旅限無(りょげむ)

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言った、言わない、記憶に無い 其の壱拾

2009-03-16 23:51:26 | 政治
■同じ長野県出身で総理大臣にもなった羽田孜さんと一緒に自民党・新生党・新進党と渡り歩いた後で自民党に復党した村井知事は、小沢クラッシャー代表とも行動を共にしていたことになります。復党してからは「改革の本丸」の郵政民営化を推進するために党の郵政民営化推進委員会の役員として活躍。それが突如として「民業圧迫」になるからと民営化反対を表明。自民党への復党も郵政民営化反対も、御自身の見識ではなく地元後援会の意見に従っていただけのようですから、こういう人は急に大きな権力を握ったりすると危ないのでしょうなあ。

■小泉プレスリー首相が独断で仕掛けた2005年の9月11日に実施された別名「郵政選挙」第44回衆議院議員総選挙で、「抵抗勢力」に転じた村井さんは自民党の公認を受けられず、かと言って無所属候補となって独力で選挙を戦えるパワーも無かったらしく立候補を断念しています。今度は民主党に鞍替えというわけにも行かなかったのでしょうなあ。

■支持者たちの声に応えて脱「脱ダム宣言」で旧来の公共事業依存型の政策に戻し、長野五輪を開催した時の怪しいカネの流れを解明しようとした田中知事の快挙を中断させて使途不明金を再び闇の底に消したのも村井知事ですから、政治資金の出所も何となく想像が付きます。


準大手ゼネコン西松建設の裏金をめぐる疑惑で、平成18年の長野県知事選前後、この選挙で初当選を果たした村井仁知事周辺に1000万円以上の現金を提供したと、西松建設関係者が東京地検特捜部の調べに供述していることが分かった。村井知事は26日、県庁内で報道陣に対し「何の心当たりもない」と全面的に否定。進退に関しても「(県政に)影響はなく、(任期)半ばなので全力を尽くしてやるだけ」と語った。

■情報操作と強引な誘導尋問が得意の検察から流れる「供述」情報は、時としてまったくのウソである場合もあるようですから、村井知事が全面否定を貫くのは当然でしょうが、そこに秘書の自殺という切り札が使われているのなら、あまり爽やかな話ではありません。


村井知事は西松建設との関係について、「中堅建設会社など含めて大手から相当なところまでパーティー券を買ってもらっていると思う」とした上で、「(西松関係者の)すぐに名前が浮かんでくる人は全然いない」と説明。自身の政治資金団体に関しても「団体を管理する人間は、一切の政治的行動とかかわりなくやってきた。(その人物の)許可がないと事務所の金には一切触れなかった。心配がないと聞いている」と話した。

■中堅から大手まで手広くパーティ券を売っていると正直に答えていますが、政治資金の管理方法に関しては何となくウヤムヤな感じです。伝聞の形でしか潔白を証明できないのも困ったことです。


24日に自殺した県参事の右近謙一氏(59)については、「四半世紀にわたる右近君との仕事のやり方は、『お金のことで後ろ指をさされることは絶対にしない』ということだけを厳しくやってきた。それだけは自信がある。政治家として、私ぐらいきれいにやってきた人間はそんなにたくさんいるか、との自負がある。パートナーとしてずっと一緒にやってきた右近君が、そんなところで変なことをするはずがない。人間と人間の信頼。右近君を信じる」と語った。

■根拠の無い自画自賛にも聞こえますが、裏を返せば「カネに汚い政治家はたくさんいるぞ」と言っているようなものです。自負と信頼だけで検察の追及を免れるのは不可能ですが、重要な証人の自殺という事実は鬼の検察でも渡れない深い闇を作ります。どうやら、二枚看板の逮捕起訴を目論んでいた検察が慌てて小沢代表の公設第一秘書を逮捕したのは、長野県知事の村井さんのラインが切れてしまったからのようです。検察が怖れたのは同様に小沢代表の秘書が自殺することだったと『週刊文春』は書いています。

言った、言わない、記憶に無い 其の九

2009-03-16 10:42:33 | 政治
■それまで政務次官どまりだった村井さんでしたが、2001年の第2次森改造内閣で中央省庁再編の内閣府副大臣に就任!その年の4月には国家公安委員会委員長・防災担当大臣に就任です。しかし、これは第1次小泉内閣での話だったのが後々ややこしい事になります。2002年の6月にはチャイナからの汚染食品が問題になって食品安全委員会(仮称)の担当にもなったのに……。一体、何をしていたのでしょうなあ?と文句を言う間も無く9月30日には国務大臣の職をを退任。「小泉改革」とは何だったのか?という大いなる疑問に答えられる立場にいた人なのですが、2003年の第43回衆議院議員総選挙の比例区で6期目の当選を果たしたものの実に不思議な毀誉褒貶の小さなドラマが展開されます。

■最初は小泉改革の「本丸」と言われた郵政民営化の旗振り役になって自民党の郵政民営化推進委員会の役員をしていたのに、何故か「政府案では、民業圧迫になりかねない」と気が付いて、2005年7月5日の郵政国会では反対票を投じたのでした。この人は頭が良いのか悪いのかよく分からない人のようですなあ。頭が良過ぎるからブレるのかも知れませんが、地元の選挙対策事情がいろいろあったのだろうなあ、と考える方が分かり易いのではないでしょうか。因みに村井さんは長野県木曾の出身ですから、名古屋に直結する岐阜券と東京に近い長野県という歴史的な地政学が影響しているのかも?武田信玄と上杉謙信とが戦った川中島合戦の頃と事情は変わっていないと考えると分かり易いかも?

■小泉劇場政局が仕掛けた9月11日の第44回衆議院議員総選挙では、当然の如く自民党の公認は得られず立候補を断念した村井さんは名目だけの名誉職の「顧問」になって余生を送ることになるのですが、そこに降って湧いたのが田中康夫パフォーマンス知事に対する揺り戻し現象でした。田中潰しのためなら道理も手段を選ばない!という凄まじい選挙戦が勃発したのが2006年8月の長野県知事選挙で、自公政権は何に危機感を持ったのか?田中でなければ何でもよい!という強引な選挙を仕掛けようと、小泉改革の「裏切り者」だった村井さんを担ぎ出して612,725票をもぎ取り、現職の田中康夫さんの534,229票と8万票差で県知事になります。

■「脱ダム宣言」に象徴される親方日の丸型の無駄使いを否定する田中県政を50万人以上の長野県人が支持していた事は覚えておくべきでしょう。地方自治体の選挙としては65%という投票率は高い方なのですが、残りの35%の長野県人は脱ダム宣言や長野五輪で浪費された税金の使途解明にどれほどの関心を持っていたのか?という大いなる疑問が残った選挙でした。地方分権!の錦の御旗に大きなシミを付けたような選挙だったとも言われたのでしたが、それも民主主義の原則に従って長野県民が選んだ首長の地位は尊重しなければなりますまし。

■でも2007年2月16日の定例会見で、「(エイズは)特別な仕事に従事している人たちの間で非常に感染度が高いと承知している」と言い放ち、大分県で発覚した教員採用試験汚職に関連して、2008年7月16日の定例会見で採用試験の合否を事前に知らせるのは「まあこれは社会常識として、社会通念上許容されることではないかな、と私は思います。」などと平然と口走る役人上がりの自民党系知事を、選挙に行かなかった35%の県民を含めて今の長野県民がどう思っているのやら……。打倒、田中県政!で一致団結した集団は、税金の無駄遣いの象徴たる公共事業を否定する「脱ダム宣言」を取り消すために大同団結したはずで、突然復活した大規模ダム建設に食い込もうとする大小ゼネコンの怪しい動きがあるのは素人でも予想が出来ます。そこに西松建設の外為法違反の巨額裏金事件が起こります。

言った、言わない、記憶に無い 其の八

2009-03-16 08:12:04 | 政治
■左近さんの自殺報道の後、一部のメディアが西松建設と長野県知事との関係を報道し始めたのですが、あまり大きな扱いにはなっていないようです。

東京地検は25日、長野市内で自殺したとされる長野県総務部参事、右近謙一さん(59)を特捜部が参考人として複数回事情聴取していたことを明らかにした。準大手ゼネコン西松建設の不透明な資金を巡る捜査の一環とみられる。……村井知事は同日、「(事情聴取は)まったく知らなかった。驚いている」と話した。
2009年2月25日 日経新聞

■一番の側近が特捜部に何度も事情聴取されている事実を、閣僚経験者の県知事が知らない?こういう発言は後で「言った、言わなかった」の水掛け論のタネになるはずなのに、地方ニュースの一つとして軽い扱いをしていたのでしょう。この時点でほとんどのマスコミは特捜部が狙っていたもっと大きな標的の存在をまったく察知していなかったはずですからなあ。しかし、翌2月26日、共同通信がトンデモない裏情報を流したのでした。


準大手ゼネコン西松建設の裏金をめぐる疑惑で、2006年の長野県知事選前後、この選挙で初当選を果たした村井仁知事周辺に対し、1000万円以上の現金を提供したと、西松建設関係者が東京地検特捜部の調べに供述していることが25日、分かった。特捜部は、裏金が使われた可能性があるとみて提供の趣旨や金の流れなどについて慎重に捜査。村井知事が衆院議員時代に公設秘書を務め、24日に長野市内で自殺した同県総務部参事の右近謙一さん(59)に対しても複数回にわたって聴取していた。……

■すっかり有名になった西松建設のダミー団体から、村井県知事に渡ったのはパーティ券を購入した20万円だというのが表の話になっているいそうです。単なる偶然なのでしょうが、小沢クラッシャー代表の親分だった金丸信さんが佐川急便から5億円貰って政治資金規正法違反の罪に問われた時、検察は略式起訴にして罰金たったの20万円で済んだ時の金額を思い出しますなあ。まあ、事はそれだけでは済まず、側近だった小沢さんの助言もあって議員辞職して恭順の意を表わしたのに、脱税容疑で金丸さんは逮捕されてしまったのでした。判断ミスを責められた小沢さんは自民党を飛び出すことになったのでした。


西松建設の裏金をめぐっては、海外事業で捻出した計7000万円を税関に無届けで国内に持ち込んだとして、特捜部は外為法違反の罪で前社長国沢幹雄被告(70)や元副社長藤巻恵次被告(68)らを起訴。7000万円は国内工事での受注工作資金などに使われたとみて、使途などについて国沢被告らを追及している。右近さんの自殺について、東京地検は「参考人として事情聴取した。(聴取と自殺との因果関係は)コメントする立場にない」としている。村井知事は旧通産省を退官後、1986年に衆院選に初当選。6期連続当選を果たし、国家公安委員会委員長などを務めた後、2006年8月の知事選で初当選した。……
2009年2月26日 共同通信

■村井県知事の経歴は、1959年に東大経済学部を卒業して通産省に入省。1986年、工業技術院総務部長を最後に辞職して同年の第38回衆議院議員総選挙に自由民主党公認候補として旧長野4区に出て当選。1993年の第40回衆議院議員総選挙では同じ選挙区ながら「新生党公認」で3期目の当選を果たし、次の1996年に行われた第41回衆議院議員総選挙では「新進党公認」として4期目の当選を果たしているそうです。小沢さんと共に歩んでいた経歴は二階パンダ大臣と同じですなあ。2000年の第42回衆議院議員総選挙では「自民党公認」に戻って5期目の当選。出たり戻ったり何とも忙しい話ですが、当時は珍しいことではありませんでした。

言った、言わない、記憶に無い 其の七

2009-03-16 08:12:01 | 政治
■新聞記者に対する態度が急に良くなったと、そんな事さえも大ニュースになるのが小沢クラッシャー民主党代表のキャラクターです。定例記者会見での質疑応答も我慢しながら渋々答えていたのに、秘書が逮捕されてからは驚くほど愛想が良くなって、これまでは一度も立ち止まらず一言も発したことがないというブラサガリ取材にも満面の笑みを浮かべて丁寧に受け答えしている様子が大スクープのようにテレビ画面に流されていました。急ぎ足で行き過ぎるかと思いきや、「オシッコして来るから」の一言を残したクラッシャー小沢は言行一致で小用を済ませると直ぐに記者が待つ廊下に戻って来た!記者たちは仰天して声も出なかったとか……。

■「生兵法は怪我の元」とも言いますし「鵜の真似をするカラス」の譬えもあるように、慣れないことを急にやり始めると思わぬ失敗をするものです。クラッシャーの本領は封印してスマイリー小沢に変身したのは数日間だけで、今度はボロを出さないように都内のホテルに籠城中とのことです。何でもロッキード事件で有名になった小佐野賢治さんの会社が経営するホテルなのだそうですなあ。昔からの定宿なのでしょうか?

■そんな籠城中の小沢さんが特別に会ったのが田中康夫さんだというのですが……。


民主党の小沢一郎代表は13日、滞在している東京都内のホテルで、参院で統一会派を組む新党日本の田中康夫代表と会った。千葉県知事選(29日投開票)について「無党派がカギを握る。大事だ」と田中氏の応援を要請。田中氏は「応援しましょう」と応じた。
3月14日 毎日新聞

■とても小さな記事です。確かの千葉県知事選挙は自民党が統一候補を出せな大混戦だそうですから、このところ地方選挙で連敗中の自公連立政権に止めを刺して解散総選挙に弾みを付けるというのは有りそうな話です。しかし、この時期に元長野県知事の田中康夫さんと会って知事選の応援を養成しただけなのか?もっと大事な話が有ったのではないか?と勘ぐりたくなります。それと言うのも『週刊文春』3月19日号の「史上最低のドロ仕合」という特集記事に掲載されている「秘書自殺の二の舞を恐れた」という文章を読んでいたからなのですが……。


(2月)24日午後5時50分ごろ、長野市西長野の裾花川沿いの道路で、長野県総務部参事、右近謙一さん(59)が電柱にロープで首をつった状態でいるのを通行人が発見し110番した。右近さんは病院に運ばれたが、間もなく死亡が確認された。右近さんは自衛官を経て、村井仁知事の衆院議員時代の公設秘書を務めた知事の側近。村井氏が2006年8月の知事選で初当選した後、同年12月に任期付き県職員として採用された。遺書などは見つかっていないが、長野中央署は現場の状況から自殺とみている。……同僚は「思い詰めている様子もなく、精力的に仕事に取り組んでいた。理由は思い当たらない」と話している。
2009年2月25日 共同通信

■この自殺に関しては新聞やテレビは意外なほど小さな扱いしかしなかったようです。3月3日午後に小沢代表の公設第一秘書が逮捕されるとは誰も思っていなかったからなのでしょうが、『週刊文春』の記事によると、外為法違反で逮捕した西松建設の「裏金」を1年間も秘かに追求していた検察当局は、野党第一党の代表と自民党の元閣僚を同時に立件すればバランスが取れて申し分の無い着地点になると考えていた、という背景が書かれているのであります。検察が標的にした自民党系の元閣僚というのが現職の長野県知事だという話を他のメディアが書かないのは不思議な話ですなあ。