旅限無(りょげむ)

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日本の隣の軍事大国 其の壱

2009-03-05 18:22:20 | 外交・情勢(アジア)
■底が見えない金融危機は、まだまだ無気味な広がりを見せて徐々に昔懐かしい「ブロック経済」の芽があちこちで顔を出し始めているようです。これが本格化すれば縄張りを守ろうとする国とブロック外に弾き飛ばされたのを怨んで壁を破って食い込もうとする国との間に救いようのない緊張感が高まって行きます。何かと勉強好きなチャイナでは、日本の不動産バブルを教訓とすべく熱心に研究を重ねているという報道がありましたが、1920年代の経済恐慌から世界大戦に突入した歴史を共有していないのが心配であります。

■あの時、欧州列強や(部分的に)日本の支配を受けていた地域に生まれた新しい国々の中には、立派な?核保有国になった上に目覚しい経済成長を実現しつつある国がいくつか含まれているわけでして、頭脳明晰な政治家や官僚が過去の歴史を学び、それ以上に軍人が戦勝国の勝因と敗戦国の敗因を徹底的に研究しているのなら、せっせと「転ばぬ先の杖」を用意しているとしても不思議ではありません。昔は列強が好き放題に切り取って山分けしたような地域に誕生した新しい国が、神話や伝説まで持ち出してナショナリズムを煽り立てれば、今度は自分達が切り取る番だ!という叫びが澎湃として湧き起こることになるでしょう。特に北方の異民族に支配された長い長い歴史をも自国の神話に接木してしまうような思考回路を持っている国などは……。


中国の全国人民代表大会(全人代)の李肇星報道官(前外相)は4日、記者会見し、2009年の国防予算が前年実績比で14.9%増の4826億元(約6兆9000億円)に上ることを明らかにした。国防費の2ケタの伸びは1989年から21年連続。中国は1月に発表した国防白書で「強大な海軍」建設を目標とし、初の航空母艦建造も本格化させており、海外で「中国脅威論」が高まるのは確実だ。同報道官は「妥当な国防費だ。限られた軍事力は国家主権を守るためで、いかなる国にも脅威を与えない」とし、社会発展にともなう将兵の待遇改善▽装備費と軍事施設建設▽情報化作戦能力の向上-など従来と同様の増加要因を挙げた。また、四川大地震を教訓とした対災害能力の向上も国防費増額の理由にした。

■チャイナが主張する「国家主権」が及ぶ範囲が問題であります。海底資源が見つかる度に、東へ南へと「国家主権」を主張する海面が広がり続けております。どうやら、東に向かって膨張しても米国と太平洋を山分けにする程度で我慢してやろう、と自分達の奥ゆかしさを自画自賛しているようですが、腐っても鯛ならぬ米国ですから、いくら大量の赤字国債を購入してくれたとしても、フィリピンや日本を台湾と同じような立場に放置するとは思えませんが……。

■軍事費が膨れ上がる理由として挙げられた「対災害能力の向上」などは、四川省で泣いている被災者にとって「一体、何処の国の話なんだ?!」と言いたいような空疎な付け足しに過ぎないでしょう。しかし、「装備費と軍事施設建設」と「情報化作戦能力の向上」というのは紛れもない事実に裏打ちされた軍拡計画の柱になっています。平時でもサイバー攻撃を仕掛ける部隊があるとか、通常兵器の古臭さに似合わない突出したIT化が進んでいるとか、隣国としては背筋が寒くなるような話が流れております。


……国防費は国内総生産(GDP)の1.4%で、米国の4%強、英国、フランスなどの2%超に比べて比重が小さいと指摘し、「財政支出の6.3%にすぎない」と強調した。しかし、中国は国防費の詳細な内訳や装備状況を明らかにしていない。軍事転用が可能な宇宙技術開発に拍車をかけている。米国防総省は中国の実質的な国防費を「公表の2~3倍」と指摘している。史上空前の金融危機で中国はこれまでで最大の財政赤字を見込んでいるにもかかわらず、「軍だけは別」という実態が鮮明になった。国慶節(10月1日)では最新兵器を含め「最高水準の軍事パレード」を実施すると表明しており、国防費の伸びと合わせ、軍の発言力が高まっていることを浮き彫りにしている。
2009年3月5日 産経新聞

■太平洋の西半分を支配する大計画は一部の軍人が膨らませた誇大妄想が生み出した悪い冗談だとしても、ややこしいマラッカ海峡を飛び越えて、ミャンマーの港からアフリカ東海岸までを手中に収めようとする現代版「鄭和の大航海」プランは着々と進行しているように見受けられます。法律をいじくり回して何とか海賊退治に出掛けようとしている日本を尻目に、既にチャイナの新鋭ミサイル駆逐艦はソマリア沖を遊弋(ゆうよく)しております。

■自国の軍事費はGDPの1.4%に過ぎない、と気楽に言い放つチャイナは、立派な核武装国ですし、大陸間弾道弾も核弾頭を海中から発射できる潜水艦も持っているのですから、図抜けた経済成長が少しばかり鈍化しても、航空母艦の建造やら長距離爆撃機の開発への道を進み続けるのは確かでありましょう。経済発展の恩恵を受けられない人々を切り捨ててでも、米国を怖れない国になるためには非情な政策が推し進められるでしょうし、途中で大規模な暴動が起こったとしても、人民解放軍の「対災害用」装備が武装警察を援護することになるのでしょうなあ。