旅限無(りょげむ)

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チベット問題の3月 其の弐

2009-03-24 10:44:25 | チベットもの
■3月9日に爆弾騒ぎが起こった場所は四川省の裏側に当る険しい山岳地帯の小さな町でしたから、V谷の斜面を削って付けた一本道を誰かさんが閉鎖でもすれば情報を遮断するのは比較的容易だったはずです。チベット地域にはどんなに険しい山奥の土地でも驚くほど巨大な寺院が作られているような場所も珍しくはないのですが、事件が起こった場所の周辺にも幾つかの寺院が点在しています。突発的に起こった事件に寺の関係者が関わっていたかどうかは不明なままでしたが……。

■事件が起こった青海省果洛チベット族自治州班瑪県には、省都の西寧から毎日長距離バスが走っておりまして、所要時間は約20時間。そのバス路線の丁度中間地点で大きな事件が発生したようです。日本の主要新聞が一斉に報道しておりますが、断片的な情報が各紙に散らばっている状態なので、比較しながら再構成してみましょう。


2009年3月21日、青海省果洛チベット族自治州瑪沁県拉加鎮でチベット僧約100人と現地市民らが地元警察署を襲撃する事件が発生した。警察官、職員ら数名が負傷した。22日、シンガポールの華字紙・聯合早報が伝えた。新華社によると、21日午後2時に警察署で取り調べを受けていた拉加寺の僧侶(河北省籍)がトイレに行くと偽り逃走、黄河に飛び込み対岸まで泳いで逃げようとした事件が発端となった。同僧侶はチベット独立を訴えたため拘束されたと伝えられる。

■「河北省籍」とまで人物が特定されている情報は真実味があります。地名の「拉加」は地元の発音ではラジャで、非常に有名な寺院があります。地図で黄河の流れを辿ってみれば、上流で潰れたS字型になっているのが分かりますが、ラジャの寺はは黄河が流れを西に向けて流れている黄河の沿岸に位置していまして、岸辺の道を川の流れに沿ってとことこ30分ほど歩いて行きますと黄河大橋という立派な橋が架かっております。そこを渡った南岸が軍功郷という小さな町になっています。襲撃された警察署があるのはこの南岸の町でなければなりません。

■そして、僧侶が跳び込んだ川というのは黄色くない黄河に間違いないでしょう。水音もさせずに悠然と流れて行く黄河上流の澄んだ豊かな水の流れは見事なものですが、その水量の多さと川幅の広さを考えますと対岸に泳いで渡ろうとするのは自殺行為としか言えません。本当に跳び込んだのなら、誰も助けに飛び込まないでしょうし、水に入る習慣のないチベット人ならば水泳の達人であるはずもありません。この段階では僧侶の「その後」は不明です。


その後、同寺の僧侶約100人と地元市民ら数百人が集まり、警察署を襲撃した。チベット亡命政府は襲撃参加者は4000人で、チベット独立を求めるスローガンを叫んだと発表している。事件発生後、関係部門は主犯格4人を逮捕。22日時点で95人が逮捕された。うち89人が自首だという。同自治州では今月9日にも消防車、パトカーに爆発物がしかけられる事件が起きている。今年は中国共産党の統治50周年にあたるが、現地では緊張が高まっている。
3月23日 Record China

■僧侶が黄河に跳び込んだのが3月21日の午後2時。その情報が対岸のラジャ寺に伝わり仲間の僧たちが橋を渡って押し寄せるには数時間を要したはずです。長距離バスは1日に2本ほどしか通りませんし、ヒッチハイクをしようにも輸送トラックがごく偶に走って行く程度ですし、御寺にはジープが2台ほどあったかしら?やっぱり100人の僧侶は健脚に物を言わせてサフラン色の袈裟の裾をたくし上げて駆けつけて来たのでしょうなあ。橋を押し渡る光景はさぞや見事だったでありましょう。
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