旅限無(りょげむ)

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米国の腐臭 其の参

2009-03-24 19:03:54 | 外交・情勢(アメリカ)
……AIGの巨額ボーナス支給問題を調査している米コネティカット州司法当局は、ボーナスの総額が、これまで報告されていた額を5300万ドル(約50億円)上回り、2億1800万ドル(約209億円)に達していると明らかにした。……AIGのデリバティブ(金融派生商品)部門があるコネティカット州など19州が、ボーナス支給に関する詳細な情報開示を求めていた。支給総額はこれまで1億6500万ドルと報告されていたが……。同州のブルメンタール司法長官は、多額のボーナスが「まるで紙吹雪のようにばらまかれた」と指摘。73人の幹部に100万ドル以上が支払われ、このうち5人は400万ドルを超えていた……。

■こういう話を毎日のように聞かされていると「50億円」という金額の大きさが分からなくなります。どうして最初の報告からこんな大金が漏れていたのか?そちらの方が金額の大きさよりも重大な問題でしょう。まさに「紙吹雪」のようにAIG本社の中には札束の雨が降っていたようですなあ。儲かった!儲かった!と、WBCに優勝するよりも何倍も喜ぶ米国人がたくさん居たのでありましょう。


政府管理下で経営再建中のAIGが、経営危機の原因となったデリバティブ部門の幹部に巨額のボーナスを支給していた問題は、支給を阻止できなかったガイトナー財務長官への批判に転じており、共和党議員をはじめとして辞任要求が出ている。これに対して、オバマ大統領は22日までのCBSテレビとのインタビューで、ガイトナー長官の辞任を受け入れるつもりはないことを明らかにした。
2009年3月23日 産経新聞

■自分の任命権者としての責任問題に直結することですから、オバマ新大統領としても、ガイトナー長官の更迭は避けたいところでしょう。そもそも世界的な金融危機の大問題を、一握りのカネの亡者たちが多額のボーナスを持ち逃げした問題に矮小化してしまうのは如何なものか?超人的な肉体に恵まれ、人並みはずれた鍛錬の末に稼ぐ数十億円と、詐欺同然の金融商品を世界中の亡者たちに売り付けて稼ぎ出した巨額のボーナスとはまったく別物であります。スポーツ選手にはドーピング検査や反社会的なスキャンダルなどの厳しい審査の目が光っているものですが、怪しげな金融商品を開発して荒稼ぎした連中には何の制限も無く、ボーナス金額も契約年棒も単なる数字か記号のようなものだったのかも知れませんなあ。


AIGの救済で恩恵を受けるのはヘッジファンド-。
18日付の米紙ウォール・ストリート・ジャーナルはAIGが損失を抱えているデリバティブ(金融派生商品)取引の相手は多くがヘッジファンドであると報じた。AIGは政府による優先株取得や米連邦準備制度理事会(FRB)による特別融資の形で、総額1700億ドル(約16兆7000億円)超の公的支援を受けている。同社救済により富裕層を顧客とするヘッジファンドが利益を得ることになれば国民の不満が高まりそうだ。ヘッジファンドにわたる公的資金の額は明らかになっていない。
2009年3月19日 産経ニュース

■悪事で稼いだ泡銭で建てた豪邸を巡る「見物ツアー」まで企画され、ボーナスを受け取った人物の具体的な名前のリスト公表まで求められ、針の筵(むしろ)に座らされているような以前のエリート金融マンたちに比べて、彼らを利用して底なしの金銭欲を満足させようとしていた「取引相手」たちの方は、まるで被害者か善意の第三者みたいな顔をして米国で吹き荒れるボーナス騒動を見物しているのでしょうなあ。

米国の腐臭 其の弐

2009-03-24 19:03:21 | 外交・情勢(アメリカ)
■3月24日という日は、何かと「男」を考えさせる出来事が多かったようです。米国のロサンゼルスからの実況生中継で「侍ジャパン」が強豪韓国との死闘の末にWBC連続優勝を果たし、同じ時間帯には陣内某とかいう大阪の芸人さんが身も蓋もない離婚会見を開いていたそうですが、そのコントラストの強さが情けない男の姿をくっきりと浮かび上がらせていたとか……。夕刻の大相撲では日馬富士が朝青龍を破って見せたので、陣内某が満天下に晒した「男」の見苦しさが尚一層強調されることになったようです。この一連の流れは今夜から明日にかけてテレビの報道番組では繰り返し繰り返し放送されるのでしょうなあ。

■WBC決勝戦、試合前のセレモニーで『君が代』が流れているいる時に、一人だけ巨大なチューインガムをもぐもぐ噛み続けていた小笠原選手の姿がちょっと気になりましたが、勝てば官軍と申しますから先制タイムリー・ヒットを打ったことで誰も苦情は言わないのでしょうなあ。日韓ワールド・シリーズみたいな展開になった今回のWBCですが、両チームとも「カネよりも名誉や意地」のために頑張った感があります。本家の米国では有力選手が集まらず、最初から優勝を狙っていなかったようですが、これは何よりも「カネの問題」だったのかも知れません。剥き出しの金銭欲を解放してしまった新自由主義経済の影響なのでしょうか?


今大会の賞金は、優勝270万ドル(約2億5920万円)、準優勝170万ドル(約1億6320万円)。日本代表は第2ラウンドを1位突破したため、1位ボーナス40万ドル(約3840万円)が加算され、優勝した場合の獲得総額は310万ドル(約2億9760万円)となる。賞金は主催者(WBCI)と出場国との契約で、50%を首脳陣と選手が均等分配し、残り50%を野球振興資金(アマ団体への支援など)に充てることが決まっている。……50%を原監督以下首脳陣7人、選手29人の計36人で分配すると1人あたり約4万3056ドル(約413万円)。……これ以外に、NPB(日本プロ野球組織)から出場料として選手に200万円、首脳陣に150万円(前回は優勝後にそれぞれ倍増)が支払われる。
3月24日 サンケイスポーツ

■要するに大いなるプレッシャーに耐えながら必死て連日の死闘を勝ち抜いた金銭的な報酬は最高でも約560万円になるということです。巷の噂では米国のメジャー・リーグで活躍している有名選手ともなれば、年棒は数十億円単位になるとか……。本シーズンを前にして、単なるお祭騒ぎに駆り出され、たとえ優勝しても560万円しか貰えない代わりに、故障でもしたら大変だ!という計算と本音が透けて見えるようです。そう言えば、前回のWBC大会でも、メジャーで大活躍していた日本人選手が出場を辞退していましたが、当時の日本は小泉時代でしたなあ。

■米国人はボーナスが異様に好きなようで、オバマ新政権もボーナス問題で大揺れであります。


米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(電子版)は23日……AIG幹部の高額ボーナス問題で、受給額上位20人のうち15人が返還に同意、返還額が3000万ドル(約29億円)以上になったと報じた。……他幹部の分も含めると5000万ドル(約49億円)の返還が同意済みという。エドワード・リディ会長兼最高経営責任者は10万ドル以上受け取った幹部に受給額の半分以上を返還するよう求めていた。
2009年3月24日 読売新聞

■自家用ジェット機に乗って公的資金の注入を要請しに来るような経営者が生息している奇怪な国ですから、政府が税金を使って救済しようとしている「企業」と、自分が莫大なボーナスを受け取る契約した結んでいる「企業」とは別物だと考えられる奇怪な頭脳と神経を持っている人間が増殖していても不思議ではありません。特別に法律を作って一時的に「課税」しようとする議会というのも米国特有のものなのでしょうなあ。課税法案など議論しているより、いっそのこと国名を「ユナイテッド・ステート・オブ・ボーナス」に変えたらどうでしょう?最悪の評価を下されたイラク戦争に若者を駆り出すのにもボーナス制度が活用されました。金額はWBC大会での一人当たり優勝賞金ボーナスの半分以下だったのですが……。

チベット問題の3月 其の参

2009-03-24 10:46:16 | チベットもの
■ラサ市の名刹セラ寺の分院として18世紀半ばに建立されたのがラジャ寺で、寺の北側には見上げるような岩山が屏風のように切り立っております。以前からこの岩山の絶壁に英語で「フリー・チベット」と書かれているとの伝説があるようですが、含蓄のあるブラック・ジョークです。数キロ上流に鳥葬場があるからか、岩山には大型の猛禽類が巣を作っていて、恐ろしく澄んだ青空を背景にして気持ち良さそうに旋回していたりします。多くのチベット仏教寺院と同様にラジャ寺もちょっとした都市のような規模を持っていまして、全盛期には2000人近い僧侶が修行していたそうです。解放(侵略)戦争の後、仏教撲滅を目指して定められた出家僧侶定員制度によって「396人」の定員が押し付けられているそうですが……。

■南岸の町である軍功郷のチベット人住民とラジャ寺の僧侶全員を総動員しても「4000人」には足りないかも知れません。まあ、それくらいの迫力のある大群衆が警察署に押し寄せたという少々文学的な誇張があるのかも知れません。しかし、仮に1000人だったとしても日頃は静かな山奥の田舎でのことですから、これは大事件には違いありません。その中の誰かが本当に「チベット独立」を叫んだのか?それとも単に「漢族は出て行け!」と言ったのを拡大解釈したのか?真相は闇の中ですが、大群衆の中から「主犯格4人」を特定して逮捕することなど出来るのでしょうか?まさか取る物も取り合えずに駆けつけた僧侶の手にプラカードが掲げられていたはずもないでしょうに……。次は北京発の産経新聞記事です。


中国国営新華社通信によると、青海省ゴログ・チベット族自治州で21日、チベット寺院の僧侶約100人を含む数百人が地元警察署を襲撃し、地元政府の数人が軽傷を負った。当局は22日、6人を逮捕した。しかし、89人は自ら警察に出頭したという。これらのうち、93人が僧侶だという。当局は暴動の発生を警戒して厳戒態勢を敷いているが、僧侶らによる大規模な暴動が伝えられるのは初めて。暴動のきっかけは、チベット独立を支持する活動をした疑いで拘束されていた男性が脱走、その後行方不明になったとの情報が原因とみられるという。

■ここでは「その後行方不明」という話になっております。先の「川に跳び込んだ」という報道と繋ぎ合わせますと悲しい結論になってしまいそうです。「独立」だの「分裂」だの、ちょっと前なら「反革命」だのの嫌疑を掛けられた人が逮捕直前に自殺するという話は何度も耳にするものです。マスコミもマトモな裁判制度も無い国で、官憲に睨まれたら御仕舞いで、人権思想の欠片も存在しない場所ならば苛烈な拷問も当たり前でしょうし、一族郎党も過酷な生活が強いられるのは目に見えているからなのでしょう。地元政府の役人が「軽傷」を負ったとなれば、その落とし前を着けるためには手段を選びませんから、89人が「自主」する前にどんな脅迫宣伝が行われたことやら……。


チベット亡命政府(インド・ダラムサラ)によると、集まった人数は約4000人で、「チベット独立」のスローガンを叫ぶなどした。……ダライ・ラマ14世がインドに亡命した「チベット動乱」から50年にあたる10日には、僧侶が同自治州の寺院に掲げられていた中国国旗を降ろしてチベットの旗を掲げたことで当局が寺院を封鎖。僧侶らを取り調べていたが、そのうちひとりが自殺を図り、僧侶らが警察署に抗議したという。
3月23日 産経新聞

■町を複数の寺院が取り囲んでいるような場所では、夜の闇に紛れて悪戯を仕掛ける小さな?事件は頻発しているようです。町の目抜き通りにチベット国旗を掲げるとか、地元公安の建物に胸のすくような言葉を書いた紙を貼ったり……。でも、寺と僧侶の数の多過ぎて犯人の特定は不可能ですし、伝統的に門前町ともなればまだまだ住民の多くはチベット人で、もしも不確かな容疑で名刹の僧侶を拘束でもしようものなら、大変な事が起こりますからなあ。そういう場所には独特の緊張感が漂っているものです。

■しかし、今回の事件が起こった場所はラジャ寺しかありませんから、袈裟姿の僧侶はラジャ寺の人間以外ではあり得ません。境内に五星紅旗が掲げられていたのが事実なら、おそらくは北京五輪の開催を前にした「愛国教育」を目的として始められたか、「解放してくれた有難う」記念日に向けた思想教育の一環として、地元の事情も知らない愚かな役人からの指示に従って現地の政府が寺に命令したものと思われます。交通の便が悪いことが幸いして、観光化の並とも無縁だったラジャ寺は、本格的な修行が出来るゲルク派の寺院として有名ですから、そんな場所に「教育」を仕掛ければ大きな反発を受けるのは当たり前でしょう!きっと軍功郷の役人も、嫌な予感がしていたに違いありません。

チベット問題の3月 其の弐

2009-03-24 10:44:25 | チベットもの
■3月9日に爆弾騒ぎが起こった場所は四川省の裏側に当る険しい山岳地帯の小さな町でしたから、V谷の斜面を削って付けた一本道を誰かさんが閉鎖でもすれば情報を遮断するのは比較的容易だったはずです。チベット地域にはどんなに険しい山奥の土地でも驚くほど巨大な寺院が作られているような場所も珍しくはないのですが、事件が起こった場所の周辺にも幾つかの寺院が点在しています。突発的に起こった事件に寺の関係者が関わっていたかどうかは不明なままでしたが……。

■事件が起こった青海省果洛チベット族自治州班瑪県には、省都の西寧から毎日長距離バスが走っておりまして、所要時間は約20時間。そのバス路線の丁度中間地点で大きな事件が発生したようです。日本の主要新聞が一斉に報道しておりますが、断片的な情報が各紙に散らばっている状態なので、比較しながら再構成してみましょう。


2009年3月21日、青海省果洛チベット族自治州瑪沁県拉加鎮でチベット僧約100人と現地市民らが地元警察署を襲撃する事件が発生した。警察官、職員ら数名が負傷した。22日、シンガポールの華字紙・聯合早報が伝えた。新華社によると、21日午後2時に警察署で取り調べを受けていた拉加寺の僧侶(河北省籍)がトイレに行くと偽り逃走、黄河に飛び込み対岸まで泳いで逃げようとした事件が発端となった。同僧侶はチベット独立を訴えたため拘束されたと伝えられる。

■「河北省籍」とまで人物が特定されている情報は真実味があります。地名の「拉加」は地元の発音ではラジャで、非常に有名な寺院があります。地図で黄河の流れを辿ってみれば、上流で潰れたS字型になっているのが分かりますが、ラジャの寺はは黄河が流れを西に向けて流れている黄河の沿岸に位置していまして、岸辺の道を川の流れに沿ってとことこ30分ほど歩いて行きますと黄河大橋という立派な橋が架かっております。そこを渡った南岸が軍功郷という小さな町になっています。襲撃された警察署があるのはこの南岸の町でなければなりません。

■そして、僧侶が跳び込んだ川というのは黄色くない黄河に間違いないでしょう。水音もさせずに悠然と流れて行く黄河上流の澄んだ豊かな水の流れは見事なものですが、その水量の多さと川幅の広さを考えますと対岸に泳いで渡ろうとするのは自殺行為としか言えません。本当に跳び込んだのなら、誰も助けに飛び込まないでしょうし、水に入る習慣のないチベット人ならば水泳の達人であるはずもありません。この段階では僧侶の「その後」は不明です。


その後、同寺の僧侶約100人と地元市民ら数百人が集まり、警察署を襲撃した。チベット亡命政府は襲撃参加者は4000人で、チベット独立を求めるスローガンを叫んだと発表している。事件発生後、関係部門は主犯格4人を逮捕。22日時点で95人が逮捕された。うち89人が自首だという。同自治州では今月9日にも消防車、パトカーに爆発物がしかけられる事件が起きている。今年は中国共産党の統治50周年にあたるが、現地では緊張が高まっている。
3月23日 Record China

■僧侶が黄河に跳び込んだのが3月21日の午後2時。その情報が対岸のラジャ寺に伝わり仲間の僧たちが橋を渡って押し寄せるには数時間を要したはずです。長距離バスは1日に2本ほどしか通りませんし、ヒッチハイクをしようにも輸送トラックがごく偶に走って行く程度ですし、御寺にはジープが2台ほどあったかしら?やっぱり100人の僧侶は健脚に物を言わせてサフラン色の袈裟の裾をたくし上げて駆けつけて来たのでしょうなあ。橋を押し渡る光景はさぞや見事だったでありましょう。
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