旅限無(りょげむ)

歴史・外交・政治・書評・日記・映画

ソマリア沖海戦 其の七

2008-11-27 16:49:14 | 外交・世界情勢全般
■案の定、連休明けに件の「提言」を受けて政界が波だって来たようなのですが、所詮は大小の波が立つだけでその内「解散総選挙」に関する駆け引きの材料にされてもたもたしている間にソマリア沖海戦はまったく別の段階に進んでしまうかも知れません。

……国際海事局によるとソマリア周辺海域の08年の海賊被害は19日現在94件で、被害は拡大する一方。海上交通の要衝で日本船も標的になったことから、自衛隊派遣論が語られるようになった。政府内で積極的なのは外務省。米英など十数カ国が警戒活動を展開していることを踏まえ、外務省幹部は「日本人の生命、財産が脅かされている。他国に頼っていていいのか」と強調する。

■「他国に頼っていて」良いはずはありません。出来れば困っている船を助けてあげるくらいの地位を得なければならない日本が列島の東西南北から「出て来るな!」と押さえ込まれ続けて幾星霜……。東と南からタガをはめていた米国でしたが、家庭の事情で自分の手下としてなら「少し出て来てよい」と言い出したようですが、それでも大日本帝国の連合艦隊や機動部隊の雄姿などは絶対に見たくないでしょう。

■北と西には自分の事は棚に上げて「軍事大国になるな!」と箸の上げ下ろしにも文句をつける大きな国と小さ目の国が並んでおりまして、頭を下げてカネを払うことが外交だと勘違いした政治家が大活躍してくれたお蔭で、拉致問題も領土問題も有って無きが如き外交政策が積み重ねられて参りました。航空自衛隊の次に外務省が政府見解を乗り越えようとするのか?「外交の麻生」を自認するコロコロ首相を上手に煽てれば総辞職する前に瓢箪から駒が転がり出るかも?


根拠法でまず検討されたのが、防衛出動、治安出動と並ぶ実力行使である海上警備行動(自衛隊法82条)。しかし、過去に発動されたのは日本の領海侵犯に対する2回しかないため、防衛省には「遠洋での長期活動の根拠としては無理がある」との見方が強い。

■「前例遵守」という鉄壁の守りと法制局の解釈という金科玉条の縛りがありますから、現行の法律を拡大解釈して海賊退治に出掛けるのは無理でしょう。奇跡的に針の穴を通す法解釈に成功しても、「警備行動」でハイテク重武装パイレーツに対抗するのは苦しいでしょうなあ。日本の領海を出てしまったら、不審船であろうと攻撃型原子力潜水艦であろうと、ぴたりと追尾を止めて回れ右して帰還しなければならなかった前例を考えれば、インド洋を横断してソマリア沖に徹するのは月面に着陸するようりも難しいでしょうなあ。


……自民党の中谷元・元防衛庁長官や民主党の長島昭久衆院議員ら超党派議員連盟は、ソマリア周辺海域の活動に絞った特別措置法の策定の検討に着手した。しかし、特措法で対応するにしても、憲法が禁じる海外での武力行使との兼ね合いは微妙。海賊はロケット砲などで武装しており、正当防衛や緊急避難の範囲を超える武器使用の是非が論議を呼ぶのは必至だ。また、無政府状態のソマリア沖で海賊とテロリストとを即座に判別するのは難しく、武器使用がすぐに違憲状態に陥る可能性がある。

■「専守防衛」とは滅多打ちに遭っても絶対に手を出さないという意味ですから、僅かに残されている自衛のための最低限度の反撃をする権利を使う前に致命的な打撃を受けているのが今の戦争であります。まさか空手や剣術みたいに当たる直前の寸止めみたいな攻撃をしてくれる御奇特な敵が現われれば、ミサイルが着弾する直前に反撃するチャンスもあるのでしょうが、それは冗談のレベルさえ超えている馬鹿馬鹿しい話でしかありません。それなのに似たような議論を繰り返すのが日本の国会という場所なのですなあ。


政治情勢でもハードルは高い。国会が対決ムードの中、自民、民主両党が折り合えるかは未知数で、公明党内には慎重な声が根強いからだ。
11月25日 毎日新聞

■国連の御旗を立てられるなら、アフガニスタンでの武力行使も許される!と民主党の小沢代表は考えているそうですから、シーレーン防衛を国連が議決すれば何の問題も残らないことになるでしょう。公明党は「平和と福祉の党」だそうですから、こういう個別具体的な事態に対する党としての「平和」をじっくり語って欲しいものであります。まあ、社民党の神憑り的抽象論も話のツマとして添えてもらっても結構ですが……。

麻生総理の健康と社会常識 其の弐

2008-11-27 16:37:27 | 政治
首相は19日に行われた全国知事会議で「医師には社会的な常識がかなり欠落している人が多い」と発言し、謝罪に追い込まれたばかり。
11月26日 読売新聞

■『週刊新潮』の最新号には「『常識欠けた医者が多い』は患者の常識」という刺激的な記事が掲載されております。医師免許を持っている人が揃って仁術を体現した名医になるとは限りませんし、誰でも知っている「藪医者」という言葉が存在するのですから、いろいろと問題がある医師は間違いなく存在します。それが麻生コロコロ首相がざっくりと「多い」という言い方をして良いかどうかは分かりませんが……。それに、この発言の前には自分が「病院を経営しているから言うのではないが」という、もしかしたら政治家としては不穏当な意味になるかも知れない一言が置かれていたはずです。麻生グループの系列病院にだけ「多い」のかも?あるいは九州福岡の選挙区に特に「多い」という意味かも知れません。

■麻生コロコロ首相は自分が急病にでもなったら何処の病院に駆け込むのでしょう?きっとそこには「社会的常識」がまったく欠けていない医者が群を成しているのでしょうから、マスコミの方には是非とも詳細な取材を願いたいものであります。


山梨県富士河口湖町の健康科学大などを運営する学校法人第一藍野学院(小山英夫理事長)で、2005年度に貸付金として計上された2億円が使途不明になっている……。文部科学省や大学関係者によると、法人は05年度の会計で2億円を関係先へ貸し付けたことになっていたが、06年度以降の会計に計上されず、使途不明状態になっている。9月に文科省から調査の指導を受け、法人は今月、弁護士や公認会計士ら9人による調査委員会を設置。貸付金の実態や資金の流れについて関係者から事情を聞く方針という。
11月27日 読売新聞

■「健康科学大学」という学校は、理学療法学科・福祉心理学科・作業療法学科という三つの学科を設けていて、卒業すると理学療法士・作業療法士・社会福祉士・精神保健福祉士の国家試験の受験資格が得られるのだそうです。広い意味で医療に従事する人材を育成している学校ということになりますが、英語名が「HEALTH SCIENCE UNIVERSITY」というのは、なかなか思い切ったものを感じます。カリキュラムは4年で卒業するように組まれているようですから、4年制大学の分類に入るということなのでしょう。平成20年5月1日現在で1,081名の学生が学んでいるそうです。

■この学校を卒業して国家試験に合格した人達は各地の病院や福祉施設などで活躍しているのでしょうから、生徒の素質に問題があるという話ではありません。しかし、大学沿革を見ると明治時代に岩手県で裁縫塾を開いて以来、徐々に南下して関東に「事業」を展開してコンピュータ技術を経て医療分野にも進出!というユニークな歴史を重ねている様子から、経営者は相当のやり手のような印象を受けますなあ。消えてしまった2億円を追って行くと「創業者一族」だの「組織内企業」だの、定番のお手盛り融資の実態が出て来るような予感がします。

■某仏教系の私立大学は文科省から莫大な助成金を受け取りながらデリバティブの博打にカネを注ぎ込んで100億円を越える焦げ付きを出しているのに比べれば、2億円は微々たるものだと言えそうですが、医療関係者を育てる教育機関が「社会常識に欠ける」ような犯罪行為に手を染めては行けないでしょう。勿論、医学部を持っていない某私立大学の銭ゲバぶりも大学としての使命を忘れた恥ずかしい所業であるのは間違いありません。医者の次にはお坊さんの「社会常識」が問われるかも知れませんなあ。三遊亭円歌さんが、法華の修行で真冬に水垢離を取って倒れたネタを披露する時には「寺から病院に行ったのはオレだけだ。普通は病院から寺に行くもんだ」という名文句が飛び出します。どちらも「社会常識」がないと安心して病気にもなれないし往生も出来ませんなあ。

■麻生コロコロ首相の政治家としての見識が少しでも高くなるのを祈らねばなりませんし、解散絡みでストレスが溜まり倒れてしまわないかも心配です。病院からも教育機関からもカネが消えて行くのですから、「貧すれば鈍する」の諺通りに日本中から常識も人情も正義感も失われてしまわない内に、しっかりとした政策を打って欲しいものであります。
-------------------------------------------
■こちらのブログもよろしく
雲来末・風来末(うんらいまつふうらいまつ) テツガク的旅行記
五劫の切れ端(ごこうのきれはし)仏教の支流と源流のつまみ食い

チベット語になった『坊っちゃん』―中国・青海省 草原に播かれた日本語の種

山と溪谷社

このアイテムの詳細を見る

------------------------------------------

麻生総理の健康と社会常識 其の壱

2008-11-27 16:37:02 | 政治
■漫画好きだからきっと庶民的感覚の持ち主だと、大きな誤解をしてしまった人たちは、「漫画ばかり読んでいるとバカになるぞ」という昔懐かしい小言を聞かねばならない立場になってしまったようです。マンガと言っても日本ほどの漫画大国になりますと、新聞紙面に負けないほど多くの活字を吹き出しの中に押し込む作品やら、解説だけのコマを広く取ったりする作品もあります。勿論、叫び声や悲鳴や肉体の一部が壊れる音やら爆発音ばかり続くような物騒な作品も多いようですが……。
 
■下手な専門書を読むよりも、情報が豊かでしかも実によくまとまっている教養漫画も数多く、政治や経済だって劇画作品やギャグ漫画を読んだ方が新聞や専門雑誌より分かり易い場合もありますなあ。麻生コロコロ首相が漢字を誤読するのは、規定の政治スケジュールを知らないのと同じ理由なのではないでしょうか?漫画を読むのは時代の風潮を知るためだと御本人が発言しているのですから、漫画を材料にして政権を揶揄するのは、それこそ漫画にもならない悪趣味な話になり兼ねません。

■勉強不足の政治家が増えてしまったのは、候補者段階で演説をじっくり聴かず、公約も著書の類も読まずに投票してしまう人が多いからでしょうし、別の候補を当選させるための貴重な一票を捨ててしまう怠惰な人が多過ぎるのも大きな原因なのでしょうなあ。特定の団体が中核となる後援会と、税金の無駄遣いの温床とされる各種利権の臭いがぷんぷんする諸団体の力で当選するのなら、一般の聴衆を感動させる演説は不要でしょうし、研究者や学者が唸ってしまうような見識を本にして発表する必要も無いわけです。

■麻生セメントを基盤とする地方財閥の麻生グループというカバンと社員や取り引き相手が作り上げた地盤、そして、吉田茂の孫という看板が揃っていれば、落選する心配は皆無なのでしょうなあ。前任の福田ホイホイ首相から「解散して選挙してね」と言われて政権を渡されたのに、何やかやと手間取っている内に次々にボロが出て来て収拾が付かなくなっているようですが、あまり小粒の政治家が総理大臣を「たらい回し」にしていると、世情の不安を利用して非常に危険な威勢の良いだけのリーダーが登場するかも知れませんから、その点だけは御用心、御用心。


麻生首相が20日に開かれた政府の経済財政諮問会議で、社会保障費の抑制を巡って「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」と発言していたことが、26日に公開された議事要旨で分かった。

■「たらたら飲んで」というのは、ホテルのバーで(似合わなくても)葉巻をくゆらせながら高級ブランデーをちびちび舐めるのではなく、安酒場で質素な物を肴にして焼酎やホッピーなどと痛飲するような事を指しているのでしょうなあ。「食べて」の中には産地も分からぬ安物ばかりを食べているから、毒ゴメや腐りかけの肉などを食うハメになるんだ、という意味もありそうです。「何もしない人」というのは、残業続きで朝から晩まで働いて偶の休日ぐらいはくたくたになった身体を少しでも休めようと睡眠を優先にせざるを得ない人が含まれている節があります。

■でも、「たらたら飲んで」くれる人や「たらたら食べ」る人が居なくなると、商売が成り立たなくなってとても困る人がたくさん出て来そうです。そもそも保険制度は助け合いのシステムですから、一度も病気にならずに寿命を終える人が、生まれつき体が弱かったり難病と戦わねばならない人の医療費をまったく負担しないという話にはなりません。麻生コロコロ首相の言う通りにするのなら、最初から保険制度は廃止するべきでしょう。完全自由診療という非常に厳しくも残酷な時代に逆戻りする覚悟が全国民の間で固まったら法律を改正すれば良いだけの話ですが、きっと夢見が悪くなるでしょうなあ。


与謝野経済財政相が社会保障費の抑制や効率化の重要性を指摘したのを受けて、首相は出席した同窓会の話を紹介しながら「67歳、68歳で同窓会にゆくとよぼよぼしている。医者にやたらかかっている者がいる」、「彼らは学生時代はとても元気だったが、今になるとこちら(首相)の方がはるかに医療費がかかってない。それは毎朝歩いたり何かしているから」と発言した。病気を予防することが社会保障費抑制につながることを強調する物言いとみられるが、病気になり医療サービスを受ける人が悪いとも受け取れる発言で波紋を呼びそうだ。

■「学生時代は元気だった」人が年齢を重ねて病気をするのは決して珍しい話ではありません。散歩をしていればすべての病気が予防できるというわけでもありません。政治家ですから自分が人一倍丈夫だ!というパフォーマンスが染み付いているのでしょうが、「医者にやたらとかかっている」人の多くは、多額な医療費がかからないようにと検査に言ったら病気が「発見」されて手厚く、時には過剰な治療を受けることになった人も多いはずです。

■御自身が丈夫で健康に暮らしているのは実に結構なことですが、それと並べて病気に苦しむ人を責めるような話をしては行けません。他人の痛みは絶対に分からないもので、自分の痛みも傷や虫歯が治ってしまえば忘れてしまうものですから、今、苦しんでいる人が悪いことをしているような発言は問題でしょうなあ。医療費を含めた社会保障費の抑制という大目標は政治家として実現せねばならない大切な政策なのでしょうが、医療や介護の現場に関して「無駄」を指摘するのは非常に難しいものです。先に国の予算をカットしてしまえば、下々が努力して無駄が無くなるなどと考えるのは、「生活給付金」のバラマキ方を決め兼ねて地方自治体に丸投げするのと同じくらいに乱暴な政治手法だと申せましょうなあ。