旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

米国VSスイス 其の弐

2009-03-07 12:10:14 | 外交・情勢(アメリカ)
こうした実態が暴かれて訴追寸前まで追いつめられたUBSは2月、米国における脱税が明らかな250~300人分の顧客情報を提供し、不正利益分として7億8000万ドル(約774億5000万円)を当局に支払うと約束した。これを受けてスイスのメルツ大統領は「わが国の銀行守秘義務は納税不正者の秘密を守るものではない」と宣言したが、米司法省はUBSに5万2000人分の秘密口座の情報を開示するよう米連邦地裁に訴えた。

■要求されているリストの100分の1だけ提供して、何とか生き残ろうとしているUBSも強かですが、メルツ大統領のトボケた宣言も大したものです。そう言えば、地上の楽園王国の王子様達は、皆そろってスイスの学校に留学していたのではないでしょうか?スイスは怪しい資金だけでなく、怪しい人物も(カネさえ払えば)喜んで受け入れる国だという事になりそうです。『アルプスの少女』などに幻惑されては行けませんぞ。リストの100分の1にも満たないのに800億円近い脱税額になるのなら、単純計算しても米司法省の要求する全額となれば、数十兆円の規模になりますかな?


米司法省は「いま数百万人の米国民が仕事や家を失っている。富裕層が納税義務を逃れようとしていたことに驚きを禁じ得ない」との声明を発表。これに対してスイス銀行協会の広報担当者は本紙に対し、「米国に強力な政治ロビーを持たないスイスが狙い撃ちにされた」と憤る。

■追い詰められた人間が、口を滑らせてつい重大な真実をバラしてしまう事があります。別の話題ですが、酒乱の先代・時津風親方が巡業中に弟子を殴り殺した事件が世間を騒がせ始めた頃、殺害された若者に関して「マリファナを吸っていた」という重大な証言をテレビ取材の中で行っていたのに、マスコミが相撲界の麻薬汚染を取り上げたのはオセチア人力士が逮捕された後だったのは、今でも不思議なのであります。

■スイス銀行協会の広報担当者の発言を裏返せば、強力な「ロビー活動」を行って脱税資金を掻き集めている国が存在することになります。印象としては複数のようですが、何処の国なのでしょう?


スイスでは、個人も法人も確定申告することになっており、申告忘れや過少申告は「単純脱税」として追徴課税されるが、違法ではない。書類を改竄する悪質な「租税詐欺」だけが刑事責任を問われるが、米国や欧州連合(EU)では一律に脱税として罰せられる。このため、スイスは国際的な非難を浴びてきた。とくに今回の金融危機で租税回避地への批判は強まっている。

■「単純脱税」という言葉は面白いですなあ。バレても罪に問われないのなら、ダメもとで預ける大金持ちも出て来るでしょう。さてさて、米国の司法省が突き止めた5万人余りの名前の中に、一体、どんな人の名があるのでしょう?


スイスの日刊紙は「スイスの銀行守秘義務は今や神話になろうとしている」と嘆くが、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのカーチマイアー博士は「守秘義務を貫くスイスの銀行への信頼性はこの50年で低下しており、UBSの問題がスイスの銀行全体に波及するのは必至だ」と指摘している。
2009年3月6日 産経ニュース

■数多くの罪を犯して来た米国製のグローバリゼーション時代でしたが、スイスの金融機関にメスが入るのなら、数少ない功績の一つとして記録されることになるかも知れません。でも、近代史の下半分とも言われる過去の帳簿が公開されることは無いのでしょうなあ。

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米国VSスイス 其の壱

2009-03-07 12:09:35 | 外交・情勢(アメリカ)
■日本の政治家たちは、検察特捜部の動きに戦々恐々として息を潜めてこそこそ動き回っているようですが、夜な夜な何処かに集まってはひそひそ話ばかりしていると、有権者が政界全体に愛想を尽かしてしいますぞ。それ以前に世界的な金融危機に対する緊張感が欠けていると見なされて、更に株価が暴落するかも知れません。海の向こうの米国では、オバマ新大統領が史上最大の財政出動に合わせて、国民買皆保険制度を導入すると言い出したとか……。「100年に1度」の経済危機と言い囃す一方で、「蜂に刺された程度」だの「全治3年」だのと、どこか対岸の火事を眺めているかのような発言が飛び出す麻生コロコロ首相の内閣には、世界が大きく変わりつつある現実を見渡す余裕など無いのかも知れませんなあ。
 
■米国発の金融危機がどれほど世界経済の根元にまで及んでいるのかを象徴するようなニュースが飛び込んで来ました。


世界的な金融危機をきっかけにスイスの銀行の「秘密口座」に風穴が開こうとしている。米国人富裕層の脱税を助けていたスイスの金融最大手であるUBSが米政府の求めに応じ、一部の顧客情報を引き渡した。拒否すれば当局から訴追されて経営破綻の引き金になりかねないと判断したためだ。銀行の守秘義務を“国是”としてきたスイスだけに、今回の事態をめぐって大きな騒動に発展している。

■人気劇画の『ゴルゴ13』でも御馴染みのスイス銀行は、先の大戦中に虐殺されたユダヤ人たちが預けた莫大な財産をちゃっかり合法的?に着服する一方で、最後までヒトラー政権に従わなかった歴史があるそうですなあ。欧州を中心とした近代史の半分は、スイス銀行の帳簿の中に隠されているようなものだという話もあるとか……。日本のホリエモン君もスイスに口座を持っていると公言していましたなあ。


オバマ米政権による金融・経済危機対策の総額は、すでに発表された1兆5000億ドル(約148兆9000億円)を上回る可能性が高く、将来の増税は避けられないとの見方が強まっている。このため、「富裕層の脱税によって毎年1000億ドル(約9兆9000億円)の歳入が失われている」(レビン民主党上院議員)と脱税を批判する声は日増しに高まっている。こうした中で米司法当局の捜査で米富裕層に対するUBSの預金集めの実態が浮上し、その悪質さが問題になっている。

■レーガン政権が富裕層に対する大型減税を実施した頃から、世界の大金持ちはもっと税金を逃れようと、カリブ海の小さな島などのタックス・ヘイブンと呼ばれる不思議な場所に資産をせっせと移しているという話が広まりましたが、ブッシュ親子の時代には、もっと複雑なカラクリが発明されて巨大な資産がどんどん地下に潜ってしまい、表の経済統計の指標などでは世界経済の動きが読めなくなったという話もあるようです。謎めいた動きをする資産は、やっぱり巡り巡ってスイスに集まるようになっているのでしょうか?


米国で募集した代理人に出来高払いを約束し、富裕層に狙いを絞って営業をかけさせる。現金を手荷物としてスイスに持ち込んで秘密口座を開設。さらに美術品や貴金属を秘密金庫に預けたり、海外のタックスヘイブン(租税回避地)を経由するなど、代理人は顧客の資産隠しに向け、ノウハウを伝授していた。UBS側は顧客に会うため年延べ4000回近くも渡米していたという。開設した秘密口座は5万2000で、2005年前後には秘密口座の資産総額は148億ドル(約1兆4700億円)にのぼった。

■大金持ちは税金も払わずに私腹を肥やし、貧しい若者は200万円ほどのボーナスを貰えるという理由でイラク戦争に志願していた時期の話であります。日本も小泉改革ブームの中でホリエモンが注目されいた頃に当たります。「かんぽの宿」を丸ごと落札した宮内さんも小泉・竹中コンビと組んで日本をアメリカに変えようと奮闘していたのでありましたが、日本の金融機関の中にも脱税サービスを売り物にしているような所は無いのでしょうな?!日本の預金(納税)者は、ずっとずっとゼロ金利を耐え忍んでいるのであります。

日本の隣の軍事大国 其の伍

2009-03-07 10:21:49 | 外交・情勢(アジア)
■この「統一された海軍」というのが、他では見られない「特色ある」代物だったようです。何せ武器弾薬の一切を外国から買ったり奪ったりしながら気の長い戦争をし続けたものですから、こうなるのは仕方が無かったのでしょうが……。

創設当時の中国海軍は、国府海軍から接収した艦艇183隻(4万3268トン)と、商船を改造したものなど48隻(2万5470トン)であったが、これら艦艇は製造国がアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、日本など多岐にわたり、中には清朝が日本から購入した楚クラスの砲艦などの老朽艦もあり、火砲の種類は30種、機器に至っては355種に達する多種雑多な構成であった。

■こんなにメチャクチャな編成で、どうやって戦う心算だったのでしょう?修理をしようにもパーツの補充も管理もほとんど不可能でしたでしょうし、大規模な演習などしようものなら、本番で使う砲弾が無くなってしまうでしょう。そこに登場するのがソ連という珍妙な海軍を持つ大国だったというわけです。


その後、1951年に海兵隊が、1952年に海軍航空隊が、54年7月に中国海軍最初の駆逐艦部隊が、55年には駆潜艇部隊が青島と船山に新編され、兵員も19万に達した。しかし、問題は海軍要員の不足で、これら兵員は大隊単位で陸軍から11万4000人、空軍から6000人が海軍に転換され、一般人の技術者や知識人など3万人が急遽海軍に徴兵された。しかし、問題は養成に10年は必要な艦艇要員で、その主力は国府軍から寝返った4000名に依存するという奇妙は海軍再建であった。

■乱暴に即製しても何とか実戦に投入できるのが陸軍部隊だそうですが、海軍となると巨大な軍艦を操る精巧な部品となる要員が必要ですから、人数だけを揃えても何の役にも立ちません。1950年に勃発した朝鮮戦争でも、国連軍(実質的には米軍)を苦しめたのは人海戦術の陸軍部隊でありました。もしも、人民解放軍の海軍が使い物になっていたなら、マッカーサーの仁川逆上陸作戦など不可能だったでしょう。


1950年2月に中ソ友好同盟条約が締結されると、中国海軍は戦闘艦艇205隻(5万5300トン)、各種航空機420機、沿岸砲36ヶ中隊分の購入を計画し、ソ連との交渉を開始したが、朝鮮戦争の発生による軍事費の増額、経済的困窮などから支払代金が調達できず協定は成立しなかった。

■この時にソ連が毛沢東の足元を見て「高利貸し」みたいな事をやったのが、後の中ソ対立の遠因になったという話があります。朝鮮戦争の黒幕に徹したソ連は、自分達の傀儡として送り込んだ金日成を見棄て、毛沢東に助っ人役を押し付けた上に渡した武器弾薬の勘定書きを相当水増しして送り付けたのだそうですなあ。どちらも貧しい革命国家ですし、ソ連にしたところで米国の援助を受けてナチス・ドイツを押し返すのがやっとだったのですから、革命の同志が「高利貸し」になるのも仕方がなかったのでしょうなあ。当時からソ連も中華人民共和国も、戦争に関しては充分に「資本主義的」だったのでした。


1952年に協定が成立。
1953年からリガ(Riga)型護衛艦、W(Whisky)型潜水艦、T-43型掃海艇、クロンシュタット(Kronstadt)型駆潜艇、P-6型魚雷艇の図面や資材を購入。
1954年12月、ゴルディ(Gordy)型駆逐艦2隻をはじめ約110隻(2万トン)がソ連から引き渡された。

その後さらにG(Golf)型戦略核ミサイル搭載潜水艦、R(Romeo)型潜水艦、オサ(Osa)・コマ(Komar)型ミサイル艇、P-8型水中翼魚雷艇などが導入され、中ソ対立でソ連が中国への技術供与を中止し、技術者を引き上げた1958年までに111隻(4万3000トン)の艦艇が建造または譲渡され、中国海軍の近代化は大きく前進した。

■この蜜月時代には、多数のロシア人技術者がチャイナに招かれ、チャイナからも多くの留学生が送り出されておりまして、有能な若者は必死になってロシア語を学んだのでした。あまりにも有能だったばかりにロシア語の専門家になってしまい、後で自分の人生を棒に振ったと悔し涙を流した者が多かったそうですが、最悪の場合はソ連のスパイとして処刑されたとか……。このような実に可哀想な苦難の道を歩みながら、何とかソ連製の潜水艦や軍艦を真似て数を揃えて出来上がったのが今の人民解放軍の海軍だったというわけです。

■勿論、東京五輪が開催された1964年に原子爆弾の初実験に成功しておりますから、核ミサイルの搭載が可能な原子力潜水艦夏(Xia)級を1987年に完成!これからは航空母艦も建造するのだそうですから、数だけ多いと陰で笑われていた世界第3位のチャイナの海軍は、人様に笑われない実力を備えようと必死になっているというわけです。正確な創立記念日は謎のままですが、60周年を祝いたくなるだけの苦労はしているのは確かなようです。

■不祥事続きの日本の海上自衛隊は大丈夫なのでしょうか?万が一の場合は保有艦艇の数の上では7倍以上とも言われるチャイナの海軍に対抗しなければならない任務を、「伝統墨守・唯我独尊」の体質で果たせるのかどうか?憲法解釈やら関連法の問題に加え、有事など考えた事もない政治家ばかりになっている環境ではありますが、頑張って欲しいものであります。

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日本の隣の軍事大国 其の四

2009-03-07 10:21:32 | 外交・情勢(アジア)
さらに、1944年秋には約1000人の将兵がフロリダに送られ、1946年7月にはフリゲート艦2隻、掃海艇4隻、駆潜艦2隻、および1万5000トンの輸送艦がアメリカから供与された。次いで300名の軍事顧問団と駆逐艦を含め、271隻の艦艇(大部分はLSTなどの揚陸艦艇)の供与をアメリカ議会が議決し、47年末までに35隻の艦艇が国府海軍に加えられた。しかし、その後は内戦の激化や国府軍の本土撤退などにより、供与艦艇は最終的には131隻に止まった。……

■米国としては予想したよりも早く日本軍が降伏してので、軍需物資の在庫が捌けずに困っていたとか……。その中でも最も高価な在庫だったのが二発の原子爆弾だったので、大急ぎで消費しなければ戦後の議会で大問題になるところだったそうです。税金の無駄遣いは民主国家の政権与党としては命取りですからなあ。戦後の選挙対策で広島と長崎を焼き尽くすというのは酷い話であります。米国としては(無謀ながらも)強敵だった大日本帝国を「平和国家」に作り変えたものの、ソ連という新しい強敵を育ててしまった事に気が付くのが遅れまして、慌てて在庫品を蒋介石にプレゼントしたのでしたが、スターリンと毛沢東の方が役者が上だったようです。


一方、中国への影響力を維持したいイギリスも、1944年には留学生を受け入れ、46年までに約1000名を訓練し、46年12月にはコルベット艦(英国名Petunia中国名・伏波)を、48年5月には軽巡洋艦(英国名Aurora、中国名・重慶)と駆逐艦(英国名Mendip中国名・霊甫)を供与し、中国海軍はこれらの援助を受けて、1948年末には428隻(9万4000トン)、人員4万に拡張された。

■この段階の「海軍」は、今年60周年を迎える人民解放軍の海軍とは別物であるのは申すまでもないことですが、阿片戦争という凄まじい過去を持っている英国が、このような「援助」をするというのも、極東にも現われた「鉄のカーテン」を怖れたからなのでしょうなあ。太平洋戦争の初日に、世界に誇る大英帝国の東洋艦隊が壊滅した苦い思い出があるので、蒋介石の軍隊に名を借りて、少しでも過去の栄光を復元したかったのかも知れません。

■こうして日本、米国、英国から奪ったり貰ったりして数だけは増えた蒋介石の海軍でありましたが、ここから話は共産党の人民解放軍へと移ります。


1948年11月、東北地域を平定した東北野戦軍は、営口を攻略し、同港にあった国府軍の小型艦艇28隻(約3000トン)を接収し、人民解放軍東北区海軍(後の東北人民海軍)を創設した。12月には塘沽を占領。

1949年1月、天津を占領し各種艦艇を捕獲して人民解放軍華北区海軍(のちの華北人民海軍)を創設。
4月23日には揚子江渡河を前にして華東区海軍(1955年に東海艦隊と改称)、10月には広州を占領し中南区海軍(1955年に南海艦隊と改称)などの局地的海軍を編成。
1950年9月には各地の局地的海軍を統一した人民解放軍海軍部を創設し、ここに統一的人民解放軍一海軍(People’s Liberation Army-Navy)が誕生した(以後、中国海軍と呼称する)。

■ここに「1949年4月23日」という日付が登場しますなあ。チャイナの北半分を支配してから南下した共産党軍が、揚子江の北岸に達した段階で「海軍創設」としたのは、蒋介石から南半分を奪うのにはもう少し時間が掛かると考えたからなのか?あるいは広州一帯を奪うことなど考えてもいなかったからなのか?今となっては、ひどく中途半端な日を創設記念日にしたものだとしか言えませんなあ。従って、本来ならば人民解放軍の統一された海軍の創設は1950年9月某日ということになります。