旅限無(りょげむ)

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欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾参

2008-11-20 17:25:34 | チベットもの
……ダライ・ラマ14世は3日、北九州市で記者会見し、唯一の被爆国である日本は「その体験を基に、原爆使用を食い止めるという大いなる責任を果たすべきではないか」と述べ、核兵器廃絶に向けて日本が主導的役割を果たすよう訴えた。ダライ・ラマは「原爆は2度と使用されてはならない。日本はイニシアチブを取って食い止めていくべき立場にある」と強調した。
2008年11月3日 時事通信

■東京と北九州と、実に精力的に動いて語り続けたダライ・ラマ法王でありました。「核兵器廃絶」は日本の悲願とされており、国連総会でも毎年提案しています。ダライ・ラマ法王が来日する直前に15年目の提案が為された事を踏まえての発言だったのでしょうなあ。日本の隣には、とうとう核保有国が三つも並んでしまいました。残念な事であります。


国連総会第1委員会(軍縮)は(10月)28日、核兵器の全面廃絶をうたい、日本など58カ国が提出した決議案を賛成163、反対4、棄権6で採択した。採択は15年連続。賛成票は昨年より2票少なかった。決議案は7月の北海道洞爺湖サミットで採択された宣言から「すべての核兵器国に透明性ある方法で削減を実施するよう要請する」との文言を新たに盛り込んだ。また、核不拡散条約(NPT)の普遍的な重要性を再確認、未締約国に同条約への加入を呼びかけるなどNPT体制順守の必要性を強調した。

■米国のダブル・スタンダード使い放題政策で、NPT体制は画餅に帰してしまったも同然ですが、極最近までIAEAが核開発の可能性が高いとして最も厳しく監視対象としていたのは北朝鮮などではなく、日本国だったという現実は歴史の皮肉というものでしょう。被爆国というのは報復という動機を最も持ち易い国だと考えるのが世界の常識だという事です。冗談にも「2個だけ作る権利がある」などと言ったら誰かさんは真っ赤になって怒るのでしょうなあ。


反対したのは米国、インド、北朝鮮、イスラエルの4カ国。昨年は棄権だったイスラエルが反対に回った。中国、イランは棄権した。一方で昨年棄権したフランスは決議案中の「核兵器国による核兵器削減の着実な進展を歓迎」の文言を評価し、賛成した。決議案は12月の総会本会議で採択される見通し。
2008年10月29日 産経ニュース

■フランスという国は強かな外交を展開する、実に食えない国でありますが、独自の対米戦略を考えてロシアへの傾斜を強めて見せることで存在感を示していると思われます。大気圏内での核実験を最後まで続けた自分の立場を棚に上げる鉄面皮ぶりも大したものです。明確に反対した米国は世界一の核攻撃力を持っていないと不安で仕方がない国なので仕方が無いのでしょうが、民主党政権になったら少しは風向きが変わる可能性が無いわけでもなさそうです。心配なのは他の3箇国で、最終的な自己防衛手段として迷わず核兵器を使う構えを見せている国々です。インドはパキスタンと(おそらくは)チャイナを、イスラエルはイランを常に注視しています。でも、北朝鮮は何処に向かってぶっ放すつもりなのでしょう?

欲しいけど要らないノーベル平和賞 其の弐拾弐

2008-11-20 17:23:02 | チベットもの
■11月3日に都内の日本外国特派員協会で行われたダライ・ラマ14世の記者会見を読み直します。

……3月のチベット騒乱以後再開されたダライ・ラマの特使と中国政府との対話が進展していないため、「チベット側でも私のやり方に批判が出ている」ことを明らかにした。インドでは17日から、世界各地の亡命チベット人が集まって新たな対中方針を話し合う特別会議が開催されるが、青年層を中心としたグループから強硬な意見が飛び出す可能性も否定できない。ダライ・ラマ側は会議をテコにして、中国側に「現実路線」への転換を求めたいところだ。

■既に特別会議は予定通りに始まっておりますが、ダライ・ラマ法王が進めて来た路線に対して重大な変更が提案され議決される可能性が高まっているとの報道があります。「ホトケの顔も三度まで」とは申しますが、慈悲と忍耐と寛容を説くダライ・ラマの教えに、どんな批判が飛び出すのか、非常に気になるところであります。


ダライ・ラマは会見で、3月のチベット騒乱は「ダライ・ラマが指示した」などと温家宝中国首相らが批判しているとして、「私が本当にそうしたのかどうか、専門家を派遣し、調べてみればいい。私の講演や発言のテープなどを証拠として差し出してもよい」……「私がチベットを中国から分離させようとしていないことは、中国以外のすべての人々が知っている」として、中国側を批判した。

■要求内容を「高度の自治」に切り替えた時点で領土的な意味での分離独立は求めないことになっているのは北京政府も十分に理解しているのですが、共産党が上から与えた「自治」以外の自治など金輪際認めないのが一党独裁体制の秘訣と決め込んでいるらしく、現状を否定することになる「自治」の拡大は受け入れない心算のようです。どこまでも力で決着を付けるのを求めているのは、どう見ても北京政府の側なのですが……。


ダライ・ラマは中国政府との対話について「まったく何も変わっていない。失望した」などと述べ、亡命チベット社会のなかで急進的な意見を持つ青年層を中心に、ダライ・ラマの非暴力主義や対話路線に批判が出ており、自らの立場が苦しくなっていることを強調した。在京のチベット関係筋によると、亡命チベット人社会では青年層を中心に、ダライ・ラマと意見を異にするグループが一定の勢力に成長し、最高指導者としてのダライ・ラマの求心力の低下も指摘されているという。

■飽くまでも精神的指導者の立場を守る法王は自身でも一人の宗教者であって独裁者でも政治的な指導者でもない旨を何度も表明していますから、万が一、会議の場で隠忍自重して穏健な交渉路線を転換する決議が為された場合、それを否定する強い拒否権のようなものを発動することはないでしょう。


17日からの特別会議で従来の対中対話路線が変わるかどうかに関して、ダライ・ラマは「まったく予測できない」としたうえで、「私が会議で発言すると、だれも発言できなくなる。私は沈黙し、中立の立場を守る」と述べた。ダライ・ラマとしては、会議で強硬な意見が出るのを放置し、それを中国側に見せつけることによって中国側の軟化を促したいようだ。……「中国政府はわれわれとの関係が悪化する前に、新たな現実的な見地から話し合いを再スタートさせるべきだ」と、中国政府に方針転換を重ねて求めた。
11月3日 産経新聞

■いよいよチベット問題も大詰めを迎えているわけで、これまでのようにチベット解放(侵攻)以来、中国共産党は一度も間違いを犯した事は無く、今でもチベット人達を幸福にするために正しい政策を行っている!という北京政府の立場が変わらない限り、チベット側からの改善要求に耳を傾けることはないでしょう。
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毎日新聞、大丈夫? 其の弐

2008-11-20 14:00:51 | マスメディア
■毎日新聞はタイムラグを意図的に利用して「捏造」もどきの記事を書いたことがあるようです。それもほんの1箇月半前に……。

小泉純一郎元首相の引退表明に関する毎日新聞の記事をめぐり、元首相秘書官の飯島勲氏が(9月)26日、「毎日新聞に発言していない談話を掲載された」として、毎日新聞社や担当記者に対する名誉棄損容疑などの告訴状を警視庁麹町署に提出した。同社は「引退表明数日前の談話を誤って引用した」として、記事中の談話の取り消しを発表した。

■飯島さんは「発言していない」と主張しているのに、毎日新聞側では小泉元総理が引退表明する「数日前の談話」として語られた内容だと言い張っております。言った、言わないの論争は水掛け論か泥仕合になるのが定番ですが、飯島さんが警察沙汰にしたのですから、毎日新聞の方が分が悪そうです。


問題になったのは、東京都内などで配られた26日付朝刊に掲載された元首相が引退を表明した背景の解説記事。この中で引退表明の報を聞いた飯島氏が「小泉氏は(サプライズを生む)魔法のつえをなくしてしまった。次期衆院選で小泉氏が応援しても小泉チルドレンは負けるだろう」と周辺に語ったとした。飯島氏は「毎日新聞から(取材の)電話も受けていない。捏造だ」と発言を否定。これに対して同社は、「飯島氏は引退の報を聞いてこのようなコメントはしていない」と発言の経緯が事実と異なることを認めた。
2008年9月26日 産経ニュース

■かつて、小泉チルドレンを結集して新党結成まで目論んだ飯島さんが、小泉元首相の神通力を否定した上に小泉チルドレンの敗北まで口にするとは考え難い話です。考えられない事が実際に起これば、確かにそれはスクープになるのでしょうが……。朝日新聞も田中前長野県知事のインタヴュー記事を「捏造」して大騒ぎになったことがありましたなあ。毎日新聞の言い訳からは、「捏造」ではないという一線を守ろうと必死の様子が分かります。

■さらにその3箇月前、毎日新聞はネット版で大恥を掻いていたのでした。


毎日新聞社の英文サイト「毎日デイリーニューズ」のコーナー「WaiWai」に掲載した記事をめぐり、同社は(6月)24日までに「誤解を与える内容を世界に配信し、日本をおとしめた」などの抗議が殺到したことを受け、同コーナーを廃止した。デジタルメディア局長と担当部長ら責任者数人を処分する方針を明らかにした。同コーナーには「日本が誤解される」などのメールや電話の抗議が約300件寄せられていた。
2008年6月24日 産経ニュース

■問題の記事に関しては具体的に引用するのも不愉快な内容が圧倒的に多く、中には真偽を大いに疑うような「捏造」臭い話もごろごろしていたようです。担当していた外人記者の品性と人格に相当の問題があったと某週刊誌などは書き立てていたのですが、経営難が囁かれる毎日新聞にとっては悪夢のような1年だったようですが、まだ1箇月少々の日数を残しておりますから、くれぐれも慎重な取材と記事作りにお励みになることを望みます。
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毎日新聞、大丈夫? 其の壱

2008-11-20 14:00:22 | マスメディア
■大阪府で雨の日曜日に起こった新聞配達員の轢き逃げ・引き摺り殺人事件。被害者は毎日新聞富田林東販売所のアルバイトで、まだ16歳だった東川達也クンでした。毎朝、定時に朝刊が届くのは当たり前と思われていますが、その当たり前な事を持続させているのは印刷・輸送・配達の業務に従事している人達の努力と勤勉さです。梯子酒で泥酔した馬鹿者が運転するワンボックス車に命を奪われたのは雨が降る早朝3時半ごろのことでした。そんな時間まで酒を飲んでいる人がいる一方で、黙々と新聞を配っている人もいるのであります。

■新聞配達は代表的な学生のアルバイトで、自立して大学・専門学校・予備校に通えるように学費を貸与して住み込みで仕事をする奨学制度も定着しています。某大手新聞などは「インテリが書いてヤクザが売る」などと悪口を言われるような販売促進戦略を採っていたこともあったものですが……。毎朝、前日に起こった出来事を知り、各種の特集記事で知識を増やしてくれるのが新聞で、切り抜きファイルをすれば最も身近なデータ・ベースにもなりますし、リサイクルして木材資源の節約にも役立ち、包装紙としても重宝します。

■いろいろと役立つ新聞ですが、要は中身が問題で、巨大な報道機関としての責務は重く、一国の命運を危うくすることさえありますから、間違った報道をしては行けません。


元厚生事務次官の吉原健二さん妻、靖子さんが刺されて重傷を負った事件で、毎日新聞は19日、事件の約6時間前にインターネット上に犯行を示唆する書き込みがあったと報じた19日付朝刊の報道が誤りだったとして、同社のウェブサイト「毎日jP」におわびを掲載した。19日付夕刊でおわびと経緯を掲載する。

■「他人の不幸は蜜の味」という訳でもないのでしょうが、競合紙は他社の失敗を実に丁寧に速報してくれます。料金値上げの時や休刊日を作る時などは驚くほど仲良く足並みが揃うのに……。さてさて、この誤報は速報性において新聞社が素直に敗北を認めざるを得ないインターネットに新聞社が振り回された例として大きな意味があるニュースだと思われます。


19日付記事では、18日正午ごろ、ネットの「フリー百科事典・ウィキペディア」の「社会保険庁長官」のページの中で、吉原さんの名前の前に「×」がつけられ、その下に「暗殺された人物」というただし書きがあったと報道。だが、実際の書き込みは事件から3時間ほど経過した後だったとみられることが、後になって判明した。

■速報性が高まれば、タイムラグの存在が非常に重要になります。1分1秒の違いでも大きな意味を持ちますからなあ。ミステリー小説などでもアリバイ作りのトリックに愛用される手法でもありますから、プロのジャーナリストが墓穴を掘るような間違いを犯しては行けませんなあ。


毎日新聞社長室広報担当によると、取材を担当した記者が同サイトに掲載されていた、日本標準時より9時間遅い「協定世界時」による編集時刻を、日本時間と誤認したことが原因。


■うっかり「時差」を忘れてしまったとは、国際化・グローバル化の時代に適応し切れていないのでしょうか?担当した記者さんは「スクープだあ!」と糠喜びしたと想像出来ますから、誤報と分かった時には天国から地獄へという気分だったことでしょう。どこのメディアも息を潜めて「犯行声明」が出るのを待ち構えている時ですから、こうした勇み足も起こりがちなのは分かりますが、まだ、テレビなどでも専門家を招集して事件の「解明」に努めている振りをして視聴率を上げようと必死の様子ですが、結局は「犯行声明」が出なければ、何も分からないのが実情で、視聴者は引っ張られるだけ引っ張られて落胆したり腹を立てたり。


……書き込みの内容は、参考情報として、捜査当局にも伝えていたという。記事は東京、大阪で発行された最終版にそれぞれ掲載されたほか、一時「毎日jp」にも掲載されたが、間もなく削除した。ネット上では、ウィキペディアに問題の書き込みをしたとする人物が名乗り出て、「書き込みは事件後」と弁明するなどしたことから、誤報の可能性を指摘する声が噴出し、大きな騒ぎとなっていた。
2008年11月19日 産経ニュース

■たった一つの「×」印でも、犯行前に書き込まれれば大きな手掛かりになるわけですが、第一報が流れた後となれば几帳面な利用者がネットの速報性を高めようと協力しただけの事です。ウィキペディアの更新編集システムを熟しないまま、ネットの速報性に負けまいと頑張ってしまったのかも知れませんなあ。でも、目の付けどころとしては良かったのではないでしょうか?