動であったはずですし、その後の影響もただならなぬ物になりそうな予感がしますぞ。決して簡単に「平穏」状態になど戻れないはずなのですが……。
インド北部のダラムサラにあるチベット亡命政府のウェブサイトは、チベット人僧侶の自殺をめぐり、約4000人が中国警察と衝突したと伝えた。新華社の報道によれば、6人が拘束され、89人が「降伏」。大半が行方不明となった僧侶が属していた寺院の僧侶だったという。2009年3月23日 ロイター
■どうやら、この暴動騒ぎは時期と言い場所と言い、ただでは済まない広がりと深刻さが予想されます。杞憂で終わればよいのですが……。
■一口に「チベット」と言ってしまいますと、何となくラサを中心としたチベット自治区だけを指しているような錯覚を持ってしまうのは、北京政府のチベット政策が大成功を収めた結果で、日本の新聞やテレビで紹介される地図やジオラマでも、律儀に北京政府が強引に設定した境界線が書き込まれていますから、チベット問題が火を噴いたとの報道で「青海省」やら「甘粛省」やらの地名を目にすると混乱してしまう人も多いのではないでしょうか?
■唐の時代に青海省全土と四川省東部と甘粛省西部は、正式な外交条約によって古代チベット帝国の領土となってから、シルクロードの貿易権益を巡って熾烈な争奪戦が繰り広げられ、文字通りの取ったり取られたりの戦乱が続いたのであります。それが20世紀になってからは、チベット人・モンゴル人・回族が混在していた地域に最も新しい闖入者?の漢族の人口が増え続け、毛沢東時代からは急カーブを描いて人口比率を高めて現在に到っております。
……中国青海省の果洛チベット族自治州で9日未明、警察と地元住民の間で衝突が発生し、自家製爆弾により、警察車両と消防車の屋根やライトが破壊された。死傷者は伝えられていない。8日午後、警察が検問所で、伐採した木材を運搬する地元住民のトラックを停止させ調べようとしていさかいが起き、抗議の住民数十人が深夜まで、近くの警察署を取り囲む騒ぎとなった。同自治州でも昨年3月、チベット自治区ラサの暴動の影響で、チベット僧らによるデモ行進が起きた。
2009年3月9日 読売新聞
■少し古いニュースですが、「青海省」だけでもその位置が判然としていない人にとって「果洛」などいう読み方も分からない地名が紛れ込んだ報道ならば、簡単に読み飛ばしてしまうでしょうなあ。しかし、大昔から長安(西安)とラサを結んでいた最も重要な道が通っていた場所だったという説明が付け加えられていれば、只事ではないと感じられるでありましょう。
■チベット文化に興味を持っている向きには、『ケサル王伝奇』という世界最長の未完のファンタジー物語の舞台となった場所だと言った方が、その場所の重要性がお分かりになるかも知れませんなあ。または、NHKがうっかり?チャイナと共同で制作した『大黄河』というドキュメンタリーを御覧になった人にとっては、黄河源流を探索した番組を思い出すかも知れません。但し、あの番組の中で感動的に建立された「黄河源流」の石碑は残念な事に有名無実化されて、後にチャイナ独自に発見した本物?の源流とされる地点に日本とは何の関係も無い立派な石碑が立っているとか……。どちらも「果洛チベット族自治州」の中でのお話です。
■「果洛州」というのは青海省の中でも最も広い州で、場所は同省の東南、四川省と甘粛省の両方と境を接しています。3月9日の爆弾騒ぎが発生したのは四川省に近い山岳地帯の「果洛州班(王偏に馬)県」のようです。
……青海省果洛チベット族自治州班瑪県で9日未明、数十人の住民が地元警察を襲い、手製爆弾でパトカーと消防車を爆発させた。現場近くではチベット族による騒乱が相次いでおり、10日にチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世がインドに亡命するきっかけとなった騒乱から50周年を迎えることから、地元当局は厳戒態勢を敷いている。現場は四川省との境界近くの山岳地帯にある地元警察の検問所。警察当局が8日午後、地元住民のトラックを停止させ、荷物と免許証を検査していたが口論となった。近くの数十人の住民が集まり深夜まで続いた。……四川大地震の被災地復興のために、地元のチベット族が「聖地」とあがめている山で大量の木が伐採されていることへの反発が口論の引き金になったという。自治州では昨年3月にチベット族による騒乱があり、4月には地元警察幹部が「チベット独立派」の銃撃に遭い死亡している。
2009年3月9日 朝日新聞
■朝日新聞の情報の方が事件の背景を詳しく教えてくれています。チベットには山岳信仰が根強く残っており、仏教の陰に隠れてしまっていても人々の信仰は微妙な混淆状態が続いているのです。日本でも江戸時代までは行政上の資源保護を目的とする「お留め山」や、地元のアニミズム信仰に根差した伐採禁止の「聖なる山」が日本中にありましたが、チベットは今でも強烈な山岳信仰が生き残っているのであります。無神論を掲げて乱入して来た共産党軍は、寺院の仏像や法具などを掠奪破壊すると同時に、膨大な森林資源を根こそぎにして持ち去ったのは有名な話です。人的被害も甚大だったのに正確な記録が残っていないくらいですから、動植物が受けた被害の実態など誰も知りません。
■山奥で起こった地元住民と警察との諍(いさか)いは、あっと言う間に情報統制の網の目をくぐって口コミで広がりますから、青海省内の別の場所で、もっと大きな騒動が起こるのではないか?と危惧しておりましたら、最も起こって欲しくない場所で火を噴いてしまったようです。
新華社によると、中国の青海省チベット自治区で暴動が起き、数百人が警察署などを襲撃した。それを受け、中国当局は22日、僧侶ら約100人の身柄を拘束した。チベット独立運動に関与した疑いで拘束された男性が行方不明になった問題が一因となったもようで、新華社は、人々が「うわさにだまされている」と伝えた。また21日には「警官と政府職員が(集団)攻撃を受け、複数の政府職員が軽傷を負った」と伝えたが、現地は平穏に戻っていると付け加えた。
■これはロイター電ですが、新華社発表の丸写し情報ですから、さっぱり要領がつかめません。何が起ころうとも直ぐに「平穏」無事になってしまうのがチャイナ情報の悪い癖なのですが、「身柄拘束」された僧侶の数が本当に100人以上だとしたら、これは相当に大きな規模の暴動であったはずですし、その後の影響もただならなぬ物になりそうな予感がしますぞ。決して簡単に「平穏」状態になど戻れないはずなのですが……。
インド北部のダラムサラにあるチベット亡命政府のウェブサイトは、チベット人僧侶の自殺をめぐり、約4000人が中国警察と衝突したと伝えた。新華社の報道によれば、6人が拘束され、89人が「降伏」。大半が行方不明となった僧侶が属していた寺院の僧侶だったという。2009年3月23日 ロイター
■どうやら、この暴動騒ぎは時期と言い場所と言い、ただでは済まない広がりと深刻さが予想されます。杞憂で終わればよいのですが……。